日本のハイテク企業がチュウゴクに
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23(2011)年10月3日(月曜日)
通巻第3438号
そんなに急いで何処へ行く。拙速のハイテク企業が中国へ工場移転
ハイテクとマネジメントに優れていても、彼らの気迫、迫力、気概に勝てるのか?
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日本のハイテク中枢部品は日本でつくり、中国へ台湾へ韓国へ。これが日本の企業戦略で、畢竟するに日本の生き残りをかけての戦略だった。
円高により、この生き残りも叶わなくなった。
新日鐵は特殊鋼、自動車鋼板の技術を中国へ提供した。
トヨタは中枢エンジンを中国で生産する。ホンダも日産もこれに倣う。
電子部品各社は、ついに中国国内に工場を移設する。日本電産とロームは吉林省長春へ、同日本電産は湖北省武漢へも。村田製作所、ローム、TDKは重慶へ。これら四社にくわえてアルプス電気は四川省成都へ。TDK,村田、ロームの三社は陝西省西安へも。
これらはハイテクの中でも量産部品に属するものでカスタム用集積回路、コイル、コンデンサー、小型スィッチ、パソコン部品など。従来、中国沿岸部で生産してきた部品を人件費の値上がりなどの理由で内陸部へと工場移転に踏み切った。
衝撃的ニュースはリチウム電池の主力をごっそりと中国へ移転するパナソニックだ。
将来のエコカーなどの中枢部品お一つ、中国が喉から手が出るほどの欲しい技術。
またレアアース出荷停止により、昭和電工など多くのレアアース原材料関連の日本企業が、ごっそりと中国へ工場移転させるように、中国内陸部への移転は、結果的に中国のハイテク取得戦略に合致する。
元凶は円高なのである。
それでも円高は日本の国益と嘯くエコノミストや御用学者、経済ジャーナリストが目立つのは木を見て森を見ざる類か、或いは外国のエージェントを結果的に果たしているのか。自覚がない代理人ほどやっかりな存在はない。
しかしたとえ、日本側がハイテクとマネジメントに優れていても、彼らの気迫、迫力、気概に勝てるのか? 懸念材料はつきない。
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(読者の声1)貴著『中国大暴走』(文芸社)を拝読、「目からウロコ」状態となりました。
とくに固定相場復帰に関しては、ナルホドナ~と驚嘆しました。
それなら米ドルは? と思いを巡らしました。リーマンショック時に盛んにドルの金本位制回帰のコメント記事などが出ていた事を思い出したのです。
中国でも金備蓄を余念無く進めているようですね。
行うとすれば大量の金備蓄を持つアメリカが金兌換紙幣回帰のタイミングをどこら辺で行うのでしょうか。先生のご見解をお聞かせくださればと思い送らせていただきました。
(KT生、大阪)
(宮崎正弘のコメント)ドルの金本位復帰が本気で論じられたのは1981年。レーガン政権のときです。政権内に「金問題委員会」(ドナルド・リーガン財務長官が座長)を発足、専門家を呼んで討論を重ねましたが、結局、見送られました。
それ以前のカーター政権のときに一度、一ドル=240円レベルが、170円台に落ち込んだとき、欧州のマスコミが盛んに書いていたのは米ドルが金本位に復活し、そのとき同時に新札を出して、出回っている旧札のデノミを一気にやってしまうという観測でした。
以後、米ドルの為替調整はベーカー財務長官が主導した「プラザ合意」で、日本円切り上げを押し切られ、クリントン政権のときには「ビナインネグレクト(優雅なる無視)」政策で一ドル=79円台にまで、日本円を押し上げ、つまり、日本のはつねに米国の通貨政策の失敗の尻ぬぐいをやらされてきたのです。
中国が金本位制による新札発行(「華元」というそうです)、ドルに替わり人民元が基軸通貨となるという野望を抱くのは覇権国家として当然ですが。しかし、実力から言えば、夢想に近く、実現性はすくなくとも向こう十年はあり得ないでしょう。
くわしくは拙著『人民元がドルを駆逐する』(KKベストセラーズ)をご参照ください。
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(読者の声2)ミャンマーに対する英米の経済制裁はおろかな政策です。日本は英米に追随するのではなく独自の対ミャンマー政策があってしかるべき。ミャンマー人の対日意識については本当に親日です。
ネットで見つけた動画「ミャンマーで大東亜戦争はどのように教えられているのか」を見るとよくわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=k3wmril0nIQ&feature=related
ビルマ戦線の体験者が語ります。
