庶民の反応はどうかといえば、反中感情が爆発しているのである。 | 日本のお姉さん

庶民の反応はどうかといえば、反中感情が爆発しているのである。


「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成23年(2011) 7月4日(月曜日)
         通巻第3359号  
 欧州の政治家、財界人は中国からの投資を大歓迎しているが
  庶民の対中感情は悪化、警戒が広がり、「反中」感情は五割を超えている
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 ギリシア、スペイン、ポルトガルの国債をしこたま買い込んで、つぎに中国は欧州有名企業の買収に乗り出し、ボルボにつづいて、フランスのクラブメッズ(地中海クラブ)、ギリシアの老舗フォリフォリの筆頭株主に躍り出た。

 温家宝首相の欧州歴訪は英国へ20億ドル、フランス、ドイツには100億ドルを超える商談がおみやげ、したがって欧州の指導者たちが揉手して赤絨毯を用意し、中国様、中国様の様相を呈しているあたり、日本の媚中派政治家や商人らと殆ど変わりがない。

 従来、資源企業、鉱区、農地をねらってきた中國が投資対象をがらりと変更し、多数の特許を抱える有名老舗企業やユニークな技術を持つ企業に焦点を当て始めた。銀行、フィナンス会社も、これら買収リストに加わり、ロンドンなどで株式売買活発化の背景に中國の異様な企業買収の動きがある。

 中国から旺盛な投機マネーが流入しているのである。
 ロンドン株式市場で中国マネーが動いていると見られるのはエネルギー産業、ユティリティ、金属、ファイナンス、技術、消費関連などの企業である。
 日本でも兜町を沸かす中国系ファンドの活躍が話題だが、資金規模から言えば欧米の中国マネーの十分の一に満たない。

 他方、庶民の反応はどうかといえば、反中感情が爆発しているのである。
雇用を奪われるおそれが広がったのはイタリア、カナダ、米国、フランス、ドイツの順で、それぞれが50%を凌駕している。

とくに繊維と皮革製品のメッカを乗っ取られたイタリアでは、反中感情は60%近い。ちなみにこの調査はGLOBESCAN、PIPA、BBCなどにより、数字は英誌『エコノミスト』、2011年7月2日号)。

親中派とみられる豪州でもメキシコでも五割近く、先進国での例外は日本。中国への警戒と不快感をしめる世論調査は30%を示したにすぎない。

 米国は2005年に中国海洋石油(CNOOC)が米カリフォルニアのメジャー『ユノカル』への買収にいったん合意し、それを土壇場で議会が安全保障を理由に阻止し、豪州もこれにならってリオティント社の中国買収を止めた。
 とくに米国はハイテク技術、特許得情報を盗み出す中国のスパイに対して警戒を強めており、欧州の楽天主義とは対照的である。
      ◆
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(読者の声1)貴誌旧号でレ・リ・ヘイスリップ『天と地』(角川文庫1993、ベトナム篇上・下、アメリカ篇上・下)のあることを知りました。感想文です。
レ・リが中部ベトナム、ダナン近郊の草深い村に生れたのは抗仏戦争のさ中の1949年で、1954年のジュネーブ協定でも平和は実現せず、1961年ごろからベトナム戦争―第二次インドシナ戦争になだれ込んでいったから、著者は銃後のない「人民戦争」の戦場のなかで、少女へと成長した。
 しかし、<私は父から、神、家族、先祖、そして伝統を敬うように教えられた>―侵略者と勇敢に戦った昔の王たちの「伝統」もあったが。母からはまた、<謙遜と徳の大切さを学んだ。不平さえ言わなければ田畑で動物のように働くのは恥ではないことも母が教えてくれた。私が不平を言うと母は言った。「お前は牛より劣るのかい?牛は文句一つ言わずに働いているんだよ」>

いわゆる競合地帯で昼は政府軍、夜はベトコンが村を支配していた。子供たちは嬉々として「ホーおじさん」の色に染められた。ローティーンの彼女も、何度か政府軍に拘束され拷問にあう。殴打、電撃、柱に括り付けてシャツの下に生きている水蛇を入れる。。。
ベトコン側とて恐怖による支配を駆使することに躊躇しない(中共同様に)。

