オバマ米大統領はポーカーフェイスなのか、それとも本当に日本に関心が無いのか、わからないね。
「日米首脳会談、共同記者会見はどうして見送られたのか?」冷泉彰彦
なるほどね、と思える部分があるが、もしかして、オバマ米大統領は本当に日本のことをあまり考えていないのかも?今のようにチュウゴクが日本の領土を奪おうとして、突いてくるのは、戦後から続く日本の平和ボケが直ることに繋がるので、良いことだと思っているのかもね。
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2013年2月23日発行JMM [Japan Mail Media] No.728 Saturday Edition
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■ 『from 911/USAレポート』第614回
「日米首脳会談、共同記者会見はどうして見送られたのか?」
■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)
■ 『from 911/USAレポート』 第614回
日米関係というのは、双方にとって最も重要な二国間関係であることは間違いありません。ですから、この両国の首脳外交というのは大変に重要であり、首脳会談の行われる毎に共同記者会見が行われて、両国のメディアが大きく報道するというのは恒例となってきました。
ですが、今回、2月22日(金)のホワイトハウス午餐会に前後して行われた日米首脳会談では、この共同記者会見が直前になって見送られました。異例な事態となったわけですが、だからといって「日米関係は重要でなくなった」とか「オバマ大統領は安倍首相を軽視している」というわけでは全くないと思います。
また、伝えられるところでは会見の時間は予定をオーバーしたそうで、首脳間では相当に突っ込んだ意見交換が行われたようです。安倍首相によれば、バイデン副大統領、ケリー国務長官も同席して内容は建設的だったそうです。それはそれとして、「会見なし」というのはやはり異例です。
勿論、今回の「会見見送り」ということの理由が両国から公式発表がされる可能性はないわけで、本当の真実というのはヤブの中ということになるのかもしれません。
ですが、今回の首脳会談に関する評価をするには、勿論、双方から何らかのブリーフィングはあるとは思いますが、この「会見がなかった」ということの理由を推測することも重要になってくるわけで、ここでその理由について検討するということは、必要なプロセスのように思います。
ちなみに、話の大前提として「アメリカがケリー国務長官就任と同時に、一気に親中に方向転換し当面は米中関係の修復に方針を変えた」という可能性は「ない」ということを確認しておかねばなりません。というのは、今週の前半までのアメリカでは「中国当局による米国企業サイトへのハッキング」という問題が大きく報じられており、他ならぬオバマ政権のエリック・ホルダー法務長官がこの件では真剣な「告発」を行う一方で、中国サイドは「知らぬ存ぜぬ」という対応で一貫していたという「事件」があるからです。
さて、今回は配信まで時間もないことであり、以下、箇条書きのスタイルで「会見なし」の理由を列挙することをお許し下さい。これによって、現在の日米に横たわる問題を考えるヒントとしていただければ幸甚です。
(1)まずもって、日米の間には大きな問題はないということがあります。何か大きな問題があって首脳会談が行われるのであれば、会見を省略するということは許されないでしょう。日米の間には現在、緊急性があり、そして相互に立場を異にしていて何らかの調整が一刻を争う中で、その対応が双方の政権の浮沈を左右するというレベルの「問題」は皆無だと言えます。それが「会見なし」で終わった最大の理由だと思います。ちなみに、そうした「問題のない関係」ということでは、別に安倍政権になって「改善した」のではなく、野田政権当時も全く同じように良好であったということを確認しておきたいと思います。
(2)日本の報道では「大きな懸念事項」となっていた、TPPにおける「聖域なき、
ではない」という言質をオバマ大統領から取るという問題は、非公式な言質どころか会談後の記者取材で正式な宣言として出たわけです。これは、安倍首相とすれば大きなポイントを稼いだ格好ですが、同時にこの話は「共同会見で堂々と言う」となるとTPPに関して「原則論の旗振り役」であるオバマ大統領の側としては少々格好が悪いわけで、これも「会見見送り」の一因になったのではと思われます。
