「シェールガス革命」はエネルギー危機日本の救世主か?
「シェールガス革命」はエネルギー危機日本の救世主か?
http://www.nexyzbb.ne.jp/~omnika/shale_gas1.html01.18.2012 , latest update
09.05.2012
Will shale gas revolution help Japan in energy crisis?
日本の天然ガス輸入量は年間974億立方メートル
アメリカの天然ガス輸入量は年間748億立方メートル
「シェールガス革命」でアメリカの天然ガスが余っている訳ではない
「革命」ではなくてアメリカの安い天然ガスの終わりを意味している
アメリカやカナダのシェールガスを当てにして日本は原子力を放棄する?
エネルギー自給率77%(内原子力10%)のアメリカが日本にエネルギーを輸出してくれると本気で思っているの?
速報 「天然ガス購入計画推進の見合わせを=米政府が日本などに要請」
ウォール・ストリートジャーナル日本版2012年5月31日(木)8時37分
http://jp.wsj.com/US/node_451985
原文 "U.S. Gas Exports Put on Back Burner" by TENNIlLLE TRACY
http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304821304577436470209675022.html
速報 「シェールガスは魔法の杖か 天然ガスシフト、冷静に戦略を」 2012年6月4日
7:00
日経産業新聞編集委員 松尾博文
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD3003Q_R30C12A5000000/
速報 IEA 特別報告 「天然ガスの黄金時代のための黄金律」 Executive Summaryの全訳
IEA World Energy Outlook "Golden Rules for a Golden Age of Gas" のExecutive
Summaryの全訳
国際エネルギー機関(IEA)2012年5月29日
(天然ガスの黄金時代は、環境問題等への真摯な対応なくしては訪れない)
速報 「米国内で高まる天然ガス輸出を求める声、反対する声 -輸出の可否を判断する材料とは?」
杉野綾子
日経ビジネスONLINE 2012年7月6日(金)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120705/234155/
(DOE/EIAがシェールガスの可採埋蔵量を下方修正)
速報 「シェールガスに暗雲、米国干ばつの影響」
ナショナルジオグラフィック ニュース National Giographic News, August 8, 2012
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2012080801&expand#title
(アメリカ、ペンシルバニア州ブラッドフォード郡で、埋蔵天然ガスの水圧破砕(フラッキング)作業を行う採掘業者。干ばつの影響で河川の水量や地下水位が低下し、同州の多くの地域ではフラッキングの水使用が停止されている。)
速報 「水説:シェールガス革命=潮田道夫」 毎日新聞2012年09月05日 東京朝刊
http://mainichi.jp/opinion/news/20120905ddm003070083000c.html
<引用>ニューヨーク・タイムズがシェールガス業界の内部文書や電子メールを入手して、業界の内情を暴露し続けている。面白い。「本質的にもうからないビジネスだ」「ネズミ講みたいなもの」など将来性を疑わせる内輪の話満載。<引用終わり>
ここで言及されているニューヨークタイムズの記事は"Drilling Down series"の連載記事で、代表的な記事は
"Insiders Sound an Alarm Amid a Natural Gas Rush" (天然ガスブームの真っ盛りに警告の内部告発)
http://www.nytimes.com/2011/06/26/us/26gas.html
暴露された内部情報 "Documents: Leaked Industry E-Mails and Reports"はこちら
http://www.nytimes.com/interactive/us/natural-gas-drilling-down-documents-4.html
最近「シェールガス革命」の記事を新聞やインターネットで目にします。シェールガスは「非在来型天然ガス」の一つです。非在来型のシェールガスがどうしてもてはやされるのでしょう。本当に革命なのでしょうか。今回は「シェールガス革命」について考えて見ます。この記事を読むとシェールガスの全容が判ると思います。画面をマウスでスクロールして、図表だけでもご覧になって下さい。「シェールガス革命」でアメリカの天然ガスが余っている訳ではないことを論証するために、十数枚の図表を引用しなければなりませんでした。
アメリカは、現在南米から天然ガスを輸入していますので、東部海岸やメキシコ湾にLNG受入設備があります。メディアはこれを輸出用の積出設備に転用すれば、今すぐにでも輸入ができると思い込んでいるようです。LNG受入設備にはタンクと気化設備はついていますが、液化設備はついていません。気化設備は熱交換機でLNGを海水などで暖めて気化させる設備です。一方、液化設備は圧縮機と冷凍機です。気化設備とはまったく別物です。そしてものすごく高価です。プラント建設の常識では、設備を転用しようとすると、スペースや電源容量などいろいろと制約を受けてしまい、新設した方が早くて安いことが多いです。そう簡単には転用できないのです。
一番下に、つい最近三菱商事がカナダ・エンカナ社のカットバンク・リッジ シェールガス田の権益を取得した件について、コメントを追加しました。メディアは、今すぐにでも日本に輸出できるような報道をしていますが、まだ、日本への輸出が決まった訳ではありません。また、アメリカの東海岸から天然ガスを輸入する話もありますが、こちらもアメリカ政府の許可が下りるかどうかが問題です。仮に許可がすぐ下りたとしても、日本への輸出は2016年以降とのことです。これから天然ガスの液化設備と積出設備を建設しないといけません。
さらに、三井物産と三菱商事が、センプラ・エナージー(カリフォルニア州)から液化天然ガスを最大800万トン調達することで基本合意に達したとのことです(2012年4月17日)。アメリカ政府はFTA非締結国以外の国には天然ガスの輸出を許可していませんでした。センプラ・エナージーは、FTA非締結国の日本へのLNG輸出許可を申請しており、許可が下りれば2013年中に液化設備建設に着手し、2016年末に完成したら日本へ輸出したいとの計画です。
アメリカ政府は、雇用の確保と国内エネルギーの有効利用のために、多額の補助金をシェールガス開発事業に出しています。そのため、中小の採掘業者などを中心にして新規参入が増え過当競争になっており、加えて暖冬であったことで消費が伸びなかったため、このところ天然ガスのスポット価格がシェールガスの生産原価を割って2$/MMBtu以下になっています。このため、天然ガスおよびシェールガス生産業者の経営が非常に苦しくなっており、採掘権益を外国企業に売りはじめています。気体状の天然ガスは貯蔵できないため、アメリカでは一時的に天然ガス余り状態になっています。天然ガス生産会社は経営安定のために、液化天然ガス(LNG)にして日本へ輸出したいことが背景にあります。しかし、いずれのプロジェクトも高額の設備投資が必要になるのと、採算に乗せるためには長期契約が必要です。天然ガスは重要な戦略物資であり、シェールガスブームがそんなに長くは続かない可能性もあるので、メディアが過剰に期待を煽ることに対して冷静に見ている必要があります。
また、日本が輸入しているLNG価格は原油価格にリンクしています。このリンクを外すためには、大量の天然ガスを何十年という長期契約で北米から輸入する必要があります。しかし、アメリカもカナダもエネルギー大量消費国です。メディアが吹聴しているほど実現性のある話ではありません。仮に「革命は本もの」であっても、よその国の天然ガスです。勝手に持ち出す訳にはいきません。何が目的でメディアがそんなに「シェールガス革命」を執拗に吹聴するのかよく判りません。
なお、Annual Energy Outlook 2011(USエネルギー省エネルギー情報局 (DOE/EIA)のエネルギー見通し年鑑2011年版)に目を通してみましたが、 “shale gas revolution”(シェールガス革命)と
いう言葉は、"executive summary"にも、本文の"Prospects for shale gas"にも、一度も登場しません。本文には“uncertainty”(あてにならないこと、不確実)という単語が6箇所はありました。
日本、EU、アメリカが輸入しているLNGの価格推移
シェールガスについて述べる前に、天然ガスの価格がどうなっているかを先に見てみましょう。天然ガスは陸続きの場合はパイプラインで、海を渡る場合は液化天然ガス(LNG)にして低温タンカー(マイナス162℃以下)で運びます。2009年の世界の天然ガス貿易に占めるLNGの割合は28%です(参考文献1)。世界の天然ガス貿易の主流はパイプラインによるものです。
天然ガスを液化して輸送するには、パイプライン、液化装置(冷凍機、圧縮機)、貯蔵タンク、低温タンカー、受け入れタンク、気化設備などの大規模な設備投資が必要です。したがって、LNGはパイプライン輸送の天然ガスよりもコストが高くなります。さらに、日本が輸入している天然ガスは原油価格に連動して価格が決められているため割高になっています。
一方、アメリカはLNGとして輸入している天然ガスは消費量の1.8%に過ぎません。ほとんどをパイプラインでカナダから輸入しています。そのため、アメリカの輸入LNG価格はアメリカ国内のパイプラインの天然ガス価格とリンクしています。このことを頭に入れて下の図-1を見て下さい。日本(黒)、EU(緑)、アメリカ(青)のLNG価格です。JCC(赤)はJapan Crude Cocktail(全日本輸入原油平
均CIF価格)のことで、日本が輸入している原油価格です。
図-1から、日本の輸入LNGは、アメリカやEUよりもより強く原油価格にリンクしていることが判ります(JCCを基準にして価格が決められている)。また、日本が輸入しているLNGの価格は、アメリカが輸入しているLNGの2~4倍だということが判ります。天然ガスの価格形成メカニズムが日本とアメリカでは異なるからです。
