「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 日本の明日の姿は、沈みゆくポルトガルに似ていないか | 日本のお姉さん

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 日本の明日の姿は、沈みゆくポルトガルに似ていないか

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成24(2012)年 2月11日(土曜日。紀元節)
     通巻第3554号 
 ユーロ危機はまったく去っていない
  ギリシア国民の非協力と反乱はつぎにポルトガル経済を萎縮させるだろう
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 ギリシアの失業率は21%、工業生産のおちこみは11%。GDPに対する赤字は142%。
 もっと大胆な緊縮財政と冗費削減、厳格なる節約を要求するEUならびにIMFは、これらの実行を約束だけではなくギリシア政府に「担保」を要求し、その替わりに1300億ユーロ(1700億ドル)の救済資金を注ぎ込む。
 2020年までにギリシアは対GDPの累積債務を120%までに減らせ、と。

 大筋でギリシア政府は受け入れを表明しているが、国民は断固として拒否の構え、連日アテネにはデモ隊が行進し、街は騒然となっている。
 確実にいえることは、ギリシア救済が実行されるということはギリシア国債保有の銀行、機関投資家、個人らが被災し、未曾有の冨の破壊が同時に行われるのである。

3月20日がギリシア救済の期限である。この日までに借金返済の延長がかなわないとなるとギリシアはデフォルトに陥る。
 市場はギリシア政府の受け入れ表明に楽観論が支配しているが、基本の問題はひとつも解決されておらず、単に希望的観測というムードが支配しているだけなのである。

 すでにEU諸国間で、ギリシア問題は三年にわたって頭痛の種となっており、「ギリシア連鎖」が次に飛び火するのはポルトガルに焦点が絞り込まれてきた。
イタリア、スペインはまだポルトガルに比較すれば軽症、またフランスは格付けは引き下げられたものの、デフォルトの可能性はすくない。ドイツ以北の加盟国は財政が比較的健全である。
 
 つまりユーロ加盟国は現時点で3つのクラスに分類されることとなった。
 第一 ドイツならびに北欧圏
 第二 フランス、スペイン、イタリア
 第三 ギリシア、アイスランド、ポルトガル


 ▼ポルトガル、アイスランドの焦燥と不安

 「ギリシア連鎖」というタームは、ギリシアの債務不履行がなされた場合、連鎖的にアイスランド、ポルトガルがデフォルトの危機に陥ることとなり、次にその嵐はスペイン、イタリアの順で襲う。やがてユーロのシステムが機能せず、統一通貨体制が瓦解を始めることになる。

 だが最大の矛盾は債務不履行をさけるために節約を強要すれば、不景気はもっと深化することである。ギリシアの失業率が21%などと言っても、スペイン、ポルトガルはもっと悪い。23%から24%の失業、しかも、若者の失業が50%に近いのである。

 ウォール街の反乱、座り込み、米国でもティパーティ運動が展開されているように、西欧各国を歩くと、連日ストライキ、それも公共交通機関がストップ、大規模なデモが行われて街々は騒然としている。まだ暴力沙汰がおきないのは、それなりの民主国家の民度であり、そうでない中国などでも暴動となる。

 これに比べると、ここまで景気が悪化したとはいえ、日本はまだまだノー天気の平和のぬるま湯につかっていることになる。露天風呂の付近には大寒気団が近づいているというのに。。。。
           ◎◎◎  ◎◎◎
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 711回】        
     ――捏造偽造、放言愚弄、迷惑千万、断固排撃
     『中共歴史?言』(利明編著 香港文化芸術出版社 2005年)


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毛沢東革命の原点と賞賛される湖南農民運動の“真相”を抉る「?言の一:湖南農民運動は素晴らしい!」から、自画自賛ともいえる『江沢民伝』出版の内幕を暴露した「?言の二十九:江沢民が中国を改造した」まで、虚飾と虚言に満ちた共産党史に隠された29のウソを解き明かそうとする試みだが、「?言の十三:『二・二八』事件は『人民起義』であり『愛国主義闘争』である」の一項だけは、スンナリとは納得できそうにない。