<ベトコンはまず、敵のスパイの疑いがある者を処刑した。深夜に家から引っ張り出し、銃殺しては道端にころがしておくのだ。また、政府軍がいないことを確認した上で、モイ・チ・ディ・ホップという特別法廷を開いた。被疑者をつるしあげるだけのでっちあげ裁判である。裁判が公正でなく、村人たちに言うことをきかせるためのおどしであることは誰しも知っていた。つまらない言いがかりをつけられては多くの村人が殺されていったのだ。当然、村人たちは浮足立った。人と話すときには細心の注意を払い、妙な時間に妙な場所に行くことのないよう気を配った。ベトコンを恐れる気持ちは、政府軍に対するそれと同じほどに強まった。隣人の嫉妬や子供の証言が、生命を左右してしまうのだ。政府軍を村を踏み荒らす象にたとえるなら、ベトコンは夜に這い出す蛇だった。姿が見えるだけ、象のほうがましだったかもしれない。>
刑務所に入れられた彼女を両親が多額の賄賂を遣って短期間にとりもどしたことから、彼女はベトコンからスパイと疑われ仲間に強姦されて、サイゴンへ脱出する。脱出した彼女をベトコンは、なおもテロの手先に利用するために父親を圧迫、追いつめられた父親は娘を守るため毒を飲んで自殺した。レ・リが生きうる道はもはや外国に出るしかない。

勇気と聡明と柔軟な心、それに美しさで、米国人の伴侶を得て1970年に渡米し、成功した。何人もの身勝手な白人男が「男運の悪さ」の余韻を残して伴侶として通りすぎたのだが、すばらしい子供たちにめぐまれる。自分の濃密な体験の記憶を出版してベトナム戦争の語り部となり、故郷に病院や孤児院を建てて戦争の傷を癒し、東と西の架け橋になる活動を続けている。
幾重にも死と暴力に取り巻かれながらも、「敵」を憎まず被害感情の罠にも落ちず、見事なほど明晰な観察力と判断における高度な倫理性を失わない彼女の聡明さの芯には、父母からうけついだ水田農民の温良な倫理観が息づいていた。

<「私の可愛い桃の花よ」>と、父は彼女に語る。<「お前は誰を罰したらよいか分るほど利口なのか?ベトコンにきけば、アメリカ人を罰しろというだろう。アメリカ人にきけば、北を非難するだろう。北は南を非難する。南はベトコンが悪いと言うに決まっているんだ。僧侶にきけば、カトリックが悪いと言い、先祖が悪いことをしたから、いま我々が罰をうけていると言うだろう。ベイ・リー、お前は誰を非難すると言うんだね。兵隊だって言われたとおりの義務を果しているだけなのさ。」> <「さあ、もう泣くのはおよし。
わたしたちが戦争をしているのは運命なのだよ。だから、殺されたり傷ついているアメリカ人がいたら、感謝しなければならないんだ。わたしたちを助けてくれているんだからね。
物事の善し悪しを考えてはいけない。それは爆弾や銃弾と同じように危険なことだ。善いこととは、お前が心に持っているものだ。つまり、先祖や子供や家族、それに生きとし生けるものを愛する心だよ」>

ハノイ政府さえ、失踪米兵の探索に「霊媒師」の助けを借りた。そんな異次元をも抱擁する湿潤な風土に、世界を「カルマ」(因果応報)の流れとして観ずる仏教の教えがしっかりと土着しているのだろう。
それが彼女のなかでは、キリスト教の壮大な論理にも顔負けしない強靭な精神性の核になっている。長男が家を守り先祖の祭りを継いでゆく親族構造も、先祖と家族の絆をこの上なく大切にする生き方の土台なのであろう(同じ儒教圏でもシナ社会では厳格な均分相続が「オレ様主義」につながっていくのだが)。
<実をいえば、アメリカでの家族の絆の薄さが、私の旅立ちの原因の一つでもあった。三人の息子に問題があるわけではないのだが、アメリカの家族というものは、私の概念にある家族とは全く異なっている。>。