なお、縦軸の輸入価格の単位は$/MMBtuになっています。これは百万ブリティッシュ・サーマル・ユニットの熱量相当の天然ガスは何ドルかという尺度です。1Btu=252cal=0.252kcalです。アメリカでは天然ガス価格を$/MMBtuまたは$/mcfで表示します(1mcf=1000立方フィート=28.317立方メートル)。天然ガス1mcfの発熱量が1,028,000Btuに相当するので、天然ガスについては$/MMBtuと$/mcfはほとんど同じ数値になります。エネルギーの世界は桁数がやたらと大きく、Btuや立方フィートが出てきますから計算間違いします。このホームページにも計算間違いがあるかも知れません。
また、図-1から、熱量当たりのコストで見ると天然ガスの方が原油よりも安いことが判ります。天然ガスは燃やした後の排ガスもクリーンです。CO2の発生も石炭や石油に較べて少ないです。したがって、石油を天然ガスに転換した方が安く済みます。それで、世界的に石油から天然ガスへのシフトが起こっているのです。
図-1のように、アメリカの輸入LNG価格の変動もかなり大きく、2009年以降、3~5$/MMBtu=9~15円/立方メートルで推移しています。LNGの日本でのCIF価格は上の図で12$/MMBtuです。為替レートによりますが約35円/立方メートルになります。ちなみに、東京ガスの一般家庭用都市ガス価格は使用量にもよりますが、130~155円/立方メートルです(高いですね!)。それはともかく、アメリカの天然ガス価格は日本に較べて非常に安いのです。
日米の天然ガスの価格差がこのように大きいので、「シェールガス革命が起こったのだからアメリカから天然ガスを輸入すれば良いじゃないか」ということになります。それで、日本のメディアなどが「シェールガス革命」などと囃したてているのでしょう。
「シェールガス革命」の説明の前に、まず「シェールとは何か」から説明します。
シェールとは
シェールとは堆積岩の一種で頁岩(けつがん、ウィキペディアにリンク)のことです。太古の湖底や海底に泥が層状に堆積され、加圧されてできた板状の岩のことです。層に沿って割れやすい性質があります。下の図-2はカナダ・ケベック州Uticaのシェールが地上に現れているところ(露頭)の写真です。ここでは黒い層がシェール(頁岩)、白い層は石灰岩で、お菓子のミルフィーユのように重なっています。シェールの黒い部分には有機物が含まれています。その有機物が地下深いところで熱熟成を受けるとガスシェールになります。
図-2 シェールの一例(カナダ・ケベック州Uticaのシェール)
出典:(参考文献2) 井原賢 「シェールガスのインパクト」
このUtica のシェールは、もろい石灰石の層を含むためにあとで述べる「水圧破砕」には適していないとのことです(参考文献2)。
シェールガスとは
シェールガスは、上の図-2のような頁岩中に閉じ込められている非在来型天然ガスのことです。天然ガスは頁岩中の隙間に閉じ込められていたり、鉱物や有機物に吸着されています。天然ガスの主成分はメタンで、エタン、プロパンなどを含むことがあります。不純物として二酸化炭素や硫化水素が含まれます。二酸化炭素濃度が高いとガスの発熱量(カロリー)が下がります。
シェールガスの成因は天然ガス田と同じです。ただし、シェールガスでは、ガスが緻密なシェールの中に閉じ込められているために、石油やガスが貯まりやい場所(背斜構造)に移動して濃縮されてはいません。それで、在来型天然ガスのように井戸を掘っただけではあまりガスが出てきません。そのため、シェールに500~1000気圧の水圧をかけて人工的に割れ目を作り(水圧破砕と言います)、天然ガスを回収します。ガスシェールは、オイルシェールと兄弟の関係で、石油や天然ガスの根源岩の熱熟成温度が高いとガスシェール、低いとオイルシェールになると考えられます(詳しくは本ホームページ内の「石油と天然ガスの起源」をご覧下さい)。
在来型天然ガスと非在来型天然ガス(タイトサンドガス、コールベッドメタン、シェールガス)の模式図を次の図-3に示します
図-3 在来型天然ガスと非在来型天然ガス(タイトサンドガス、シェールガス、コールベッドメタン)の模式図
アメリカエネルギー省エネルギー情報局(DOE/EIA)のホームページから
http://www.eia.gov/oil_gas/natural_gas/special/ngresources/ngresources.html
在来型の天然ガス田や油田では、透過性のない緻密な地層が帽子のように覆いかぶさっている場所(背斜構造)に、ガスや石油が貯まっています。実際には空間に溜まっているのではなく、多孔質の砂岩や多孔質の石灰岩の隙間に溜まっています。これに対して、タイトサンドガスやシェールガスは、ガスの透過性の小さい砂岩や頁岩中に分散して閉じ込められています。つまり、ガスが移動できなかったため、在来型ガス田のように一カ所に濃縮・貯留されていないのです。
コールベッドメタンは石炭層に閉じ込められているメタンガスのことです。炭鉱ではガス爆発の原因となります。そのため、採炭する前にドリルで穴を開けて「ガス抜き」をしておきます。上司が仕事でストレスのたまった部下にたくさんお酒を飲ませて、突然の爆発を未然に防止することを「ガス抜き」といいますが、炭鉱用語だったのかも知れません。コールベッドメタンは日本にもあります。
シェールガスは、図-3の模式図のように、在来型油田や在来型ガス田よりも概ね深いところにあります。深い地層ほど温度が高く、有機物の熱熟成が進み、油よりもガスになりやすいからです。また在来型油田や在来型ガス田は、多孔性の地層中の油やメタンガスが地圧によって上方に絞り出され、背斜構造に貯留されたものなので、シェールガスより相対的に浅いところに存在します。在来型油田や在来型ガス田が資源的に格段に優れている理由は、地中のあるところに濃縮・貯留されていることです。
在来型ガスと非在来型ガスの質、埋蔵量、生産性の関係は次の図-4の通りです。質の高いものが在来型ガス田、質の落ちるものがタイトガス、コールベッドメタン、そしてさらに質が落ちるのはシェールガスです。また、三角形の底辺に行くにしたがってコストが高くなり、採掘技術も高度になり生産性も低くなります。一番下のガスハイドレート(メタンハイドレート)は今のところ採掘の対象になっていません。
図-4 天然ガスの資源量トライアングル Masters (1979)による
出典:(参考文献2)井原賢 「シェールガスのインパクト」
したがって、非在来型天然ガスは埋蔵量が多いことは間違いありませんが、在来型と比較して質が低く、生産性が非常に低く、コストが高くなります。図-4の三角形の右辺を見れば判りますが、生産性が中位の在来型ガス田(10md)の1万分の1、生産性の高い在来型ガス田(1,000md)のなんと100万分の1です。在来型天然ガス田のように自然が濃縮したものを井戸を掘るだけで採掘するのと、シェールガスのようにまばらに存在するものを、井戸を掘った上に機材とエネルギーを大量に動員して採掘するのでは、エネルギー投資効率の桁が違います(エネルギー投資効率については、本ホームページ内の「エネルギー投資効率(EROIまたはEPR)」をご覧下さい)。それではなぜシェールガスが開発されるようになったのでしょう。一つには、水平坑井掘削技術や水圧破砕技術などの進歩があったことです。もう一つは、アメリカの在来型天然ガスのピークが過ぎたからです。次にシェールガスの採掘法と環境問題、そしてアメリカのピークガスについて述べます。
シェールガスの採掘法と環境問題
図-5はシェールガス採掘法の概念図です。シェールガスは緻密なシェールに閉じ込められている天然ガスを採取するために、井戸を掘ってから500~1000気圧の水圧をかけて、井戸のまわりのシェールに割れ目を入れます。水圧破砕(フラクチャリング)といいます。水圧破砕後には、9%程度のプロパント(砂のようなもの)を含んだを水を注入し割れ目が閉じないようにします。
図-5 シェールガス採掘のイメージ図
出典:(参考文献1) エネルギー白書2011
図-5では垂直坑井と水平坑井の例が描かれています。水平坑井を用いた採掘は、頁岩層が厚くて断層やクラックや破砕帯などが入っていない地層で行うことができます。断層やクラックがあったり、グズグズのシェールだと水圧が抜けてしまいます。
掘削や水圧破砕用の水には0.5%程度の薬剤(ゲル化剤、界面活性剤、潤滑剤、酸、スケール防止剤、腐食防止剤、殺菌剤、鉱物油、アルデヒド類など。ヒトにとって有害物質が多い)が含まれています。いくら深いところ、例えば地下2000メートルで水圧破砕をするとはいえ、地層の弱い部分が貫通されれば、500~1000気圧もの水圧がかかるので、チャンネリング(通路を作ること)を起こして地表に通じてしまい、水源地や井戸水を汚染してしまいいます。井戸水が濁ってしまったとか、井戸を使っている家庭の水道の栓をひねったら、蛇口から天然ガスが出てきたなどということが起こっています。蛇口に火をつけると燃えます(下の写真)。メタンガスはかなり水に溶けます。
写真-1 水道の蛇口からメタンガス
出典:http://wvhighlands.org/wv_voice/?p=3949
このため、水源地や地上に人家がたくさんあるようなところではシェールガスの開発はできません。また、チャンネリングによってメタンガスが大気に放出されたり、油分が河川に流れ込んだりする環境汚染も問題になっています。
さらに、石油や天然ガスの採掘と精製過程では、メタンガスなどの他に、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、硫化水素、二硫化炭素などの有毒ガスが発生します。シェールガス採掘業者には中小の業者も多く、必ずしもこれらの有毒ガスが適正処理されている訳ではありません。また、1井戸あたり掘削や水圧破砕に用いられる7.500~25,000トンの廃水(参考文献4)の処理も課題になっています。地下に押し込んだり、池に溜めたりしていますが、添加薬剤の有毒性が問題になっています。この他に、井戸を掘った時に掘り出された岩石や泥に含まれた重金属(ヒ素、カドミウム、水銀など)による汚染も問題になっています。
エネルギーや資源開発は自然破壊を伴います。シェールガス開発においても、エネルギーを得る代償に、自然破壊や環境汚染、そして、作業員や近隣住民の健康被害が起こります。エネルギーはただでは手に入りません。誰かの命や健康や環境破壊を代償にしていることを知らずに、私たちはエネルギーや資源を使って快適な生活を送っているのです。ゼロリスクのエネルギーはありません。
