ひろってきた記事
嫌われる上司の共通点
http://www.president.co.jp/pre/backnumber/2007/20071203/3273/1312/
「事なかれ主義、陰険、保身」
事なかれ主義でチャレンジ精神がない上司と、
能力に応じて部下に仕事を任せる上司。
あなたはどちらの上司が信頼できると思いますか。
上司のどんな行動がどのくらい強く
お互いの信頼感に影響を及ぼすのでしょうか。
3人の気鋭の研究者たちによる調査結果を見てみましょう。
立教大学名誉教授
松井賚夫 = 文
まつい・たまお●
立教大学・駿河台大学名誉教授 東京大学文学部卒。人事院勤務後、明治、立教、駿河台大学で産業心理学を講ずる。リーダーシップ、モチベーション、女性のキャリア発達について多くの研究を内外の学術雑誌に発表。著書『リーダーシップ』『モチベーション』。
東京国際大学教授
角山 剛 = 文
かくやま・たかし●
東京国際大学人間社会学部教授 立教大学大学院修了。立教大学助手を経て、国際商科大学(現東京国際大学)講師、現在にいたる。産業・組織心理学会会長。専門はワークモチベーション研究。著書『組織・職務と人間行動』『産業・組織心理学』『変革時代のリーダーシップ』(いずれも共著)など多数。
成城大学教授
都築幸恵 = 文
つづき・ゆきえ●
成城大学社会イノベーション学部教授 コロンビア大学大学院博士課程(カウンセリング心理学専攻)修了。Ed.D(教育学博士)。パーソナリティ心理学、キャリア心理学等の分野で多くの研究を内外の学術雑誌に発表。著書『すぐに役立つ 教師のための心理学講座』、訳書『スーパーカップル症候群』『いじめ こうすれば防げる ノルウェーにおける成功例』など。
高橋常政 = イラストレーション
illustration by Tsunemasa Takahashiライヴ・アート = 図版作成
「部下から信頼される上司」の条件とは
朝日新聞がアスパラクラブ会員2万人に「中間管理職という言葉で思い浮かべる著名人」をあげてもらったところ、男性著名人のベスト5は島耕作、佐藤浩市、谷啓、原辰徳、および西田敏行、女性著名人のベスト5は黒木瞳、久本雅美、篠原涼子、真矢みき、および天海祐希だった(朝日新聞2007年5月4日朝刊)。島耕作は漫画界のスーパーサラリーマン。責任感があり、トラブルへの対応も的確で部下の信頼も篤い。佐藤浩市は男っぽくて力強く頼りがいがありそう。谷啓、西田敏行は庶民的で親しみやすい感じ。巨人監督・原辰徳は、その明るく、爽やかな風貌でファンが多い。
女性著名人の黒木瞳、真矢みき、天海祐希は、宝塚歌劇団の出身で、有能で意志の強い、頼りになる女性という役どころが多い。久本雅美は率直で、面白く、親しみやすい。篠原涼子はドラマ「ハケンの品格」で、有能で責任感が強く、男性の正社員からすっかり頼りにされるハケンを演じて好評だった。
このように見ると、人々が期待する上司像とは、責任感が強く有能で頼りがいがある上司、率直でユーモアがあり、親しみを感じられる上司、などといったところであろうか。それでは現実の上司(中間管理職)は部下からどのように見られているのであろうか──以下の調査を行った。
「現在会社組織で働いている」男女約100名(平均年齢=31.5歳)に「あなたの直属の上司(85%は男性、平均年齢=42.5歳)の行動チェック・リスト」を渡し、リストにある行動項目が直属の上司にどの程度よく当てはまるかを5点尺度(1=全然当てはまらない、5=非常によくあてはまる)で回答してもらった。
このチェック・リストは、上司の好ましい行動(たとえば「困ったときには力になってくれる」など)と好ましくない行動(たとえば「下には威張り上にはペコペコする」など)で構成されていた。さらに、アンケートの別の場所で、直属の上司に対する回答者自身の信頼感(「今の上司を信頼している」など5項目)、および会社へのコミットメント(「これからもこの会社でずっと働きたい」など5項目)についても回答してもらった。調査結果に特定の会社や職場、世代の影響が出ないように、広くいろいろな人に回答してもらった(1)。
このアンケートの一部は、アメリカの心理学者K・バトラー(Butler)の「信頼形成の条件」調査表Conditions of Trust Inventory に基づいている。バトラーは過去の研究や面接に基づき、部下から信頼される上司の10の条件を確認している(2)。