ところで、かつてスノーやスメドレーなど手練れのペテン師ライターが、中国共産党を理想的に描いて世界を欺いたのだが、ベトナム戦争の「蛇」よりも圧倒的に「象」を伝えた多くの客観報道も結果として同様な効果を生んだ。60年代から70年代にベトナム反戦は時代の正義となって世界を染め(その程度は今日の「温暖化」どころではない)、戦後民主主義の日本でも反権威や反体制でなければ文化にも値せず、大人は汚いという単純な価値観に油をそそいだ。
ボートピープルなど戦後のベトナムからの面妖なニュースもあったが、いったん青年の胸に住みついた社会観はその宗旨のなかで成長すらしてゆく(宗旨の情緒/利益共同体もできる)。今でも2割もの支持をあの賊と化した権力者に与えているのは、正義にもえていたむかしの青年たちなのかもしれない。
団塊に坦懐に読んでほしい本、版元で絶版状態というのはさびしい。
(三猫匹、石川県)

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(読者の声2)東電福島第1原発の事故が収束してない状況で今後エネルギーをどうしていくのか。
<脱原発>に向う世論の中でどうするのか。
嘗て原発を推進していた保守の人達でさえも原発慎重派になって様子をみているように見える。
元々原発は原爆へつながり原爆は恐ろしい戦争につがるということで左翼運動の道具立てであった。従ってアメリカに対抗する悲願として毛沢東がソ連に莫大な金を払って核技術を入手して昭和39年に新疆ウイグル地区で核実験に成功して、その後数十回核実験を繰り返して放射能を撒き散らしたがそれには触れない。
勿論、今にわかに原発反対を言い出した人達の大部分は過去の左翼運動とは必ずしも関係ない様だが彷彿とさせる場面もある。

福島第1原発の事故は第一に人災に負うところ大きいと思うが、その原因は偏に津波であって地震ではないと思う。鉄製構造物、正確には鋼で造られた構造物は地震に対して基本的に問題ない。所謂鉄骨構造の超高層ビルよりは一体型の格納容器のほうが硬構造であるので安全である。後は無数の配管系と電気系であるが、揺れを想定した(場所によっては津波を想定した)設計と運用によって重大危機は回避できる。
今回のレベル7の事故を収束することができれば、原発事故をも制御できたという一つの危機対応へ大きな実績となる。これを踏まえて冷却水の問題から攻めれば装置を海水面より低くして地下原発の構想になり、放射線のことを考へるのであれば古川和男氏が提案する放射線を殆ど出さないトリウム原発が考えられる。現在国内1%の自然エネルギーを20?30年で30倍にするのに異論はないが当分は原発に頼らざるを得ないであろう。

一方でフランス、中国、韓国などは原発推進を見直していないし、また日本もベトナムとの原発建設合意、トルコ、ヨルダンなどとの原発交渉、を進めてきた。これらを反古にすることは出来ないであろう。
20世紀は航空機発展の歴史であったが、真っ先に軍用に使われ且つ犠牲者も限りなく多かったが今や安定した乗り物になり一つのパラダイムを築いたことになる。
原発も人類が制御して新しいパラダイムを築けるのか、或いは飛行船の歴史のように危険な乗り物として幕を閉じるのか、何れにしても国民経済を減速させるような或いはその観点が全くない議論は無責任という他はない。
(SF生岡山)

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(読者の声3)猛暑の中、皆様如何お過ごしでしょうか?
国内情勢がいよいよ混沌していることは言うまでもありませんが、翻って国際情勢を眺めますとこれまた容易ならざる事態となっております。
米国のオバマ大統領はアフガニスタンからの撤退を宣言しましたが、現地状況不穏のため予定通りの撤退は危ぶまれております。南シナ海では米海軍と中国海軍が睨み合いを始め、北東アジアではロシアと北朝鮮が怪しげな動きを見せております。
小生、長らく雑誌等に寄稿しておりましたが状況の変化が著しく、もはや雑誌等では間に合いません。
そこでこのたび、メルマガを発刊する事に致しました。携帯等からでも見やすいようになるべく簡潔な形にしました。
原則週2回発刊予定、無料。しかも御不用とあれば簡単に登録解除できますので、下記からお気軽に登録お申し込み下さい。
「鍛冶俊樹の軍事ジャーナル」
http://melma.com/backnumber_190875/
   (軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹)

