、レアメタルの争奪戦が世界で激化している。そんな今、 | 日本のお姉さん

、レアメタルの争奪戦が世界で激化している。そんな今、

本のモノづくりに欠かせない材料、レアメタルの争奪戦が世界で激化している。そんな今、廃物となった車、ケータイ、パソコンなどからレアメタルを回収するリサイクルをはじめ、使用量削減、代替材料探索などさまざまな取り組みが始まっている。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/関洋子)作成日:08.07.01

 金、銀、プラチナ、パラジウムといった古典的なものからルテニウム、ジスプロシウム、コバルトなど、比較的最近になってバリューが上がってきたものまで、希少金属、いわゆるレアメタルの国際価格が急騰している。1999年ごろには1000円/gを切っていた金は、今や3000円/gオーバー。プラチナも1500円/gから6000円/g以上となった。品目によっては、10年で10倍以上もの値上がりになったものも少なくない。また、特定の地域に偏在しているものも多く、安定供給の問題も取りざたされ始めた。


■電子材料からエネルギーまで、用途は多岐に広がる


 レアメタル高騰と安定供給、日本にとっては少なからず憂慮される事態である。日本のモノづくりは世界最先端の水準にあるが、そのモノづくりはレアメタルなくしては成り立たないからだ。東京大学生産技術研究所の岡部徹博士は、
「レアメタルの用途は多岐にわたっています。例えば自動車。麗しい曲面ボディを実現する高張力鋼板は日本のお家芸だが、強さと加工のしやすさを両立させる秘密は鋼材に数百ppmほど添加されるニオブというレアメタルです。ハイブリッドカーなどのモーターを高性能化させる“スパイス”となっているのは、中国が世界需要の9割以上を生産しているネイジムやジスプロシウムというレアメタルです」
 電子材料からエネルギー産業まで、レアメタルは多くの分野で必要不可欠な材料となっており、価格や供給状況はモノづくりに大きく影響するのである。

 そのような状況を受けて、にわかに注目度が高まっているのがレアメタルに関する
テクノロジー。なかでも熱い視線を浴びているのは、廃物となった電子機器や自動車
などに使われている貴金属を回収、再利用するレアメタル・リサイクルである。パソ
コンや自動車が宝の山といわれるのは今に始まったことではない。しかし最近は、レ
アメタルの価格が急上昇してリサイクルする価値がにわかに高まっているうえ、工業
製品の高性能化に伴ってこれらの廃品のレアメタル含有量が激増している。電子材料
や都市のインフラに蓄積されている莫大な量の金属は“都市鉱山”ともいわれ、天然
鉱山に代わるレアメタルの供給源としての重要性が高まっている。さらに、レアメタ
ルの使用量を削減する技術、既存のレアメタルに代わる新素材の研究なども注目され
ている。

■日本のリサイクル技術は世界のトップを走る


岡部徹氏
東京大学 生産技術研究所
准教授 工学博士

【プロフィール】
京都大学大学院を卒業後、マサチューセッツ工科大学博士研究員、東北大学助手などを経て東京大学准教授に就任。レアメタル、チタンの研究で知られ、各種学術論文賞を受賞するなどレアメタルの製造やリサイクル技術のエキスパートでもある。



 が、猫も杓子もリサイクルという今の状況は、むしろ“リサイクル・バブル”に近いと前出の岡部氏は言う。
「今は何でもかんでもリサイクルすればいいという風潮になっていますが、それは明らかに間違っています。リサイクルで大切なのは何よりもまずコストとスピード。そして、本当にリサイクルする必要性があるものかどうかを的確に選択することです。とりあえず積極的にリサイクルを行うべきなのは、貴金属などの高価で希少なレアメタルです。とくに、白金(プラチナ)などの、資源 が偏在し、供
給量が少ないレアメタルはどんどん回収して蓄積するべきです。リサイ クル技術や環境技術は、日本が他の先進国を一馬身以上引き離してトップを走ってい る状況ですが、今後さらに良い技術を作って
いく必要があります」
 リサイクル、リデュース(使用量削減)、リプレイス(代替材料への置換)の、レアメタル版“3R”の技術開発は、これからまさに旬を迎える。