アメリカ連邦政府もシェールガス開発が環境破壊を起こしていることは当然知っています。しかし、シェールガスの開発をするメリットとデメリット、開発しないことの国家的リスク、すなわちエネルギーセキュリティーの問題を考えた場合、シェールガスの開発をせざるを得ないという結論になったのです。後述するように、アメリカの天然ガス消費量は日本の6.6倍と莫大な量です。シェールガスの開発をしないと、アメリカはエネルギー危機に陥ってしまいます。また、アメリカの在来型天然ガスが衰退してしまった今、これを輸入でまかなうことは資源的にも、貿易収支的にも無理だからです。ただし、シェールガス開発はアメリカのほとんどの州にまたがり、かつ掘削井数が膨大な数になるのであまりにも環境負荷が高く、環境問題による制約を受ける可能性が高いです。
なお、残念ながら日本には採掘の対象となるようなシェールガスはないと考えられます。日本の地層は新しいからです。でも、国産の天然ガスは国内需要の約0.4%生産されています。日本にはコールベッドメタンはあります。ただし、採算にのるかどうかは別です。
シェールガスの採掘法についてはYouTubeに動画があります。英語の解説ですが動画なので水圧破砕(hydraulic fracturing または fracking)の手順が良くわかります。まず垂直に井戸
を掘り、シェール層に達したら水平に井戸を掘ります。掘った井戸を保護するためにケーシングと呼ばれる鉄パイプを入れ、鉄パイプの外側にセメントを送り込みケーシングを固定します。次にたくさん穴の開いた特殊なパイプ(パイプガン)を入れて火薬を爆発させ、ケーシングを突き破ってシェールにひびを入れます。次に水圧をかけてシェール層のひびを拡散拡大します。最後に「プロパント」という砂のようなものを含む水を送り込み、プロパントを割れ目にはめ込んで割れ目が閉じないようにします。これを水平抗井の中で繰り返します。
http://www.youtube.com/watch?v=lB3FOJjpy7s&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=7ned5L04o8w&feature=related
マルセラス(Marcellus) シェールガス田(Chesapeak Energy社)の爆発火災事故
http://www.youtube.com/watch?v=NiLRJeE8h2w
アメリカのピークガスは1970年代
図-6は、アメリカの天然ガス生産量と井戸出口価格の推移です。
図-6 アメリカの天然ガス生産量の推移
出典:英文のウィキペディアから、濃いブルーが生産量、赤が価格
(縦軸の生産量の単位:×10億立方メートル、井戸出口価格:ドル/1000立方メートル)
図-6から、アメリカのピークガス(天然ガスの生産ピーク)が1970年代初頭にあったことが判ります。アメリカのピークオイルも1970年です。アメリカはピークオイルとピークガスを同時に迎えました。そして、ピークオイルとピークガスが過ぎてから天然ガスの値上がりが始まりました。天然ガスの価格はもちろん景気の動向に左右されます。しかし、1975年頃までの天然ガス価格は恐ろしく安いです(1立方メートル約0.03ドル)。
1980年代前半はレーガン政権が金融引き締めを行いました。金融引き締めによってインフレからの脱出には成功したしましたが、莫大な貿易赤字が計上され、財政赤字も累積して「双子の赤字」状態になりました。
1985年9月の「プラザ合意」によりドル安に誘導されました。天然ガス価格は、生産量は変わらないのに2000年頃から上昇します。そして2008年のリーマンショックで暴落します。このように、化石燃料の価格は経済と密接に結びついています。この続きはいくつか図を紹介してから再開します。
上の図-6ではピークガス後でも、アメリカの天然ガス生産量が低下せずに横ばいになっています。何が起こっていたのでしょう? 次の図-7は、アメリカの天然ガス生産量の推移、実績と予測を示しています。この図でアメリカの天然ガスの中味が判ります。なお、下の図は「シェールガス革命」をもてはやす時によく引用される図です。
図-7 アメリカの天然ガス生産量の推移、実績と予測
出典:(参考文献3 ) Annual Energy Outlook 2011 (縦軸:兆立方フィート、20兆立方フィート=5663億立方メートル)
USエネルギー省エネルギー情報局 (DOE/EIA)のエネルギー見通し年鑑2011年版
図-7で「Lower 48」というのは、USA50州のうち、アラスカとハワイをのぞく48州のことです。アラスカ開拓民から見たら、アメリカ本土は地図の下の方にあるからLower 48なのだそうです。俺たちはアメリカ最後
の開拓者だというアラスカの人の誇りに敬意を表して、本土の人間が自分たちはLower
48だと公式文書で使っているところがアメリカらしいところです。こういうシャレは日本のお役所では許されないですね。
図-6と図-7の二つの図で判るように、1970年にアメリカがピークガスを迎えて、陸上の在来型ガス田が衰退しはじめました。それに代わったのは1987年頃から生産の始まったメキシコ湾の海底ガス田でした。しかし、メキシコ湾の海底ガス田も2000年頃から衰退をはじめました。代わりに、1990年頃から非在来型のタイトサンドガスとコールベッドメタンが順調に増加しています。在来型ガス田の衰退の穴埋めをしたのは、実はタイトサンドガスとコールベッドメタンです。そして2004年頃からシェールガスが増えはじめました(しかし、上の図-7では、2009年から右側のシェールガスの生産予測がずいぶんと膨らんでいます。ホンマカイナと思います。図-4の天然ガス資源量のトライアングルからみたら、とんでもない数の井戸を掘らないといけません。現実にはあり得ないシナリオです)。下の図-8をご覧下さい。
図-9 アメリカのエリア別シェールガス生産量
(縦軸は生産量 百万立方フィート/日)
出典:同上
図-9から判るように、シェールガス生産の主役はテキサス州フォートワースのバーネット(Barnett)シェールガス田です。図-7の2009年までのシェールガス生産増のほとんどは、Barnettによるものなのです。フォートワースBarnettはダラスのすぐ隣です。ダラスやフォートワースはテキサスの油田・ガス田地帯のど真ん中に位置しています。天然ガスが出てもおかしくないところです。ここで大当たりしたのです(Annual Energy
Outlook 2011でもスウィート・スポット“sweet spot”という表現が出てきます)。図-9で■Bakkenは低迷したままです。■Antrimも低迷しています。■Fayettevilleと■Arkoma Woodfordが芽を出して花開くかも知れません。だか
らシェールガス革命が到来したと言いたいのでしょう。でも、全部のシェールガス田がBarnettのようにうまくいく保証はありません。Barnettはむしろ例外的なシェールガス田です。シェールガス田は井戸1本当たりの生産量が在来型よりもはるかに少なく、新しい井戸を自転車操業のように掘り続けないと衰退してしまうからです。Barnettが衰退すると、アメリカのシェールガス風船がしぼんでしまいます。アメリカの代表的なシェールガス生産会社Chesapeake社の機関投資家向け資料によると、同社のBarnettとFayettevilleのシェールガス田の生産量は2009年には頭打ちになっています。
なお、シェールガス田の掘削コストは、垂直坑井と水平坑井の違い、深さ、水平坑井の場合は長さなどによりますが、500万~1000万ドル(4億~8億円)(参考文献2)、また、日量生産量は、シェールガス田ごとに異なりますが、生産性が中位の在来型ガス田(10md)の1万分の1、生産性の高い在来型ガス田(1,000md)の100万分の1です(数値の出所は図-4)。
1990年以降のアメリカの天然ガス価格推移
それでは、もう一度天然ガスの価格推移に戻ります。下の図は1990年以降のアメリカの天然ガス価格の推移、実績と予測を示しています。
図-10 アメリカの天然ガス価格の推移、実績と予測(縦軸は$/MMbtu)
出典:(参考文献3)Annual Energy Outlook 2011
2000年代に入って天然ガス価格は急上昇しました。図-7、図-8と見比べてみると、この価格急上昇によりシェールガスの開発が急拡大したことが判ります。
2007年には「サブプライム問題」が顕在化しました。2008年9月に「リーマンショック」がありました。そして、2009年にかけて石油と同様に、天然ガス価格が8ドルから4ドルへと暴落しました。景気後退によるものです。
この図-10の天然ガス価格の実績と予測のグラフを眺めていると、「2000年代の天然ガスの暴騰は特殊な要因によるもので、天然ガス価格は今後ゆるやかに上昇する。それは“シェールガス革命”のおかげだ。」と主張していると受けとめることができます。
しかし、上の予測に見られる4$/MMBtu台の天然ガス価格は、シェールガス採掘業者にとっては受け入れがたい価格のようです。この予測通りの天然ガス価格で推移すると、シェールガス採掘業者はやっていけないかも知れません。次の図-11の在来型天然ガスとシェールガスの供給コストと可採埋蔵量の関係をご覧下さい。
図-11 在来型天然ガスとシェールガスの供給コストと可採埋蔵量の関係
(左縦軸:千立方フィート当たりの供給コストが何ドルか、横軸:可採埋蔵量の積算:10億立方フィート/日、右縦軸:熱量を原油1バレルに換算して何ドルか)
出典:(参考文献2)井原賢 「シェールガスのインパクト」
ここでは、天然ガスの供給コスト=(探鉱コスト+開発コスト+操業コスト)=(CAPEX+OPEX)です。グラフの下方にBase Productionとありますが、在来型天然ガスのことです。在来型の天
然ガスの供給コストは1$/mcfととても安いのです。次の表-1の井戸出口価格
3.71$/mcfを見ると、図-11のMarcellus、Barnett Core、Haynesvilleのシェールガスは採算にのりますが、その他のシェールガス田が採算にのるのは先の話のようです。なお、このホームページを書いている時点(2012年1月)でのHenry Hub のス
