チュウゴクの経済は、ゾンビねずみ
宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23(2011)年 11月10日(木曜日)貳
通巻第3480号 中国経済はポンジ(ねずみ講)か、ゾンビ経済か
バブル破綻は向こう二年間に不動産価格70%下落しなければ収まらないのでは?
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一時、盛んにいわれた「ゾンビ経済」とは、実際には生産も営業活動もとまって、死んだようになっている企業が、なにかの理由で銀行の金融テコ入れが続けられ、幽霊のごとく生きている様を表す。
まさに中国の国有企業や銀行、そして鉄道部(中国の国鉄)がそうである。
『ゾンビ経済学』の著者=ジョン・クィギン(ジョンズ・ホプキンス大学客員教授)は、中国よりむしろ「EU経済が、運用を誤ればゾンビ化する」と警告している(NYタイムズ、11月9日)。
同教授によれば、ユーロの失敗はギリシア、スペイン、イタリアの経済失墜が原因ではなく、欧州中央銀行の金利政策の失敗によるものであり、いたずらにギリシアの怠慢を批判するのは前総裁トルシェの責任逃れであると断じている。
現在の欧州中央銀王総裁はドラギ(イタリア人)、就任早々にやったことは金利引き下げだった。
インフレ抑制を2%以内として、金利政策を展開したトルシェ路線の否定である。
オリンパス光学の虚偽申告による『飛ばし隠し』は、およそ1000億円以上に達するらしいが、この場合はゾンビではなく、ポンジ・スキームに似ている。
ポンジは『インチキ商法ネズミ講』のようなもので、架空の儲け話をでっち上げてカネを集め、しかし高金利で参加者を募っているため、最初は高利をしはらいつづけ、ついには破綻する構造。
オリンパス光学は飛ばし損失を隠すために十年以上にわたって虚偽申告を続けてきたが、その間、本業のデジカメと医療機器が売れていたからである。
好成績のうちに欧米で企業買収をはかり、そのM&Aへの信じられない高額コンサルタント費用の発覚によって、ついにインチキがばれた。
株価は真っ逆さまに大暴落。倒産を逃れるには、たとえばニコンか、富士フイルムとの合併しかないのではないか? このままでは山一証券の二の舞になる懼れがある。
▲それでも中国経済は大丈夫と獅子吼する人たち
さて問題は中国の「ゾンビとポンジ・ミックス」という経済構造である。
繰り返し述べてきたように、幽霊屋敷のような副都心を建設したり(典型例は内蒙古省オルドス市)、誰も住んでいない豪華マンション(上海で四割暴落、杭州で三割暴落)など、すべては箱物、投機の対象として建設され、マネーゲームが続けられた。
実需はなく、虚需によるものだった。
成長率が10%あれば、金利が10%でも借入金を転がして、転売すれば儲かる。
成長率が7%を割り込むと、金利逆ざやとなって返せなくなる。だからたたき売りとなる。
デベロッパーも手元資金が枯渇すれば、たたき売りしかない。
銀行は新たな貸し出しをしないから、地下銀行か高利を求める。悪循環が開始されたのは二年も前からだ。
国有企業のいくつかも、事実上生産が停止しているのに上場を維持し、カンフル注射が続いている。理由は共産党幹部が経営者だったりして、メンツ上、つぶせないからである。
自由主義経済ではないから、倒産する自由もないのだ。
それでも中国経済は大丈夫と獅子吼する人たちがいるが、どのような了見なのであろうか?