 「二・二八」事件とは、1947年2月28日に台湾で発生した国民党政権による台湾民衆圧殺事件だ。日本の敗戦を受け、国民党政権は台湾接収に乗り出す。大陸から乗り込んだ国民党政権高官は日本が残した資産を強奪し私有化する一方、「祖国による解放」に歓呼する台湾民衆に向かって、「日本植民地で暮らしてきたお前たちは野蛮・劣等だ」と罵る。「祖国の政権」に対する期待は一気に侮蔑と憎悪に変わった。
台湾民衆の怒りは募り、「犬が去り、ブタがやってきた」と大陸から乗り込んできた外省人を激しく蔑視するばかり。

 こんな雰囲気に台湾全島が包まれていた47年2月27日、台北の街角でタバコ闇商売の台湾人女性を外省人警官が力づくで摘発したことから、抑えに抑えていた本省人の怒りが爆発した。民衆が警官を殴り、武器を持って警察署を襲撃・占拠し、遂には全島挙げての暴動へと拡大してゆく。
大陸における内戦で敗色色濃い国民党政権だったが、暴動は共産党によるものと宣言し、大陸から大部隊を投入して軍事制圧にでた。本省人の前途有為な若者や政治家・知識人を中心に2万から3万人が犠牲になったが、その実数は未だ不明だ。

 この事件が本省人の外省人に対する拭い難い不信と怨念、外省人の本省人への疑念と猜疑心――現在になっても解消することのない省籍対立という台湾社会の深い溝――を生んでしまった。90年代に入り本省人の李登輝が国民党主席に就き政権を担い、国民党主席として公式に過去の国民党政権が犯した罪を認め謝罪したことで、「二・二八」事件は恩讐を超えて歴史的事実として語られ記されることとなった。

 一方、共産党は事件を一貫して台湾人民による国民党支配への反抗(=起義)と捉え、「愛国主義闘争」と評価している。つまり国民党政権が、国民党支配を拒絶し共産党支持を打ち出した台湾人民を扼殺したというわけだ。
これを共産党による「歴史?言」と糾弾するこの本は、「目撃者の現場証言」なるものを基にして摩訶不思議な“真実”を語りだす。

 じつは事件の“本質”は台湾独立を目論む勢力――その主力は台湾に残置された30万人の「皇軍兵士」と元「皇軍兵士」の台湾人――が仕掛け、台湾統治のために派遣された外省人教師や官吏を虐殺した点にあり、「殺された外省人の数は統計にすらない」と主張し、暴動制圧という果断な措置を執らなかったら、「台湾は独立し、以後の半世紀の歴史は書き改めねばならなかった。
失われた領土を奪還することは事実上困難だ。ウラジオストック、琉球、釣魚台列嶼・・・外モンゴル、どうすれば中国に還ることができるのか」と結ぶ。

 「二・二八」事件が「皇軍」勢力による台湾独立への妄動だとは、共産党の「歴史?言」を暴露する中国人の誇大妄想な歴史妄言というものだろう。だが共産党の「歴史?言」を激しく指弾する中国人のなかに、琉球(沖縄)も釣魚台列嶼(尖閣列島)もウラジオストックも外モンゴルも中国の領土だとの歴史?言を真顔で喧伝している勢力が存在していることも、また事実なのだ。
やはり中国人は一筋縄ではいかない・・・ヤレヤレ。
《QED》
  ♪
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成24(2012)年 2月16日(木曜日)
    通巻第3560号 
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 日本の明日の姿は、沈みゆくポルトガルに似ていないか
  嘗ては世界帝国、大航海時代の覇者。そして今はアンゴラに就労
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 ポルトガルは2011年5月にIMFの救済条件を呑んで、予算カット、公務員給与削減など厳しい条件と交換で、780億ユーロもの救済資金が注ぎ込まれた。当時の対GDP赤字は107%だった。

 そして2012年1月、対GDPレートは、「ん?」、112%に増えた。かなり厳格に条件を守り、ポルトガルは予算削減、公共料金値上げに踏み切ったにもかかわらず累積赤字が増えたのである。
要するに一方で増税に踏み切り、他方では年金を削減し、公務員給与を下げ、借金を減らしたにも関わらず、対GDP赤字額が増えたのである。
理由は簡単で経済が萎縮したからだ。GDPがマイナス成長、消費は振るわず、輸出だってそれほど伸びなかった。
 
