イギリスでは、教師が生徒の膝を叩いてもクビ
発信箱:231対230=小倉孝保(欧州総局)
毎日新聞 2013年02月13日 00時22分
英国の学校では体罰は犯罪だ。教師が児童や生徒にチョークを投げつけるだけで、その教師はクビになる。負傷させれば逮捕は免れない。
きっかけは82年、スコットランドの母2人が欧州人権裁判所に、「体罰は人権違反」と訴えたことだ。裁判所がこれを認めたため英政府が法整備に乗り出すが当時、国内では体罰の完全否定派と限定容認派が対立した。公立校での体罰禁止法案は86年7月、ようやく下院で採決され賛成231、反対230で成立。その後、対象を私立校に広げた。
投票結果は小差。しかも、当日はアンドルー王子の結婚準備で道路が渋滞、法案に反対の保守党議員何人かが投票できなかった。サッチャー首相もナンシー・レーガン米大統領夫人との夕食会で投票できず、保守派の一部は法案成立を悔やんだという。
今では、体罰はさらなる暴力を呼ぶだけという考えが一般的だが、体罰禁止で問題がなくなったかといえば、そう単純ではない。3年前には、中部ハダーズフィールドの大学で、女性講師が女子学生のひざをたたいてクビになった。学生が罰を求めなかったため学校側の判断に過剰反応との声が出た。
また、ガーディアン紙は昨年4月、「体罰禁止で生徒の態度が悪化した」との教師側の声を報じている。最近の調査では、1年間に生徒から何らかの暴力を受けた教師は約3割。しかし、教師側に対抗策はない。問題ある生徒への対応で、体罰に代わる有効手段を見いだしていないのが英教育界の現実だ。
日本の学校やスポーツ現場での体罰は、指導の範囲を超えた暴力の側面が強い。即禁止すべきだが、その場合、別の問題に直面する心構えをしておくべきことも英国は教えている。http://mainichi.jp/opinion/news/20130213k0000m070118000c.html