中国は地域的な軍事衝突という最悪事態を覚悟していることもありえましょう。 | 日本のお姉さん

中国は地域的な軍事衝突という最悪事態を覚悟していることもありえましょう。

中国は地域的な軍事衝突という最悪事態を覚悟していることもありえましょう。
2012年10月1日発行JMM [Japan Mail Media] No.707 Monday Edition-6
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』
Q: 経済的損失が大きいのは日中どちらか
◇回答
□津田栄   :経済評論家   
■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
 Q:1278への回答、ありがとうございました。
日本の政治家のリーダー候補は、以前よりは幾分若くなりましたが、もっと若くてもいいのにといつも思います。
わたしは、今年還暦を迎えたこともあり、加齢による心身の衰えには敏感になっています。体力はもちろんですが、精神面で衰えが激しいのは「ひらめき」ではないでしょうか。
「限りなく透明に近いブルー」や「コインロッカー・ベイビーズ」は、二十代でなければ書けなかったと思うようになりました。 歳とともに、知識やネットワークは多少増えますが、体力の衰えは生物学的に、また医学的にどうしようもないことで、昔のような「調整型」の政治ならまだしも、世界中を飛び回り、強烈なリーダーシップが必要な時代には、いろいろな意味で若さが必要な気がします。 
最近、若い人が集まる「焼き肉屋」などが苦手になってきました。
大声を出さないと会話ができないようなにぎやかな店は疲れてしまうのです。
わたしは、基本的に面倒くさがりなので、都内で食事する店は非常に限られています。馴染みの店は、定宿のホテル内のレストランを含めても、10軒もありません。 移動も面倒くさいので、新宿を中心に、東は四ッ谷まで、南東方面は六本木まで、南は渋谷までが、エリア的に限界です。
ちなみに渋谷では、スペイン料理の「LAPLAYA(ラ・プラーヤ)」という店に最近よく行きます。店主(わたしと同じ九州男児です)が少々口うるさいですが、とても繊細でおいしい料理を出してくれます。生ハムの質、それに切り方も、本場スペインと比べて遜色がありません。リオハをはじめワインも充実していて、おまけに、とても静かなのです。
■今回の質問【Q:1279(番外編)】  中国の対日感情が悪化しています。悪化した日中関係がこのまま続いた場合、経済的に損失がより大きいのは、日中どちらなのでしょうか。村上龍
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■ 津田栄   :経済評論家 

日本政府が尖閣諸島を購入、国有化したことをきっかけに、中国の対日感情が一気に悪化、一部の市民が大規模な反日デモを連日行い、中国に進出している日本企業を襲撃して破壊する一方、中国政府も多数の漁業監視船や海洋調査船を尖閣諸島に派遣して日本領海を侵犯するなど、尖閣諸島の領有権を行動で誇示しています。

中国は、もはや理性を失い感情的になっているかのように見えます。

一方、日本でも、これまでの中国に対する親近感が今回の中国の反応で一気に崩れ、恐れと反発が急速に台頭しています。 

尖閣諸島をめぐる領有権問題は、両国政府にとって国家における根幹に関わるだけに、国連で汚い言葉も出る激しい応酬を行ったように、お互いに引くことができず、対立は当分続くものと思われます。

また、これまで日中国交正常化以降40年間築いてきた日中友好関係は、これまで棚上げしてきた尖閣諸島の領有権問題が今回の事件によって表面化したことで、相互に不信が生まれて大きく後退しています。

むしろ、日中戦争における歴史問題も絡んで底辺に感情的わだかまりがある上に、この問題を先送りしてきただけに問題が複雑で大きくなってこじれ、お互いに疑念と警戒を持ちましたから、元の状態に戻ることは容易ではなく、日中対立は先鋭化したまま、相当長期にわたるかもしれません。 

さて、もし悪化した日中関係がこのまま続くとした場合、日中の経済はどうなるかですが、どちらも相当の痛手を受けることになると予想しています。

今、欧州の債務危機で世界経済の減速が明確になってきており、それが中国の経済、そして日本の経済に悪影響を与えています。

それに加えて、これまで日中間で貿易や投資などで相互に経済を支えあっていましたが、今回の日中対立により、貿易・投資が急減速することになれば、両国の経済は大きなダメージを受け、それも相互に影響しあうことでスパイラル的に悪化することになって、どちらの経済的損失が大きいかは計りきれません。

それよりも、世界における経済規模の2位、3位が対立し、貿易・投資が縮小することになれば、世界経済への影響も大きく、しかも世界経済のけん引役である中国経済の悪化は、想像以上の影響を及ぼす恐れがあります。 