これを「ポルトガルの逆説」という。
 そして、同様なパターンはギリシアはもちろんのこと、スペイン、アイスランドへ、やがてフランス、ベルギー、オランダもこの列に続くだろう、とされる。

 日本は米国を追って世界第2位のGDP、戦後めざましい高度成長を遂げ、世界有数の経済大国となった。1980年代には「明日にも米国を抜く」と言われた。自動車生産世界一、家電から電子部品、精密機械で世界のハイテクを領導し、株式市場もロンドン、フランクフルトを凌駕して、ニューヨークに迫る勢いだった。

 NYの象徴であるロックフェラー・センターを買い、ロスの目抜き通りウィルシャー・ブルーバードのめぼしい高層ビルを片っ端から買い、ついにはハリウッド映画を二社も買収して気を吐いた。


▼日本のバブル崩壊後の沈没ぶりとポルトガルの類似性

 バブル破滅以後、暗転。自動車生産は中国に抜かれ、鉄鋼生産の優位も明け渡し、コンピュータ開発に後れを取り、通信機器では中韓国台湾にも抜かれた。「スパコンで世界二位ではいかないんですか」という内閣に替わり、日本人の勤労精神、高かったモラルが消滅し、医療福祉、社会保障という生産的でない方面へ国費が投入され、長かったGDP世界第二位の座を中国に奪われた。

そしてエンジニアは中国へ出稼ぎに行くようになり、国内は老齢化し、いずれ保険、年金制度は瓦解し、医療システムは崩壊するだろう。明日の日本はいまのポルトガルに酷似してきた。

 ポルトガルでは不思議に暴動が起こらなかった。ギリシアでは店舗、銀行焼き討ちという過激な労働組合と失業者の暴動がおきたのに?
 我慢強い国民性と評価されたのも、しかしながら2月14日のバレンタインまでだった。同日、リスボンの王宮広場を十万の抗議者が埋め尽くし、IMFの勧告に従って経済を失速させたポルトガル政府に抗議した。

 ガスパル財務大臣(前ECB幹部)はさらなる年金カットを準備し、公務員のボーナスの大幅削減(合計12億ユーロ)によって借金返済に充てるとした。「こうすればポルトガルは2014年から生長軌道を回復できるのだ」と自信に満ちている。

 給付が減らされる年金生活者、生活保護、医療保険料金があがり病院の支払いが増え、若者の失業者も、いつまでも医療費が無料というわけにはいかなくなるだろう。日本はもって他山の石とすべきだが、もはや時間はない。
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 714回】           
――万事が強欲で残酷、冷血非情で因果は廻る              
      『開国大土改』(白希 中共党史出版社 2009年)


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1950年から53年にかけて中国全土で展開された土地改革運動、鎮圧反革命(反対勢力軍事制圧)運動、抗美援朝(朝鮮戦争支援)運動を「開国三大運動」と総称する。

建国したとはいえ、農地を押さえて農民に対する生殺与奪の権限を持つ地主は依然として農村で権力を握っている一方、国民党残存勢力をはじめとする反共産党勢力は各地に蟠踞し抵抗を繰り返す。
朝鮮戦争参戦は人的にも財政的にも発足間もない政権の体力を容赦なく奪い去る。運動の結果次第では、未だ政権基盤の脆弱な中華人民共和国は崩壊しかねない。苦境の中で、毛沢東政権は開国三大運動に命運を賭ける。勇ましくも国民を鼓舞するが、伸るか反るか。政権にとっては背水の陣。内実は絶対必死の大博打ではなかったか。

裏表紙に「紀実文学(ドキュメンタリー)の手法で、この偉大なる運動を最初に描いた。第一次資料を基にして、農民に対する地主の残酷な搾取と血腥い圧迫を迫真をもって抉り、封建地主による土地制度を改革しなければならなかった緊要性と必要性とを明らかにしている」と記されているように、土地改革運動の実態を豊富な資料を駆使して判り易く描く。
だが、悪逆非道の限りを尽くす地主に対し、超人的な忍従の末に共産党と共に決起する農民――共産党式の勧善懲悪ドラマ仕立ての展開で、白けるばかり。

