いずれ日本の防衛は根底的改編を余儀なくされるだろう。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23(2011)年 11月8日(火曜日)貳
通巻第3476号
パネッタ国防長官は予算局長出身、国防費削減に大鉈を準備
在日米軍は予想以上の規模で縮小されるだろう
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911以来の十年間で米国の国防費は4000億ドル台から7000億ドルへと膨張した。
これが米国の予算からフレキシビリティを除去し、きわめて窮屈なものにした。
国債金利3000億ドル分をあわせると、ほかのことにカネを振り向けることは不可能に近い。
レオン・パネッタ現国防長官は、もともと予算局長、日本で言えば大蔵省主計官(財務省財務官)、換言すれば、片山さつきが防衛大臣に就任し、ばっさばっさと防衛予算を削ってゆく様を連想すると良いだろう。
とはいえパネッタは軍隊歴もながく、陸軍中尉で退官、その後、政治家秘書、弁護士を経験し下院議員に。議員歴も長く16年間、最後は予算委員長だったが、この経験を買われ、行政管理予算局長(準閣僚級)となる。
クリントン政権下で大統領首席補佐官。オバマ政権発足とともにCIA長官に抜擢され、2011年四月、引退するゲーツと交替して国防長官。いわばベテラン政治家である。
大幅な予算削減に乗り出した。パネッタはNYタイムズとのインタビューで、次の十年間に4500億ドル削減を上回る5000億ドルもの予算削減をするとし、その大枠を語った(同紙、11月8日付け電子版)。
それに拠れば、「効率重視、有効な戦力の維持」を目標として、
第一に兵力を57万人から52万人に削減する。別途「海兵隊」を202000人から186000人へ削減する。
第二に不必要な基地を閉鎖する。内外を問わず基地の効率的再編を実現する。
第三に軍人恩給という「聖域」にも削減対象を含める。
第四に中間目標として2017年までに国防予算全体を5225億ドルとする。
第五に新兵器の開発並びに配備の予算を削減する(となると次期戦争機の開発予算も削減される)。戦略核兵器削減のスピードアップを図る。
第六はNATOに駐留する米軍兵力の劇的削減。国際的な軍事的脅威は中東とアジアへ移行したとする認識から欧州の基地の閉鎖も「聖域」対象を外す。
第七に、そうはいうもののサイバー攻撃対策費用、特殊部隊の維持、ドローン(無人攻撃機)などの維持拡大は削減対象に含まないとする。
現実に現行予算7000億ドルのうち、通常経費は5300億ドルとされ、余分の1700億ドルがイラク、アフガニスタン戦争のための追加措置である。
このうち年内にイラクから撤退するので、予算面では比較的大鉈をふるえる分野だが、とくに議会が反対に回るのは自分の選挙区にある基地の閉鎖だ。
議会からの削減反対圧力を、パネッタが強くはねのける政治力があるか、どうかが問われる。
在日米軍ははやくからグアム以東への撤退がきまっているように、いずれ日本の防衛は根底的改編を余儀なくされるだろう。
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樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 666回】
――ならば、“コンビニ歴史観”と名づけましょう・・・
『金田起義』(広西師範大学歴史系《金田起義》編写組 広西人民出版社 1975年)
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科挙試験に挑戦しては失敗を繰り返し不遇を託っていた洪秀全(1814年生まれ)はキリスト教の教義と中国古典の考えを結びつけ、ある夜の夢に導かれるように地上に万民平等の王国建設を思い立った。
先ず拝上帝会を組織し仲間を広げてゆく。天朝田畝傍制を布いて地主から農地を取り上げ、貧しい農民に分配する。いわば毛沢東が農民の支持を取り付けた土地改革の原型といえるだろう。洪秀全の周りには農地を求める農民だけでなく、仕事にあぶれた運送業者、港湾荷役人足、果てはゴロツキなど不平不満分子が集まってくる。
かくて1851年、広東省西隣の金田で挙兵。清朝に叛旗を翻し、太平天国を打ち立てた。
清朝を正統王朝だと看做すなら洪秀全の動きは「乱」。
だから一般には「太平天国の乱」と呼ぶが、清朝支配に歴史的正統性なしとする共産党は「太平天国革命」「農民革命」と讃える。この本は後者の立場で書かれているから、書名は『金田起義』でなければならない。
この本では19世紀の半ば当時を西欧植民地勢力による略奪と圧迫に対するアジア、アフリカ、ラテン・アメリカにおける「民族解放闘争の最初の高揚期」と捉え、太平天国の金田挙兵から瓦解(1864年)までを、世界史的象徴と看做している。まさに毛沢東のいう「何処であれ搾取があり、圧迫があれば、必ずや反抗があり、闘争がある」というわけだ。
攻略した南京を天京と名づけ都とするなど、一時は揚子江以南を制圧した太平天国だったが、?急拡大する版図に統治機構整備が追いつかない。?版図内農民に平等に農地を分配できなくなった。?地主を中心に各省有力者が結束し郷土防備のための軍隊(=郷軍)を組織し抵抗した(この勢力が後の軍閥の温床となる)。?列強が在中利権確保のため軍事防衛行動にでた。?指導部内での対立が激化した――などから、太平天国は崩壊する。
この本は「金田起義は漢民族人民を主体に、チワンや瑶などの兄弟民族と共同して起こされた」。
「太平天国の指導者たちは当初から革命の団結に注意を払い、圧倒的多数の貧苦の農民を自らの周囲に団結させ、分散する革命の力を革命の巨大な流れに結集させた」。
「軍民が団結し、上下が団結し、共に手を携えて敵に当たる。これも太平天国の基本的な経験の1つだ」と総括するが、この路線は共産党公認の毛沢東革命路線に酷似している。
太平天国評価を装いながら、その実、毛沢東を持ち挙げている。つまり、手前味噌である。
「太平天国革命の偉大な歴史的功績は永遠に消え去るものではないが農民革命にすぎず、やはり階級的・歴史的条件から限界は明らかであり」、
「反帝国主義・反封建主義闘争の任務を果たせない。事実が証明しているように、毛主席と中国共産党があり、毛主席の革命路線の指導があってこそ、帝国主義とその走狗による中国の反動的支配に最終的に打ち勝ち、孔孟の道を徹底的に批判し勝利することができるわけであり、歴史に付与された我らの偉大なる使命は完遂する」と結論づける・・・いかにも、御意。ご無理ごモットモ。
要するに、この本の主張に拠れば、歴史は毛沢東前(Before Mao=BM)と毛沢東後(After Mao=AM)の2つしかなく、AM時代こそが真っ当な歴史であり、BM時代はAM時代を導くための一種の“捨石”でしかなかった、ということになる。
これを言い換えるなら「BM・AM歴史観」。どこぞのコンビニ・チェーンの店名のようだが、コンビニを中国語で訳せば「便利店」。
ところで「チワンや瑶などの兄弟民族」とは便利な表現だ。少数民族を下に見ているくせに身勝手が過ぎようというもの。
徹頭徹尾の自己チューには誠意すら感じられそうにない。そう、コンビニ店員が口にする「いらっしゃいませ、こんばんは」と同じだ。
《QED》
(宮崎正弘のコメント)毛沢東の先駆者として、中国共産党が洪秀全を高く高く評価しているのは次の事例でも明らかです。
書店には洪秀全伝記がかなりたくさん出回っています。
太平天国を鎮めた曽国番への評価も、近年ずいぶんとあがりました。しかし太平天国を事実上壊滅させたのは英国の火力だったことには誰も触れていない。
生まれた家は博物館になって保存されており、行ってみると訪れる人はまばら、広州市花都の郊外ですが、広州市北郊外、飛行場にちかい花都区内には大きな記念館があって前庭には噴水までありました。
南京の故宮には洪秀全の「玉座」があります。壁画は巨大な太平天国の絵図、庭にはやっぱり巨大な洪秀全の銅像が屹立しています。
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読者の声 どくしゃのこえ 読者之声 READER‘S OPINIONS
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(読者の声1)貴誌通巻第3474号(読者の声1)でSJ先生が財務省官僚や日銀職員に関して「現在の選良らに、通貨は主権と明確に自覚できないのは、去勢された教育で育った『優等生』だからと思います」
と書かれました。
問題の根幹は彼ら程度の人間が優等生と見なされるほど本物の優等生が日本の文官に払拭していることです。
米国の一流大学は、日本の「一流」企業や官庁や日銀が派遣してくる組織内秀才用の枠を持っていて、英語も速読力も思考力も不十分で勉学についいていけない彼らをおだてて、米国のシンパ、操り人形に仕立てるメカニズムがあるようです。