(3)いわゆる首脳会談への「お土産」として、「ハーグ条約批准と関連法の整備」ということを安部首相は「持参」したようですが、これも、問題の発端となった「国際結婚が破綻した際にアメリカから法令や判決を無視して子供を日本に連れ去っているケースが多い」という話は、決して大きな声で言えることではないので、共同会見の内容にはふさわしくないでしょう。
(4)もう一つ「辺野古着工へ向けての埋め立て申請」という「お土産」もあったよ
うですが、これも堂々と会見で言える内容ではありません。安倍首相の側としても、そんなことをアメリカに言ったなどということを「公式の場で堂々と」言って沖縄を刺激するのも得策ではないということがあり、オバマもその辺の「事情」は熟知していると思われるからです。
(5)今回の首脳会談は、尖閣の問題を含めて、海洋権益への野心や軍事力の増強を続ける中国を意識したものであることは間違いありません。であればこそ、その「成果」を共同会見で言うのは、中国に対して刺激が強すぎるという判断があったのではないかと思われます。刺激をすることで、中国が怒るということよりも、中国の一層の軍拡なり、軍部の発言力増大につながっては得策ではないからです。
(6)テクニカルな問題としては、日米関係に関してアメリカ側の「司令塔」である
べき国務次官補のポジションが空席状態ということがあります。前任のカート・キャンベル氏は、既に退任してシンクタンクに移っていますが、後任が決まらない中では「事務方の体制が揃っていない」ということもあったのではないかと思われます。ちなみに、現在下馬評として名前の上がっている人々(複数)は共に知日派であり、オバマ=ケリー外交は、オバマ=ヒラリー外交と同じか、それ以上に「日米」を重視すると見て良さそうです。
(7)共同会見を行う場合は、その後に記者からの質問を受けるのがプロトコルになっています。その場合、アメリカ側の記者から安倍総理への質問としては、「以前から相当にタカ派的な発言をしてきたが、今は真意を隠しているのではないか」的な「引っ掛け」質問がかなり出ることが予想されます。そこで表面的にキレイな対応ができても、過去の発言との「ブレ」などを指摘されて、2007年の時と同じように「二枚舌」だとか何とか言われる可能性もあるわけです。この点は日本側として、会見を「スルー」する動機になったのではと思われます。
(8)後は、双方の内政問題がかなり切迫しているということがあります。アメリカ
では月末に迫った「自動的な大幅歳出カット」への対処、日本では日銀総裁人事の問題があり、記者会見をすると双方の国の記者からは、それぞれの内政問題への質問が自国の首脳に対して行われる、それが顕著になれば、首脳の共同会見として体裁が良くないということもあるでしょう。
これほどまでに色々な要因がある以上、今回の「会見なし」ということは「仕方がない」ということで済まされるのでしょうか? 私はそうではないと思います。ここまで列挙した点(6番目と8番目を除く)は、いずれも面倒な問題ですが、どれも「言葉を練りあげていけば」現時点での「最適解」として、公式的な「日米共同宣言」に練り上げることは不可能ではないと思うからです。その意味で、アメリカ側が担当の国務次官補を欠いていたということは大きいように思います。
ところで、首脳会談の数時間後にワシントンのシンクタンクCSISで安部首相は「講演」を行なっていますが、こちらは原稿が予め用意されていたもののようで、共同会見の「代わり」となるものではありませんでした。
ちなみに、この講演の「原稿」は日本語からの直訳的なもので、一部が分かりにくい一方で内容はそれほど濃くなく、何よりも知的な印象の薄いものであったと思います。ただ、終始英語で通した安倍首相の話し方は、「言葉の意味を分かって話している」リズムが感じられたことと、原稿に縛られる中でユーモアのセンスなど「パーソナルタッチ」を出そうと努力している点では、好感の持てるものでした。
この「講演会」について言えば、安倍首相に対しては、講演の後で「首脳会談の内容について喋って欲しい」という「質問」が出ており、「内容は極めて濃いもの」であったと紹介した上で、「例えば北朝鮮の核開発に対する共同での提案、海域における航行の自由の問題」などで合意ができたそうです。同様の内容は、首脳会談後に行われた両首脳に対する記者取材でも出ているようです。
では、今回の「会見なし」という結果にはどんな問題があるのでしょうか?
