書評がおもしろい「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年6月27日(水曜日)弐
通巻第3697号
18回党大会は予定よりすこし早め、十月中旬からと香港『明報』
政治局常務委員は七名に減員が確定した模様と『多維新聞網』が報道
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「十月中旬から中国共産党第十八回大会」という見出しで、大会は予定をすこし早めて開催される手はずで、準備委員会は最終の用意に入っていると香港紙『明報』が伝えた(6月26日)。
各小委員会が組織されており、大会プログラム、党規約一部改正、基調報告起草などの作業は順調に進み、残る大問題は人事だけである。
しかし「近く行われる北戴河会議で高層人事は固まる」という見通しで、一部の観測筋に根強い「政治局常務委員は七名に減員」路線はほぼ確定した模様と『多維新聞網』が報道した。
もとより毛沢東時代には政治局常務委員が五人のときもあり、トウ小平時代後期も七人、江沢民が自派の勢力拡大のために九人に遮二無二、増員した経過があり、胡錦涛は数年前から執拗に減員をはかる工作を行ってきたとされる。
春頃から中央委員全員を調査し、政治局減員の賛否を問うてきた。
『明報』は、減員を前提にして現行執行部のなかで、習近平と李克強は居残るが、のこり五名のポストのうち、張徳江と李源潮の二人が確定したと報じている。
◆ 書評 ◇ しょひょう ◇ブックレビュー ★
刊行のタイミングだけは最適だ。
小沢派、またまた新党結成へ突き進むか?
壊し屋の本領発揮、放射能は怖いから逃げたが、選挙で落ちるのはもっと怖い
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山崎行太郎『それでも私は小沢一郎を断固支持する』(総和社)
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この本は一種の逆説か、あるいは奇書だろう。
永田町の不動産屋、政治資金ごまかしの天才的ペテン師を支持するというのだから、山崎さんは、やっぱり奇人か。それとも深い魂胆と思惑があって論壇に一種あついポレミックを呼び込もうと企てて、この本を書かれたのか?
なんとも奇怪な書物であるが、執筆するのもたいへんな時間と労力が必要であり、山崎さんを、こうまで小沢に肩入れさせた動機、その背景は何だろうという推理のほうに、もっと興味が湧く。
合点がいくのは、山崎さんは江藤淳を尊敬している様子であり、江藤がなにを勘違いしたか、やたら小沢を褒めちぎっていた時期がある。最後は故郷に帰れと薦めて、小沢批判組に転じたものの、江藤にも一種奇人的言説があった。
だから山崎氏は言う。
「保守思想家、あるいは保守政治家は現状維持ではなく、その内側に革命的ともいうべき暗い情熱を秘めている」「小林秀雄も江藤淳も革命的情熱の所有者だった」ように、「小沢一郎にも『体制を変えて新しい日本を作りたい』という革命的情熱を感じる」そうである。
放射能が怖くて選挙区訪問からも逃げるように帰ってきた人に、ですか?
暗い情熱というより、暗い情念ではないのか。
評者(宮崎)とて20年ほど前だったか、小沢一郎が保守陣営にはじめて注目され始めた頃、淡い期待を抱き、さっさと自民党をでて新党を作ればよいのにと接近したこともあった。村松剛氏の(いまから見れば)最後の出版記念会のおりも、小沢を講師に呼んだこともあったっけ。
その後の政治行為を目撃しつつ、小沢に抱いた淡い期待は泡と消え、忽然として失望が広がり、やがて評者は彼にまったくの興味を失った。習近平来日時の天皇陛下との謁見ごり押しは、もはやこの人物は日本の政治家とは思えなかった。
黒子でも闇将軍でもなく、小沢は単なる壊し屋である。殺し屋ならまだしも、壊すだけの政治は建設的因子たりえず、政治の攪乱要素でしかなく、保守の新政に期待が集まると、かれは自ら作っておきながら、それを壊すのだ。
江藤淳については評者は殆ど評価しない。かれは文壇政治の老獪なる実践者であって、文学を論じながら政治らしきを語る面妖な芸人のたぐいだから。
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『三島由紀夫研究』第十二集(鼎書房)
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副題は「三島由紀夫と同時代作家」である。