■工業製品からのリサイクルニーズ高まる


 リサイクル技術で世界トップを走る日本企業。そのなかでも、とりわけ金、プラチナ、銀などの貴金属回収技術の高さで知られるのが、金などの相場情報で有名な田中貴金属工業である。創業120年以上の歴史をもつ同社は古くから貴金属リサイクル技術の開発を手がけ、すでに大きな回収実績を上げている。
 リサイクルを手がける化学製品事業部の奥田晃彦博士は、入社以来20年以上にわたり、貴金属回収技術の研究開発を手がけてきた人物。これまでの開発経緯を、
「金、銀製品から純度の高い貴金属を取り出す技術は比較的単純なもので、昔に比べて技術の概要はそれほど変わりません。大きく変わったのは、貴金属を使用した複雑な形態の工業製品からのリサイクル技術です」
 と振り返る。
 義歯や指輪など貴金属合金の製品から元の貴金属を取り出す技術は、すでに固まっている。金や白金なら王水(濃塩酸と濃硝酸を3:1で混ぜた液体)、銀なら硝酸、金銀の合金ならシアンに溶解させ、その後に金はヒドラジンによる還元、銀は塩化銀、白金は塩化白金酸アンモンと、それぞれ貴金属を分離して金属に戻す。また、貴金属メッキの廃液からの貴金属を電解回収する技術も確立している。
「時代が進むにつれ、分光技術の進歩などで、含有される貴金属やレアアースなどの検出限界が下がっていきました。今では1ppm未満のものも容易に検出できます」(奥田氏)
 装飾品のような旧来の貴金属合金の回収精製に対し、工業製品に含まれる貴金属の回収は、難易度が一段階上昇するという。工業製品のなかでも、基板材料などの不純物からの分離は一見大変そうだが、鉱石中には1トン中約数gか ら数十gの
金が含有しているのに対し、使用済みの携帯電話に含まれる貴金属は数百 gであることから、これらは都市鉱山とも呼ばれ、鉱石から貴金属を精するのに比べ れば容易であるともいえる。

■難しかった白金族金属同士の分離精製も実現


奥田晃彦氏
田中貴金属工業株式会社
化学製品事業部
製造技術セクション 
チーフマネージャー 工学博士

【プロフィール】
大学時代は化学工学を専攻。入社後は貴金属回収および粉体製造技術の研究開発に従事。貴金属の電解・溶媒抽出法を用いた回収精製プロセスを確立するなど、リサイクル技術の向上に貢献した。現在は化学製品事業部のリサイクル技術開発全体を監修。



 難しいのは、同じ族に属する貴金属が複数混在しているものから、純度の高い貴金属を分離、回収、精製することだという。
「リサイクルが難しいものの代表例としては、自動車用排ガス浄化触媒からの回収が挙げられますね。現代の自動車の触媒は白金、パラジウム、ロジウムといった複数の白金族金属が使われているのですが、白金族金属同士の分離精製はとくに難しいんです」(奥田氏)
 実は奥田氏は、難しいとされていたその白金族金属の分離精製を、電解と溶媒抽出を組み合わせて効率的に行う方法を考案した人物。
「ある金属同士を分離する実験を行っていたとき、ある条件下で通常では考えられない現象が起きたんです。何か間違ったかなと思って再度試してみたら、その現象には再現性があった。その結果をベースに、白金族金属をうまく回収できるプロセスを考案したんです。現在、自動車の触媒一本から1~2gの貴金属を回収できます。が、まだ研究の余地は大きい。白金族金属だけでなく、分離の難しい組み合わせはほかにもありますが、それらについても積極的に挑戦していきたい」(奥田氏)
 奥田氏はさらに、金のリサイクルについても新しい精製プロセスの開発に取り組んでいる。そのプロセスとは、「99.999%(ファイブナイン)のインゴットを得ること」(奥田氏)であるという。
「詳細は一切明かせないのですが、このシステムが実現すれば、私のイメージする究極のリサイクルシステムを100とすると、現状の50から、70~80のレベルに一気に進化すると思います。純金と呼べるのは純度99.99%ですが、宝飾品ではなく工業用材料としての金はもっと純度が高くないとニーズがない。私がファイブナイン(5N)にこだわるのは、リサイクル工程から半導体用の金線に使える材料を作りたいから。ハイエンドの世界では、フォーナイン(4N)の材料では特性がでないんですよ」(奥田氏)
 貴金属の回収工程に携わるエンジニア、工員の作業服や靴が古くなって廃棄する際にも、付着した微量の貴金属を回収するという田中貴金属工業。そのリサイクルテクノロジーはまだまだ進化する。



■金メッキのリードフレームから金を回収するプロセスイメージ






■リサイクル(回収再利用)技術

ソニー・住友金属鉱山――リチウムイオン電池からコバルトを回収

 携帯電話やデジタルカメラ、ノートパソコン用バッテリーなど、ポータブル電子機器には欠かせない存在となっているリチウムイオン電池には、レアメタルの一種で近年価格高騰が著しかったコバルトが豊富に含まれている。溶媒抽出法を応用し、そのコバルトを分離精製するプロセスをソニー・住友金属鉱山の両社が共同開発。またコバルト以外にも、電池に含有される銅、塩化ニッケルなども抽出可能だという。