物語は年貢を納められない農民に地主が加える折檻の紹介から始まる。5本指を固く縛り上げ鋭く削った竹片を爪の間に打ち込む「吃毛竹?」。厳寒に裸にして冷え切ったレンガに足を投げ出すように座らせ、レンガが温まったら冷たいのに換える「冷磚頭」。
鋭い棘のある竹で編んだ籠に農民を入れ、ゴロゴロと激しく転ばす「滾笆簍」。こんな酷い仕打ちを受けても払えない。そこで年貢代わりに娘や嫁を連れてゆく。
あるいは地主の屋敷に設えた水牢に押し込んで衰弱させ、石灰で口を塞いで、死体をゴミ捨て場にポイッ。年貢が出せないから近くで漁をしてカネを作ろうとすると、収穫の60%以上を入漁料として取り上げる。抵抗すると、待っているのは地主が雇っているゴロツキの容赦のない暴力。おお怖ッ。

ワル、ワル、ワル・・・ワルといえば地主、地主といえばワル。地主は極悪非道の塊だった。たとえば「罪が多すぎて逐一挙げることは困難だ」で、「黄門四虎」と恐れられた黄兄弟だ。長男は「奸淫、強奸、騙奸、婦女誘奸は数え上げられない。農民を殺した後、その妻、娘を奸淫し、その父親や兄を殺す。酷い場合は奸した後に殺す。その上、若い娘は商品として他の地方のゴロツキ、役人、地主に売り飛ばす」。
次男の「暴虐ぶりは長男の上を行く。1950年に(地主糾弾集会で)群集が告発し調査した結果、被害者は54人。(彼は近隣の地域で)『初夜権』を持っていた。美人がいたら結婚初夜は先ず彼が楽しむ。その夜、彼は酒を喰らいアヘンを吸い、拳銃を手にして寝室へ向かう」。越後屋なんて子供騙しだ。

父親は清末に役人として財を成し土地を手にして蓄財に励んだ。鉄製品工場、染色工場、雑貨店、アヘン商、毛皮商、木耳商、茶館、アヘン窟、旅館、賭場などを手広く経営。4人の息子は全員が国民党や反共救国軍の地方幹部であり、地方議会議員などの“公職”も務める。まさに地域の皇帝――土皇帝である。
そこへ共産党が乗り込んで、正義の刃を振り下ろす。かくして悪徳地主は消え去り、農民は地主から取り上げた土地を自らのものとして豊かに幸せに暮らしたとさ。めでたしメデタシ・・・なら問題はなかったわけですが。

それにしても旧中国には農民・農村のために働く立派な地主、二宮尊徳のように刻苦勉励して篤農家となったような農民はいなかったのだろうか。
なんとも不思議だナア。
《QED》
○○
  ♪
(読者の声1)王立軍の記事は貴誌の分析が一番速くて正確だったと思います。ついで劉源の登場記事も一般マスコミより一日リードの速報でした。
 このところの中国情勢は、遠く東京でウォッチされている宮崎さんのご指摘通りで、感服いたしました。まさに灯台もと暗しですね。
 今後も中国の動きには目が離せません。
   (DK生、在北京)


(宮崎正弘のコメント)北京では、しかし生の情報が溢れていて、醍醐味があると思います。東京からみる北京政治は舞台裏の空気、ニュアンスが読めず、予測は難しい局面を迎えています。



