頂門の一針ー中国の人口増加が世界に与える影響 | 日本のお姉さん

頂門の一針ー中国の人口増加が世界に与える影響

中国の人口増加が世界に与える影響
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前田 正晶

私マスコミが何かにつけて「我が国がGDPで中国に抜かれて世界第3位の経済大国になった」という表現をするのは適切でなく、不快だ。

深く考えなくとも解ることで、中国の人口は我が国の10倍以上であり、それだけの国民を有する国が経済発展を遂げて生活水準が上がれば、国民1人当たりのGDPが我が国より小さくても、総額では我が国を凌駕するのは当然であろう。

その辺りを紙パルプ産業界を中心に考える。言うまでもなく、現在の情勢下では人口が大きいことは大きな力である。

すでに世界第1の紙・板紙生産国の座を占めている中国は、2011年にも生産量を対前年比で13.2%も伸ばして1億1,003万tonとなって1億の大台を突破した。

今や世界第2位になったアメリカは、2010年に7,584万tonとやや回復したが、2011年には△1.8%で7,394万tonとなり、中国との差が開く一方だった。

第3位に下がった我が国は2010年には2,736万tonだったが、2011年には△2.9%の2,658万tonとなっていた。これでは中国の4分の1で、アメリカでも3分の2に過ぎない状態となった。

私は3月に、中国が世界最大の紙・板紙の生産国にのし上がったと述べたばかりだ。おさらいをしておけば、2010年度の中国の生産量が世界第1位の、アメリカが第2位に落ちて7,585万ton、我が国が1ランク下がって第3位で2,729万tonという具合だった。

因みに、2010年度ではアジアでトップ10に入ったのは韓国が1,112万tonで第8位、インドネシアが995万tonで第9位だった。インドは922万tonで第11位、タイは456万tonで第18位、台湾が396万tonで丁度第20位だった。

しかし、これらの諸国の消費量を人口で割って2010年度での1人当たりを算出すると、アメリカ(人口:3億1,360万人)は第5位で240kg、我が国は第8位で220kg、韓国が第12位で193kg、台湾が17位で174kg、アジア勢でトップ20入りはこれだけだった。

因みに、中国は57kg、インドネシアは24.8kg、タイは64kgと何れも消費量は2桁だった。なお、世界の第1位はベルギーの330kgだった。

しかし、中国の場合に上記の1億1,003万tonを暫定的に下記の13億3,671万人で割ってみれば82.3 kgとなって、1年間に44%も成長したことになる。
下記の人口統計は去る3月に我が国とアメリカの紙・板紙生産量の減少と、中国を対比して論じた際に使用したものである。

因みに、10年時点での主なアジア諸国の人口は、中国が13億3,671万人、我が国は 1億2,647万人、インドが11億8,917万人、インドネシアは 2億4,561万人、韓国は4,875万人というところである。

これらの諸国の中でもインドとインドネシアには更なる人口増加の可能性があり、中国と同様の経済発展の可能性が高いと言えるだろう。

そこで、中国が現状のような経済発展と国民の生活水準の上昇がそのまま続くと仮定すれば、世界の紙パルプ市場にどのような影響を与えていくだろうかを、再度簡単に検証してみよう。

仮に中国の1人当たりの消費量が第30位のマルタの112kgに達したと仮定しよう。すると少し乱暴な計算をすれば、生産量は3億1,787万tonに達してしまう。


この数字がどれだけのものかと言えば、2010年度の174ヶ国の消費量の総合計が3億9,472万tonだったので、全世界の2010年の消費量の80%増となるのだ。現実に中国の2011年の生産量は1億tonを超えていた。

一般的な認識では中国は天然資源小国で、製紙の原料であるパルプと古紙は大きく輸入に依存してきた。

2011年の製紙用パルプの輸入量は針葉樹パルプが対前年比45%増、広葉樹パルプが19%増で、合計1,100万tonを超えていた。古紙は2,728万tonで対前年比12%の増加だった。

その原料供給の最大手はアメリカとカナダで、両国合わせて針葉樹パルプでは55.5%、広葉樹では14.4%、古紙ではアメリカ一国で42.3%を占めていた。

これだけの原料を輸入に依存して生産量が1億tonだったのであるから、3億tonも紙・板紙を生産すれば、一体どれほどの原料を輸入するかと考えてみれば、空恐ろしくなる。

因みに、我が国は古紙の回収率が2011年でほぼ70%に達していたが、生産量が2,658万tonだったのだから、全量を回収できたとしても中国が輸入した古紙の量よりも少ないのである。

私がこういう指摘をするのは、中国の13億という人口が如何に強力な需要を生み出しているかという点を強調したかったからである。

このような紙パルプ産業界の数字から考えてみれば、中国の他の産業の分野に於ける今後の需要の成長と、それに伴う原材料その他の要求が何処まで伸びていくかは明白であろう。

問題はそれだけの原料および生産設備を中国の成長に合わせて、先進工業国や他の新興国が賄っていけるか否かである。

さらに重大なことは、中国では紙・板紙の内需は生産量を吸収できる次元に達しておらず、今や世界最大級の輸出国となっている事実である。
現在ではアメリカが反ダンピング関税等を課して中国からの印刷用紙等の輸入を厳しく制限している。

だが、皮肉な現象は、最大の原料供給国が中国の目指す最大の輸出相手国となっていた点である。

私は、今後ともこのような先進国対成長途上にある人口増加著しい新興国との間で、原料の輸出入と最終製品で攻防戦が激化するものと予測している。

参考資料:紙業タイムス社 FUTURE 2012年5月28日号