ポット価格は2.295$/mcfで 3$/mcfを割っています。シェールガスが太刀打ちできない価格です(技術の進歩があっても下がりすぎなので、シェールガス開発への参入が増えて過当競争が起こっているのでしょう。気体の天然ガスは貯蔵ができませんので投げ売りされているのだと思います)。
シェールガス開発はこのように採算の問題も抱えていますが、雇用創出には大きく貢献しているようです。ペンシルベニア州での雇用効果は4万8千人とのことです(参考文献2)。テキサス州ではもっと多いでしょう。そのため、シェールガス開発には土地リース料などへの補助金、税制上の優遇など手厚い保護政策がとられています。アメリカ連邦政府がシェールガス開発に力を入れているのは、シェールガスに期待していると同時に雇用創出効果があるからです。どこの国でも政治家が欲しいのは選挙の時の票です。雇用創出は最重要の政策課題で票に直結します。採算割れでも簡単に撤退する訳にはいかないでしょう。
2009年の天然ガス生産量と消費量のデータはAnnual Energy Outlook 2011にあります。表-1にその抜粋を示します。
この表が意味するところは、アメリカが天然ガス生産大国であり、かつ消費大国であり、そして天然ガス輸入大国でもあることです。Net輸入量になっているのは、カナダからパイプラインで輸入していますが、逆にカナダやメキシコに輸出もしていることによります。表-1の生産量、Net輸入量、消費量を立方メートルに換算すると、生産量5935億立方メートル、Net輸入量746億立方メートル、消費量6431億立方メートル(誤差があって生産+輸入の合計とあいません)になります。
アメリカの天然ガス消費量6431億立方メートルは、日本の天然ガス輸入量974億立方メートルの6.6倍と莫大な量です。そして、アメリカのNet天然ガス輸入量の年間746億立方メートル(2009)は、日本の天然ガス輸入量の年間974億立方メートル(2010)に匹敵します。ですから「シェールガス革命」などと囃したてられていますが、アメリカの天然ガスが余っている訳ではないのです。
図-12 アメリカのソース別 Netの天然ガス輸入量の実績と予測
単位:Tcf:1兆立方フィート
出典:(参考文献3)Annual Energy Outlook 2011
参考までに、北米の天然ガスの輸送網の様子を図-13に示します。確かに北米の天然ガスは日本に較べて安いのですが、北米全体で天然ガスが余るかどうかが重要です。
図-7 アメリカの天然ガス生産量の推移の実績と予測(再掲)
出典:(参考文献3 ) Annual Energy Outlook 2011 (縦軸:兆立方フィート、20兆立方フィート=5663億立方メートル)
USエネルギー省エネルギー情報局 (DOE/EIA)のエネルギー見通し年鑑2011年版
図-7と図-12の意味するところは次の通りです。
① NAFTA(北米自由貿易協定)があるので、今のところアメリカはカナダから大量の天然ガスを安く輸入できます。
(カナダ側から見るとアメリカに天然ガスを安く買い叩かれています)
② アメリカはNAFTAにもとづいてメキシコに天然ガスを安く輸出する予定です。
(メキシコはかっては石油輸出国でした。天然ガスも輸入国になりました)
③ 南米から輸入しているLNGは2020年頃から減る予定です。
(コスト次第では)
④ アメリカ国内の天然ガスの需要増はシェールガスの増産で間に合います。
(最初のうちは生産量が急増しますが、落ち込みも激しいかもしれません)
図-7の論理構造はたぶん逆でしょう。すなわち、アメリカの天然ガス需要増(図-7のTotalの上昇線)が先にあり、Lower 48の在来型ガス田(陸上)とLower 48の在来型ガス田(海底)の衰退
分をシェールガスでまかないたいという願望、足し算・引き算の筋書きと読み取ることができます。シェールガスだけで50%近くの天然ガス需要をまかなうのは常識的に無理です。コストと環境破壊を無視してアメリカ中にシェールガス井を掘りまくらないといけません。表ー1を見れば判るように、都市ガス、産業、発電用に大量の天然ガスが使われています。もし、図-7通りにシェールガスの生産が進まなければ、アメリカは深刻な天然ガス不足に陥ってしまいます。図-7は、「革命とか革命でない」とかの話ではなく、アメリカの在来型天然ガスは大きく衰退しており、否応なく非在来型にシフトしていることを明確に示しているのです。したがって、図-7はそんなにオメデタイ図ではないのです。
カナダのエネルギーの専門家たちがNAFTAの問題点を指摘しているのではっきり書いておきますが、NAFTAがあるために、アメリカはカナダのエネルギー資源を安く自由に手に入れることができます。カナダのエネルギーを「合法的に収奪できる」のです。「シェールガス革命」というメッセージでカナダの国民と世論を油断させて、カナダの天然ガスを一年でも二年でも安く買い叩ければ、アメリカはとても助かります。
アメリカでは、原子力や石炭火力より天然ガス火力のコストの方が安いのと(実際は図-10のように天然ガス価格の乱高下に悩まされている)、今後、石炭火力に排煙脱硫装置などの設置が義務づけられる可能性が高いので、天然ガス火力をさらに増やしたいのです。アメリカの天然ガス需要はこれからもっと増えます。したがって、残念ながらアメリカには天然ガス/シェールガスを日本に輸出する余力はありません。カナダは上記のようにアメリカに大量に天然ガスを輸出しなければなりませんから、日本に輸出する余力はあまりありません。仮にあったとしても輸出してくれるかどうかは別の話です。
「シェールガス革命」というメッセージは天然ガスの高騰を抑える効果があります。アメリカはそれによってものすごく得をしています。輸入天然ガスに頼っている日本やEUにとってもありがたいメッセージです。(しかし、日本の輸入天然ガスは石油価格にリンクしているので直接的なメリットはないです)。もしかすると天然ガスの高騰を抑えるために、DOE/EIAとIEAが意図的に流しているメッセージなのかも知れません。DOE/EIAとIEAはピークオイルを空とぼけていた前科があります。エネルギー予測では現実とメッセージが180度反対のことがあります。価格高騰を抑えるために楽観的見通しを流すからです。
準国産エネルギーである原子力を除くと、エネルギー自給率が4%しかない日本が、アメリカやカナダのエネルギーを当てにして「シェールガス革命」を囃したてるノーテンキさが私には理解できません。メディアや有識者・学識経験者に「シェールガス革命」を囃したてる人がけっこういるので、日本を安易に原子力放棄に走らせることが心配です。民主党政権好みの「有識者・学識経験者」には、民主党の先生方と同様に「エネルギー音痴」の方が多いです。ただし、「エネルギー音痴」は民主党の先生方だけではありません。メディアも「エネルギー音痴」の大合唱になっていて聞くに堪えません。
歴史は「革命」が短いことを教えています。「シェールガス革命」が風船のように急速にしぼむ可能性も高いです。「シェールガス革命」の先行きはここ数年を見ていれば、それが本当かどうか見極めがつくでしょう(Barnettが衰退しないで、次々とBarnett並のシェールガス田が登場するかどうか)。シェールガスの持続可能性については、フランスのルモンド紙が強い疑問を投げかけています。本ホームページ内の「安い石油の時代は終わった」をご覧下さい。
「シェールガス革命」は日本のエネルギー危機を救ってくれるでしょうか? アメリカは大量に天然ガスを輸入しているのに、日本に天然ガスを輸出してくれるでしょうか?「シェールガス革命」を囃したてることが、安易な原子力放棄につながらないでしょうか? よその国のエネルギーを当てにして、さっさと原子力を放棄して後悔することはないでしょうか?日本の政治と世論を見ていると日本の将来にますます自信をなくしてしまう毎日です。希望をこそ語りたいのに。
それとともに実に残念なことは、日本は石油も天然ガスもほとんど産出しないことです。そして、エネルギーとして質の低い非在来型天然ガスのシェールガスや、非在来型石油のタールサンド/オイルサンドすら日本にはないのです(非在来型とはいえ石炭のガス化や液化よりはかなりましだと私は思っています)。日本は化石燃料の輸入に頼る以外に手がないのです。しかし、これから化石燃料は先細りになり高騰していきます。エネルギー自給率が4%しかない日本が生き残っていくためには、原発を使いこなしていくしか選択肢がないと思います。そういった日本のエネルギー事情の冷厳な現実を、政治家も、メディアも、そして国民も、そろそろ理解しないといけません。
「シェールガス革命」を評価するためには、このように長々と文章を書き、たくさんの図表を引用しなければなりませんでした。科学や技術の論証は、以上のように七面倒くさいのです。「シェールガス革命」を囃したてるのはかっこよいし簡単です。IEAやDOE/EIAの受け売りをすれば良いだけですから。しかし、筋道を立てて反論するのはこのように大変です。しかも、生意気・不遜にもIEAやDOE/EIAなどのエネルギーの権威に異議を唱えるのですから。我ながら「お疲れ様でした」です。終わりまで読んで下さってありがとうございました。
(参考文献1)エネルギー白書2011
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/index.htm
(参考文献2)井原賢 「シェールガスのインパクト」 石油天然ガスレビュー 2010.5
Vol.44 No3 p15
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=201005_015a%2epdf&id=3574 (PDFファイル)
(参考文献3)Annual Energy Outlook 2011(USエネルギー省エネルギー情報局(DOE/EIA)のエネルギー見通し年鑑2011年版)
http://www.eia.gov/forecasts/aeo/
(参考文献4)"ARE WE ENTERING A GOLDEN AGE OF GAS?" Special Report, World
Energy Outlook 2011(IEA 国際エネルギー機関)
http://www.anga.us/media/208268/2011%20iea%20golden%20age%20of%20gas%20report.pdf
http://www.nexyzbb.ne.jp/~omnika/shale_gas1.html01.18.2012 , latest update
09.05.2012
Will shale gas revolution help Japan in energy crisis?