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(読者の声4)中国取材お疲れ様でした。ホテルの冷房で風邪をひかれたとか、日本以外では冷房は22℃が標準でしょうか。
香港や台湾のバス、バンコクの高架鉄道など、降りた途端にメガネが曇ります。行きつけの図書館は7月から冷房は29℃、駅ビルの書店も28℃で蒸し暑くてたまりません。
ラオスでは日中43.8℃、夜も40℃以上で、水浴びして天井のファンを回していたら風邪をひいてしまった。暑くても扇風機の使いすぎには要注意です。
JR東海は新幹線の冷房を27℃と一度上げるようです。ドバイのような乾燥した気候ならともかく、8月にはバンコクよりも蒸し暑い日本、過度の省エネは経済活動に支障をきたしかねません。それでも日本人ですから文句も言わず日勤から夜勤へのシフト変更、あるいは休日の変更など電力消費の平準化に努めているようで、6月半ばから通勤時の電車は2割ほど空いています。火力発電所の能力からすれば電力供給力は十分あるはずなのに、発電コストや反原発の世論を封じるために敢えて電力供給を絞っているという説もありますがどうなのでしょう。
省エネにしても、かつての石油ショックの時とは違い、ローテク・ハイテク取り混ぜての対応には感心させられます。エアコンを使わない夜は、蚊を防ぐために蚊帳を吊るのではなく、大型テントのようなワンタッチで開く蚊帳に入る。下着では汗や熱をすばやく放散させるハイテク繊維(実際にかなり涼しい)や昔懐かしのステテコが復活、しかもカラー化で部屋着にもなる。ステテコを穿くと空気層が断熱の働きをしますからよほど涼しい。ミャンマーでは男も巻きスカートのようなロンジーを穿きますが、本来は下着を着けないとのことで試したら、日差しがお尻に痛いほど。インドのホテルで猛暑に厚手のカーテンをするのも断熱のためですね。
たまたまFMラジオで聴いたオーストラリア人の話、「夜は暗いのが当たり前、オーストラリアではリビングの隅々まで明るくしている家はない、最小限の灯りで食事のときなどは灯りを追加する」とのことでした。昭和30年代に戻ったつもりで灯りを減らし照明をすべてLED化、食事や読書にはスポット照明を追加、調理には断熱鍋や圧力鍋を使う、などで6月の電気代は去年の半分以下でした。照明を落とすと、モニターの輝度も落とせますから二重の節電になります。
照明もLED電球が一気に普及、さらに通常の蛍光灯よりも数倍の長寿命、安定器を変えるだけで既存の器具が使える冷陰極線管蛍光灯、白熱電球の2倍の寿命で消費電力は20~30%ダウンの電球型ハロゲンランプ(製造は電球を好むインドネシア)などさまざま。節電・節水関連ではベランダ用にゴーヤのカーテン、素材の水分だけで調理できるモロッコのタジン鍋やシリコン鍋が大人気、と昨年からの流れがさらに加速しているようです。
日本人は過去さまざまな災害や戦災を乗り越え、そのたびに強くなってきましたが、日本人のDNAともいえる節約志向・改良志向は江戸時代の循環型社会から基本的に変わっていないようです。
 (PB生)
 樋泉克夫のコラム
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【知道中国 594回】                     
      ――歌と同じで、言葉も世につれ
       『中国当代流行語 全覧』(夏中華編 学林出版社 2007年)
  
 △
 これは読んで字の如く、最近の流行語を集めた辞書である。中国人は自らの国を「華夏」とも呼ぶ。元々は黄河中流域の黄土高原一帯、つまり漢民族が「中原」と名付け自らの故地とする一帯を指していたが、後に中国全体の別称とした。華やかで夏のように盛んと・・・ゴ勝手にどうぞだが、編者の名前が夏中華というのだから、何ともカントもゴ愛嬌。
 
巻頭の「序」に依れば、この辞書に収録された3千項目余の流行語は「基本的には改革・開放の『新時代』以降の中国の大地で流行したことばや言い回し」であり、この辞書作成は第十次五ヶ年計画にのうちの「流行語追跡研究(YB105-63C)」とか。ならば、この辞書制作は国家プロジェクトの一環ということになる。

 なにはさておき面白そうな流行語を気の向くままに拾い、説明文をそのまま訳しておく。

 ■「買文?(偽卒業証書を買う)」=偽の卒業証書を売買すること。これは社会における一種の好ましからざる現象である。例文「最近は、偽卒業証書の売買ばかりでなく、少数だが偽卒業証書を乱発する学校が出現したので、政府部門でも学歴詐称者がみられるようになった」
 ■「没有愛情的婚姻是不幸的、而没有房子的婚姻則更不幸的(愛情のない結婚は不幸だが、住居のない結婚はもっと不幸だ)」=住宅獲得が困難な社会の現実と人々の住宅に対する渇望との矛盾。何かを欲しいが得られない虚しさを形容する。
 ■「品牌、品牌、還是品牌(ブランド、ブランド、やっぱりブランドだ)」=品牌(ブランド)の重要性を強調する商業用語。重ねて使うことで語感を強調し、人々の関心を喚起する。流行後、一種の定型となり、たとえば「土地、土地、やっぱり土地だ」のように物事の重要性の説明に使われるようになった。例文「現下の情況で最も重要な突破口は『ブランド、ブランド、やっぱりブランドだ』」
 ■「賭球(ボールを賭ける)」=サッカーの試合結果を賭けの対象とする違法行為を指す。 例文「現在、中国のサッカーは疑いもなく低調だ。客足遠退き、市場は悪化し、影響力は低下する。八百長、賭球、試合放棄、薬物使用などのスキャンダルは、中国サッカーのイメージは歴史的に最低レベルまで落とした」
■「酒場就是戦場、酒風就是作風、酒量就是胆量、酒瓶就是水平(宴会は戦場で呑みっぷりが仕事っぷり。酒量が肝っ玉の太さで空けた酒瓶の数が仕事の評価基準)」=公費や公用で呑み食いする不正な振る舞いを風刺している。例文「多くの職場が『請吃請喝(飲食接待漬け)』を企業戦略の重点とし、『酒場就酒場、酒風就是作風、酒量就是胆量、酒瓶就是水平』だと納得している」(注:本来、「酒風」は「多汗症」を指すが、敢えて「呑みっぷり」と訳しておいた)
 
まだまだ興味深い流行語は山ほどあるが、ここに示した数例からだけでも、中国社会の

現状が浮かび上がってくるだろう。

 確かに中国は激変した。だが、「毛沢東思想万歳、万歳、万々歳」と叫んでいた時代の代表的流行語の「自力更生」「為人民服務」「造反有理」「革命無罪」などと較べると、こっちの方が断然人間臭くてステキだ。それにしても流石に文字の国である。「酒場就是戦場、酒風就是作風、酒量就是胆量、酒瓶就是水平」とは
・・・お~い山田ク~ン、座布団四枚。
《QED》

【知道中国 595回】       
――さあオ坊チャン、オ嬢チャン、唱って踊ってカクメイですよ
『宝塔山上育新苗』(陝西省工農兵芸術館芸術組 上海人民出版社 1974年)
  
 △
 冒頭の「深入生活 深化主題」と名づけられた序によれば、「1971年春、我われは再び革命の聖地である延安を訪れ、多くの労働者・農民・兵士から再教育を受けた。
わずか4,5ヶ月の短い期間の生活だったが、我われは何度も何度も鳳凰山、楊家嶺、棗園、王家坪にある毛主席の旧居を熱い心を持って仰ぎ見た。

そして、偉大なる領袖毛主席が延安などの根拠地で中国革命を教え導いた輝かしい実践についての老革命家の話に心から耳を傾けた。これこそ、生き生きと感動的な革命の伝統にかんする教育というだけでなく、思想と政治に関するより深い学習である」との考えが、著者たちに、この歌劇を着想させたとのことだ。
 
年老いた共産党軍兵士が、休日に紅小兵を引き連れ延安の象徴とも言える旧い仏塔を戴く宝塔山で植樹しながら、革命の後継者たる子どもたちに木を植え人を育てることの大切さを教え、毛沢東の「深く厚い階級的感情」に思いを馳せ、「毛主席の革命路線に沿って永遠に革命を継続する決心」を体得させようとする――こんな粗筋を持つ歌劇の台本だが、この本もまた当時の同種の本と同じように、楽曲、台詞、衣装、踊り方、舞台の上での動きなど歌劇を演ずるに必要な凡てが示されており、これ一冊さえ持てば、ともかくも公演が可能となる。

 とはいうものの、気恥ずかしくなるような台詞や歌詞が続き、赤面モノの踊りや演技が飛び出すが、それも時代のなせるワザと諦めて読み進んでみたい。
 
「紅小兵4号」に扮する少年が「ほら、おじいさん、鳳凰山だよ」と鳳凰山を指差すと、爺さんが「鳳凰山麓、いつも春。主席が紅軍引き連れ延安へ。抗日の烽火、各地に起こり、辺区(共産党支配地)の空は真っ赤に染まる。辺区の空が真っ赤に染まる」と受け、続いてみんなで「宝塔山から北京を望みゃ、遥かに見えるは天安門。青松翠柏(まつとひのき)は太陽迎え、主席と我らの心は一つ。主席と我らの心は一つ」と斉唱。

 次に「紅小兵3号」が「早く見てよ、あっちが楊家嶺だよ」と。すると爺さんが「楊家嶺にゃァ、紅旗が靡く。主席は説かれる“大生産”。自力更生、革命進め、延安精神、いついつまでも。延安精神、いついつまでも」。唱い終わると、再び「宝塔山から北京を望みゃ、遥かに見えるは天安門。・・・主席と我らの心は一つ。主席と我らの心は一つ」と斉唱。

 さらに「紅小兵1号」が「おじいさん、あっちが棗園だよ」と指差すと、爺さんが「棗園の灯は終日灯り、毛思想が行く先示す。日本の侵略打ち破り、抗戦勝利で凱歌が挙がる、抗戦勝利で凱歌が挙がる」。唱い終わると、再び斉唱。

 最後に「紅小兵1号」が「ほらほらほらッ、あっちが王家坪」だよ。すると爺さん、「王家坪にラッパが響き、人民軍隊無敵だよ。蒋介石を墓場に屠り、天安門に紅旗が揚がる、天安門に紅旗が揚がる」。で、またまた斉唱だ。

 数年前、実際に延安で鳳凰山を訪れたことがある。全体が岩でできた小山で、あちこちの岩を刳り貫いて仏像が彫られていたが、大部分の仏像は頭部がなくなっていたり、顔が削りとられていたり。たまたま隣に居合わせた中国人参拝者はポツリ、「文革当時の悪行さ」と。
ともあれ、「主席と我らの心は一つ」を懸命に演出した時代でした。
オシマイ
《QED》
 
【知道中国 596回】                  
 ――共産党×拝金主義=「市場レーニン主義」
『中国共産党 支配者たちの秘密の世界』(R・マグレガー 草思社 2011年)

 △
 結党から90年。いまほど共産党と人民の心が1つになったことはないだろう。それというのも、いまや共産党と人民は共に拝金主義というイデオロギーを堅く信奉し実践しているからだ。だが、だからといって共産党は人民の勝手を許しているわけではない。拝金主義イデオロギーを逸脱して共産党に対する批判がましい言動をみせたら、ノーベル平和賞の劉暁波を見れば判るように、躊躇なく、断固として、徹底して叩き潰す。それは経営方針を批判し、経営の足を引っ張る従業員を雇うような会社が存在しないと同じ理屈だろう。

中国経済の現在の構造は、「いかなる指標を用いても、中国経済に占める民間部門の割合が三〇パーセントを上回ることはな」いばかりか、「主要な産業は一〇〇パーセント、または大部分が国家によって運営されている。以下にその例を挙げる。石油、石油化学、鉱業、銀行、保険、通信、鉄鋼、アルミ、電気、航空、空港、鉄道、港湾、道路、自動車、医療、教育、公共サービス、すべてがそうである」。かくして中華人民共和国は中華人民公司という名の超巨大企業集団と化し、かつての血塗られた革命政党のイメージを消し去り執政党とカンバンを塗り替え、共産党は社会主義市場経済(いいかえるなら一党独裁体制下の資本主義)を大車輪で牽引している。

以上の著者の主張を敷衍して考えれば、共産党は上に列記したビジネス(なんと、それらは企業活動の根幹ではないか)を展開する超巨大国有企業を傘下に置く企業集団の経営中枢であり、党最高権力機構である中央常務委員会は企業集団内の人事と資金を完全に掌握する執行役員会であり、党トップの総書記はCEOといいかえることもできる。

かくて共産党員は超巨大企業集の正社員であり、党員以外の人民は契約社員やアルバイト。だから人民は「権力、給与、地位、住宅、医療」を求めて共産党員になろうと努め、党員になったら地方政府という名前の支社における営業成績を挙げることで出世の階段を昇り、最後は執行役員会、つまり中央常務委員会入りを目指すという仕組みだ。

ここで著者は、共産党は革命政党だった当時の組織原理であるレーニン主義で貫徹されていると指摘する。つまり中華人民公司企業集団は、鉄壁の上意下達システムを持つ共産党という経営中枢によって経営されていることになる。だから効率的経営が可能なのだ。 

そのうえ忘れてならないのは、先ず中華人民共和国という国家があって共産党があるわけではなく、共産党があったからこそ国家があるという点だ。そこで歴史という問題が浮上してくる。じつは「歴史は、党が国民を統制するための手段であり、そこで最優先されるのは党の威信と権力を保持することであ」り、「党に向かって『歴史の鑑』を掲げることは、中国国内では許されないこと」になる。だから「日本や他の諸外国に向かって歴史を講釈する中国の声を、まともに受け取ることはできない。なぜなら、中国自身が党の記録を国民の目から隠しているから」である。

「支配者たちの秘密の世界」とは、人事、膨大な資金、歴史解釈権、レーニン主義。
 この本を読み終わって、ドラッカーの経営理論を学んだ女子高生がマネージャーを務める高校野球部を甲子園に進ませる姿を描いたベストセラーの“もしドラ”が頭に浮かんだ。“もしレー”――レーニンが社長になり企業経営したら、完璧に徹底した非情上司。
《QED》

(ひいずみかつお氏は愛知大学教授。京劇、華僑研究家。著作多数)
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<宮崎正弘の最新刊>
 『自壊する中国 ネット革命の連鎖』(文藝社文庫、672円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4286109364/
 『震災大不況で日本に何が起こるのか』(徳間書店、1260円)
  
http://www.amazon.co.jp/dp/4198631670/
 『中東民主化ドミノは中国に飛び火する』(双葉社新書、880円)
http://www.amazon.co.jp/dp/4575153753/
        
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<宮崎正弘のロングセラー>
『ウィキリークスでここまで分かった世界の裏情勢』(並木書房、1470円)
『オレ様国家 中国の常識』(新潮社、1470円)
『上海バブルは崩壊する』(清流出版、1680円)
<宮崎正弘の対談シリーズ>
『猛毒国家に囲まれた日本』(佐藤優氏との対談。海竜社、1575円)
『増長し無限に乱れる「欲望大国」中国のいま』(石平氏との対談。ワック、945円)

『絶望の大国 中国の真実』(石平氏との対談。ワック、933円)
『日米安保、五十年』(西部邁氏との対談。海竜社、1680円)
『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との対談。徳間書店、1575円)
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