まず現状を見ると、米国経済の低空飛行が続くなかで欧州債務危機が欧州経済を悪化させ、その欧米経済の不振が世界経済の足を引っ張って世界的の需要を低下させ、それがこれまで輸出をテコに成長してきた中国経済に影を落とし始めています。

それは、中国の輸出が6月の前年同月比11.3%増から7月の1.0%増と急減速、8月も2.3%増と低水準で推移、そのことが工業生産にも表れ、昨年の同20%台から3月でも二ケタ台の伸びでしたが、4月以降は9%台と伸び率が鈍化、8月は8.9%増と3年3カ月ぶりの低水準にまで低下、大きな流れとして減速傾向が明白であり、中国企業の生産活動にブレーキがかかっていることが窺われます。 

そして、そのことが内需自体にも影響して鈍化を見せ、輸入でも減速傾向が続き、8月にはついに同2.6%減と7カ月ぶりのマイナスで、前回の1月が春節によるずれの影響を考慮すると2年10か月ぶりの実質マイナスということになります。

また、投資ですが、海外から中国への投資は1~8月累計で同3.4%減、それも日本からの16%増にも関わらずですから、欧州債務危機は投資にも大きく影響しているといえます。

こうした中国経済の減速傾向から、中国政府は、12年の経済成長目標を8%成長から7.5%成長へ下方修正し、一方で景気対策として1兆元(約12兆4000億円)の公共投資を認可しています。

しかし、それでも中国株式は、外需減速による企業業績悪化を懸念して下落傾向を続けており、上海総合株式指数は昨年の3000から2000近くまで下落しています。 

一方、日本でも、欧州債務危機の影響は、輸出に表れています。

8月の輸出は、前年同期比5.8%減と3カ月連続で減少、そのなかで唯一アメリカ向けだけがプラスで、欧州向けは同22.9%減と昨年10月にマイナスになって以降11カ月連続減少し、中国を含むアジア向けもアジア諸国の欧州向け輸出が振るわないこともあって6.7%減と欧州向けと同様昨年10月以降減少傾向にあります。

そのことは、鉱工業生産にも表れていて、年初をピークに鉱工業生産指数(季節調整済み)は低下傾向にあり、ここにきての下落幅が大きくなっています。

その結果、東日本大震災からの復興需要もあって今年1~3月期はプラス成長であった日本経済は、この7~9月期はマイナスに転じるのではないかと予想されます。 

そうした経済状況の中で尖閣諸島をめぐって日中で対立が起きたのです。

2005年当時の小泉首相の靖国参拝を機に起きた中国の反発は、歴史認識問題であるため政冷経熱と言われるように、政治にとどまって経済までは及ばず、その後ますます経済的に結びつきを強めていったのに対して、今回は、反日デモが中国に進出している日本企業にまで襲って破壊し、その後日本の輸出入の通関検査強化、日本製品の不買運動、日本企業が落札した受注案件の相次ぐキャンセル、日本企業からの資材・製品の凍結、日本人との面談禁止、あるいは日本への旅行の大量キャンセルなど、政治だけでなく経済にまで広がって、政冷経冷になる恐れが強まっています。

加えて、スポーツや文化交流にまで相次ぐ中止がなされては、両国の交流は、ほとんどストップした状態といえましょう。

こうしたことは、両国の経済の悪化を招くだけだといえます。 

今後ですが、中国で、今回の日本たたきの動きにより、日本企業が景気減速から起きている対中投資の見直しの動きを強めることになり、また中国国内の日系企業の生産調整を拡大することになり、これまで唯一の投資国であった日本からの投資(今回のデモで他の諸国では中国での投資はリスクが高いとみてさらに遠のく恐れが強い)、そして日系企業の生産に停滞が見られれば、これまでの減速してきた中国経済に対する下押し圧力が強まる可能性が出てきています。

つまり、今や日系企業とはいっても資本の半分は中国などの現地資本であり、今回彼らにも被害が及ぶ上に、日本ブランドをつけながら中国人従業員で作られた製品で中国製であり、減産が続けば中国人従業員の雇用や給料にも響くことになります。

結局日本企業を攻撃しても中国に跳ね返ってくることになり、その結果、欧州債務危機で減速している中国経済は、雇用や個人消費などに悪影響がでて、7.5%という経済成長の目標にも黄色信号がともるかもしれません。 

もちろん、日本も今回の日中関係の冷え込みで大きなダメージを受ける可能性があります。

まず、今回の反日デモの襲撃、破壊によって日系企業は数十億円の損失を蒙り(補償はほとんど期待できず)、営業や生産を再開するのに相当時間を要することになってその間の機会損失もさらに大きいと見られます。