「私達が行軍していたら土地の女性たちが砂糖の菓子、それから水、それを摘んで水をもらうと、とても喜んだ。
みんな(ビルマ人)並んでましたよ、飲んでくれ、食べてくれと(歓迎してくれた)」 ミャンマーの朝の托鉢を思い起こさせます。
砂糖の菓子というのは砂糖ヤシの樹液を煮詰めたキャラメルのようなものでしょう。自然な甘さでとても美味しく、もう一度食べたいものです。
ミャンマーではどこでも水を入れた素焼きの壺が用意されています。
他を思いやる気遣いなど、スズメのために稲穂を窓から下げておくほど。
ビデオでは中盤、「日本兵が子供を可愛がり、女性への暴行など見たことも聞いたこともない、平和な生活だった」と語る地元女性。
元日本兵も「女子供をいじめたらいけない、絶対にいかん、軍法会議にかけられる、将校でも一等兵になってしまう、降格されますよ」という。
ビデオの4分30秒あたりからマンダレーのハイスクールの歴史授業の様子。
「ミャンマーは3回の戦争でイギリスの植民地にされた。
植民地にされるまでミャンマー人は何を持って戦いましたか?」との教師の問いに、「周囲にあるなんでも」「スキ」「クワ」「弓矢」と答える生徒たち。
イギリスに全土を支配されたのはなぜか、との問いに対し、軍隊のシステムが無かった、武器が無く周囲にある物を持って戦ったから、と答える生徒。
日本軍の進駐については、ヨーロッパの支配から解放を得るため軍事援助という形でミャンマー人たちが呼んできたことをポイントに教えている、という教師。
南機関の鈴木大佐は英雄扱い、日本で訓練を受けた30人の青年たちも独立の志士として写真入りで教えられる。
ミャンマー教育省の副局長、「日本の戦争目的がアジア解放だったことは明らかで、今や世界の常識であり、学校でもそう教えています」と語る。
日本の軍事訓練を受け戦ったミャンマー人、「歴史は本当のことを教えるべきで、真実は独立のため日本と組んで英国と戦い、その後、英国と同じように支配しようとした日本を本当の独立のために追い出す戦争をしたことだ」と客観的に見ている。
最後にヤンゴンの街並みを映しながら、「ミャンマー人の一番あこがれの国はイギリス、それは街を整備し、国の基礎を作ったから」とナレーション。
台湾の親日と通じるものがありますが、中国人・インド人を支配の道具に使うのがイギリスのしたたかさ。
商業を中国人・インド人に支配されたのは隣国タイと変わりませんが、タイでは中国系もインド系もタイ人として取り込み、都市部では漢字の看板がシンガポールより多くても誰も気にしない。
ミャンマーでは反インド・中国の暴動が過去にありました。
英領インドに組み込まれた時点でインド系は支配者側になり、都市部のインド人街の規模はタイとはぜんぜん違います。
生活面で中国とインド、どちらの影響が大きいかといえばインドでしょうか。
朝食の屋台ではインド風のチャイ、ランチ・ボックスはインドと同じくステンレスの4段・5段重ねのもの(日本ではアウトドア用で売っています)、巻きスカートのようなロンジーはベンガルのルンギと同じ、なによりまともな中華料理が食べられない時点でインド文化圏といってもいいかもしれませんね。
関連動画として「日本人は心優しき侍/世界から感謝される日本【独立アジアの光】」
http://www.youtube.com/watch?v=RntUs2gjM3g&NR=1
シンガポール陥落時の英領インド軍兵士が語ります。
「捕虜となった我々を兄弟のように扱ってくれた。イギリス人は我々を差別し、一緒に食事もしないし、同じ車にも乗らなかった。日本人は喜んで我々と一緒に食事をし、人種や身分といった差別を抜きに、同じ釜の飯を食べ平等な取り扱いを受けたことがインド国民軍に大きな精神的影響を及ぼした」
次いでインドネシアから「日本精神は一番、なぜなら日本精神で我々はオランダに向かった。
武器は無く竹槍でも勇敢に戦った。
日本が独立戦争の基本となった軍事能力を与えてくれたことに感謝している」
Youtubeで関連動画が出てきますが、日本人として誇りに思えるものが多くあります。
イラクでの自衛隊の活動を広報するものです。
http://www.youtube.com/watch?v=dfWSNSKtfz4&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=GMInUr3bxyQ&NR=1
http://www.youtube.com/watch?v=59MccamIess&NR=1
http://www.youtube.com/watch?v=dVeapFB8VCU&NR=1
大震災での自衛隊と同じく献身的な活動ぶりに涙が出てしまいました。
日本のマスコミはごく少数の反自衛隊デモの報道はしても、自衛隊の活動のプラス面は極力無視。マスコミ内の反日勢力は本当に厄介ですね。
(PB生、千葉)
(宮崎正弘のコメント)敵は国内にいるのです。