日本の天然ガス輸入量は年間974億立方メートル
アメリカの天然ガス輸入量は年間748億立方メートル
「シェールガス革命」でアメリカの天然ガスが余っている訳ではない
「革命」ではなくてアメリカの安い天然ガスの終わりを意味している
アメリカやカナダのシェールガスを当てにして日本は原子力を放棄する?
エネルギー自給率77%(内原子力10%)のアメリカが日本にエネルギーを輸出してくれると本気で思っているの?
速報 「天然ガス購入計画推進の見合わせを=米政府が日本などに要請」
ウォール・ストリートジャーナル日本版2012年5月31日(木)8時37分
http://jp.wsj.com/US/node_451985
原文 "U.S. Gas Exports Put on Back Burner" by TENNIlLLE TRACY
http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304821304577436470209675022.html
速報 「シェールガスは魔法の杖か 天然ガスシフト、冷静に戦略を」 2012年6月4日
7:00
日経産業新聞編集委員 松尾博文
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD3003Q_R30C12A5000000/
速報 IEA 特別報告 「天然ガスの黄金時代のための黄金律」 Executive Summaryの全訳
IEA World Energy Outlook "Golden Rules for a Golden Age of Gas" のExecutive
Summaryの全訳
国際エネルギー機関(IEA)2012年5月29日
(天然ガスの黄金時代は、環境問題等への真摯な対応なくしては訪れない)
速報 「米国内で高まる天然ガス輸出を求める声、反対する声 -輸出の可否を判断する材料とは?」
杉野綾子
日経ビジネスONLINE 2012年7月6日(金)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120705/234155/
(DOE/EIAがシェールガスの可採埋蔵量を下方修正)
速報 「シェールガスに暗雲、米国干ばつの影響」
ナショナルジオグラフィック ニュース National Giographic News, August 8, 2012
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2012080801&expand#title
(アメリカ、ペンシルバニア州ブラッドフォード郡で、埋蔵天然ガスの水圧破砕(フラッキング)作業を行う採掘業者。干ばつの影響で河川の水量や地下水位が低下し、同州の多くの地域ではフラッキングの水使用が停止されている。)
速報 「水説:シェールガス革命=潮田道夫」 毎日新聞2012年09月05日 東京朝刊
http://mainichi.jp/opinion/news/20120905ddm003070083000c.html
<引用>ニューヨーク・タイムズがシェールガス業界の内部文書や電子メールを入手して、業界の内情を暴露し続けている。面白い。「本質的にもうからないビジネスだ」「ネズミ講みたいなもの」など将来性を疑わせる内輪の話満載。<引用終わり>
ここで言及されているニューヨークタイムズの記事は"Drilling Down series"の連載記事で、代表的な記事は
"Insiders Sound an Alarm Amid a Natural Gas Rush" (天然ガスブームの真っ盛りに警告の内部告発)
http://www.nytimes.com/2011/06/26/us/26gas.html
暴露された内部情報 "Documents: Leaked Industry E-Mails and Reports"はこちら
http://www.nytimes.com/interactive/us/natural-gas-drilling-down-documents-4.html
最近「シェールガス革命」の記事を新聞やインターネットで目にします。シェールガスは「非在来型天然ガス」の一つです。非在来型のシェールガスがどうしてもてはやされるのでしょう。本当に革命なのでしょうか。今回は「シェールガス革命」について考えて見ます。この記事を読むとシェールガスの全容が判ると思います。画面をマウスでスクロールして、図表だけでもご覧になって下さい。「シェールガス革命」でアメリカの天然ガスが余っている訳ではないことを論証するために、十数枚の図表を引用しなければなりませんでした。
アメリカは、現在南米から天然ガスを輸入していますので、東部海岸やメキシコ湾にLNG受入設備があります。メディアはこれを輸出用の積出設備に転用すれば、今すぐにでも輸入ができると思い込んでいるようです。LNG受入設備にはタンクと気化設備はついていますが、液化設備はついていません。気化設備は熱交換機でLNGを海水などで暖めて気化させる設備です。一方、液化設備は圧縮機と冷凍機です。気化設備とはまったく別物です。そしてものすごく高価です。プラント建設の常識では、設備を転用しようとすると、スペースや電源容量などいろいろと制約を受けてしまい、新設した方が早くて安いことが多いです。そう簡単には転用できないのです。
一番下に、つい最近三菱商事がカナダ・エンカナ社のカットバンク・リッジ シェールガス田の権益を取得した件について、コメントを追加しました。メディアは、今すぐにでも日本に輸出できるような報道をしていますが、まだ、日本への輸出が決まった訳ではありません。また、アメリカの東海岸から天然ガスを輸入する話もありますが、こちらもアメリカ政府の許可が下りるかどうかが問題です。仮に許可がすぐ下りたとしても、日本への輸出は2016年以降とのことです。これから天然ガスの液化設備と積出設備を建設しないといけません。
さらに、三井物産と三菱商事が、センプラ・エナージー(カリフォルニア州)から液化天然ガスを最大800万トン調達することで基本合意に達したとのことです(2012年4月17日)。アメリカ政府はFTA非締結国以外の国には天然ガスの輸出を許可していませんでした。センプラ・エナージーは、FTA非締結国の日本へのLNG輸出許可を申請しており、許可が下りれば2013年中に液化設備建設に着手し、2016年末に完成したら日本へ輸出したいとの計画です。
アメリカ政府は、雇用の確保と国内エネルギーの有効利用のために、多額の補助金をシェールガス開発事業に出しています。そのため、中小の採掘業者などを中心にして新規参入が増え過当競争になっており、加えて暖冬であったことで消費が伸びなかったため、このところ天然ガスのスポット価格がシェールガスの生産原価を割って2$/MMBtu以下になっています。このため、天然ガスおよびシェールガス生産業者の経営が非常に苦しくなっており、採掘権益を外国企業に売りはじめています。気体状の天然ガスは貯蔵できないため、アメリカでは一時的に天然ガス余り状態になっています。天然ガス生産会社は経営安定のために、液化天然ガス(LNG)にして日本へ輸出したいことが背景にあります。しかし、いずれのプロジェクトも高額の設備投資が必要になるのと、採算に乗せるためには長期契約が必要です。天然ガスは重要な戦略物資であり、シェールガスブームがそんなに長くは続かない可能性もあるので、メディアが過剰に期待を煽ることに対して冷静に見ている必要があります。
また、日本が輸入しているLNG価格は原油価格にリンクしています。このリンクを外すためには、大量の天然ガスを何十年という長期契約で北米から輸入する必要があります。しかし、アメリカもカナダもエネルギー大量消費国です。メディアが吹聴しているほど実現性のある話ではありません。仮に「革命は本もの」であっても、よその国の天然ガスです。勝手に持ち出す訳にはいきません。何が目的でメディアがそんなに「シェールガス革命」を執拗に吹聴するのかよく判りません。
なお、Annual Energy Outlook 2011(USエネルギー省エネルギー情報局 (DOE/EIA)のエネルギー見通し年鑑2011年版)に目を通してみましたが、 “shale gas revolution”(シェールガス革命)と
いう言葉は、"executive summary"にも、本文の"Prospects for shale gas"にも、一度も登場しません。本文には“uncertainty”(あてにならないこと、不確実)という単語が6箇所はありました。
日本、EU、アメリカが輸入しているLNGの価格推移
シェールガスについて述べる前に、天然ガスの価格がどうなっているかを先に見てみましょう。天然ガスは陸続きの場合はパイプラインで、海を渡る場合は液化天然ガス(LNG)にして低温タンカー(マイナス162℃以下)で運びます。2009年の世界の天然ガス貿易に占めるLNGの割合は28%です(参考文献1)。世界の天然ガス貿易の主流はパイプラインによるものです。
天然ガスを液化して輸送するには、パイプライン、液化装置(冷凍機、圧縮機)、貯蔵タンク、低温タンカー、受け入れタンク、気化設備などの大規模な設備投資が必要です。したがって、LNGはパイプライン輸送の天然ガスよりもコストが高くなります。さらに、日本が輸入している天然ガスは原油価格に連動して価格が決められているため割高になっています。
一方、アメリカはLNGとして輸入している天然ガスは消費量の1.8%に過ぎません。ほとんどをパイプラインでカナダから輸入しています。そのため、アメリカの輸入LNG価格はアメリカ国内のパイプラインの天然ガス価格とリンクしています。このことを頭に入れて下の図-1を見て下さい。日本(黒)、EU(緑)、アメリカ(青)のLNG価格です。JCC(赤)はJapan Crude Cocktail(全日本輸入原油平
均CIF価格)のことで、日本が輸入している原油価格です。
図-1から、日本の輸入LNGは、アメリカやEUよりもより強く原油価格にリンクしていることが判ります(JCCを基準にして価格が決められている)。また、日本が輸入しているLNGの価格は、アメリカが輸入しているLNGの2~4倍だということが判ります。天然ガスの価格形成メカニズムが日本とアメリカでは異なるからです。
