廃九獲核-廃憲得核
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成24(2012)年 3月21日(水曜日)
通巻第3593号
薄き来失脚後、重慶市書記に落下傘の張徳江は旧満州育ち
父親の張志毅は第四野戦軍の砲撃部隊参謀から陸軍少将
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張徳江は現在の遼寧省鞍山市管轄の寒村(遼寧省台安県桓洞鎮)に生まれた。十八戸しかない寂しい農村で隣村まで二十キロ。道路はぬかるみ、凸凹道をバスで四十分かけると村役場に到着するという辺鄙な土地である。
現在、同村で張一家のことをしる村人は殆どおらず、判明しているのは張徳江が1972年に吉林省王生県革命委員会宣伝部幹部として登場し、延辺大学朝鮮語系の学生となったこと(ちなみに延辺大学は現在の東北三省ではエリート大学)。
1975年に同大学朝鮮語系支部の副書記となり、翌年に党の常務委員、やがて副校長として出世した。
この沿歴から朝鮮族ではないかとも言われる。
78年、張徳江は北朝鮮に留学する。留学先は金日成総合大学経済学部。留学生委員会書記を務めた。
二年後に帰国し、延辺大学党委員会常任委員。83年に吉林省延吉市副書記、85年に同省の延辺州副書記。以後トントン拍子に出世をとげて、90年吉林省副書記、95年同省書記になった。98年には兼務で全人代常任委主任。98年9月に浙江省書記へ転出。辺境から上海周辺の経済繁栄区の書記という人事。
これは大栄転である。
そして2002年、張は中央政治局委員。広東省書記となる。
広東省書記といえば、上海に次ぐ経済大国。繁栄のメッカのど真ん中に落下傘降下した意味は深い。江沢民の引き立てである。
張の前の広東省書記は政治局常務委員となった李長春で、かれは山東省書記時代に法輪功弾圧に功績があり、江沢民に認められた。チベット弾圧でトウ小平に認められたのが胡錦涛であったように。
江沢民派にとっては、なんとしても華南の拠点=広東省をおさえる必要があった。広東人は反中央の政治色が濃く、かつ革命の魁的存在(孫文も葉剣英も広東人)。
広東省に集中する製造業の冨をおさえるのも派閥力学上、欠かせない条件である。
張徳江は広東省書記として珠海デルタ三角地帯構造を実践し、マカオ、珠海、深センの三角地帯の連動的経済発展に尽力したが、05年SARS発生や、工場のストライキ、広東省南部の暴動頻発などに遭遇した。このため辣腕の裏側に政治力への疑問も残るが、第十七回党大会では副首相に抜擢される。
▼太子党 vs 共青団 激突の中和剤?
胡錦涛ら共青団は、張徳江とはそりがあわない。
政治局員であり副首相であり、しかし江沢民派であるため「事故処理」専門の副首相として国内の多くの事故の事後処理に忙殺された。
この同時期に王岐山も「消防士」の異名をとるほどに金融危機、北京五輪に対応したが、張の担った事件は2009年の黒竜江省鶴岡の爆破事故、河南航空事故、11年7月の温州新幹線大事故などだった。
これら一連の事故処理実績(?)が評価され、薄き来失脚に伴って重慶市書記となる。しかし浙江省書記、広東省書記を経験した副首相が、僻地の重慶書記へ飛ばされるのだから左遷といえば左遷と解釈出来る。
さて張徳江夫人は辛樹森。1983年に長春冶金建築学院の工業建築学系に学び、東北財経大学卒。中国建設銀行幹部で、人事部副主任という高いポストにつき、政治協商会議委員。上級エコノミスト。名前から朝鮮族ではないかと判断される。
張徳江の背景には父親、張志毅の輝かしい軍歴がある。
父は1912年生まれで、31年に抗日ゲリラ戦争に加わり、36年に南京の砲術部隊で訓練を受けた。
以後、軍隊では砲撃を特技とした。38年に八路軍に編入され、同年共産党へ加入し、延安へ赴いた。
国共内戦時代には東北民主連合軍の後方参謀長、第二砲撃部隊団長から第四野戦軍の副参謀長(林彪の部下)、四平、吉林、遼陽、鞍山を転戦し、中華人民共和国成立後は牡丹江砲兵訓練基地司令員(基地のトップ)。第四砲術学校校長、幾多の勲章をもらい、少将となって1997年まで生きた。
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 729回】
――いまこそ「人民内部の矛盾を正確に処理しよう」ではありませんか・・・
『《関於・・・問題》浅説』(《〈関於・・・〉浅説編写組》 上海人民出版社 1974年)
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毛沢東は、1957年2月の最高国務院会議で社会主義国家が抱える矛盾を人民内部の矛盾として解決すべきだと語っている。それを「関於正確処理人民内部矛盾問題(人民内部の矛盾を正しく処理する問題について)」と名づけ『人民日報』(6月14日)に発表している。
この本は、「毛主席のこの著作は、我が国社会主義革命が将来にわたって前進可能か否かの極めて緊張した時期に発表された」とする。発表1年前の56年には毛沢東の定めた方針に従って「農業、手工業と資本主義工商業に対する社会主義改造を基本的に完成させ、社会主義所有制は我が国における唯一の経済基盤となった」。
