台湾「鴻海」(実は大陸のチュウゴク人)がシャープの筆頭株主へ | 日本のお姉さん

台湾「鴻海」(実は大陸のチュウゴク人)がシャープの筆頭株主へ

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
    平成24(2012)年3月29日(木曜日)
通巻第3604号 <3月28日発行)


 「日本の衰退を裏書き」とウォールストリートジャーナルが比喩した
   台湾「鴻海」がシャープの筆頭株主へ躍進、国際分業時代? 自前主義の限界?
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 さきのアルピータの経営行き詰まりは、日本のテクノロジーの未来を象徴したが、電子産業の衰退を裏書きしてみせたのは、シャープの筆頭株主に台湾の巨大IT企業「鴻海」が飛び出したことだ。

 日本経済新聞の見出しは「シャープ、台湾・鴻海が出資―――1割、筆頭株主に。液晶パネル合弁」とあって、なんだか主役はあくまでもシャープのような印象がある。
分かりやすいのは米国ウォールストリートジャーナルだった。「鴻海・シャープーー日本の衰退を裏書き(underscore)」という見出しだったから。
 
 同紙日本語版はかく言う。
「台湾の電子機器受託製造最大手、鴻海グループに自社株10%近くを譲渡し、筆頭株主に迎えるとのシャープの決定は、かつて業界を支配していた日本の電子産業がいかに凋落したかを浮き彫りにする」と。

 英誌フィナンシャルタイムズも「鴻海、シャープの株式一割を取得」と事実を大きく報じた。
つまり、これは「世界的な」事件なのである。

 日本のお家芸、ものづくりの代表選手としての電子産業がかくも一途な衰退を見せた背景には韓国、台湾、中国の躍進がある。
しかし根源にさかのぼれば「ヤングレポート」以来の米国の戦略である。当時、米国は半導体、集積回路で日本から首位をうばえ、そのために韓国に梃子入れせよ、と提唱し、米国は官民挙げて韓国の産業を育成してきた。

 台湾の鴻海精密工業が瞬く間に、この世界でのし上がってきた背景にはアジアにおける電子産業の勃興と、受託生産(EMS)である。しかも鴻海の企業目標は「サムソン打倒」と勇ましい。


 ▼鴻海精密工業の目標は「サムソンをやっつけろ」

電子部品から液晶パネルまで、なにからなにまでを大手メーカーの製品を受託した。アップルの「i pad」もアイフォーンも鴻海が生産している上、中国の子会社「冨士康科学技術集団」(Foxconn)は、じつに百万人の従業員を要する大企業に成長して、鴻海グループ総帥の郭台銘は、いまや台湾財界の顔というより世界ビジネス界の顔である。
 郭台銘はもともと中国山西省がルーツの外省人。だからやることは荒っぽい。
 台湾企業という印象で、この企業集団を解釈すると間違える。

 げんに2010年に富士康の深セン工場では連続12件もの従業員飛び降り自殺が発生し、世界のジャーナリズムが注目した。過酷な就労条件、劣悪な福祉環境などと批判された。10名が死亡し、二名が重傷を負い、管理の杜撰さが問われた。

 しかし富士康はくじけず、その後も中国国内で工場を増設し、増産に次ぐ増産。大陸内だけで54万人ともいわれる従業員をかかえ、或るエコノミストは「毎年二万人が辞め、二万人以上を雇い、殆ど毎日、同社人事部はハローワークのごとき人混み」と言う。

 この鴻海のいきなりの大躍進は北京の奇美実業いじめという政治に直結する。
親日家、台湾独立運動のつよきスポンサーで李登輝の支援者でもあった許文龍が率いた奇美グループが、数年前に液晶パネルの生産に進出して中国に工場を開いた。
はじめはにたにたと揉み手をして下手で接近してきた中国は、奇美中国工場での生産が軌道に乗るや、イチャモンをつけて工場長を逮捕し、許文龍に「台湾独立運動は誤りだった」と新聞に広告をせよ」と命令を出した。

北京はまた台湾独立運動を封じ込めるために2005年3月に「反国家分裂法」なる法律をいきなり制定し、大陸へ進出した台湾企業6万社、駐在台湾人100万人を管轄下においた。



▼奇美の撤退も鴻海にとっては僥倖となった

許文龍は社員が中国で人質となり、恐喝同様なかたちで意見広告を台湾の主要新聞に、それも反国家分裂法に反対し台湾独立を叫ぶ120万人の「人間の鎖」デモ当日の3月26日に打たされる羽目におちいった。
李登輝は「台湾人なら誰でも許文龍さんの気持ちは分かる」と発言し、来日していた映画俳優のリチャード・ギアは「反国家分裂法に反対する」と突如、記者会見で叫んだ。
爾来、許文龍の政治発言はやんだ。沈黙を強いられたのだ。

嫌気がさした許文龍は液晶パネルのビジネスを鴻海に株式譲渡したといわれる。それがバネとなって鴻海は中国に本格的に進出し、中国の子会社foxconn(冨士康科学技術集団)の大々的躍進へと繋がる。

シャープもまた、アジア勢と組まざるを得ない状況に追い込まれ、ソニー、パナソニックに次ぐ大赤字を記録していた。だから増資分を鴻海に購入して貰うほか、堺工場はCEOの郭台銘個人が46%の株式を取得することになる。
 技術開発の自前主義は限界にきたということだろう。
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 日本はなぜ「失われた二十年」に陥没したのか?
また日本はなぜ世界通貨戦争に敗れて経済を衰退させているのか?

