中国からすれば日本側の譲歩は、「尖閣決戦」の緒戦の勝利であろう。
2013.01.04 No.195号
~誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考~
石平(せきへい)のチャイナウォッチ
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■ 2013年の日中関係の展望
2013年の日中関係は、昨年12月22日からすでに動き出している。
その日、就任直前の安倍晋三首相は
関係改善の意欲を明確に示したのと同時に、そのために中国への特使派遣と、尖閣諸島に公務員を常駐させるとした政権公約の実施を先送りする方針を固めた、と報じられている。
安倍首相にしては、中国との対話の糸口をつかむためにある程度の譲歩も必要だろうが、中国からすればそれは、日本への領空侵犯を断行したことによって得られた「尖閣決戦」の緒戦の勝利であろう。
もちろんこの程度のことでは中国は満足しない。
今月に安倍首相の特使が北京に赴いた時、中国側からはきっと、
「日本政府はまず、領土問題とそれをめぐる両国間の係争を認めよう」
との要求を突きつけられるのであろう。
筆者がかつて指摘した「習近平の罠」はまさにそれである。
先月23日のフジテレビの番組出演でも
「尖閣はわが国の固有領土だから一切交渉の余地はない」
と明言している安倍首相のことだから、中国の要求には当然応じないはずだ。
そうすると、「日中関係の改善」の話はこの時点で立ち消えることとなる。
だが万が一、安倍政権は何らかの形で中国側の要求を飲んでしまえば、
それは結局、「領土問題は存在しない」という日本側の大原則を放棄することとなる。
それこそは日本にとっての「外交の敗北」であろう。
もちろんそれでも、中国側は攻めの手を緩めない。
領土問題の存在を日本側に認めさせた上では、
今度は次のような「妙案」を安倍政権におしつけてくるのかもしれない。
それはすなわち、日中両国政府は「領土問題の係争」を確認した上で、
尖閣諸島とその付近の海域を今後、両国の施政権がいっさい及ぼさない
立ち入り禁止の「空白区域」にすることだ。
そうすることによっていわゆる領土問題を再び「凍結」させて棚上げにする、
という趣旨の案である。
一見「穏便」に見えるこのような提案も、
尖閣に対する日本側の実効支配を切り崩すための詐術であるにすぎない。
明治時代から現在に至るまで、尖閣諸島にたいして
施政権を実際に行使してきているのは日本の方だから、
「施政権の凍結」は直ちに、尖閣諸島に対する日本の実効支配の終焉を意味する。
そして実効支配権を失った領土は実質上、もはや日本の領土であるとはいえない。
しかも、「尖閣に安保適用」とする米国政府と議会の立場は
まさに「尖閣への日本の施政権」を前提とするものだから、
日本による施政権の放棄は結局この前提を覆してしまい、
いざとなる時に米軍は尖閣の防備に駆けつけてくれるという抑止力を失うこととなる。
その結果、尖閣はいずれか、中国からの軍事攻撃に晒されるのかもしれない。
日本はそれで、「尖閣決戦」に完敗してしまい、領土と尊厳を失うことになる。
もちろん、国益と主権を守ることを何よりも重んじる安倍政権は決して、
中国政府の「詐欺」に嵌るようなことはしないと思う。
尖閣への実効支配を絶対放棄しないというのは、
どんなことがあっても日本政府の守るべき最後の一線である。
安倍政権もきっと、この一線から一歩も譲らないはずである。
そうなると、「日中関係改善」の動きは結局、どこかの時点で行き詰まってしまい、
両国間の緊張は再び高まってこよう。
そして「尖閣」をめぐっての日中間の攻防はさらに続くのである。
したがって日中関係の2013年は引き続き、
「尖閣」をキーワードにした波乱の多い1年となるのではないかと、
私は見ているのである。
( 石 平 )
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