タコ、イカ、貝類、キンキ、メヒカリは、検出される放射性セシウムの値が低い
1年3か月ぶりの漁 魚介の安全性は
6月26日 21時00分
原発事故から1年3か月余り。
一時は「もう2度と食べられないのではないか」という声さえ聞かれた福島県沖の海産物の販売が、一部の魚介類に限る形で始まりました。
今回、試験的な漁を行った福島県漁連はどのような判断に基づいて販売に踏み切ったのか。
その背景について、福島放送局の坂本直也記者が解説します。
データが決定づけた漁の自粛
放射性物質による海洋汚染被害を指摘する声は原発事故直後から出ていました。
実際に福島県沖で検査のため採取された魚介類からは、次々に放射性物質が検出され始めました。
そして、およそ1か月後、決定的な出来事が起きます。
いわき市沖で取れたコウナゴから、国の暫定基準値の30倍近い1キログラム当たり1万4000ベクレルを超える放射性セシウムが検出されたのです。
これが長期にわたる漁の自粛を決定付けました。
再開も根拠は蓄積されたデータ
こうしたなか、今回、なぜ試験的とはいえ漁の再開に踏み切れたのか?最大の根拠は、福島県が実施している魚介類のモニタリング検査の結果です。
検査は福島県沖の広い範囲で行われ、蓄積されたデータは4000検体以上に上ります。
このデータから、福島県沖の魚介類の放射性物質の状況が次第に明らかになってきたのです。
値の少ない海域を選んで
福島県は、魚介類から検出された放射性セシウムの量の平均値を海域ごとにまとめています。
このデータが示すように、全体の傾向として沿岸より沖のほうが低いことが分かりました。
これは、東京電力福島第一原発から距離が離れるほど、海の汚染が少なく、魚介類への影響も少ないためです。
一方、南と北を比較すると、福島第一原発のすぐ南側が高い傾向が見られました。
これは、事故当時に南向きに流れていた海流が放射性物質を運び、高濃度に汚染された影響が現在も続いているためとみられています。
このため、今回、試験的な漁を行う場所は、検出された放射性セシウムの値が低い場所に限りました。
1月以降のモニタリング検査結果の平均値が最も低かった北の沖合の海域と、そのすぐ南側の海域で水深150メートル以上の場所です。
上の図の②と④のピンク色で示した付近です。
相馬市の沖合60~70キロで、福島第一原発からは50キロ以上離れています。
タコと貝に限定
さらに魚介類の種類ごとの傾向も分かってきました。
今回の漁では、対象を3種類に限定しました。
ミズダコとヤナギダコ、それにツブ貝の一種のシライトマキバイです。
これらはいずれも検出された放射性セシウムの値が比較的低く、福島県の調査では、この4か月間は値が検出されていません。
例えばヤナギダコはこれまで70検体以上を検査しました。
値が出たのは4回で、最高は原発事故2か月後の40ベクレル。
夏以降は1度、今年1月に7ベクレルが検出されました。
検出される放射性セシウムの値が低いものには共通点があることが分かっています。
いずれも背骨のない無せきつい動物です。
こうした性質は、福島の原発事故以前からチェルノブイリ事故のときにも確認されています。
なぜ低いのか、詳しいことは分かっていませんが、放射性セシウムを、ためにくい体の構造になっているのではないかと推測されています。
魚は低いものと高いものが
一方、背骨のある、せきつい動物の魚にも、ある傾向がみられることが分かってきました。
放射性セシウムの値が比較的低く出るものと、高く出るものの2種類に大別できるのです。
低いものの代表例は、試験的な漁の候補に当初挙がっていたキチジ(キンキ)やメヒカリです。
いずれも原発から離れた深い海に住んでいて、キチジは一度も放射性セシウムは検出されたことはありません。
しかし、今回の試験的な漁では、より慎重に行おうと、いずれも対象にすることが見送られました。
高いものの代表例は、比較的浅い海にすむヒラメやメバルです。
今でも国の基準値を超える100ベクレルを超える放射性セシウムが、時折、検出されています。
本格的な漁へ移行のために
今回、1年3か月ぶりに福島県沖で取れたタコと貝の販売は好調でした。
これは、漁に参加したのがわずか6隻で、水揚げ量がまだ少なく、販売されたのは3種類合わせてもわずか680キロで、流通先も福島県内のごく一部に限られたことが大きいと考えられます。
しかし、本格的な漁への移行には、まだまだ多くの課題があります。
漁を経済的に成り立たせて行くには、さらに魚介類のモニタリングを重ねてデータを蓄積し、対象の魚介類を拡大していく必要がありますし、以前のように首都圏などの大消費地にも出荷できるようにするためには、しっかりした検査態勢を構築し、安全性をアピールしていくことが欠かせません。http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/0626.html