DOWAエコシステム――廃家電や自動車からさまざまな金属を取り出す

 廃家電や使われなくなった電子機器の基板から湿式処理によるレアメタル回収を推進。また通常は単なる最終ゴミ扱いとなる自動車のシュレッダーダスト(解体時に出るくず)からも、銅を回収する技術を確立している。リサイクル処理だけでなく、グループでリサイクル材料を収集する活動なども行うなど、リサイクルのトータルソリューション提供に力を入れている。

■リデュース(使用量削減)技術

日産自動車――磁力線の有効活用で強磁界材料を削減する3Dモーター

 日産自動車が昨年技術発表を行ったハイブリッドカー、電気自動車向け3Dモーターは、従来型のモーターに比べて磁力線の有効活用の度合いを格段に高めたもの。モーターの効率をより高めるばかりでなく、視点を変えれば同スペックのモーターを作る際に、永久磁石のパワーを増強するレアメタル、ジスプロシウムの使用量削減に役立つことにも。

北興化学工業・ダイハツ工業――白金の使用量を劇的に減らした触媒

 ファインケミカルを得意とする北興化学工業と自動車メーカーのダイハツが共同で、白金、パラジウム、ロジウムの組織に自己再生機能をもたせた「スーパーインテリジェント触媒」を開発。長年の使用に際しても劣化は最小限にとどめられるうえ、白金の使用量を劇的に削減できるということで注目されている。

■リプレイス(代替材料置換)技術

中山製鋼所――従来の高強度鋼の置換材を目指し超鉄鋼開発

 工業製品用の材料として最もメジャーな材料、鉄。現在、橋梁や自動車、船舶など、さまざまな製品に高張力鋼板などの高強度鋼が使われているが、それらにはニッケルやモリブデンなどのレアメタルが混ぜられている。中山製鋼所は、そのような混ぜ物なしに強度を確保できる「超微細粒鋼」、いわゆる超鉄鋼の量産に成功した。レアメタル不使用とリサイクル性のよさの一挙両得だ。




■リサイクル分野では化学、金属、プラントなど多様なスキルのニーズが

 技術大国でありながら資源小国でもある日本。レアメタルの需要増や価格高騰により、リサイクル、リデュース、リプレイスの実現は急を要しており、ベースとなる技術のニーズも確実に高まっている。
 当面、資源不足を補うための対処技術としてもっとも期待されているのはリサイクル技術である。レアメタル、レアアースリサイクルのコアテクノロジーは、何といっても化学と金属材料だ。有機、無機化学、レアメタルの多くが属する遷移金属などについての総合的な知識が生み出すイマジネーションと実証実験の連続が新技術の創成につながる。また、レアメタルのリサイクルは「前処理→反応→還元→製錬」といった一定のプロセスを踏むのが一般的であることから、プラントエンジニアにも出番は大いにあるだろう。

■リデュース、リプレイスの研究開発はこれからが本番


 使ったレアメタルを捨てずに回収するリサイクルと並んで、レアメタル不足の解決に有効なのはリデュースだ。これにはおおむね2つのアプローチがある。ひとつはレアメタルの使用量を従来より少なくしても、同等のスペックを実現できるレアメタルの使い方の研究。そのベースとなるスキルは材料工学がメーン。特に物質の構造体をめぐる技術革新は、リデュースの実現力が高い分野であり、期待がもたれている。
 もうひとつのアプローチは工業製品自体の仕組みを工夫することで、レアメタルへの依存度を削減するというもの。こちらは材料に関する特別な知識は必要なく、スペックに対するレアメタルの貢献度合いが頭に入ってさえいれば、自ずと開発ターゲットが見えてくる。従って商品開発系のエンジニアにおいても、リデュースが自社製品の競争力向上の重要なファクターになるという認識を持つべき時代がきている。
 リプレイスは、3つの取り組みの中でも最も高いハードルだ。今のところ、白金やパラジウムなどの別物質への置き換えはほとんど成功しておらず、成功しているものも大半はほかのレアメタルへの転換といった程度のレベルである。研究開発は非常に盛んで、鉄鋼、非鉄金属、化学、窯業など、材料系メーカーと国や大学が共同で取り組んでいる。政府は代替材料の探索、開発を国家戦略上の重点課題と位置づけていることから、今後ますます開発が進むものと考えられる。エンジニアにとっては目下、格好のフロンティアと呼べる分野なのだ。
http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/tech/docs/ct_s03600.jsp?p=001364&vos=nynmyajw0002000