原賠機構法案は東電を守りたい身内で全てを決められる究極のお手盛り法案
原賠機構法案は東電を守りたい身内で全てを決められる究極のお手盛り法案
6月14日に、原発事故の被害者への損害賠償が速やかになされることを目的とした“原子力損害賠償支援機構法案”が閣議決定されました。
5月に関係閣僚会合で決定された損害賠償スキームを法律化したものですが、その内容にはかなりの問題があると言わざるを得ません。
機構の運営委員会メンバーに電力業界の代表が入る?
最大の問題点は、被災者の救済が主目的の法案のはずなのに、東京電力を“甘やかしながら”救済しようとしていることに尽きます。
この法律で設立される機構は、東京電力に対して、
①資金の交付、
②株式の引受け、
③資金の貸付け、
④社債の取得、
⑤資金の借入れの債務保証を行なえるとなっています。
①は機構が東京電力に“お金をあげる”ことを意味しているので、東電支援のためには何でもありという感じになっています。
しかも、その決定は機構の運営委員会が行なえることとなっていますが、記者発表のときの官僚の説明から、経産省はその運営委員会のメンバーに電力業界の代表を入れるつもりになっています。
つまり、機構の原資は各電力会社の拠出金と国のお金(交付国債)なので、国民の電力料金と税金で構成される資金が電力業界の身内が関与する委員会での決定によって易々と東京電力に入れられるようにしているのです。
しかも、東京電力は機構から援助された資金を返済することになっていたはずですが、法律上は“返済”という言葉は一切出てきません。
東京電力が機構に払う“特別負担金”がそれに該当するのですが、その金額も運営委員会が決められるので、返済とは言えない少額になる可能性もあります。
ちなみに言えば、法案上は機構の主務大臣は“政令で定める”となっていますが、先週段階で入手していた原案では“経済産業大臣”と明示されていました。
法律上もそうなった場合、東京電力を守りたい経産省の監督の下で、電力業界代表が入る機構の運営委員会の判断で、国民の負担が原資である資金でいくら東京電力に援助していくら返済させるかを決められるのです。
東京電力を守りたい身内ですべてを決められるようにしており、究極のお手盛りと言える位に東京電力に甘い内容ではないでしょうか。
官僚的な骨抜きのオンパレード
しかも、東京電力に不利なことは極力行なわれないよう、法案には様々な小細工が施されています。
例えば、東京電力が援助を受ける際には、機構と東京電力で“特別事業計画”を作成するのですが、その作成に際しては「機構は・・・当該原子力事業者の資産に対する厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行なわなければならない」という条文があり、一見、東京電力に厳しいリストラを課すように見えます。
しかし、そのすぐ後の条文では、主務大臣は「・・・電気の安定供給・・・を図る上で適切なものであること」などの要件を充たす場合にこの計画を認可できるとなっていますので、リストラも電気の安定供給に支障が生じない範囲に止められるのです。
法案の目的(第1条)にも出てくるこの“電気の安定供給”という言葉が癖もので、法案を書いた官僚の側にとっては、現在の発送電一体と地域独占による供給体制を意味します。つまり、この言葉が入ったままでは、東京電力の今の体制に影響があるようなリストラは期待できないのです。
しかし、法案を見ると、特別事業計画に「関係者に対する協力の要請その他の方策」について書けば、機構の援助を受けられることになっています。
“銀行に要請します”と言うだけで結果は問われないのです。
枝野官房長官の主張を巧妙に骨抜きにしています。
次に、枝野官房長官はかつて、東京電力の債権者である金融機関の債権カットが必要と主張し、「銀行などが協力するかを見極めて、次のステップ(国の支援)に行くかを決める」と発言したこともありました。
こんな法案は絶対に通してはいけない
このように、今回の法案はとにかくひどいとしか言えません。
かつては経産省は霞ヶ関の中では改革派と見られていましたが、今や完全に既得権益擁護の守旧派に転じてしまったのでしょう。
ちなみに、聞こえてくる噂では、さすがに経産省の官僚も民主党の政治家も、法案がこのままで成立するとは思っていないようです。
東京電力の決算書を公認会計士に承認してもらうために急いで作った部分もあるようですが、それでこのようなお手盛り法案を閣議決定までするものでしょうか。
もちろん、原子力損害賠償についてはこれまで基本法しかなく、その詳細な仕組みを定める法律がなかったことは事実であり、機構を設立すること自体には私も賛成です。
しかし、詳細は省きますが、前例として参考にしたであろう預金保険法はもっとしっかりした内容ですので、もっと勉強して正しい内容に大幅修正すべきではないでしょうか。
そうは言いながらも、このままでは東京電力は夏には資金ショートを起こす可能性があることも事実です。
ただ、政府が守るべきは電力供給の機能であり東京電力ではありません。
経産省の守旧派の皆さんも、そのことを念頭に置いて正しい対応をすべきではないでしょうか。
http://diamond.jp/articles/-/12756