そして、減速傾向にある中国経済が、日本製品不買運動などから日本からの製品・部品の輸出、および中国からの製品輸入など日中間の貿易が停滞することによって投資、生産において一段と下振れすれば、日本国内における生産にも影響が出て、企業収益は悪化することになります。

また一方で、中国からの観光客のキャンセルが相次いでいることも、国内の観光業・小売業に打撃を与えることになります。

そうした動きにより、伸び悩みつつある日本経済にも下押し圧力がかかってくることになり、景気回復シナリオが見えなくなってきます。 

しかし、こうした日中関係の悪化による経済的損失は、両国だけにはとどまりません。
中国の景気悪化は、さらに海外からの輸入の伸び悩みにつながり、世界の需要がさらに一段と減少する恐れがあります。

それは、鉱物資源などで中国に輸出しているオーストラリア経済にも既に表れてきています。また今後、欧州債務危機で経済的に苦境に立っている南欧を始め、これまで経済成長してきたドイツやオランダなどにも景気減速を強め、欧州全体が景気後退に入ることになれば、欧州債務危機の収束が見えなくなる可能性があります。

そして、低成長にあえぎながらもたび重なる金融緩和で持ちこたえているアメリカ経済にも、来年から始まる大幅な支出カット(財政の崖)の前に、その悪影響が出てくることになります。

そして、そうした世界的需要減退がめぐって日中の経済をますます悪化させることもありえます。 

こうしてみてくると、日中関係の悪化は、両国の経済を下押しすることになりますが、その経済的損失でどちらが大きいかは明確には分かりません。

むしろその対立による悪影響が世界経済へ波及することによって、世界的な経済危機を招いて経済的損失は世界全体に広がる一方、日本、中国ともに更なる経済悪化に陥って、両国の経済的損失は計りしれないものになるのではないかと恐れています。 

最後に、今回の尖閣諸島をめぐる日中関係の対立、悪化について、いくつか思うところがあります。

一つは、今回のきっかけは、野田政権が、石原都知事が尖閣諸島購入の動きを阻止しようとして唐突に横から購入して国有化したことにありますが、これは普天間基地問題、TPP問題、原発問題、エネルギー政策、そして消費税増税問題などに共通してみられる民主党政権の根本的な欠陥から来ているのではないかということです。

今回アメリカやその他からもタイミングとやり方がまずいという指摘があるように、周りへの配慮や関係者への十分な説明もせず、影響や効果も十分な検討もしないで、持ちあがった問題を突然かつ強引に結論を出し、最終的な出口戦略もなく周りに衝突を生むという、選ばれたら何でも決断しても構わずそれが政治主導だという民主主義を勘違いした政治のやり方です。

それは、机上でしか考えず、相手のことを何も考慮しない、身勝手な政治であり、それが日本経済、世界経済を危うくしようとしています。 

二つ目は、今回の日中間の対立は、経済的にはお互いに相当な打撃になるので、いずれ終息するのではないかと見方が大勢のようですが、個人的には楽観的な見通しを持っていません。

今回は、領有権という国家の根幹に関わることであり、双方ともに簡単に折れることのできない問題だといえます。

それは経済が悪くなるからということで変えられるものではありません。

特に、中国は、この問題は当面棚上げにして触れてほしくなかった問題であるだけに、一旦日本が国有化してしまっては、面子がつぶされたこともあって、絶対折れることができず、経済が悪化しても領有権を主張し、日本との関係を正常化以前に戻して、地域的な軍事衝突という最悪事態を覚悟していることもありえましょう。

そうした事態を想定した行動も考えておくべきではないでしょうか。 

最後に、こうした一連の動きを見ていると、1930年代に似てきていて、最悪のリスクとして世界的な経済危機ということもありえるかもしれません。

すなわち、先進国が経済的に行き詰まり、そこで立ち遅れていた国々を経済のグローバル化で取り込んで再び経済成長を目指してバブルを生みますが、その間にも、それまで立ち遅れていた国々が経済のグローバル化により急速な経済成長を遂げて経済力をつけ先進国を脅かす一方、先進国内での格差の拡大など経済的な歪みが大きくなってどうにもならなくなり、ついにバブルが崩壊し、経済的な低迷に直面し、それが最終的に政治を内向きに向かわせ、対外的には対立を生み、経済ではブロック化につながって、世界経済の停滞、縮小へと危機が広がっていくという流れです。

今回の尖閣諸島をめぐる日中間の対立は、このままいくと、そうしたきっかけの一つになるのではないでしょうか。                             経済評論家:津田栄 ●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●          ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )JMM [Japan Mail Media]                No.707 Monday Edition-6【発行】  有限会社 村上龍事務所【編集】  村上龍【発行部数】101,417部【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )