「頂門の一針」 | 日本のお姉さん

「頂門の一針」

わたなべ りやうじらうのメイル・マガジン「頂門の一針」 2352号
2011(平成23)年8月17日(水)第2352号
 
完全に無理筋の増税論
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 屋山 太郎

鳩山由紀夫、菅直人の2代にわたる民主党政権を、中曽根康弘元首相は「過去も未来もない政権」(読売新聞コラム)と評した。言い得て妙である。

民主党は2年前の総選挙の際、政党得票率でも自民党に圧倒的な大差をつけた。現在は完全に逆転されている。理由は明白。未来の日本の姿を示し得なかった。

示したとすれば、菅氏の独断専行の脱原発、言い換えれば、ジリ貧の日本のみである。

 ≪蠢く「小鳩」よ、恥を知れ≫

2年後には衆院議員の任期が満了する。

このままでは、民主党の敗北は必至だろう。

新政権は未来を描いて、党を蘇生させねばならない。

その未来を描く代表を決めるに当たり、党を落ち目にした鳩山、小沢一郎の両氏が蠢(うごめ)いているのは解せない。

鳩山氏は一度、引退をも表明した失敗者だ。

小沢氏は幹事長として鳩山政治の失敗に責任がある。

加えて、目下は政治資金規正法違反にかかわる刑事被告人だ。

恥を知って貰いたい。

次期代表選で本命の野田佳彦財務相は年金、税の一体改革に熱心で、自公両党との大連立を提唱している。

自民党の谷垣禎一総裁も「野田氏となら話せる」と受ける素振りを見せている。

代表選の主要テーマは「大連立」か否かに収斂(しゅうれん)されつつあるが、大連立は政策遂行の手段にすぎない。何をやるかといえば、「増税」である。

民主党は2年前、何をやると言ったか、思い出して貰いたい。

バラマキ4Kに釣られた有権者もいただろうが、最も人心を捕らえたのは「天下り根絶」の公約だっただろう。

当時、天下り法人数は4600、天下り者数は2万8000人、法人に流れ込むカネは12兆6000億円といわれた。

天下りが悪いのは、人件費に充当される金額以上の無駄金が国から流れているというだけではない。

例えば、UR(都市再生機構)は不動産業を営み、
明らかに民業を圧迫している。

月に総務省が発表した、「3代以上」にわたり理事長を同一省庁出身者が占めている独立行政法人は1594に及ぶ。

官が民業に侵入する現象は日本の“官僚内閣制”の象徴だ。

天下り法人は民業を歪め、競争を阻害する。

日本を20年にわたり不況に導いている元凶ともいえる。

 ≪野田氏丸め込んだ?財務省≫

この現実に着目したのは安倍晋三元首相で、行革担当相に渡辺喜美氏(現みんなの党代表)を抜擢(ばってき)し、氏は福田康夫政権時、「公務員制度改革基本法」を成立させた。それに伴い諸改革が続くはずだったが、麻生太郎元首相は改革の必要性に目もくれなかった。

こうした動きを受け、民主党は「天下り根絶」と「わたり禁止」を標榜(ひょうぼう)した。天下りをなくすということは肩たたきという役所の慣行を変えることである。

各省の幹部人事は「内閣人事局」が行い、政策全般にわたる戦略は「国家戦略局」が担い、独法などの整理は「行政刷新会議」が行う-というのが民主党の公約だった。

小沢氏はいま、「マニフェスト(政権公約)を守れ」と言っているが、幹事長時代は、「天下り根絶」を一顧だにしなかった。4Kバラマキの方が楽だったせいだろう。

国家戦略局、行政刷新会議の設置について、当初は乗り気だった仙谷由人氏は、途中で財務省と手を握り、財務省の上に位置するような国家戦略局はあきらめる。

行政刷新会議の蓮舫担当相には仕分け作業をさせてやるというのが、財務省と仙谷氏(後の官房長官)の取引だった。

蓮舫氏は公開の仕分け作業で注目されたが、節約した額は6000億円程度。


12兆円を削り出す大作業で官僚組織を揺り動かすはずだったが、財務省の狡智(こうち)の前に改革の音は消えた。

いま、日本の政治・行政を牛耳っているのは財務省だ。選挙で選ばれたわけでもない官僚に政党や国会まで仕切らせていいのか。

 ≪「天下り根絶」の旗降ろすな≫

天下りの根絶、換言すれば、無駄の根絶を行わずして、増税はやらせようというのが、財務省の意図である。

無駄を切れという民意には全く耳を貸さない。

完全に無理筋の増税論というほかない。

小選挙区制度の下では、大連立をすべきではないし、また、できはしないと思うが、野田氏は財務官僚に丸め込まれたのだろう。

財務官僚が自民党の側もすでに洗脳しているであろうことは、想像に難くない。

野田氏が思想も信念もある政治家であることは認識しているが、今回の出だしは誤りだ。代表選に当たって、民主党はあくまで、「天下り根絶」の意思があるかどうかを争点にすべきだ。

公務員制度を改革し、政治主導の司令塔としての国家戦略局、独法潰しのための行政刷新会議を設置(立法化)できるかどうかで、民主党の真価が決まるだろう。

東日本大震災からの復旧・復興にも増税が必要だ、と復興構想会議も打ち出したが、財務省の根回しがあったことは明白だ。しかし、不景気時の増税は、震災復興名目であろうともご法度だ。

代表選では、前国土交通相の馬渕澄夫氏の力量も楽しみである。農水族守旧派が鹿野道彦農水相を担ぐという。こちらは茶番だ。(ややま たろう)
(産経新聞「正論」2011.8.16 03:06 )


米副大統領、訪中4日間
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
     平成23年(2011)8月16日(火曜日)
       通巻第3398号 
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 バイデン米副大統領、17日から中国を4日間訪問
  習近平副主席が応接し、成都にも随行して大晩餐会を予定
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 バイデン米副大統領が17日から4日間の予定で中国を訪問する。

米中間の懸案事項とは、人民元、貿易不均衡、ダライラマ猊下、台湾へ
の武器供与問題から米国債権一兆ドル超保有という別の脅威など。
両国がトップレベルで協議するべき課題は山となっている。

バイデンの訪中期間中、ほぼ付きっきりで応対するのはカウンター・パー
トとなる習近平・国家副主席である。

連日の歓迎会、晩餐会、2日目には胡錦涛主席との会談も予定され、3
日目に四川省成都へ移動する。

バイデンは成都で記念講演を予定しており、そのあと地震被災地である
都江堰などを習副主席の案内で見てまわる。

なおハッツマンが次期大統領選出馬のため駐中国大使を辞任後に「空席」
となっていた北京駐在米国大使に中国系アメリカ人のゲーリー・ロック
(元商務長官、ワシントン州知事)が就任し、先日、北京へ着任した。

ロックは商売熱心な中国ロビィであり、米中貿易の拡大路線を突っ走る
人物。しかも中国系、北京は歓迎している。商人を大使とするあたりは、
日本の人事と似ていなくもないが。。。。。。

さてバイデン副大統領は四川省視察滞在のあと、モンゴルを訪問し、22
日から日本に立ち寄る。同盟国への公式訪問は一番最後で良いらしい。

海鼠、鱶鰭、燕の巣
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荒木 純夫

この見出しを読んで私が何を書こうとしているかわかった人は、相当中国事情に詳しいと言えるでしょう。

2011年8月7日の「頂門の一針」2342号に、「『日中』を渋った福田総理」という主宰者による記事がありましたが、その中で日中国交正常化の田中角栄首相訪中時の、次のような記述があります。

<人民大会堂はこの6年前にも入っていた。1972年9月25日。梅原龍三郎描く「北京秋天」そのもの、それこそ抜けるよう名青空の下、北京空港に降り立ち、その夜には周恩来総理の歓迎宴に同行記者団80人も招かれて、人民大会堂なるどでかいビルでニクソン大統領は断わったという「海鼠の醤油煮」をご馳走になった>。

ここで主宰者はなぜわざわざ「ニクソン大統領は断わった」と記述したのか、実に深い意味が隠されています。

中国の宴席では、客にどういう料理を出すかで、その客に対してどのような気持ちでいるかサインを出します。その象徴的な料理が見出しの3品なのです。ではどのような意味付けがあるのでしょうか。

燕の巣(ツバメノス)

招いた側が客に対して是非とも今後もお付き合いしたい、即ち客に対して下手に出ている場合、または客の方が格上の場合、燕の巣の料理が出てきます。

鱶鰭(フカヒレ)

招いた側と客が対等の立場の時に鱶鰭の料理が出てきます。すなわち可もなく不可もなくという付き合いの関係です。

海鼠(ナマコ)

招いた側が今後招いた客と積極的に付き合いたくない、または客を見下している場合、海鼠の料理が出てきます。

地方によって出される料理は若干異なるようですが、海鼠と燕の巣は変わらないようです。うそだと思うのなら、知り合いにインテリの中国人がいたら確認してみてください。「よく知っていますね」と感心されます。

さて、ここまで読めば、おわかりでしょう。ニクソン大統領と田中首相、すなわちアメリカと日本は中国に試されたのです。

ニクソン大統領は事前の情報収集で「宴席で出される料理には気をつけろ」と把握しており、海鼠料理に手をつけなかった。ところが、田中首相はおいしいおいしいとぱくぱくありがたがって食べてしまった。

この瞬間、その後の中国の対日政策は決定されたと言っても過言ではないでしょう。中国は日本を格下の国と認識し、情報収集能力も劣る、御しやすい国と見なされたのです。このことは、特にここ最近の日本を舐めきった対応を見れば良くわかるかと思います。

1972年以降、田中角栄氏は中国に何度か招待されて大歓待を受けていますが、招いた中国側、後ろ向いてぺろっと舌を出していたことは間違いないでしょう。

主宰者によるこの一文には次のようにも記述されていますが、当にニクソン大統領と田中首相のこの対応の違いにはっきり現れています。

<敗戦と共に日本は独立国家を目指すよりは、貧乏と戦争さえなければ幸せとでもいうインポテンツ国家に成り下がった。

このため国家生存のための情報を収集する体制を捨ててしまった。外務官僚上がりの総理吉田茂が外務省からスパイ機能(人員)と予算を取り上げてしまったのである。

そこでわが外務省はアメリカからのいわば2次情報の分析ばかりやっているから、結果はどこかの絵描きと同じで、出来上がったものは「模写」ばかりである。>

中国が影を落とす台湾総統選挙
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櫻井よしこ

台湾政界は、半年後に迫った総統選挙を前に、熱い戦いの真っ只中だ。
政権与党の国民党は早々と現職の馬英九氏を総統候補に、呉敦義行政院長(首相)を副総統候補に決定した。

政権奪還を目指す民主進歩党は、総統候補の蔡英文主席を中心に、副総統候補と対中政策を8月に開催予定の党大会で発表する。

台湾は世界一の親日国である。その国の行方に日本人と日本国が無関心でいられるはずはない。東日本大震災に対する、人口2,300万人の台湾からの義援金は200億円に上っている。

これは馬英九総統が主導して集めたわけではなく、台湾国民ひとりひとりが自発的に拠出したもので、台湾の人たちの日本と日本人に対する親愛と友情の発露である。


私は震災から1週間後の3月19日、世界台湾人大会で講演するために台北を訪れたが、街の角々で、胸が熱くなる応援の声をかけてもらった。

見ず知らずの人々から、「日本、頑張れ!」「大丈夫、日本はきっと復興できる」「台湾人はみんな応援している」という声を、本当に多くいただき、台湾の人々の日本を想う気持の有難さに涙しそうになったものだ。


その台湾は、来年1月の総統選挙で、またもや国民党を選ぶのか、民進党に政権奪還させるのか。1月の選択は台中関係を規定するだけでなく、日本とアジア全体の運命に大きく関わってくる。

国民党馬政権の特徴は、急速な対中接近にある。それを象徴するのが、「92年合意」で、馬総統は蔡主席に「92年合意を認めるのか、否定するのか。否定するなら、民進党は対中政策をどのように進めるのか」と質している。

必ず総統選挙の焦点のひとつとなるであろう92年合意とは、中国と台湾が行った92年の香港会談で成立したといわれる「一個中国、各自表述」のことだ。

その意味は、「中国はひとつの国、その表現は中国と台湾各自に任せる」。
つまり、中国はひとつだと認めたうえで、台湾側はそれを中華民国、中国側は中華人民共和国と呼べばよいというものだ。ポイントは「ひとつの中国」を台湾に認めさせることだ。

「新台湾人」

この合意の存在が台湾政界で指摘されたのは2000年だった。しかし奇妙なことに、92年当時、台湾を代表して中国側と接触していた海峡交流基金会理事長の辜振甫(コ・シンポ)氏はこれを全面否定した。

早稲田大学で名誉博士号を授与されたときの記念講演でも、明確に、合意は存在しなかったと語っている。台湾元総統の李登輝氏も同合意の存在を否定する。

にも拘らず、今も台湾で92年合意が議論されるのは、馬総統自身が同合意を対中政策の基本と位置づけるからだ。前駐日台湾代表の許世楷氏が説明した。

「92年合意は、元行政院大陸委員会主任委員の蘇起(ソキ)氏が2000年に創作して広めたはなしであることが、すでに判明しています。今では蘇起氏もあのはなしは創作だったと公に認めています。

しかし馬氏は中華民国の憲法は『中国はひとつ』とする立場に立つと主張し、このありもしなかった92年合意が恰も存在していたかのような議論をするのです。彼は『中国はひとつ』という立場をとらない限り、台湾は中国との対話が望めないと恐れているのです」

現実には存在しなかった92年合意を中国は大いに利用する。彼らが強調するのが、「各自表述」の部分ではなく、「中国はひとつ」の部分であることは言うまでもない。

さて、先に触れた馬総統の問い、「92年合意を認めるのか」に、蔡主席はどう答えただろうか。この知的な50代の女性は物静かながら歯切れよくこう語った。

「台湾は国際社会の王道と歩みを一にします。従って、台湾外交は世界から入って、その延長線上で中国と接触します。中国から入って世界に行くのではありません。台湾の選択は世界と連携することで中国との協調を拡大する道です」

蔡主席は92年合意を直接、否定するわけではない。「台湾独立」も決して口にしない。現状維持で台湾の安全と発展を調和させようとする構えである。

無意味に中国を刺激せず、米国に対しては、台湾側から台湾海峡及び周辺海域に問題を起こすことはしない、安心してもらってよいという意思表示である。

陳水扁総統時代に台湾の独立を掲げたことで米国との関係が悪化したこともあり、蔡主席は慎重な構えをとり続ける。大人の政治家なのだ。

台湾政治について回る中国の影は、二人の候補者に「あなたは誰か」という問いも突きつける。

蔡主席は、自らを「台湾人」と呼ぶが、これは馬総統への痛烈な問いかけだ。馬氏は08年の選挙で李登輝氏に倣って、「私は新台湾人だ。死んで灰になっても新台湾人だ」と訴えた。

中国語、フランス語、英語は流暢でも、台湾語は不十分で、台湾人意識に欠ける親中派というイメージを変えるために、馬氏は盛んに新台湾人だと訴えた。そして勝った。

急速に進んだ親中路線

ところが、総統になった途端、氏は「新台湾人」だと言わなくなった。
そんな馬氏を揶揄する次のような冗談話が台湾で流行っているそうだ。

〈馬さんはどこの国の人?/日本のある地方、四国の人だよ/なぜって彼には国籍が四つもあるからね/中華民国、米国、英国、中国だよ〉

中華民国は言うまでもなく台湾だ。米国は、馬氏が米国の永住許可証のグリーンカードを取得したことがあるからか。英国は、氏が香港生まれだからか。中国に関しては、氏の親中姿勢への痛烈な皮肉であろう。

要は、馬総統の心は台湾人かという風刺だ。当人には迷惑至極であろうが、台湾国民の馬総統への感じ方がよく表現されている。

馬政権下で急速に進んだ親中路線の代表例が昨年6月29日の中台経済協力枠組み協定(ECFA)である。国民党側はECFAで5万7,000人分の新たな雇用が生まれ、平均収入も増加したと強調する。

民進党側は貧富の格差は史上最悪の75倍になり、実質月収は12年前の水準に落ちた、失業率は韓国、香港、シンガポールよりも高いと反論する(「産経新聞」6月30日)。
たしかなことは、台湾の中国依存が深まったことだ。

他方、この間に中国は台湾海峡の対岸に13万の台湾陸軍の3倍強、40万人の人民解放軍を展開し、核搭載可能なミサイル1,400基以上を据えつけた。

92年合意を認める馬総統の政策はこの中国の手に台湾を投げ込むことを意味する。中国の台湾併合は日本の命運に決定的な負の影響を及ぼす。

だからこそ、民進党の蔡英文氏の総統就任が日本の国益により適う。蔡主席への支援こそ重要である。

http://yoshiko-sakurai.jp/index.php/2011/07/28/%e3%80%8c%e3%80%80%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e3%81%8c%e5%bd%b1%e3%82%92%e8%90%bd%e3%81%a8%e3%81%99%e5%8f%b0%e6%b9%be%e7%b7%8f%e7%b5%b1%e9%81%b8%e6%8c%99%e3%80%80%e3%80%