部下からの信頼が
篤い上司とは
(画像クリックで拡大)
図表1
図表1の右半分はバトラーの10の条件に基づく今回のアンケート調査の結果で、上司の好ましい行動を部下の評価に基づいて3つのカテゴリーに分類し、それぞれが部下の信頼感にどの程度強く影響していたかを示したものである。
●仕事に精通し部下の力になる
リーダーシップの「パス・ゴール理論」path-goal theory(3)では、上司の役割は、明確な手段・方法を示すことによって部下の目標達成を助けることと考えられている。これはリーダーシップの中心的機能に関わるもので、部下の信頼感との間にはきわめて強い相関関係が見られ、この条件で評価が高い上司ほど、部下からの信頼が篤かった。こうした上司とは、具体的には、統率力・指導力にすぐれた上司、判断や指示が的確で部下の仕事を成功に導く上司、能力に応じて仕事を部下に任せる上司、部下が困ったときには力になってやり、社内の圧力から守ることができる上司であった。
●誠実・公正に部下に対応する
職場での上司と部下の関係は、権限に基づく上下の関係であるが、同時に、人間と人間の関係でもある。したがって部下から見て上司が誠実・公正な人間と感じられることと、その上司への信頼感との間には当然ながら高い相関関係があった。心理学者の三隅二不二{じゆうじ}は、リーダーシップの働きをP(パフォーマンス:課題遂行)機能とM(メンテナンス:集団維持)機能の2つに大別したが(4)、誠実・公正な対応は、このM機能に含まれるものといえよう。部下から見た誠実・公正な上司とは、具体的には、部下の言うことに真剣に耳を傾ける上司、部下との約束や秘密を守り、部下を裏切ることがない上司、部下を公正に評価する上司、などである。この「公正さ」は、こんにちのように正社員、派遣社員、アルバイトなど、身分・立場が異なる部下たちを統括する上司にとってはとりわけ重要であろう。上司は、何事に対しても一貫した態度をとるべきで、相手の身分・立場によって態度や意見が変わるようでは、すべての部下からの信頼や協力を得ることはできないであろう。
●オープンで率直である
上司から評価される立場にある部下は、上司が「なにか腹に一物ある」「思っていることを隠している」と感じるようでは、安心して仕事はできない。自分の考えを率直に表現するオープンな上司に部下からの信頼が集まるのはごく当然である。自分の考えをオープンに言ってくれる上司、聞き心地の良いことだけではなく、悪いこともストレートに言ってくれる上司のもとなら部下も安心して働ける。
アメリカの心理学者J・カラン(Curran)らによると、自己開示度(self-disclosure)が高く、自分の考えや感じていることを率直に伝える度合いが高いリーダーほどメンバーからの好感度が高い傾向があった(5)。
部下の目にあなたは
どんな上司として映っているだろうか
部下から嫌われる上司とは
図表1の左半分は、上司の欠陥行動を回答者の評価に基づいて3つのカテゴリーに分類し、それらが部下からの信頼感をどのように損なうかを示したものである。
●事なかれ主義で頼りない
上司のすぐれたリーダーシップが部下からの信頼感に強くプラスに影響していたことを示す右半分の裏返しで、リーダーとしての能力、意欲の欠如は、部下の信頼感を著しく損なう要因になっていた。こうした上司とは、具体的には、事なかれ主義でチャレンジ精神がない上司、やる気がない上司、部下が納得できるような判断や指示ができない上司であったが、これらの上司は、先の「パス・ゴール理論」がいう、リーダーの役割、すなわち、部下に方法・手段を明示して、部下の目標達成を助けることができない上司であり、部下が嫌うのは当然であろう。
●部下の尊厳を傷つける
「おまえは月給泥棒だ!」「目障りだから消え失せろ!」などの上司の暴言によって「うつ」になり、首つり自殺した35歳の男性会社員の死に対して東京地裁は労災と認める判断を下した(朝日新聞07年10月16日)。このように職権を背景にして、部下に対して精神的・身体的苦痛を与え、個人の尊厳を傷つける行為を俗にパワーハラスメントと言っている。先の例の暴言ほど極端ではないにしても、権力を笠に着たものの言い方をしたり、地位を利用して自分の意見を押し付けたり、部下と意見が合わないと声を荒らげるなども、部下の信頼を損なうことになる。
