03年に、日本もアメリカと一緒に台湾の現状維持に乗り出したらしい | 日本のお姉さん

03年に、日本もアメリカと一緒に台湾の現状維持に乗り出したらしい

上海支局長・河崎真澄 米、台湾選挙「介入」の理由           
2012.1.22 03:01

 音訳で「包道格(バオダオガ)」という中国語名をもつ米国人ダグラス・パール氏が目をつぶり、半ば恍惚(こうこつ)の表情を浮かべているようにみえた。

 16日付の台湾紙の1面を飾った写真。台湾の総統選で再選された馬英九(ば・えいきゅう)氏を、開票翌日の15日に台北市内の総統府に訪ね、2人は肩を抱き合って喜びを表現した。

 パール氏は2002年から06年にかけ、当時は野党だった中国国民党の馬氏が台北市長だった時代に、米国の対台湾窓口機関、AIT(米国在台湾協会)で台北事務所長を務めた人物だ。米国と台湾に外交関係はないが、AITは事実上の大使館機能をもつ。台北事務所長は、いわば米国の台湾大使の役割を担っていたといえる。

 そのパール氏は投票2日前、地元テレビ局のインタビューで「現職の馬総統が再選されれば米国と中国大陸は安心し、米台関係も安定緊密になる」などと話した。

 さらにパール氏は、世論調査では小差だった野党、民主進歩党の蔡英文(さいえいぶん)候補が当選した場合、「米国政府は直ちに台湾に中台関係の現状維持を促す」とまで発言。野党陣営からは、「米国の選挙介入ではないか」と反発が起きた。

 AITは13日、「パール氏はすでに退職しており、個人的見解にすぎない」と火消しに回った。

 パール氏の発言がどれだけ馬氏の得票に結びついたか確認するすべはないが、総統選の結果は、この米国人の願い通りとなった。

 ◆「新憲法」制定を阻止

 実は03年に、米国は台湾の民主主義の試みに“介入”した前歴がある。

当時は与党だった民進党の陳水扁(ちん・すいへん)総統が同年9月、「中国国民党が中国大陸で制定して台湾に持ち込んだ『中華民国憲法』を破棄し、06年に『台湾新憲法』制定を」と呼びかけたときのこと。


 陳政権が新憲法制定の原動力にしようと成立をめざした「住民投票法」に、中台関係悪化を懸念した当時のブッシュ政権が「台湾独立反対」と主張して反対した。


 陳政権時代に総統府の国策顧問を務めた故黄昭堂(こう・しょうどう)氏は、「民主主義を理想とする米国が、まさか住民投票に反対するはずがない」と自信を示していた。

だが実際はAIT台北事務所長だったパール氏がブッシュ大統領の反意を、陳政権に対して強硬に伝えてきた。

 米国の意をくんだのか、日本も対台湾窓口機関の交流協会台北事務所を通じて、陳政権の「住民投票法」を阻止する動きに出た。

 ◆住民投票の「明と暗」

 陳氏は04年3月の総統選で再選されたが、5月の就任演説で「憲法に独立は盛り込まない」とトーンダウン。

その瞬間に選挙公約だった「台湾新憲法」構想は消え去った。

日米が足並みをそろえた反発が台湾民主化の前進を阻んだ。


 なぜなのか。AITでパール氏に近かった米国人職員は、「仮に台湾の世論が将来、大きく変化して『中国大陸との統一』を住民投票で選択してしまった場合、米国は西太平洋で安全保障のカギを握る台湾を失うことになる」と真顔で答えた。たぶん本音だろう。


 共和党ブッシュ政権の動きと民主党オバマ政権下でのパール氏の発言に関連性があるかどうか。

 そこまで深読みはできないまでも、住民投票に刺激された中国が暴挙に出るとの懸念から、米国は結局、台湾の民主主義の成熟という理想よりも、中台関係の現状維持という現実を優先したことは確かだった。

民進党はその真意を読み間違ったのではなかったか。

 ◆共産党を誰が抑えるか

 1949年に中国大陸での内戦に敗れ、台湾に逃れた故蒋介石(しょう・かいせき)元総統率いる国民党政権。

87年まで実に38年間もの間、台湾に戒厳令を敷き続けた。

圧政に苦しみもがいた台湾生まれの住民の悲哀こそが、国民党による一党独裁体制を変えた民進党の原点といえる。

 だが、それでも今回の総統選は国民党が勝利した。

陳前総統夫妻の金銭疑惑に揺れた民進党の失態もある。

台湾の経営者らが中国ビジネスを考慮し、相次ぎ国民党支持を打ち出したことも背景だ。

 ただ、台湾の有権者には強烈な勢いで政治力、経済力、軍事力を増す共産党の中国に対し、好き嫌いにかかわらず国民党のもつ交渉力に希望を託す以外、選択肢はごく限られていたようにみえる。

 東西冷戦時代に「大陸反攻」を掲げた蒋介石政権があり、それを米国が軍事支援したことで、台湾は共産化を免れたという側面があったことも認めねばならない。

 共産党の暴走に歯止めをかける必要に迫られたとき、米国は正面からの軍事対抗に加え、共産党と1世紀近く「内戦と合作」を繰り返してきた国民党の交渉力にかけたフシがある。

台湾の有権者がパール氏の発言からそこまで嗅(か)ぎ取ったとすれば、生存にかけた現実的な感覚は称賛されてもいい。

国際政治の現場は、かくも厳しい。(かわさき ますみ)http://sankei.jp.msn.com/world/news/120122/chn12012203020000-n1.htm