なお、縦軸の輸入価格の単位は$/MMBtuになっています。これは百万ブリティッシュ・サーマル・ユニットの熱量相当の天然ガスは何ドルかという尺度です。1Btu=252cal=0.252kcalです。アメリカでは天然ガス価格を$/MMBtuまたは$/mcfで表示します(1mcf=1000立方フィート=28.317立方メートル)。天然ガス1mcfの発熱量が1,028,000Btuに相当するので、天然ガスについては$/MMBtuと$/mcfはほとんど同じ数値になります。エネルギーの世界は桁数がやたらと大きく、Btuや立方フィートが出てきますから計算間違いします。このホームページにも計算間違いがあるかも知れません。
また、図-1から、熱量当たりのコストで見ると天然ガスの方が原油よりも安いことが判ります。天然ガスは燃やした後の排ガスもクリーンです。CO2の発生も石炭や石油に較べて少ないです。したがって、石油を天然ガスに転換した方が安く済みます。それで、世界的に石油から天然ガスへのシフトが起こっているのです。
図-1のように、アメリカの輸入LNG価格の変動もかなり大きく、2009年以降、3~5$/MMBtu=9~15円/立方メートルで推移しています。LNGの日本でのCIF価格は上の図で12$/MMBtuです。為替レートによりますが約35円/立方メートルになります。ちなみに、東京ガスの一般家庭用都市ガス価格は使用量にもよりますが、130~155円/立方メートルです(高いですね!)。それはともかく、アメリカの天然ガス価格は日本に較べて非常に安いのです。
日米の天然ガスの価格差がこのように大きいので、「シェールガス革命が起こったのだからアメリカから天然ガスを輸入すれば良いじゃないか」ということになります。それで、日本のメディアなどが「シェールガス革命」などと囃したてているのでしょう。
「シェールガス革命」の説明の前に、まず「シェールとは何か」から説明します。
シェールとは
シェールとは堆積岩の一種で頁岩(けつがん、ウィキペディアにリンク)のことです。太古の湖底や海底に泥が層状に堆積され、加圧されてできた板状の岩のことです。層に沿って割れやすい性質があります。下の図-2はカナダ・ケベック州Uticaのシェールが地上に現れているところ(露頭)の写真です。ここでは黒い層がシェール(頁岩)、白い層は石灰岩で、お菓子のミルフィーユのように重なっています。シェールの黒い部分には有機物が含まれています。その有機物が地下深いところで熱熟成を受けるとガスシェールになります。
図-2 シェールの一例(カナダ・ケベック州Uticaのシェール)
出典:(参考文献2) 井原賢 「シェールガスのインパクト」
このUtica のシェールは、もろい石灰石の層を含むためにあとで述べる「水圧破砕」には適していないとのことです(参考文献2)。
シェールガスとは
シェールガスは、上の図-2のような頁岩中に閉じ込められている非在来型天然ガスのことです。天然ガスは頁岩中の隙間に閉じ込められていたり、鉱物や有機物に吸着されています。天然ガスの主成分はメタンで、エタン、プロパンなどを含むことがあります。不純物として二酸化炭素や硫化水素が含まれます。二酸化炭素濃度が高いとガスの発熱量(カロリー)が下がります。
シェールガスの成因は天然ガス田と同じです。ただし、シェールガスでは、ガスが緻密なシェールの中に閉じ込められているために、石油やガスが貯まりやい場所(背斜構造)に移動して濃縮されてはいません。それで、在来型天然ガスのように井戸を掘っただけではあまりガスが出てきません。そのため、シェールに500~1000気圧の水圧をかけて人工的に割れ目を作り(水圧破砕と言います)、天然ガスを回収します。ガスシェールは、オイルシェールと兄弟の関係で、石油や天然ガスの根源岩の熱熟成温度が高いとガスシェール、低いとオイルシェールになると考えられます(詳しくは本ホームページ内の「石油と天然ガスの起源」をご覧下さい)。
在来型天然ガスと非在来型天然ガス(タイトサンドガス、コールベッドメタン、シェールガス)の模式図を次の図-3に示します
図-3 在来型天然ガスと非在来型天然ガス(タイトサンドガス、シェールガス、コールベッドメタン)の模式図
アメリカエネルギー省エネルギー情報局(DOE/EIA)のホームページから
http://www.eia.gov/oil_gas/natural_gas/special/ngresources/ngresources.html
在来型の天然ガス田や油田では、透過性のない緻密な地層が帽子のように覆いかぶさっている場所(背斜構造)に、ガスや石油が貯まっています。実際には空間に溜まっているのではなく、多孔質の砂岩や多孔質の石灰岩の隙間に溜まっています。これに対して、タイトサンドガスやシェールガスは、ガスの透過性の小さい砂岩や頁岩中に分散して閉じ込められています。つまり、ガスが移動できなかったため、在来型ガス田のように一カ所に濃縮・貯留されていないのです。
コールベッドメタンは石炭層に閉じ込められているメタンガスのことです。炭鉱ではガス爆発の原因となります。そのため、採炭する前にドリルで穴を開けて「ガス抜き」をしておきます。上司が仕事でストレスのたまった部下にたくさんお酒を飲ませて、突然の爆発を未然に防止することを「ガス抜き」といいますが、炭鉱用語だったのかも知れません。コールベッドメタンは日本にもあります。
シェールガスは、図-3の模式図のように、在来型油田や在来型ガス田よりも概ね深いところにあります。深い地層ほど温度が高く、有機物の熱熟成が進み、油よりもガスになりやすいからです。また在来型油田や在来型ガス田は、多孔性の地層中の油やメタンガスが地圧によって上方に絞り出され、背斜構造に貯留されたものなので、シェールガスより相対的に浅いところに存在します。在来型油田や在来型ガス田が資源的に格段に優れている理由は、地中のあるところに濃縮・貯留されていることです。
在来型ガスと非在来型ガスの質、埋蔵量、生産性の関係は次の図-4の通りです。質の高いものが在来型ガス田、質の落ちるものがタイトガス、コールベッドメタン、そしてさらに質が落ちるのはシェールガスです。また、三角形の底辺に行くにしたがってコストが高くなり、採掘技術も高度になり生産性も低くなります。一番下のガスハイドレート(メタンハイドレート)は今のところ採掘の対象になっていません。
図-4 天然ガスの資源量トライアングル Masters (1979)による
出典:(参考文献2)井原賢 「シェールガスのインパクト」
したがって、非在来型天然ガスは埋蔵量が多いことは間違いありませんが、在来型と比較して質が低く、生産性が非常に低く、コストが高くなります。図-4の三角形の右辺を見れば判りますが、生産性が中位の在来型ガス田(10md)の1万分の1、生産性の高い在来型ガス田(1,000md)のなんと100万分の1です。在来型天然ガス田のように自然が濃縮したものを井戸を掘るだけで採掘するのと、シェールガスのようにまばらに存在するものを、井戸を掘った上に機材とエネルギーを大量に動員して採掘するのでは、エネルギー投資効率の桁が違います(エネルギー投資効率については、本ホームページ内の「エネルギー投資効率(EROIまたはEPR)」をご覧下さい)。それではなぜシェールガスが開発されるようになったのでしょう。一つには、水平坑井掘削技術や水圧破砕技術などの進歩があったことです。もう一つは、アメリカの在来型天然ガスのピークが過ぎたからです。次にシェールガスの採掘法と環境問題、そしてアメリカのピークガスについて述べます。
シェールガスの採掘法と環境問題
図-5はシェールガス採掘法の概念図です。シェールガスは緻密なシェールに閉じ込められている天然ガスを採取するために、井戸を掘ってから500~1000気圧の水圧をかけて、井戸のまわりのシェールに割れ目を入れます。水圧破砕(フラクチャリング)といいます。水圧破砕後には、9%程度のプロパント(砂のようなもの)を含んだを水を注入し割れ目が閉じないようにします。
図-5 シェールガス採掘のイメージ図
出典:(参考文献1) エネルギー白書2011
図-5では垂直坑井と水平坑井の例が描かれています。水平坑井を用いた採掘は、頁岩層が厚くて断層やクラックや破砕帯などが入っていない地層で行うことができます。断層やクラックがあったり、グズグズのシェールだと水圧が抜けてしまいます。
掘削や水圧破砕用の水には0.5%程度の薬剤(ゲル化剤、界面活性剤、潤滑剤、酸、スケール防止剤、腐食防止剤、殺菌剤、鉱物油、アルデヒド類など。ヒトにとって有害物質が多い)が含まれています。いくら深いところ、例えば地下2000メートルで水圧破砕をするとはいえ、地層の弱い部分が貫通されれば、500~1000気圧もの水圧がかかるので、チャンネリング(通路を作ること)を起こして地表に通じてしまい、水源地や井戸水を汚染してしまいいます。井戸水が濁ってしまったとか、井戸を使っている家庭の水道の栓をひねったら、蛇口から天然ガスが出てきたなどということが起こっています。蛇口に火をつけると燃えます(下の写真)。メタンガスはかなり水に溶けます。
写真-1 水道の蛇口からメタンガス
出典:http://wvhighlands.org/wv_voice/?p=3949
このため、水源地や地上に人家がたくさんあるようなところではシェールガスの開発はできません。また、チャンネリングによってメタンガスが大気に放出されたり、油分が河川に流れ込んだりする環境汚染も問題になっています。
さらに、石油や天然ガスの採掘と精製過程では、メタンガスなどの他に、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、硫化水素、二硫化炭素などの有毒ガスが発生します。シェールガス採掘業者には中小の業者も多く、必ずしもこれらの有毒ガスが適正処理されている訳ではありません。また、1井戸あたり掘削や水圧破砕に用いられる7.500~25,000トンの廃水(参考文献4)の処理も課題になっています。地下に押し込んだり、池に溜めたりしていますが、添加薬剤の有毒性が問題になっています。この他に、井戸を掘った時に掘り出された岩石や泥に含まれた重金属(ヒ素、カドミウム、水銀など)による汚染も問題になっています。
エネルギーや資源開発は自然破壊を伴います。シェールガス開発においても、エネルギーを得る代償に、自然破壊や環境汚染、そして、作業員や近隣住民の健康被害が起こります。エネルギーはただでは手に入りません。誰かの命や健康や環境破壊を代償にしていることを知らずに、私たちはエネルギーや資源を使って快適な生活を送っているのです。ゼロリスクのエネルギーはありません。
