宮崎正弘の国際ニュース・早読み
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23年(2011)6月6日(月曜日)
通巻第3341号 <増大号>
ビンラディン殺害後、けっきょく最大の裨益者は中国だった
パキスタンは対米関係に冷淡化、中国との同盟をより強固に
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ビンラディン殺害以後、ギラニ首相はただちに北京を訪問した。四日間の歴訪。中国は熱烈歓迎。そしてパキスタンへ最新鋭戦闘機の供与。
パキスタン軍の装備は八割方が中国製。空軍260機の戦闘機は中国製。イラスマバードを訪問した米国外交評議会の幹部に向かって、パキスタン高官は公言する。「米国との関係は中国への比重に代替されるだろう」と。
このあけすけな態度変更は次のシナリオが見えているからだ。
第一に米国はアフガニスタンから撤退に向かう。けっきょく、タリバンを退治できず、ビンラディン殺害をもって、当面のテロリスト戦争は一段落したという総括のもとに、予定されたカンダハル総攻撃は行われない。
第二に米軍の兵站ルートは80%がパキスタンのカラチ経由。この付近にいくつかの兵站拠点があり、毎日およそ500台のトラックが輸送部隊をくんでアフガニスタン各地へ物資、兵員を届けた。
アフガニスタンにおける米軍ならびにNATO基地は四百数十。
この後、NATO軍およそ五万、戦争下請けおよそ五万。米軍十万。合計二十万余の兵力、物資の撤退が三年程度で片付くとなれば、パキスタンは以後の対米関係が激変することも目に見えている。
第三に置き去りにされるカルザイ政権だが、欧米の期待とは裏腹に民主主義は実現されず、かわりに腐敗にまみれたアフガニスタン高官の麻薬、密輸取引がはびこり、たとえ次にカブールに権力の空白を迎えようとも、欧米はおそらく死活的な関与をしないだろう。となると、誰が、そのときに真空を埋めるか? インドであるはずがない。とすれば?
▲この状況変化を北京から眺めるとどうなるか?
第一に来月、カザフスタンで開催される上海シックス(SCO)からパキスタンが「正式メンバー」として加盟する(アルジャジーラ、六月六日)。
第二にグワダール港である。
巨大なバースが完成し、ちかく港湾を管理運営してきたシンガポールの港湾会社は契約切れとなる。中国企業が代替することは決まっている。
グワダールは深海、原油タンカーが横付けできる工事は終了し、これでホルムズ海峡へ僅か五百二十キロ、西隣がイランという地政学的優位性をもつ、このパキスタン西端の港からパイプラインはえんえんと中国の新彊ウィグル自治区へと達する。バロジスタンン(パキスタン西部)はパイプラインスタン(Pipelinesten)になる。
第三はアフガンルート(千五百八十キロ)のプロジェクトが頓挫していることだ。
これはクリントン政権時代からユノカルが交渉を開始し、トルクメニスタンからのガスをアフガニスタン経由でパキスタンへ運び、カラチから各地へ輸出する壮大なプロジェクトだった。支線もインドへ分岐することも決められたが、「アフガニスタンに平和がきてから」工事は開始されるとされた。
いまとなれば実現は不可能に近い。
第四にカラコルム・ハイウェイとの連結である。中国の援助でカラコルムと中国をむすぶハイウエィは数十年の歳月をかけて中国が工事を敢行してきた。その北にはアフガニスタンと中国を結ぶ「アフガン回廊」が存在している。
逆に言えば、軍事的な脅威を拡大されたインドはますます西側との外向的絆を強めざるを得ないだろう。
かくして地政学的要衝をすべておさえた中国。北京は笑いがとまらない。
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<宮崎正弘の新刊>
『自壊する中国 ネット革命の連鎖』(文藝社文庫。発売開始、672円)
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(読者の声1)前号に書評の出た、加藤康男『謎解き 張作霖爆殺事件』(PHP新書)について。
河本大作は利用されたのであり、背後にはコミンテルンの謀略。張学良は父親殺しがばれないよう爆破実行犯を闇に葬っていた.<引用終わり>。
感想:今回、加藤康男氏がこの問題を発表されたのは実に素晴らしいことです。早速購入いたします。
(1)張学良の関与:この事件について私が分からなかったことの一つは、張学良が事件直後北京から父の葬儀と跡目相続のため変装して一週間かけて奉天に戻ったことです。これは、張学良にとって日本軍は危険ではない、すなわち、日本軍が張作霖を殺したのではないことを知っていた事を示します。加藤氏の研究はこの謎を明らかにしてくれました。
(2)爆殺ではない:張作霖と同一車室にいた日本軍軍事顧問の儀我少佐によると、張作霖は列車の急停車で鼻血をだした程度でした。だから現場から奉天の屋敷にゆく途中で殺されたと思われます。河本の役目は列車を止めるだけで、別に暗殺部隊がいたと思われます。爆殺ではありません。
(3)ソ連の張作霖暗殺動機:ソ連は支那満洲工作を軍閥別に行っていました。
張作霖はソ連を敵視しており、1927年には北京のソ連大使館を占領し、機密謀略文書を公開しました。
また当時満洲を狙う米国が張作霖に満鉄並行線や包囲網建設のための莫大な鉄道借款を与えていました。
そこでスターリンが報復と、米国の張作霖を利用した満州進入を防ぐために、張作霖を暗殺したという説があり合理的です。
(4)西安事件の謎:これは今では結果から見て事件の内容は明らかで、謎ではないと思います。中共にとり都合が悪いので謎としてごまかそうとしているのでしょう。だから親中の近代史研究者は西安事件を孤立した事件とみて矮小化し隠蔽します。しかし欧米の研究者は真の支那事変の発端と見ているそうです。