たとえ自分が直接上司からそのようなパワーハラスメント的仕打ちを受けなくても、そのような上司の行為を見聞すれば、職場環境は劣悪なものと感知され、上司に対する信頼感を失うであろう。そもそも、「権力を笠に着て、人を人とも思わない態度」をとる人物は、誰からも信頼されるはずはないが、その人物が「上司」である場合には、部下の迷惑・被害は甚大である。
●保身と出世しか考えていない
下には威張り、上に対しては声まで変わり、臆面もなくペコペコする。わが身の出世しか関心がない。自分の非を絶対に認めようとしない。失敗は部下のせいに成功は自分の手柄にする。自分より有能な者を陥れようとする。自惚れが極端に強く、薄情……。
このように、自分のことしか頭になく、徹底的に自分中心的で、部下の軽蔑を買う上司が、たいていの組織には少数ながらいるものである。会社全体や部下たちの利益や福利には関心がなく、自分の私利私欲で動き、保身に熱心な上司を、部下はめざとく見抜くものである。ところがこうした上司の中には世渡りが巧く、意外にも上層部のおぼえめでたく、出世コースを歩んで、部下たちをがっかりさせ、すっかり会社不信にさせるものもいる。
上司への信頼感は
会社への信頼感につながる
今回の調査でわかった、もう一つの重要なことは、上司への信頼感が強い部下ほど、会社幹部への信頼感および今後も引き続きその会社に勤めたいという意欲が強かったことである(r=+0.71)。これは、直属の上司は部下にとっては「会社の顔」であり、その上司への信頼感は、会社への信頼感につながることを意味するといえよう。
人事担当者の間では、753ということがいわれる。中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が3年以内に会社を去っていくという意味である。こうした早期退職の若者たちが挙げる代表的理由は、「仕事が自分に合わない」というものである。これは、若者たちの早期退職が、採用時の仕事と能力のミスマッチに起因するという印象を与えるが、ただそれだけとはいえない。大卒者よりも高卒者、高卒者よりも中卒者というように若年者ほど、早期離職率が高いということは、学校生活から職業生活への移行が若年者ほど困難であり、それだけ多くの支援を必要とすることの表れであろう。
組織の力を引き上げ、次代を担う彼らの職場適応を促進し職場定着を高めるためにも、上司が部下との間に強い信頼関係を築くことが大切である。
(1)この調査結果の一部は、産業・組織心理学会第23回大会で発表され、またアメリカの学術誌Psychological Reportsに発表予定である。
(2)バトラーの信頼形成の10条件とは、いつでも連絡できる状態になっているavailability、職務遂行能力があるcompetence、言動が一貫しているconsistency、秘密を守るdiscreetness、公平であるfairness、正直であるintegrity、自分を守ってくれるloyalty、率直であるopenness、約束を守るpromise fulfillment、話を聞いてくれるreceptivityである。
(3)House, R. J. , & Mitchell, T. R. (1997). Path-goal theory of leadership. In Leadership: Understanding the dynamics of power and influence in organizations, Vecchio, R. P. (Ed.); pp.259-273. University of Notre Dame Press.
(4)三隅二不二(1984)リーダーシップ行動の科学(改訂版) 有斐閣
(5)Curran, J.,& Loganbill, C. R. (1983). Factors affecting the attractiveness of a group leader. Journal of College Student Personnel. 24, pp. 350-355.