  ♪
(読者の声2) NHKの番組で習近平の訪米のニュースに続いて、中国人に投資や雇用の確保と引き換えに永住権を与える、という話題がありました。
バーモント州では50万ドル以上の投資・10人以上の雇用といった条件で中国人に永住権を与えるという。仲介業者がいうには中国人の富裕層には50万ドルの投資などハンドバッグを買うようなもの。
インタビューで中国人富裕層は中国の先行き不安とアメリカの教育環境のよさをあげる。いずれアメリカ中に新たな中華街ができるのかもしれません。
米国の西部開拓時代、大陸横断鉄道の建設には多くの中国人の苦力が使われ、犠牲者も多かった。カリフォルニアのゴールドラッシュでも中国人が多数押し寄せた。このため中国語でサンフランシスコは金山と呼ばれるのですが、まもなくオーストラリアでも金山が発見されたためサンフランシスコは舊(旧)金山。羽田から中華航空が出ていた頃、舊金山の表示に驚いたものでしたが、いまだに舊金山ですね。
(貴誌に連載されている)樋泉克夫氏の『死体が語る中国文化』(新潮選書)には、華僑が一度埋葬した棺を掘り出し、骨を洗い直して最埋葬する話が出てきますが、現代の中国人富裕層にはそんな母国・故国に対する思いは全く感じられません。
1870年のサンフランシスコ、人口15万ほどのうち、およそ5万人が中国人(福建・広東人)。辮髪、衣食履物まですべて中国のものを使いアメリカのものは何一つ買わない。
中国への莫大な額の送金と低賃金が白人労働者の仕事を奪うと中国人排斥の声も高まっている。中国人の自前主義は昔から変わりません。低賃金でも倹約に努め、アメリカで土地や家を買うものもいれば、中国に邸宅を建てるものも多い。中国からの船が着くたび数百人もの中国人労働者が押し寄せる。かつて苦力としてこき使った中国人に頭を下げて投資してもらうアメリカ、ポルトガルとアンゴラと同様ですね。
  (PB生、千葉)


(宮崎正弘のコメント)今月あたま、リスボンにおりましたが、まさに「ポルトガルがアンゴラになり、アンゴラがポルトガルになった」現実がありました。



  ♪
(読者の声3)橋下・大阪維新「船中八策」の骨格に現時点でツッコミを入れる。
 橋下徹大阪市長が代表として率いる大阪維新の会は、衆院選向けの公約集「船中八策」の骨格をまとめた。
 13日の全体会議後も大阪維新の会はペーパーを出しておらず各紙の報じる内容にバラつきがあるが、八つの柱で方針を掲げているようだ。維新の地方議員や3月に設立する維新政治塾での議論も踏まえ、最終決定する模様だ。
 筆者のスタンスは、「地域の主体性」と「既得権の破壊」を掲げる一連の橋下氏の言動及び、この「船中八策」に基本的な方向としては賛成の立場である。
その上で、取り急ぎ現時点で出ている各論についての不明点、懸念点及び異論等のみを大小取り混ぜて下記に示す。(朝日新聞が13日付のネット版記事で報じた「骨格」を基にした)

●統治機構の変革:◆地方の事情に合った大都市制度の創設◆地方分権の推進◆地方交付税廃止
 道州制は、基礎的自治体-道州-国の現状の都道府県制と同様に3階建てであり、同州が強すぎれば、屋上屋を重ね地方分権に逆行するため、基礎的自治体にこそ国が担うべき事項以外の権限と財源を大きく降ろし、道州は域内の調整機能を主な役割とすべきである。
 また、「地方共有税制度」創設による自治体間の財源調整は、基礎的な調整(継続的な下駄)と制度開始後20年程度で逓減消滅させる調整(時限的な下駄)の2勘定に分け、ナショナル・ミニマムと自助努力を両立させるべきだろう。

●行財政改革:◆基礎的財政収支の黒字化◆国会議員の定数・歳費削減◆人件費3割カット
 国会議員の定数削減・歳費削減は総じて、国会及び政府の機能強化に繋がる工夫と共に行うべきである。それ無くして、ただ頭数と金を減らすだけでは、官僚の恣意的な裁量範囲を今以上に強めてしまう事に終わる。
 また人件費3割カットは、地方自治体にも及ぶように地方と国の財源分けを設定すべきである。

●公務員制度改革:◆職員基本条例案の法制化
 公務員の身分保障は基本的に民間と同レベルとすべきだが、一方労働3権のうちスト権については、公共サービスが独占形態でストにより機能麻痺する事を鑑みれば与えるべきではなく、両者はバランスを取るのが望ましい。