アメリカ連邦政府もシェールガス開発が環境破壊を起こしていることは当然知っています。しかし、シェールガスの開発をするメリットとデメリット、開発しないことの国家的リスク、すなわちエネルギーセキュリティーの問題を考えた場合、シェールガスの開発をせざるを得ないという結論になったのです。後述するように、アメリカの天然ガス消費量は日本の6.6倍と莫大な量です。シェールガスの開発をしないと、アメリカはエネルギー危機に陥ってしまいます。また、アメリカの在来型天然ガスが衰退してしまった今、これを輸入でまかなうことは資源的にも、貿易収支的にも無理だからです。ただし、シェールガス開発はアメリカのほとんどの州にまたがり、かつ掘削井数が膨大な数になるのであまりにも環境負荷が高く、環境問題による制約を受ける可能性が高いです。
なお、残念ながら日本には採掘の対象となるようなシェールガスはないと考えられます。日本の地層は新しいからです。でも、国産の天然ガスは国内需要の約0.4%生産されています。日本にはコールベッドメタンはあります。ただし、採算にのるかどうかは別です。
シェールガスの採掘法についてはYouTubeに動画があります。英語の解説ですが動画なので水圧破砕(hydraulic fracturing または fracking)の手順が良くわかります。まず垂直に井戸
を掘り、シェール層に達したら水平に井戸を掘ります。掘った井戸を保護するためにケーシングと呼ばれる鉄パイプを入れ、鉄パイプの外側にセメントを送り込みケーシングを固定します。次にたくさん穴の開いた特殊なパイプ(パイプガン)を入れて火薬を爆発させ、ケーシングを突き破ってシェールにひびを入れます。次に水圧をかけてシェール層のひびを拡散拡大します。最後に「プロパント」という砂のようなものを含む水を送り込み、プロパントを割れ目にはめ込んで割れ目が閉じないようにします。これを水平抗井の中で繰り返します。
http://www.youtube.com/watch?v=lB3FOJjpy7s&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=7ned5L04o8w&feature=related
マルセラス(Marcellus) シェールガス田(Chesapeak Energy社)の爆発火災事故
http://www.youtube.com/watch?v=NiLRJeE8h2w
アメリカのピークガスは1970年代
図-6は、アメリカの天然ガス生産量と井戸出口価格の推移です。
図-6 アメリカの天然ガス生産量の推移
出典:英文のウィキペディアから、濃いブルーが生産量、赤が価格
(縦軸の生産量の単位:×10億立方メートル、井戸出口価格:ドル/1000立方メートル)
図-6から、アメリカのピークガス(天然ガスの生産ピーク)が1970年代初頭にあったことが判ります。アメリカのピークオイルも1970年です。アメリカはピークオイルとピークガスを同時に迎えました。そして、ピークオイルとピークガスが過ぎてから天然ガスの値上がりが始まりました。天然ガスの価格はもちろん景気の動向に左右されます。しかし、1975年頃までの天然ガス価格は恐ろしく安いです(1立方メートル約0.03ドル)。
1980年代前半はレーガン政権が金融引き締めを行いました。金融引き締めによってインフレからの脱出には成功したしましたが、莫大な貿易赤字が計上され、財政赤字も累積して「双子の赤字」状態になりました。
1985年9月の「プラザ合意」によりドル安に誘導されました。天然ガス価格は、生産量は変わらないのに2000年頃から上昇します。そして2008年のリーマンショックで暴落します。このように、化石燃料の価格は経済と密接に結びついています。この続きはいくつか図を紹介してから再開します。
上の図-6ではピークガス後でも、アメリカの天然ガス生産量が低下せずに横ばいになっています。何が起こっていたのでしょう? 次の図-7は、アメリカの天然ガス生産量の推移、実績と予測を示しています。この図でアメリカの天然ガスの中味が判ります。なお、下の図は「シェールガス革命」をもてはやす時によく引用される図です。
図-7 アメリカの天然ガス生産量の推移、実績と予測
出典:(参考文献3 ) Annual Energy Outlook 2011 (縦軸:兆立方フィート、20兆立方フィート=5663億立方メートル)
USエネルギー省エネルギー情報局 (DOE/EIA)のエネルギー見通し年鑑2011年版
図-7で「Lower 48」というのは、USA50州のうち、アラスカとハワイをのぞく48州のことです。アラスカ開拓民から見たら、アメリカ本土は地図の下の方にあるからLower 48なのだそうです。俺たちはアメリカ最後
の開拓者だというアラスカの人の誇りに敬意を表して、本土の人間が自分たちはLower
48だと公式文書で使っているところがアメリカらしいところです。こういうシャレは日本のお役所では許されないですね。
図-6と図-7の二つの図で判るように、1970年にアメリカがピークガスを迎えて、陸上の在来型ガス田が衰退しはじめました。それに代わったのは1987年頃から生産の始まったメキシコ湾の海底ガス田でした。しかし、メキシコ湾の海底ガス田も2000年頃から衰退をはじめました。代わりに、1990年頃から非在来型のタイトサンドガスとコールベッドメタンが順調に増加しています。在来型ガス田の衰退の穴埋めをしたのは、実はタイトサンドガスとコールベッドメタンです。そして2004年頃からシェールガスが増えはじめました(しかし、上の図-7では、2009年から右側のシェールガスの生産予測がずいぶんと膨らんでいます。ホンマカイナと思います。図-4の天然ガス資源量のトライアングルからみたら、とんでもない数の井戸を掘らないといけません。現実にはあり得ないシナリオです)。下の図-8をご覧下さい。
図-9 アメリカのエリア別シェールガス生産量
(縦軸は生産量 百万立方フィート/日)
出典:同上
図-9から判るように、シェールガス生産の主役はテキサス州フォートワースのバーネット(Barnett)シェールガス田です。図-7の2009年までのシェールガス生産増のほとんどは、Barnettによるものなのです。フォートワースBarnettはダラスのすぐ隣です。ダラスやフォートワースはテキサスの油田・ガス田地帯のど真ん中に位置しています。天然ガスが出てもおかしくないところです。ここで大当たりしたのです(Annual Energy
Outlook 2011でもスウィート・スポット“sweet spot”という表現が出てきます)。図-9で■Bakkenは低迷したままです。■Antrimも低迷しています。■Fayettevilleと■Arkoma Woodfordが芽を出して花開くかも知れません。だか
らシェールガス革命が到来したと言いたいのでしょう。でも、全部のシェールガス田がBarnettのようにうまくいく保証はありません。Barnettはむしろ例外的なシェールガス田です。シェールガス田は井戸1本当たりの生産量が在来型よりもはるかに少なく、新しい井戸を自転車操業のように掘り続けないと衰退してしまうからです。Barnettが衰退すると、アメリカのシェールガス風船がしぼんでしまいます。アメリカの代表的なシェールガス生産会社Chesapeake社の機関投資家向け資料によると、同社のBarnettとFayettevilleのシェールガス田の生産量は2009年には頭打ちになっています。
なお、シェールガス田の掘削コストは、垂直坑井と水平坑井の違い、深さ、水平坑井の場合は長さなどによりますが、500万~1000万ドル(4億~8億円)(参考文献2)、また、日量生産量は、シェールガス田ごとに異なりますが、生産性が中位の在来型ガス田(10md)の1万分の1、生産性の高い在来型ガス田(1,000md)の100万分の1です(数値の出所は図-4)。
1990年以降のアメリカの天然ガス価格推移
それでは、もう一度天然ガスの価格推移に戻ります。下の図は1990年以降のアメリカの天然ガス価格の推移、実績と予測を示しています。
図-10 アメリカの天然ガス価格の推移、実績と予測(縦軸は$/MMbtu)
出典:(参考文献3)Annual Energy Outlook 2011
2000年代に入って天然ガス価格は急上昇しました。図-7、図-8と見比べてみると、この価格急上昇によりシェールガスの開発が急拡大したことが判ります。
2007年には「サブプライム問題」が顕在化しました。2008年9月に「リーマンショック」がありました。そして、2009年にかけて石油と同様に、天然ガス価格が8ドルから4ドルへと暴落しました。景気後退によるものです。
この図-10の天然ガス価格の実績と予測のグラフを眺めていると、「2000年代の天然ガスの暴騰は特殊な要因によるもので、天然ガス価格は今後ゆるやかに上昇する。それは“シェールガス革命”のおかげだ。」と主張していると受けとめることができます。
しかし、上の予測に見られる4$/MMBtu台の天然ガス価格は、シェールガス採掘業者にとっては受け入れがたい価格のようです。この予測通りの天然ガス価格で推移すると、シェールガス採掘業者はやっていけないかも知れません。次の図-11の在来型天然ガスとシェールガスの供給コストと可採埋蔵量の関係をご覧下さい。
図-11 在来型天然ガスとシェールガスの供給コストと可採埋蔵量の関係
(左縦軸:千立方フィート当たりの供給コストが何ドルか、横軸:可採埋蔵量の積算:10億立方フィート/日、右縦軸:熱量を原油1バレルに換算して何ドルか)
出典:(参考文献2)井原賢 「シェールガスのインパクト」
ここでは、天然ガスの供給コスト=(探鉱コスト+開発コスト+操業コスト)=(CAPEX+OPEX)です。グラフの下方にBase Productionとありますが、在来型天然ガスのことです。在来型の天
然ガスの供給コストは1$/mcfととても安いのです。次の表-1の井戸出口価格
3.71$/mcfを見ると、図-11のMarcellus、Barnett Core、Haynesvilleのシェールガスは採算にのりますが、その他のシェールガス田が採算にのるのは先の話のようです。なお、このホームページを書いている時点(2012年1月)でのHenry Hub のス