あらゆる経済活動は上記のようにゾンビとポンジの混交であり、バブル破綻は秒読みとみて良い。
その規模はウォール街の予言師=シャノスが嘗て言ったように「ドバイ・ショックの一千倍」くらいの激震となるだろう。
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 667回】
――独裁者は、独裁者の失敗から何も学ばない
『スターリンの子供たち』(オーウェン・マシューズ 白水社 2011年)
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著者の祖父は、1930年代初期にウクライナの原野に世界最大級のハリコフ・トラクター工場(略称はKhTZ)を建設するという大功績を挙げながら、後にスターリンによって粛清されたボリス・ビビコフ。
祖母は、その妻。母親は「人民の敵」を両親に持ったことから辛酸を嘗め尽くすことになるボリスの下の娘で、父親はモスクワのイギリス大使館で働いていた時に彼女と結ばれるイギリス人。
著者はソ連崩壊後のロシアとその周辺の国際社会の激動を見続けているジャーナリストである。
表紙の帯には「冷戦下、過酷な運命に翻弄され、英国とソ連に離ればなれになった両親の足跡と、『家族三世代の愛と闘い』をたどる長い旅。ロシア版『ワイルド・スワン』と激賞された、感涙の傑作ノンフィクション!」と記されている。
だが、敬愛する父親を狂死に至らしめた張本人は毛沢東だとし、行間から毛沢東への個人的怨念が滲みだすような筆致で綴られている『ワイルド・スワン』とは違って、著者は独裁者スターリンの犯罪性を鋭く告発するものの、個人的恨みは驚くほどに抑制気味だ。
それだけに理不尽極まりない仕打ちを平然と繰り返す独裁者への恐怖と底知れぬ憤怒が、ヒシヒシと伝わってくる。
スターリン治下のソ連における日々――著者が描き出す彼と血で繋がる人々の苦闘の歴史は恐ろしいまでに興味深いが、なによりも驚かされるのはスターリンの政治に毛沢東が猛進させた大躍進政策を連想させるものがあり、独裁者の意に沿うように振る舞わざるをえない人々の滑稽であるがゆえに悲惨すぎる姿だ。
以下、2,3ヶ所を挙げてみると、
■今や一九三〇年の冬が始まり、ウクライナ全土とロシア南部に空腹が襲いかかった。数百万人の農民が避難民と化し、都市に殺到、キエフやハリコフ、リボフ、オデッサの街頭で息も絶え絶えになった。飢餓地帯を通過する列車には襲撃を避けるための武装衛兵が配備された。ロシアの世紀につきまとう最も忌まわしいイメージのひとつは、虚ろな表情をした農民がウクライナのある市場の露店で、バラバラにされた子供たちの死体を食肉として売っているところを撮った写真だ。
■夢想家であるよりは実務管理者である草の根レベルの党員たちは男女を問わず、常軌を逸した変革の速度に持ちこたえるのは不可能なことをその目で見抜いていた。けれども、世情に疎い扇動者であるスターリンは、破滅的な結果が明白なのにもかかわらず、生産力増強、収穫高向上、集団化促進への精力的な取り組みを呼びかけた。
■彼らは集団化の速度を落とすキーロフ提案にもろ手を挙げて賛成する。それは致命的な過ちだった。既に被害妄想に捕らわれていたスターリンの心中では、集団化の無謀な速度を緩和しようとするキーロフの試みは、革命を率いるイデオロギー上の指導性への許し難い侮辱であり、挑戦であった。スターリンはだれがどのように票を投じたかを忘れはしなかった。復讐は四年かけて行われた。
■スターリンが党大会で見分けた、党の心臓部に潜む敵どもに対する復讐に出るには、時間はたっぷりとあるのだ。
ここに挙げた記述のうちのスターリンを毛沢東、キーロフを大躍進に異を唱えた彭徳懐国防部長(当時)、カタカナの地名を適当に漢字の地名に置き換えれば、そのまま50年代末から文革に続く数年間の中国といっても間違いないだろう。
やはり独裁者は、独裁者の失敗から何も学ばない・・・随意学習・天天向下 ?!
《QED》
W ◆書評 ◇しょひょう ◇ブックレビュー ★
三浦小太郎『嘘の人権 偽の平和』(高木書房)
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いま日本の保守は「人権」や「自由」の価値をわすれていはしないか、逆に現代日本人の抱く、いいかげんな人権思想は、国家を崩壊させる危険性をはらんでいると正面から日本の知的退廃に斬り込んだ。
この本の著者は哲学の衰退を慨嘆しつつ、なぜか保守が見向きもしない思想家のサルトルへと矛先を向ける。
評者(宮崎)が学生時代、サルトルは全盛だった。高校時代に『嘔吐』と『存在と無』を夢中になって読んだが、まったく咀嚼出来なかった。ハイイデカーもショーペンハウエルもベルグソンも難しかった。ニーチェのほうが至って分かりやすかった。
サルトルは左翼思想をまき散らし、『朝日ジャーナル』などではカリスマ化されていた。サルトルが伴走者だったボヴァワール女史と日本にきたときは朝日新聞が連日、その動静やら講演内容をおおきく取り上げていたが、あの顔をみると嘔吐を催した。
サルトルの著作は殆どを古書屋に売り飛ばした。
あれから四十年。サルトルが晩年に『変節』し、フランスの保守思想家のレイモン・アロンと握手していたことなど知る由もなかった。
アロンは『マルキシズムは知識人のアヘン』という明言を吐いた。作品集は日本でも翻訳が出て、評者も一時、全巻をそろえていた。三好修、村松剛、小谷豪治郎らが高くアロンを買っていた。
さて三浦氏はサルトルの再評価を次のように始める。
「レヴィがサルトルを論じることにはかなりの違和感」と抱く著者は、その理由を「彼は「フランス新左翼活動家として思想的に出発しソルジェニーツィン体験を経て、共産主義体制を政治的にも哲学的にも全面的に批判、同時にサルトルに代表される「左翼同伴者」「左派リベラル」「第三世界民族解放運動支援派」的知識人の欺瞞性を厳しく批判していた筈だったからだ」。
サルトルは長いあいだソ連、中国批判を躊躇った。転換点は1968年、ソ連のチェコ侵略だった。