●教育改革:◆教育委員会の設置を選択制に◆学習塾バウチャー制度の導入
●社会保障制度改革:◆年金を掛け捨て制と積み立て制の併用◆高齢者と現役世代の格差是正◆政府が国民に現金を給付するベーシックインカム制度の設計
 掛け捨て制と積み立て制は、現行の賦課方式年金を間に挟んで、理念的にもベクトルが真逆であり、たとえ過渡的形態としてもどう併用させるのか不明である。

●経済・税制:◆自由貿易圏の拡大◆法人税率と所得税率を引き下げ、資産課税と消費税を増税

TPPについては、トータルな国益上、以下の2点について相当な譲歩が担保されない限り、参加すべきではない。
◇貿易自由化・関税撤廃はあるべき方向だが、基礎的食糧に関しては有事の安全保障上、国際法で「食糧自給権」を確立し総カロリーベースで自由化制限すべきである事。
◇また、いわゆる「関税外障壁」に関しては、その国の文化や社会構造に直結するものもあり、いきなり全てを国際機関に提訴決着させる方法は乱暴すぎる事。
 なお、米国内も相手国から可能な限り利益を吸い取ろうとする経済界と中国を牽制したい国務・国防総省では思惑が異なり、後者に働き掛ける事により譲歩は引き出せるはずである。
 また、資産課税増税は、それが甚だしいものなら共産主義に近づき、経済活動への意欲を阻害するので自ずと限度があろう。また、預金に比べ現金残高の補足は技術的に難しく本物の「箪笥預金」が増えるかもしれない。
 消費税増税は、橋下氏のTwitter等によると一方で所得税の「消費額控除参入」で消費を促進する模様だが、ブレーキを踏みながらアクセルを吹かす事になるまいか。なお「消費額控除参入」は、スーパーのレシートを一年分集めて確定申告せねばならず、これも技術的には難しい。

●外交・防衛:◆日米同盟を基軸に、豪州も含めた3国同盟を強化◆日本全体で沖縄の基地負担の軽減を図る◆領土を自力で守る防衛力のあり方を検討
 「3国同盟」の意図は、中国の拡張主義に対する備えに他ならない。この趣旨を一歩進めてインドやロシア、韓国とも同盟乃至はそれに準ずる協定を結ぶべきである。

●憲法:◆首相公選制の導入◆参議院を廃止。代わりに主張が議員を兼務できる、国と地方の協議の場の議院を設ける◆以上を実現するため、憲法改正に必要な衆参の賛同を3分の2から2分の1に
 イスラエルに於ける首相公選制の導入は、中選挙区選出の議会で安定与党を構成出来ず政府が立ち往生し失敗に終わり廃止となった。この事からの教訓は、「意思決定の明確化・迅速化のための首相公選制導入は小選挙区制の徹底、比例区の撤廃と合わせ技で行うべし」である。
 「国と地方の協議の場の議院」は首長兼務の国会議員によって構成される模様だが、これでは国と地方の対立構造が強すぎる。強すぎる対立構造は、特に有事の時に危険である。当該議院と衆院の権限バランスにもよるが、何らかの形で首長以外の者も入れて対立構造を薄めるべきである。
 以上、今後の「船中八策」の具体化・明確化と読者の「橋下ウォッチ」の参考になれば幸いである。
  (KS生、千葉市)


(宮崎正弘のコメント)当該「船中八策」は危険な項目が二つあります。
 第一は道州制。これは中央集権国家を破壊するもので、頂けませんね。大前さんとか、隠れ共和主義者の主張です。
 第二は首相公選制。これは天皇伝統のわがくにの国体の在り方に直接抵触するもので、我が国は共和制ではなく立憲君主国です。首相公選など元首の公選ではないのですから軽々しく考えていいような政治目標ではありません。
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(三島研究会よりお知らせ) 過日御案内したスコット・ストークス著『三島由紀夫の生と死』の頒布ですが、すぐに先着30名様に達しました(2月16日午前6時)ので、この先のお申し込みがあっても配達不能です。なお16日午前6時前までにお申し込みの方には20日発送、23日までにはお手元に『ゆうメール』で届きます。
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