彼らが留学して学位をとっても、物理学や化学で一流学者に将来なる日本人留学生とは全く違うカテゴリーに属します。
派遣元企業からの寄付と、官僚や日銀職員の場合は将来出世したときにかれらに影響力を行使することが目的で、勉強ができなくても置いてもらっている存在です。
今、日本に必要なのは、粟田真人のような本物の秀才です。劣等生ではありません。
また、中川先生の牧畜と奴隷制との関係に関する議論が専門的過ぎたとして論争止めになったことを残念がられましたが、私はそうは思いません。
中川先生の御著書を読んだ上で意見を述べるのならともかく、読めば出てこないような初歩的な質問をして、お金と読む時間を節約して、しかも自分の興味にテーラーメードの答えをもらおうとするなど不遜の極みです。碩学の学者であられるSJ先生ならこのことをご理解いただけると信じます。知りたければ中川先生の御著書を読めばよいのです。
あの議論の中で真に独創的な指摘は、アヴァール族に代表されるトルコ系諸族の情報のネットワークから得たものを如何に西北ヨーロッパが吸収し、大変貌を成し遂げたかのみです。
これは、ベネツィアを創めとするイタリアの諸都市がルネッサンスを引き起こすに当たって、アラブの諸学者による研究結果が果たした役割と同じかさらに大きなものです。
九州北部から千葉に至る日本の海岸沿いの回廊地帯で平安時代から鎌倉時代に活動していた血縁と業縁で結ばれた者達に繋がる日蓮が蒙古来襲が必至であることを知ったのも同じ趣向です。
フランク族に同化した内なるトルコ族と外なるトルコ族であるオスマンとの16世紀に於ける戦いはその第二幕ともいえるものです。
(ST生、千葉)
(宮崎正弘のコメント)ご指摘の中川洋一郎(中央大学教授)の著作は『ヨーロッパ経済史?』(学文社、2800円)です。
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(読者の声2)北米での中国人留学生が激増していますが、面白い記事がありました。米国でも中国人お得意の書類偽造や成績改竄が横行しているようです。
「中国人留学生の大量発生に米国の大学は困惑=金はあるけれど―米紙」
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=55753
(引用始め)「中国人留学生の申請の不備・改ざんが明らかになっても、中国市場に不案内な米国の大学は玉石混交の申請業者の見分けができない。米国大学への留学を希望する中国人学生向けコンサル業務を行っているZinch China社は昨年、250人の米国留学を考えている北京の高校生や親に十社以上の仲介業者などに対する取材報告を提供した。これによれば、中国人学生の90%に推薦書の偽造があり、70%の論文がつぎはぎで、50%が高校の成績を改ざんし、10%が受賞歴などを偽造していたという。」(引用終わり)
別の記事では「米国に留学する高校生の数、5年で100倍以上増える」
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=55626
として『米国の全寮制高校の学費は年間約5万ドル(約390万円)。
これほど高額にも関わらず、留学した人の数は2005~2006年の65人から2010~2011年は6725人と5年で100倍以上も増えた。
その背景には中国の厳しすぎる受験戦争もあるようだ。ある保護者は「中国の教育は子どもへの負担が大きすぎます。外国で個性を伸ばす教育を受けさせたいと思っています」と話した』とあります。中国人も韓国人と同じで国に対する愛着などありませんから、子供の留学を足場に海外への資産逃避、いずれは移住も視野に入れての選択かもしれませんね。
(PB生、千葉)
(宮崎正弘のコメント)この記事、小生も或る雑誌のコラムに書こうとしていたのですが、先に紹介されてしまいましたね。ともかく英語がまるっきり話せない中国人が大量に米国の大学をめざし、その上、エッセイは英語通に代筆させているそうです。
MBAにしても、「いかに効率よく、短期に取得するか」というハウツー本が中国の大都会の書店にあふれています。要は学問をしたいのではなく、人生上の処世に便利な武器をさっと身につけたいという中国人に普遍的な、直裁な動機です。
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