さてお読みになったと思いますが、ミャンマー問題で最良の二冊。
高山正之『スーチー女史は善人か』(新潮文庫)
山口洋一『ミャンマーの実像 日本大使がみた親日国』(頚草書房)
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(読者の声3)貴誌3437号の貴見「ミャンマーを鎖国、孤立へ追いやって中国に接近させた元凶は英米」
日本のアジア外交で最も必要な視点は、上記の小見出しと思います。
小さな思惑でスーチーを持ち上げる英国に引きずられた米国の短見。その流れに対峙できない日本。英米のミャンマーいじめを批判しない日本の無知蒙昧な媒体。
そうした事態が、どれだけ中国の進出を容易にさせてきたか。『早読み』の見識を高く評価します。
(SJ生)
(宮崎正弘のコメント)分割統治は英国植民地支配のノウハウです。ビルマ族とカチン族を切り離して、カチン族を優遇した。かれらがキリスト教に改宗し、英語を喋り、英国の利益を代弁し、植民地政策に協力する。
東チモールがそうですね。ろくでもない列強代理人がノーベル賞ですから、あいた口がふさがらない。
ベトナム戦争ではモン族でしたね、米国の代理となって活躍したのは。このため、敗戦後、モンは米国に十七万人が移住し、独自のコミュニティを作っています。もちろんSJさんは、よくご存じでしょうが蛇足までに。
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 648回】
――忠実に、健気に生きて忘れられ・・・トホホ
『張勇之歌』(王書懐 黒龍江人民出版社 1972年)
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淡い茶色の表紙の中央には、駿馬に跨り大草原を疾駆している丸顔の女の子が、黒に近い濃い茶色で描かれている。娘の意のままに高く飛び跳ねたように思える馬の後ろ足の向こうには、なだらかに続く丘陵が見える。颯爽と騎乗するおかっぱ頭に三つ編みでモンゴルの民族衣装に皮のブーツの健康そうな娘が、「毛主席の良き紅衛兵/労働者階級の好き娘/知識青年の立派な指導者」と高らかに謳いあげられた張勇だ。
「紅い太陽がホロンバイル草原を輝かせる」と謳いだされるこの本は、人民のために身も心も捧げ尽くした彼女の、短くも充実した人生(?)を綴った長編叙事詩である。
「張勇、毛主席の偉大な呼びかけに応じてやってきた!/文化大革命の勝利の東風に乗ってやってきた!/祖国と人民の希望を背にやってきた!/果てなく遠大で麗しい理想を胸に秘めやってきた!」
南方の街に住む彼女は、毛沢東の唱えた「下放運動」、つまり都市の知識青年は農山村に移住し農民から学べという指示に従い、「別媽媽(母と別れ)」てホロンバイル草原に。
彼女らが乗った汽車が草原に到着する。「北国の春の若葉がいま芽吹く/風は故郷よりも冷たく/雪は故郷よりも深い/ある人は「この地は辛いぞ!」/またある人は「恐ろしくないかい?」/「恐ろしい?恐ろしいことなんかありますか!」/張勇は、確かな口調で、戦友たちの心のなかの決意を語る、確かな口調で/「中国人は死をも恐れない。困難なんて恐れるわけがない。遥か千里の遠方からやってきたのは、困難を求めてこそです!」
やがて馬を自在に乗りこなし射撃を覚え、ホロンバイル草原の人々と肉親のように睦み、彼女は「毛主席の立派な民兵、国境防衛戦線の中核」となってゆく。反動派に対する批判集会では、「集会だ、集会だ/張勇は発言し/張勇は戦う/張勇は毛主席に寄せる無限の忠誠の心を以って/祖国の人民に向かって声を張り上げて報告する/心安らかなれ、祖国よ/心穏やかなれ親人(ともがら)よ/祖国の北の守りを確りと固める兵士は/1つの赤き真心と2つの手で/永遠に戦闘(たたか)い、永遠に歩哨(みは)る。あなたのために!」
そんな「為人民服務」を120%、いや200%も体現したような生活が1年ほど過ぎた頃、張勇に不幸が襲う。村人が大事に育ててきた綿羊の群れが折からの洪水に巻き込まれてしまった。「君が決然と誓う/嗚呼、真紅の太陽が心の中に立ち昇り/君を鼓舞して戦闘に向かわせる。戦闘だ! 戦闘だ!/胸に刻まれた毛主席の著作は/君を前へ前へと。1歩前へ! もう1歩前へ!/1匹の綿羊を救い/1匹の綿羊を岸に押し上げる/最後の1匹が水面から顔を出したその時/高波が/猛烈な勢いで彼女を押し流した」
「嗚呼、張勇よ!/君は死んではいない/故郷から草原へ/君は万里の山河を越えて/万里の山河よ/君の歩んだ道は、あまりにも鮮やで麗しい!/草原を遊牧する民の、こっちのパオからあっちのパオへ/君は飛び込む、雨風を避け/嗚呼、雨風よ/君の物語は永遠に語り尽くせない」