ポット価格は2.295$/mcfで 3$/mcfを割っています。シェールガスが太刀打ちできない価格です(技術の進歩があっても下がりすぎなので、シェールガス開発への参入が増えて過当競争が起こっているのでしょう。気体の天然ガスは貯蔵ができませんので投げ売りされているのだと思います)。
シェールガス開発はこのように採算の問題も抱えていますが、雇用創出には大きく貢献しているようです。ペンシルベニア州での雇用効果は4万8千人とのことです(参考文献2)。テキサス州ではもっと多いでしょう。そのため、シェールガス開発には土地リース料などへの補助金、税制上の優遇など手厚い保護政策がとられています。アメリカ連邦政府がシェールガス開発に力を入れているのは、シェールガスに期待していると同時に雇用創出効果があるからです。どこの国でも政治家が欲しいのは選挙の時の票です。雇用創出は最重要の政策課題で票に直結します。採算割れでも簡単に撤退する訳にはいかないでしょう。
2009年の天然ガス生産量と消費量のデータはAnnual Energy Outlook 2011にあります。表-1にその抜粋を示します。
この表が意味するところは、アメリカが天然ガス生産大国であり、かつ消費大国であり、そして天然ガス輸入大国でもあることです。Net輸入量になっているのは、カナダからパイプラインで輸入していますが、逆にカナダやメキシコに輸出もしていることによります。表-1の生産量、Net輸入量、消費量を立方メートルに換算すると、生産量5935億立方メートル、Net輸入量746億立方メートル、消費量6431億立方メートル(誤差があって生産+輸入の合計とあいません)になります。
アメリカの天然ガス消費量6431億立方メートルは、日本の天然ガス輸入量974億立方メートルの6.6倍と莫大な量です。そして、アメリカのNet天然ガス輸入量の年間746億立方メートル(2009)は、日本の天然ガス輸入量の年間974億立方メートル(2010)に匹敵します。ですから「シェールガス革命」などと囃したてられていますが、アメリカの天然ガスが余っている訳ではないのです。
図-12 アメリカのソース別 Netの天然ガス輸入量の実績と予測
単位:Tcf:1兆立方フィート
出典:(参考文献3)Annual Energy Outlook 2011
参考までに、北米の天然ガスの輸送網の様子を図-13に示します。確かに北米の天然ガスは日本に較べて安いのですが、北米全体で天然ガスが余るかどうかが重要です。
図-7 アメリカの天然ガス生産量の推移の実績と予測(再掲)
出典:(参考文献3 ) Annual Energy Outlook 2011 (縦軸:兆立方フィート、20兆立方フィート=5663億立方メートル)
USエネルギー省エネルギー情報局 (DOE/EIA)のエネルギー見通し年鑑2011年版
図-7と図-12の意味するところは次の通りです。
① NAFTA(北米自由貿易協定)があるので、今のところアメリカはカナダから大量の天然ガスを安く輸入できます。
(カナダ側から見るとアメリカに天然ガスを安く買い叩かれています)
② アメリカはNAFTAにもとづいてメキシコに天然ガスを安く輸出する予定です。
(メキシコはかっては石油輸出国でした。天然ガスも輸入国になりました)
③ 南米から輸入しているLNGは2020年頃から減る予定です。
(コスト次第では)
④ アメリカ国内の天然ガスの需要増はシェールガスの増産で間に合います。
(最初のうちは生産量が急増しますが、落ち込みも激しいかもしれません)
図-7の論理構造はたぶん逆でしょう。すなわち、アメリカの天然ガス需要増(図-7のTotalの上昇線)が先にあり、Lower 48の在来型ガス田(陸上)とLower 48の在来型ガス田(海底)の衰退
分をシェールガスでまかないたいという願望、足し算・引き算の筋書きと読み取ることができます。シェールガスだけで50%近くの天然ガス需要をまかなうのは常識的に無理です。コストと環境破壊を無視してアメリカ中にシェールガス井を掘りまくらないといけません。表ー1を見れば判るように、都市ガス、産業、発電用に大量の天然ガスが使われています。もし、図-7通りにシェールガスの生産が進まなければ、アメリカは深刻な天然ガス不足に陥ってしまいます。図-7は、「革命とか革命でない」とかの話ではなく、アメリカの在来型天然ガスは大きく衰退しており、否応なく非在来型にシフトしていることを明確に示しているのです。したがって、図-7はそんなにオメデタイ図ではないのです。
カナダのエネルギーの専門家たちがNAFTAの問題点を指摘しているのではっきり書いておきますが、NAFTAがあるために、アメリカはカナダのエネルギー資源を安く自由に手に入れることができます。カナダのエネルギーを「合法的に収奪できる」のです。「シェールガス革命」というメッセージでカナダの国民と世論を油断させて、カナダの天然ガスを一年でも二年でも安く買い叩ければ、アメリカはとても助かります。
アメリカでは、原子力や石炭火力より天然ガス火力のコストの方が安いのと(実際は図-10のように天然ガス価格の乱高下に悩まされている)、今後、石炭火力に排煙脱硫装置などの設置が義務づけられる可能性が高いので、天然ガス火力をさらに増やしたいのです。アメリカの天然ガス需要はこれからもっと増えます。したがって、残念ながらアメリカには天然ガス/シェールガスを日本に輸出する余力はありません。カナダは上記のようにアメリカに大量に天然ガスを輸出しなければなりませんから、日本に輸出する余力はあまりありません。仮にあったとしても輸出してくれるかどうかは別の話です。
「シェールガス革命」というメッセージは天然ガスの高騰を抑える効果があります。アメリカはそれによってものすごく得をしています。輸入天然ガスに頼っている日本やEUにとってもありがたいメッセージです。(しかし、日本の輸入天然ガスは石油価格にリンクしているので直接的なメリットはないです)。もしかすると天然ガスの高騰を抑えるために、DOE/EIAとIEAが意図的に流しているメッセージなのかも知れません。DOE/EIAとIEAはピークオイルを空とぼけていた前科があります。エネルギー予測では現実とメッセージが180度反対のことがあります。価格高騰を抑えるために楽観的見通しを流すからです。
準国産エネルギーである原子力を除くと、エネルギー自給率が4%しかない日本が、アメリカやカナダのエネルギーを当てにして「シェールガス革命」を囃したてるノーテンキさが私には理解できません。メディアや有識者・学識経験者に「シェールガス革命」を囃したてる人がけっこういるので、日本を安易に原子力放棄に走らせることが心配です。民主党政権好みの「有識者・学識経験者」には、民主党の先生方と同様に「エネルギー音痴」の方が多いです。ただし、「エネルギー音痴」は民主党の先生方だけではありません。メディアも「エネルギー音痴」の大合唱になっていて聞くに堪えません。
歴史は「革命」が短いことを教えています。「シェールガス革命」が風船のように急速にしぼむ可能性も高いです。「シェールガス革命」の先行きはここ数年を見ていれば、それが本当かどうか見極めがつくでしょう(Barnettが衰退しないで、次々とBarnett並のシェールガス田が登場するかどうか)。シェールガスの持続可能性については、フランスのルモンド紙が強い疑問を投げかけています。本ホームページ内の「安い石油の時代は終わった」をご覧下さい。
「シェールガス革命」は日本のエネルギー危機を救ってくれるでしょうか? アメリカは大量に天然ガスを輸入しているのに、日本に天然ガスを輸出してくれるでしょうか?「シェールガス革命」を囃したてることが、安易な原子力放棄につながらないでしょうか? よその国のエネルギーを当てにして、さっさと原子力を放棄して後悔することはないでしょうか?日本の政治と世論を見ていると日本の将来にますます自信をなくしてしまう毎日です。希望をこそ語りたいのに。
それとともに実に残念なことは、日本は石油も天然ガスもほとんど産出しないことです。そして、エネルギーとして質の低い非在来型天然ガスのシェールガスや、非在来型石油のタールサンド/オイルサンドすら日本にはないのです(非在来型とはいえ石炭のガス化や液化よりはかなりましだと私は思っています)。日本は化石燃料の輸入に頼る以外に手がないのです。しかし、これから化石燃料は先細りになり高騰していきます。エネルギー自給率が4%しかない日本が生き残っていくためには、原発を使いこなしていくしか選択肢がないと思います。そういった日本のエネルギー事情の冷厳な現実を、政治家も、メディアも、そして国民も、そろそろ理解しないといけません。
「シェールガス革命」を評価するためには、このように長々と文章を書き、たくさんの図表を引用しなければなりませんでした。科学や技術の論証は、以上のように七面倒くさいのです。「シェールガス革命」を囃したてるのはかっこよいし簡単です。IEAやDOE/EIAの受け売りをすれば良いだけですから。しかし、筋道を立てて反論するのはこのように大変です。しかも、生意気・不遜にもIEAやDOE/EIAなどのエネルギーの権威に異議を唱えるのですから。我ながら「お疲れ様でした」です。終わりまで読んで下さってありがとうございました。
(参考文献1)エネルギー白書2011
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/index.htm
(参考文献2)井原賢 「シェールガスのインパクト」 石油天然ガスレビュー 2010.5
Vol.44 No3 p15
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/report_pdf.pl?pdf=201005_015a%2epdf&id=3574 (PDFファイル)
(参考文献3)Annual Energy Outlook 2011(USエネルギー省エネルギー情報局(DOE/EIA)のエネルギー見通し年鑑2011年版)
http://www.eia.gov/forecasts/aeo/
(参考文献4)"ARE WE ENTERING A GOLDEN AGE OF GAS?" Special Report, World
Energy Outlook 2011(IEA 国際エネルギー機関)
http://www.anga.us/media/208268/2011%20iea%20golden%20age%20of%20gas%20report.pdf