「サルトルの行動・発言には、欧米知識人の自己批判、植民地主義批判としては大変勇気ある、また思想的にも価値の高い発言が多かった」
だが、新左翼は挫折し解体し、「それ以降も歴史は残酷なまでにサルトルの希望を打ち砕いた。(中略)」。サルトルもやがて自己批判、マルクス主義批判に移行するが、「やはり一流の思想家としての矜恃を示す」
1979年、ベトナムのボート難民救済に参加したサルトルは、「保守派の代表的知識人で『宿敵』とまで言われた保守派知識人、レイモン・アロンと」握手したのである。
これを三浦小太郎氏は北朝鮮に拉致されて日本人救済運動に参加しない左翼の「知識人」の「勇気のなさ」と繋ぎ、つぎのように論詰するのである。
「日本になぞらえれば、大江健三郎・江藤淳の両氏が中朝国境の北朝鮮難民救援のために連帯したに等しい出来事」だが、日本はそれができない。ゆえに「日本の戦後民主主義がついに政治的党派性を超えられなかった限界」をみる。
本書ではほかに在日朝鮮人の某大学教授を批判し、また?田恒存、勝田吉太郎、渡辺京二を論じている。
かなり重い哲学書の趣きがある。
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(編集部より)前号書評欄の?多久『近代日本と日の名残り』ですが、著者名が文字化けしていると何人かの読者から問いがありました。著者名は「?多久」です。
きたる11月25日は没後41年、三島由紀夫追悼「憂国忌」です
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とき 11月25日(金) 午後六時半(六時開場)
ところ 星陵会館二階ホール
http://www.sfseminar.org/arc2004/map.html
会場分担金 おひとり2000円(賛助会員のかたはご招待)
プログラム
1830 開会、黙祷
開会の辞 松本徹(三島文学館館長、文藝評論家)
1840 記念講演 新保祐司(文藝評論家)
演題 「三島由紀夫と崇高」
1950 発言 石平
2010 閉会の辞
2015 「海ゆかば」合唱
2020 閉会
ご参加の皆さんには記念小冊子を謹呈します
どなたでも予約なく参加できます
主催 憂国忌実行委員会
お問い合わせ 090―3201―1740
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◎村松英子さん、和敬塾サロン 開演せまる!
村松英子さん、和敬塾サロン 第九回公演のお知らせ
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原作 村松英子
演出 藤井ごう
海を越えてーーエミーとジョン
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目白台 和敬塾内(旧細川サロン)
http://www.wakei.org/honkan/contents/html_menu/access.pdf
入場 五千円(全席自由) 前売り発売中!
お問い合わせ 3945-5384 サロン劇場
主演 村松英子、中山仁、村松えり ピアノ 村岡佐喜子
11月23日 午後二時(公開ゲネプロのみ、この日だけ4000円)
11月24日 午後七時から
25日 同
26日 午後二時
27日 同
28日 同
29日 午後七時
30日 午後二時
12月1日 午後二時
和敬塾
文京区目白台1-21-2
アクセス 目白駅より都バス(白61)十分 目白台三丁目下車
江戸川橋より都バス(同)五分
メトロ有楽町線「護国寺」徒歩十五分
憂国忌代表発起人のおひとりで、三島由紀夫戯曲のほとんどに主演された村松英子さん、ひさしぶりのサロン劇場です。公演は一時間ていど、終わってから小一時間のパーティがあります。前売り中です!
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宮崎正弘の新刊
増刷出来!
『中国大暴走 高速鉄道に乗ってわかった衝撃の事実』(1365円、文藝社)
――中国新幹線を全部のりつくした筆者が、現場からなまなましい実相を報告する!
http://www.amazon.co.jp/dp/4286114228/
『中国は日本人の財産を奪いつくす!』(徳間書店 1260円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4198631565/
<宮崎正弘のロングセラー>
http://miyazaki.xii.jp/saisinkan/index.html
『自壊する中国』(文藝社文庫、672円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4286109364/
『震災大不況で日本に何が起こるのか』(徳間書店、1260円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4198631670/
『中東民主化ドミノは中国に飛び火する』(双葉社新書、880円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4575153753/
『ウィキリークスでここまで分かった世界の裏情勢』(並木書房、1470円)
『オレ様国家 中国の常識』(新潮社、1470円)
『上海バブルは崩壊する』(清流出版、1680円)
<宮崎正弘の対談シリーズ>
『猛毒国家に囲まれた日本』(佐藤優氏との対談。海竜社、1575円)
『増長し無限に乱れる「欲望大国」中国のいま』(石平氏との対談。ワック、945円)
『絶望の大国 中国の真実』(石平氏との対談。ワック、933円)
『日米安保、五十年』(西部邁氏との対談。海竜社、1680円)
『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との対談。徳間書店、1575円)
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