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倉山満『検証 財務省の近現代史 政治との闘い150年を読む』(光文社新書)
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 新しい、頼もしい経済論客の登場である。
 財務省の歴史をざっと振り返る力強い筆力、この若い論客の筆致には読者を強引に読ませるなにものかがある。
 表向きのキャッチ・フレーズは「増税は財務省の伝統に反する」とあって、てっきり現代の政策論の果ての増税論議へ突撃的批判論かと思って読み始めると中味はさにあらず。
要するに過去百五十年の日本は財務政策、金融政策、金利政策が経済理論の論争には左右されず、時に政権と政治の流れの中で、大きく凸凹を描いたか、その興亡の歴史を、政治の舞台から追究した簡潔な歴史概観となっている。
教科書的な経済史論の側面もある。
 戦中の賀屋興宣と軍と政権内部の抗争あたりから、本書が俄然、『三国志』風となって、戦後の池田勇人、福田赳夫、大平正芳ら大蔵OBの裏面での暗闘がいきいきと描かれ、結局のところ、党人派で庶民宰相と言われた田中角栄や竹下登が、いかにして大蔵省を差配したか。その老獪な政治手法、その官僚統治の背景と田中、竹下降板以後も、かれらの代理人、代貸しや子分らが「闇将軍」にしたがって日本経済を政策ではなく党利党略の政争に巻き込んでしまったか、いまの政権が日銀によって左右されているかが活写されている。
 戦後政治史はともすれば戸川猪佐武の『小説吉田学校』のように表の政争と料亭政治のはなしに流れがちだったが、本書は経済を視点とする政治家と官僚たちの抗争であり、表面的な解釈しかできなかった城山三郎など霞んでしまう。
 読み出して面白く、休憩も取らずに一気に読み終えた。評者(宮崎)にとっては関心の深い分野だからかも知れないが「三角大福って、三角形の大福餅」と思っている若い年代に向けても、格好の入門編になっており、その感性には現代的ファッションが纏わっている。
 増税論議への結論は冒頭に掲げられている。
 すなわち「このデフレ不況下で恒久的増税が実現すれば、それは日本の近現代史上、初めてのこと」だが、「大蔵省百五十年の伝統に反する行為だ」と断言がある。
 ならばどうする?
 日銀が札束を印刷すれば良いのである。
 円高が円安になれば輸出は回復し、経済は活性化し、自殺者は激減し、大卒者に就労の機会が増え、若者に活力が戻り、日本経済は蘇生への入り口に立つ。
 ならば誰が反対しているのか?
 政治家の無能集団を前にして、やる気のない財務省(その原因を本書は政争の歴史から解明している)、しかし最悪の元凶は日銀である、と著者は鋭く指摘する。
 日銀は平成十年の日銀法改正以来、帝王のような独立機関となって、その人事さえ政治の介入が許されず、だからこそ、かの無能総裁が日本経済壊滅への旗振りをしても政治がどうすることも出来なくなった。元凶は民主党の日銀総裁人事にも求められるのだが。。。
 新聞にはでない分析ゆえに目から鱗が落ちる指摘も多い。

 以下は余滴。
 本書にも二ケ所、引用されている賀屋興宣『戦前、戦後八十年』。この第一級史料には強い思い出がある。というのも評者(宮崎)は、この制作に関わったからで、昭和四十七年頃から毎週一回以上、当時の永田町ヒルトンホテル(いまはキャピタル東急)にあった賀屋事務所へ通い、録音をとり、ときには世田谷区梅丘にあった賀屋邸でも続き、庭で写真撮影もした。回想録は断片的に『カレント』に連載され、さらに連載記事を賀屋さん、政策秘書の山崎さん、カレント編集長の根岸さんらを交えて、小生が司会役もかねて読み合わせをしながら、改稿に改稿をかさね、一冊の本を一年がかりで編纂、単行本とした。途中で石原慎太郎氏がはいってきて、賀屋さんとの対談も行ったが、これは別の本(賀屋興宣『このままでは必ず起こる共産革命』、浪漫刊)に収録した。賀屋回想録の初版は『戦前、戦中、戦後八十年』(浪漫)と題された。その後、版権は経済往来社へと移行し、題名も『戦前、戦後八十年』と改題された。
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宮崎正弘の最新刊
『国際金融危機 彼らは「次」をどう読んでいるか』(双葉社新書、840円)
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<宮崎正弘のロングセラー> 
『2012年 中国の真実』(ワック、930円、新書版)
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『中国大暴走 高速鉄道に乗ってわかった衝撃の事実』(1365円、文藝社)
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<宮崎正弘の対談シリーズ>
『猛毒国家に囲まれた日本』(佐藤優氏との対談。海竜社、1575円)
『増長し無限に乱れる「欲望大国」中国のいま』(石平氏との対談。ワック、945円)
『絶望の大国 中国の真実』(石平氏との対談。ワック、933円)
『日米安保、五十年』(西部邁氏との対談。海竜社、1680円)
『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との対談。徳間書店、1575円)
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