毛沢東戦略通りの「尖閣奪取」だ | 日本のお姉さん

毛沢東戦略通りの「尖閣奪取」だ

頂門の一針より。↓

毛沢東戦略通りの「尖閣奪取」だ
村井 友秀

日中両国は1972年、尖閣諸島問題は棚上げすることで合意した。

しかし、その合意にもかかわらず、最近、中国は尖閣に積極的に進出するようになってきた。

 ≪中国利した尖閣「棚上げ」≫

「棚上げ」について、中国は当初は、次のように解釈していた。

(1)尖閣諸島は中国固有の領土ではあるが、中国は日本による実効支配を黙
認する

(2)軍事力は使用しない(当時は日本の軍事力が中国より強力だったため、中日両国がともに軍事力を使用しないという合意は中国に有利だった)-と。

現在、中国は次のように考えている。

すなわち、棚上げ当時は中国の海軍力は日本に劣っており、日本の軍事力は尖閣諸島を覆えるものの、中国のそれは及ばなかった。

しかし、21世紀に入って中国の軍事力は急速に強化され、中国も尖閣諸島に手が伸ばせるようになった。

「棚上げは日本の尖閣諸島進出を抑える上で大きな役割を果たした。中
国の海軍力が尖閣諸島に投射できるようになった現在、軍事力の使用を
抑止する「棚上げ」は歴史的使命を終えた。

中国共産党の行動原則は今でも毛沢東の戦略である。

毛の戦略として有名な「遊撃戦論」(38年)は、日本に対し以下のような戦略で戦うべきだと主張していた。

すなわち、戦争は三段階に分けられる。

第一段階は、日本の進攻と中国の防御の時期である。

この時期の日本は強力な軍事力を有しており、中国は、強い日本との戦いをできるだけ避けて逃げることが肝腎である。

第二段階は、日本と中国の戦略的対峙の段階である。

この段階になると、日本は兵力不足によって進攻が止まる。持久戦の中で日本軍は消耗し、中国は弱者から強者に転じることができる。

第三段階は、中国の反攻と日本の退却の時期であり、中国の力の拡大と日本の内部崩壊で対日戦争に勝利する段階である。

また、中国知識人の常識である古代の兵書、「孫子」には、「兵力が敵より少ない時はあらゆる手段を講じて戦いを避けよ。兵力が敵の五倍あれば躊躇(ちゅうちょ)なく敵を攻めよ」と書かれている。

 ≪「遊撃戦論」の第二、三段階≫

現在、東アジアの軍事バランスは変化しつつある。かつて●(=登におおざと)小平は、中国の対外政策は「四不」(対抗せず、敵を作らず、旗を振らず、先頭に立たない)であると述べていた。

しかし、中国では「30年前に比べて中国は発展し中国の要求は変化した。
積極的な行動に出るべきだ」という意見が多くなっている。

中国国家海洋局は南シナ海で「十分な軍事力を見せつけて領土問題を有利に進めるべきだ」と主張している(2010年)。

中国農業省も東シナ海で尖閣諸島付近の中国漁船の護衛と巡視活動の常態化を徹底することを決定した(同年)。

尖閣問題は「遊撃戦論」に照らせば、第一段階である「棚上げ」から第二段階へ、さらには第三段階へと移りつつあるのである。

日本は、こうした中国の戦略にどのように対応すべきか。

現在の米中関係がさまざまな問題を抱えながら破綻しない理由の一つは、米中関係が「経済的相互依存」(win-win)関係であるよりもむしろ、「経済的相互確証破壊」(lose-lose)関係にあるからであろう。

経済が破壊されるという恐怖が政治的対立を抑えている。

≪相互確証破壊理論を援用して≫

他方、日中間の経済関係をみると、中国は日本の経済発展に欠かせない存在であるが、中国にとって死活的に重要な経済資源は日本に存在しない。

したがって、日中間に「経済的相互確証破壊」関係は成立しない。

米ソ間に核兵器による軍事的「相互確証破壊」関係が成立し、ロングピース
といわれた冷戦の教訓を考えると、信頼関係が成熟していない2国間において、日中関係が対等であり、平和であることを望むならば、軍事的「相互確証破壊」関係を日中間に構築することが効果的である。

現在、中国は200発以上の核兵器を保有し、日本の生存に致命的打撃を与える軍事的能力を持っている。

他方、日本は憲法の規定により外国を攻撃する軍事的能力がない。

日中間に軍事的「相互確証破壊」関係は成立しないのである。

ただし、日本の防衛力は日米同盟に支えられている。

数千発の核兵器と強大な海軍を持つ米国は、中国の生存に致命的打撃を与える軍事的能力を持っている。

したがって、日中間に軍事的「相互確証破壊」関係が成立し、
日中関係が対等で平和であるためには、日米同盟対中国の構図が維持されなければならない。

その日米同盟を活性化させるためには、日本の役割を拡大し強化する行動が肝要であることは言うまでもない。

挑発に対して毅然(きぜん)と対応せず、国際社会から臆病者だと思われれば、多くの国が日本を軽蔑し、日本の国際的影響力は地に落ちて国益は致命的に毀損(きそん)されることになる。

「大人の対応」や「冷静な対応」が何もしない口実であってはならない。

( むらい ともひで 防衛大学校教授)
産経ニュース 「正論」2012.8.28 03:14)