ところが当時、毛沢東路線に反対する劉少奇を筆頭とした「党内に潜伏していた叛徒」たちが「『階級闘争消滅論』を大声で喚き散らし、『社会主義と資本主義の間のどっちが勝利したという問題は、すでに解決した』『階級闘争は基本的に終わった』などとほざきまくり」、「一心不乱に生産に励めばいいんだ」などとガナリ立て、「修正主義の誤った考えを推し立てて資本主義復活への陰謀を卑劣にも画策していた」――
長ったらしい名前を持つこの本の趣旨は、社会主義社会となったからといって安心は禁物だ。常に警戒を忘れずに永続革命に邁進しない限り、社会主義は容易に修正主義に後退し、やがて資本主義の復活を許してしまう、ということだ。
66年の文革開始から8年。毛沢東の死と四人組逮捕の2年前の出版だが、57年に毛沢東が提起した永続革命論を敢えて持ち出さざるをえなかったところに、文革路線の緩み、文革に対する国民の厭戦気分を引き締めようという虚しいまでの意図が読み取れそうだ。
ところで、この本の興味深い点は小難しい空理空論の羅列にではなく、修正主義に堕落し資本主義一歩手前まで進んでしまった当時のソ連社会の情況を伝えている点だ。
■「ソ連社会の危機は日増しに増大しているが、それは腐れきっているソ連修正社会帝国主義が進むべき必然的な道である。今日のソ連では、汚職・窃盗、投機・空売り、泥棒・淫売、凶悪殺人、薬物中毒にアルコール依存症など日常茶飯だ。妖風毒霧がソ連全土を覆い尽くし、社会全体が腐敗現象で包まれている」
■「“局長”によるあからさまな賄賂要求、企業資産の掠取は特別なことではなくなった」
■「多くの企業で『国有財産を身勝手に浪費し、私物化してしまう現象』が認められる」
■「長年にわたって莫大な公金を私物化したにもかかわらず、アルメニア・ガス建設経営陣の一員は法律に追及されることなく、法律の圏外でのうのうと暮らし、別の地方の企業に配転され経理を担当している」
■「(日本の産経新聞が出版した書籍を例に)ソ連修正主義社会の危機は、またスリや売春婦の横行にも現われている。売春婦は社会の腐敗の膿である。付けマツゲ、アイシャドー、厚化粧の売春婦は盛り場の至る所に出没する」
「アル中と離婚は特に珍しいことではない。アル中は社会制度の問題を忘れる一種の便法にすぎない。ソ連修正主義の離婚率は、すでにアメリカを超えた」
■「現在のソ連は、すでにガタガタで治癒し難い状態であり、歴史博物館入りは目前だ」
産経新聞を持ち出してのソ連批判に時の流れの皮肉さを感じてしまうが、ともあれ、この本が執拗に糾弾する当時のソ連の“惨状”は、金満中国の日常にピタリと重なる。やっと中国も修正社会帝国主義のレベルに・・・恭喜大爺(旦那、おめでとうゴザイマス)。
《QED》
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(読者の声1)貴誌通巻第3592号(読者の声2)でPB生氏が「ソマリア沖での海賊退治で海上自衛隊は日本海軍と名乗っていますが問題にするマスコミもありません」と書かれましたが、2000年10月に発行されたJane's Intelligence Digestに、「シンガポールが最近日本の海軍に自国の港を、日本の空軍に自国の飛行場を使わせることに合意した」とありました。
こういった専門分野のミニコミでは世間にはばかることもなく、昔から現実を素直に報道していたようです。
(ST生、千葉)
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(読者の声2) 薄熙来がついに解任され身柄を拘束されたという。権力闘争の真最中、御多分に漏れず一寸先は闇の政治世界を証明している。
伊佐進一著「『科学技術大国』中国の真実」を読んでいて中国人の4字熟語の造語能力とその語彙のパワーに改めて感じ入った。
例えば毛沢東が唱えた「両弾一星」をご存知だろうか。「両弾」とは原爆と水爆を意味し、一星とは人口衛星や打ち上げロケットを意味している。毛沢東のこのスローガンを掲げて中国は瞬く間に核保有国となり、宇宙開発においてもロケットの打ち上げ回数実績では今や中国は日本の1.5倍という。「両弾一星」のパワー恐るべし。
例えば「否林否孔」、「愛国無罪」、「造反有理」等々政治闘争がらみでパワーを発揮した例は多い。
ところで4字熟語パワーを日本でも利用できないかと考えてみた。
今の日本はデフレの20年、震災・津波と原発事故という内憂に加え、悪意に満ちた周辺国の軍事力に怯える外憂にさらされている。
この日本の抱える構造的問題を解決する簡単明瞭なスローガンは何かと考え、「廃九獲核」という熟語に思い至った。保守の諸兄には説明不要と思いますが蛇足ながら、意味は「憲法9条を廃棄し核武装すべし」ということ。「ハイクカクカク」と語呂も悪くない。
日本が日本本来のパワーを回復し、世界の尊敬を勝取るにはこれしかない。
(ちゅん)
(宮崎正弘のコメント)ハイクカクカク、廃憲得核というのも如何でしょう?
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