一つ目は、安倍総理のイメージ作りという問題です。アメリカのメディアには、まだ安倍総理への不信感が残っています。2007年の訪米では歴史認識問題で「穏健な」言動に終始したにも関わらず、その後の6年間に野党であった期間を含めて、この政治家が日本国内でタカ派的な言動を繰り返してきたことは知っているからです。
今回は、この点に関する「懸念」を払拭するチャンスであったのですが、その機会が生かせなかったのは残念です。何も改めて「穏健な発言に終始して過去の言動を平謝り」する必要はないのです。ただ、余計なことは言わない代わりに、重心の低い実務家としての姿勢を見せられれば、それで良かったのです。(前述した「講演会」の席は、保守系シンクタンクでの行事であり、TV中継もCSPANという政治専門局だけで、一般世論への影響力はほぼゼロだと思われます)
二点目は中国に対してです。「尖閣は日米安保の対象内」などと「刺激的なこと」を両首脳が口を合わせて言う必要はないのです。ですが、日米が結束していること、首脳同士にも信頼関係があること、何よりも日米が「国際ルールに基づいた開かれた社会という価値観」を共有していることを、「見せつける」ということは、中長期的に中国に対して有効なメッセージになると思います。そのチャンスが十分に生かせなかったのは惜しいと思います。
三点目は、オバマに取っての「日米関係」という点です。オバマという人は基本的に「非常に知日派の大統領」であると思います。ですが、日本のことを知れば知るほど、日本の複雑な現状を「アメリカの世論に知らせる」ことの難しさを感じているような印象があります。
特にアメリカに取っては、日本というのはアジア外交の中での重要なカードであるわけですが、「日本の親米勢力の相当数は第二次大戦前の歴史認識に関して反連合国的」であるとか「日本の防衛に関して米国は相当の負担をしているにも関わらず、日本国内には反発のあること」などといった「複雑過ぎる」問題は、アメリカのマジョリティには理解してもらうのはムリでしょう。TPPとコメの問題も、日本国内の米価を示した上で問題点を説明したらアメリカの一般世論には驚かれるだけだと思います。
勿論、現時点ではアメリカの一般の世論における対日イメージは非常に良好です。その多くは、いわゆる「クールジャパン」という日本文化への関心と、自動車を通じた日本製品の品質への尊敬から来ています。ですが、日本の政治や社会に関する理解は、アメリカの世論の間には一般的ではありません。
オバマはそうした認識から「日米関係」を重視しながらも自分としては「日米間の政治的な問題はクロウト筋が専門的に対処」するもの、という位置づけを強めているように思います。ある意味では、日米関係を「閉じたもの」にするという判断です。
ですが、これは危険性をはらんでいます。というのは、一般世論に強く支えられていない関係というのは脆弱だからです。
今回の「共同会見見送り」ということが、そのような「日米関係の閉鎖性」の象徴であるとしたら、やはり今後は両国ともに様々な工夫が必要ではないかと思うのです。
(お知らせ)
『場違いな人~「空気」と「目線」に悩まないコミュニケーション』(大和書房刊、
定価1400円+税)という本を出しました。既刊の『「関係の空気「場の空気」』、
『上から目線の時代』(いずれも講談社現代新書)で述べた日本語のコミュニケーションに対する考え方を、更に具体例を交えて展開した内容です。文章や構成のスタイルとしては、若い読者も意識した記述を心がけました。書店でお手にとってご覧いただければと思います。
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』。訳書に『チャター』
がある。 最新作は『チェンジはどこへ消えたか~オーラをなくしたオバマの試練』
(ニューズウィーク日本版ぺーパーバックス)またNHKBS『クールジャパン』の準レ
ギュラーを務める。
◆"from 911/USAレポート"『10周年メモリアル特別編集版』◆
「FROM911、USAレポート 10年の記録」 App Storeにて配信中
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JMM [Japan Mail Media] No.727 Saturday Edition
【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】101,417部
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