頂門の一針 | 日本のお姉さん

頂門の一針

照射公表は練りに練った“対中宣伝戦”
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 杉浦 正章

習近平に打撃、日米安保再構築にプラス

中国海軍の火器管制レーダーによるヘリ、護衛艦への照射は過去に何度も行われていたことが7日になって判明してきた。

恒常化していたという説すらある。

それをなぜ安倍政権になって問題視して突如公表に踏み切ったのか。

背景には一体何があったのか。


それは1月18日の照射以来、練りに練った首相・安倍晋三の“対中宣伝戦略”があったのだ。

国際的に中国の“非常識”さを露呈させ、今月下旬に予定される大統領・オバマとの会談を意識し、日米安保体制再構築への布石を打ったのだ。
米国防長官・パネッタの強い中国批判は見事に安倍の狙いが当たったことを意味する。

野党もマスコミも防衛相・小野寺五典に対する突っ込みが足りない。

発言をすべてうのみにしている。

小野寺は1月19日のヘリへの照射については即日報告があり、官邸にも伝えたことを明らかにした。

ところが30日の照射については7日の予算委で「5日に知った」と明言した。

すぐに生ずる疑問は、なぜ19日には直ちに報告を受けて、30日は6日遅れであったのかだ。

核心は小野寺もマスコミも火器管制レーダーの仕組みを知らない点にある。

照射を受けると、登載装置は通常の捜索レーダーと識別して即時に警報が鳴るのだ。

防衛省幹部は「誤認はあり得ない」という。

それはそうだろう誤認するようでは兵器とは言えない。

それにもかかわらず“分析”を続けたという背景には、明らかに政治の“関与”が存在するのだ。

「ちょっと待て公表の機会を狙う」という判断だ。

そもそも過去においては2005年から中国戦艦は自衛隊機や艦船に対して照射を続けており、過去に国会でも取り上げられているのだ。

05年のケースは哨戒機P3Cに対する照射だ。政府は衆院安保委で、同機への照射について「航空機に対して当然中国艦艇は対空レーダーを用いて照準を合わせる。

それに対して自動的に探知するESM、(エレクトロニック・サポート・メジャー)という装置があって、これで大体照準が合わされたかどうかということについてはわかるようなっている」と答弁している。

また2010年4月の民主党政権時代にも中国海軍の駆逐艦がやはりP3Cに速射砲の照準を合わせた。

照準は当然火器管制レーダーによって合わせるから、P3Cはこれを感知している。

さらに加えて自衛隊の元海幕長が、BSフジで6日
「中国は、レーダー照射しても日本政府が公表すると思わなかった。

なぜかと言えば、いままで3年間は公表してなかったからだ」と過去の照射を明言している。

前首相・野田佳彦が民主党政権時代にも照射があったことについて「事実無根であり、極めて遺憾だ」と怒っているが、
自分に報告が上がっていなかっただけのことだ。

要するに極めて“日常行為”的に照射をしていた可能性がある。

その証拠に艦砲はヘリにも護衛艦にも向けられていなかったのだ

こうして安倍は公表を5日と狙いをつけて公表に踏み切った。

衆院予算委が7日から始まる時期を狙い、政府ペースで論争を運ぶ意図が見られる。

では過去に小泉純一郎も鳩山由紀夫も事実上の無反応であったのに、どうして安倍政権が鬼の首を取ったかのように取り上げたかである。

最大の理由は“タカ派”の首相の意志が働いたことであろう。

安倍の姿勢は対中強硬路線であり、強硬姿勢の中で隘路を見出して行くのが基本だ。

甘い顔をして3月に国家主席になる習近平に、日本くみしやすしと受け取られまいとする姿勢だ。

さらに尖閣の緊迫した情勢がある。

恒常化していても、国際常識ではレーダーの照射は「模擬攻撃」に当たるとされている。

戦端の口火を切ることになる行為を無視するわけにはいかなくなったのだ。

まかり間違えば偶発戦争になりかねない中で、未然に防止する必要があったのだ。

そして最大に理由はオバマとの会談を前にした、国際世論の形成にある。
中国の“悪らつさ”を浮き彫りにして、それにもかかわらず日本は我慢しているという構図を作り上げようとしたのだ。

これだけの“総合戦略”を練り上げるには、6日くらいはかかるだろう。

見事に図に当たって、米側の反応は中国非難に向かった。

パネッタは講演で「中国は他国を脅かし、領土を追い求め、紛争を生み出すような国になるべきではない」と名指しで中国批判を展開した。

米国にはレーダー照射にもかかわらずよく日本が我慢して反撃に出なかったという信頼感が報じている。

国務省のメア元日本部長は「米軍であれば、攻撃と判断して反撃する」と述べている。

こうして安倍は訪米による日米同盟再構築に願ってもない材料を入手した。

また国際社会への宣伝戦において中国の傍若無人ぶりを際立たせたことは、大きな成果だろう。


習近平が直接かかわっているか軍の暴走かは別として、
軍にしてみれば普通にやっていた敵情偵察のための照射が、これによって不可能になったことを意味する。


中国海軍は次に照射をすればそれは、確信的的な照射となり、武力衝突になり得ると感じたはずだからだ。

  (政治評論家)<2013年02月08日>