張勇が生きていたら、今頃は60代の半ばか。草原の民となって綿羊の放牧に汗を流している。都市に戻り結婚し子育てはとうに終わり、孫相手の穏やかな日々を送っている。いや共産主義青年団員から党員となり地方幹部に出世し開放政策の“果実”をタップリと手に入れてブクブクと太ってしまっている・・・金満中国で、いま誰が彼女を覚えているだろう。
いや、そもそも彼女は存在していたのか。文革が生んだ“虚しい英雄”ですね。
《QED》
三島研第241回公開講座のご案内
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つぎの三島由紀夫研究会「公開講座」、気鋭の関岡英之先生の登場です!
記
日時: 10月11日(火) 18時半~ (18時開場)
場所: アルカディア市ヶ谷 (私学会館) 4F
http://www.arcadia-jp.org/access.htm
講師: 関岡 英之氏 (評論家)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%A2%E5%B2%A1%E8%8B%B1%E4%B9%8B
演題: 「中国を拒否できない日本」
会場分担金 一般二千円(会員と学生は千円)
会員いがいの方もお気軽に参加できます(受付で入会受付もします)
(尚、終了後、講師を囲んでの懇親会があります。別途会費三千円)。
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「国防問題研究会」講演会のご案内 「国防問題研究会」講演会のご案内
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下記の通り赤星慶治前海上幕僚長閣下による講演がきまりましたのでお知らせします。
この非常時局にかなった講演会です。
現在、空母を保有し手着々と外洋進出を図る中国海軍とこれに対する我が国の今後あるべき海上防衛について昨年まで海上自衛隊のトップである海上幕僚長の要職におられた赤星提督のお話が期待されます。
主催は三島研究会の姉妹団体である国防問題研究会です。
記
日時 10月27日(木)18時半~ (18時開場)
場所 中野サンプラザ8F研修室1
会名称 国防問題研究会講演会 主催 国防問題研究会 後援 三島由紀夫研究会
講師 赤星慶治閣下 (海将)
昭和25年生熊本県出身。防大19期。航空集団司令官、佐世保地方総監を経て第29代海上幕僚長(赤星提督はP3Cのパイロットなどもされたことのある海上航空のエキスパ-トです)
演題 中国の海軍戦略と我が国の対応
会場費 2千円
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宮崎正弘の最新刊
『中国大暴走 高速鉄道に乗ってわかった衝撃の事実』(1365円、文藝社)
――中国新幹線を全部のりつくした筆者が、現場からなまなましい実相を報告する!
アマゾンのURLは、
http://www.amazon.co.jp/dp/4286114228/
全国の書店でも発売中!
宮崎正弘の新刊
『中国は日本人の財産を奪いつくす!』(徳間書店 1260円)
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<宮崎正弘のロングセラー>
http://miyazaki.xii.jp/saisinkan/index.html
『自壊する中国』(文藝社文庫、672円)
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『震災大不況で日本に何が起こるのか』(徳間書店、1260円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4198631670/
『中東民主化ドミノは中国に飛び火する』(双葉社新書、880円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4575153753/
『ウィキリークスでここまで分かった世界の裏情勢』(並木書房、1470円)
『オレ様国家 中国の常識』(新潮社、1470円)
『上海バブルは崩壊する』(清流出版、1680円)
<宮崎正弘の対談シリーズ>
『猛毒国家に囲まれた日本』(佐藤優氏との対談。海竜社、1575円)
『増長し無限に乱れる「欲望大国」中国のいま』(石平氏との対談。ワック、945円)
『絶望の大国 中国の真実』(石平氏との対談。ワック、933円)
『日米安保、五十年』(西部邁氏との対談。海竜社、1680円)
『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との対談。徳間書店、1575円)
宮崎正弘のホームページ http://miyazaki.xii.jp/
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