責任編集は松本徹(山中湖三島文学館館長、文芸評論家)、佐藤秀明(近畿大学教授)、井上隆史(三島研究家、白百合女子大教授)、山中剛史(文芸評論家、大学講師)の四氏。
同時代作家として比較研究される対象は、安部公房、江藤淳、大岡昇平、磯田光一、武田泰淳、福田恒存、大江健三郎までは分かるが、トップの論文は「吉屋信子と三島由紀夫」(田中美代子)である。石原慎太郎が入っていない。
吉屋と三島? 意表を突かれたが、意外な論考が並んでいる。
田中美代子氏はまず、三島が昭和四十一年に吉屋信子が朝日新聞に連載していた『徳川の夫人たち』を熱心に精密に読んでいた事実をあげる。
そしてかく言われる。
「日本近代文明の草創期を歩み始めて、吉屋信子も三島由紀夫も、それぞれ独自の世界改革を目指して社会の現状に切り込んだ。その点で二人は同時代者だった。しかも刻刻と変化してやまぬ流行と世代のずれもものかは、異色の感性と官能を基底として、その関心のおもむくところ、両者はいつもなにか相互浸透してゆくように思われる」。
木田隆文氏の「武田泰淳と三島の共同創作」という論考も面白い。
武田と三島はお互いに刺激し合い、同じテーマに挑みながら、違う世界を構築したが、和尚物語を武田が書けば、三島は金閣寺に挑み、『憂国』は武田の『貴族の階段』に似て(同じ二二六を扱ったという意味で)また武田が『生まれ変わり物語』をかけば、三島は『豊饒の海』に挑むという具合だ。
しかし思想は正反対のふたりだった。
三島の『わが友ヒトラー』に対抗して、武田は『国防相夫人』を書いた。木田が言う。
その「同じ歴史的事項をあえて逆の立場から描こうとする挑発的な意図」を抱いていた、と。まるで二人は暗黙のうちにかわした「共同創作」であるかのごとし、と木田氏は指摘している。
三島と武田は思想的には正反対だったが、テーマの共通性に同時代の雰囲気がある。
ほかにも力作論文が溢れるほど。連載の『豊饒の海』の創作ノートの公開も、実物の描写メモの写真が数葉。『暁の寺』の舞台となるインド、タイの取材ノート、王宮の描写や王室の血筋など克明に書き込みがあり、インドのジャイプールに関しては、次の記述がある。
「ピンクシティ(ジャイプールの別名)、かがやく空の下のバラ色の町、汚れたバラ色の町、繊細な舞台挿画のやうな町、とび交う蠅」
書評欄も充実しており、岩下尚史『ヒタメン』を佐藤秀明氏が、山内由紀人『三島vs司馬遼太郎 戦後精神と近代』を田中美代子氏が、島内景二『メネルヴァ日本評伝選 三島由紀夫――豊饒の海に注ぐ』を池野美穂氏がそれぞれ論じている。
資料には「ポエムジカ『天と海』の吹き込み場面やレコード、カセットテープなど珍しい写真がずらり。三島ファン、とりわけ文学愛好家には欠かせない一冊である。
(『三島由紀夫研究(12)』は定価2500円+税。版元は「鼎書房」
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(読者の声1)アフガニスタンの石油鉱区開発を中国がやっているという問題。前号で拙問答に回答いただき、有り難いのですが、宮崎さんのコメントのなかで「中国がドスタム将軍と秘密取引をして開発している」というのは逆ではありませんか?
産経新聞によれば、ドスタム派は中国人労働者を妨害し、工事の邪魔をしているとありますが?
(TY生、武蔵野)
(宮崎正弘のコメント)約束のカネ(賄賂?)がこないので、ドスタムは中国に向かっての工事妨害は請求書かも知れませんね。ドスタム将軍という人も悪辣ですが、ヘクマチアル元首相も悪魔的。ファヒム副大統領は、アフガニスタンの汚職と密輸の胴元、ついでに言えばカルザイ大統領一家も汚職の噂が絶えず、自国の鉱区を他国に売り飛ばすという買弁政権って、末期の清とか、鉄道利権を外国に売った袁世凱とか、張作霖とか。似てませんか?
アフタニスタンの凶暴性はアレキサンダーもびっくりしたという伝説があり、かの凶暴にして獰猛なロシア軍ですら逃げ帰ったほど、凶漢であり強桿である民族です。パシュトンはパキスタンと通底する。ときに握手し、ときに平然と裏切り、同盟者と言って近づき、次には首を引っ掻く。タリバン退治のアフガン戦争で米国vsパキスタンの関係がそうでした。あまりの利敵行為に、米軍特殊部隊はパキスタンにまったく内緒で、ビンラディンの隠れ家を襲った。
というわけで、ドスタム将軍の行為は複雑にして怪奇、荒れた気性、カネだけを信用する原理主義。悪辣な中国人の上をゆく悪辣さですから、北京政府も手を焼いているのかも。
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