頂門の一針
“パンドラの箱”をどう閉める
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杉浦 正章
愚かにも民主党政権はパンドラの箱を開けて、消費増税二正面戦争の構図を作ってしまった。
5%の増税ですら綱渡りというのに、年金抜本改革に固執して最大7.1%増税など不可能の極みだ。
幹部の暗愚さにもあきれるが、首相・野田佳彦までが、30日になってもまだ2013年に抜本改革の法案を「提出する」などと言っている。
解散すれば明日をも知れぬ身になるというのに、来年の話など悪いジョークだ。
またしても出来もしないマニフェストが祟りにたたっている。
今度の場合、先頭を駆けてずっこけた「暗愚テイオー」は幹事長・輿石東だ。
その次が副総理・岡田克也、その次が官房長官・藤村修。
裏にはいまや「政権祟りマン」と化した元厚労相・長妻昭の「視野狭窄(きょうさく)」があった。
そして最大の問題はこれを統御できなかった野田の洞察力の欠如だ。
そもそも7万円の最低保障年金という莫大(ばくだい)な財源を必要とする問題を矢継ぎ早に出す力など、どこの政権にもない。
にもかかわらず1月6日に政府・与党が発表した一体改革の素案には、
長妻の強硬なる主張で新年金法案の13年国会提出が盛り込まれた。
鋭敏にもここに目をつけたのであろう、公明党が19日の与野党幹事長
・書記局長会談で、消費増税の協議入りの前提として年金の全体像の提
示を要求した。
野党としては民主党マニフェストの金看板を崩すための見事な“仕掛け”であった。深い意味も知らずに輿石は「環境整備をしてまいります」応じてしまったのだ。
こうした中で筆者が就任早々危ういと指摘した副総理・岡田克也が22日「年金抜本改革に必要な財源は、今回の10%には入っていない。さらなる増税は当然必要になる」と“2兎を追う”かのごとき発言をしてしまった。
追認したのは藤村。
23日に「将来に延長して計算していくと、消費税率は今のレベルで足りない」と述べ、2015年以降にはさらなる税率引き上げが必要になるとの見通しを示したのだ。
要するに政府・与党幹部が皆、ことの重大さを意識しないまま野放図な発言を確信犯的に繰り返したのだ。
鳩山由紀夫にせよ、菅直人にせよ、この党の政権には“遠謀深慮”の4文字はない。
問題は野田が消費増税一点突破の姿勢を維持していたにも拘わらず、これらの発言が問題化する前に手を打たなかったことだ。
やっと、ことの重大さに気づいた輿石が真っ青になって政府・民主三役会議で「15年に消費税が10%に上がり、その数年後にさらに7%上がると思われている。早く断ち切るべきだ」と主張したが、もう火の手は母屋にまで延焼しつつある。
鬼の首を取ったように自民党も公明党も31日からの予算委員会で追及する姿勢だ。
朝日新聞によると自民党幹事長・石原伸晃は公明党幹部に「まんまと乗ってきた。お手柄ですよ」と胡麻をすっているという。
この開いてしまったパンドラの箱をどう閉めるかだが、まず新年金制度の財源試算などさっさと公表してしまうことだ。
すべてのマスコミが公表してしまっているものを、政府だけが公表しないのは尖閣事件の漁船映像のケースと全く同じ「隠ぺい体質」だ。
公表した上で「試算は試算であって確立したものではない」と説明するのだ。
それを狙ったのかどうか分からぬが、厚労省が驚くべき将来人口推計を発表した。
50年後の日本は世界でも突出した高齢化スピードで、65歳以上が5人に2人を占めるなど、年金の根幹である人口形態が大きく変化するのだ。
これをチャンスとばかりに利用しない手はない。
新試算を作り上げれば良い。時間も稼げるのだ。
加えて、どうせ破たんしたマニフェストの金看板などに固執する必要はない。
政権内部でも年金抜本改革について「ただちに現実化できる方向には出ていない。
改めて時間をおいて再構築をせざるをえない」(財務副大臣・五十嵐文彦)といったまっとうな見直し構想が出ているではないか。
野田は30日「抜本改革法案は13年の法案提出を目指す」などと答弁をしているが、冒頭述べたように現行制度を根幹から変える大改革が来年可能になるなどと言う浅薄な判断をしているとすればは驚きだ。
それとも出来ないことを承知で言い続けるつもりか。
政治に虚構を入れて失敗したのは前2代の首相で十分ではないか。
ここは正直にマニフェストの“破棄”を宣言すべきところではないか。
財源案などあらゆる金看板が不可能になったのだからもう破棄しかあるまい。
その上で消費増税だけの一点突破に戻ることだ。
大謝りにあやまって、消費増税だけを生き残らせる。
これが野田に残された責任というものだ。 (政治評論家)