学良は宋美齢を「姉さん」と呼んで保護してもらっていました。
学良が事件解決後、蒋介石の南京行きの飛行機に急遽乗り込んだのは用済みで中共に消される事を恐れたのでしょう。
蒋介石は西安事件のもう一人の裏切り者楊虎城は台湾脱出直前に家族もろとも処刑しています。
楊虎城の息子の一人は、共産党の延安に行っていたので助かりました。
(6)蒋介石は南京帰還後二度と学良に軍事指揮権を与えませんでした。
そして台湾脱出後も張学良を「お前のために支那を失った」と終生、許さなかったそうです。
(東海子)
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◎毎日一行● 各社(朝日を含め)政治部長「菅早期退陣」で合意した由。
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(読者の声2)貴誌3340号の書評 加藤康男著『謎解き 張作霖爆殺事件』(PHP新書)で「河本大作が張作霖爆殺の『真犯人』というのは、本人が拡声器のように吹聴し、手柄にしたからで、戦後もそれが一人歩きした」
と書かれましたが、私の理解では、本人は否定していたが、戦後シナに残り事業を行なっていた河本氏が国民党軍に逮捕され強要された供述調書に犯人であると記述されていた、です。
強要されて造られたのですから供述調書に曖昧な点が多く、また矛盾しているのは当然でしょう。
戦前、在支陸軍の参謀をなさっていられた方から聞きましたが、当時の日本陸軍士官たちの間では、一般に犯人はシナの軍閥であろうと信じられていたとのことでした。
張学良も軍閥の首領のひとりですから、その張学良がソ連とつるんで行なったとは十分考えられることです。
ところで5月4日「産経新聞」の朝刊に菅首相の内閣不信任案否決後の顔の写真三連写が載っていましたが、左側の喜色満面の顔でひとつ重大なことに気づきました。
鼻毛が鼻の穴からのぞいています。人相学で鼻の外に出た鼻毛は散財の象。菅首相の場合は国家財産の無駄遣いでしょう。
それはさておき、鳩山氏の「ペテン師」発言がありましたが、あれはプロの詐欺師の行う手口でとても素人にできる芸当ではありません。政治家は全て詐欺師という考えもありますが、ちょっと詐欺の乗りが違います。
外国流の詐欺の手口にも通じている一流プロのアドバイザーがついているのでしょう。
5月4日「産経新聞」朝刊に載った社民党福島党首のコメントは菅首相の乗りに完全にそっています。
「夜と昼の首相発言にぶれはない。鳩山氏の理解が間違っていたのでは。『いつ辞めるか』だけで国会が空転することはやめてほしい」とのことだが、ひょっとすると福島氏がアドバイザーなのではと思えてきます。
ところで、昨年の夏に翌年の欧米系一流企業の在日子会社の本国への配当性向を観れば欧米の調査会社が日本経済の動向をどう見ているかわかると書きました。
どうもかれらは、日本経済が復興に向かうとみているようです。
日本株の外人売りをみてその逆が真実と思うひともいるかもしれませんが、対日投資と対日投機は全く別物です。また直接投資だけでなく利益を配当として引き上げないのも実質的には投資です。
株式投機は巻き上げる対象の投資家がどうするかの予測を元に行います。対日投資は日本の実体経済の動きの予測によって行います。投資家に対してと投機家に対してでは情報解析会社の提供する報告書の内容が違います。
一例を挙げましょう。
株価が下がるのは、投機家にとっては先物売りのチャンスです。日本での投資を考えている企業家にとっては、下がったところが日本企業を買収するチャンスです。
菅首相が居座ることになったのは、日本国民にとって非常に良いことです。理由は数多くありますが、一番は次回総選挙までの間に自民党の総裁選挙があることです。
谷垣氏ではどうにもなりません。典型的な役立たずの善人です。稲田氏が後任に最適でしょう。あとは実務能力のある人間が主要閣僚になればよい。
たとえ才気煥発でなくても何があってもぶれない人間が今の日本政府首班の最重要資質です。あとは果断な実行案をつくれる幕僚がいればよい。
(ST生、千葉)
(宮崎正弘のコメント)ご指摘に基準に照らせば、安部、平沼という順番になりますね。
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●毎日一行◎ ポルトガル与党、後退の可能性大。新政権ちかく誕生へ
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(読者の声3)南沙諸島をめぐる中国とベトナムの争い、また激しくなってきました。
ベトナム人の中国嫌いは相当なものですが、中国と韓国・朝鮮の関係を見てもわかります。
「天と地」(レ・リ・ヘイスリップ著 角川文庫 絶版)というベトナム女性の自伝的ノンフィクションでは、ベトナムを逃れた主人公が1986年に16年ぶりの里帰りをしますが、ベトナム行きに当たっては米国国務省からソ連軍の動向を探るよう、それとなく示唆されたり、ベトコンから死刑判決を受けているだけに収容所へ送られるかもと心配してのベトナム訪問、市場でやっと会えた姉は恐怖に怯え無視する(アメリカ帰りと会ったことが知れただけでも密告が怖い)。
戦時中、北に渡った兄は現在は責任ある地位にいるが、ひどくよそよそしい。兄が北の女性と結婚したことについても、ベトナム中部の人間にとっては中国人やカンボジア人と結婚したのと変わらない、というほど北の人間は嫌われている。
ドイモイ政策への転換前ですが、若手官僚との会合が用意され、ベトナムの現状について忌憚のない意見を求められる。
そんな中で、毛沢東とニクソンがベトナムに中国の傀儡政権を樹立する密約があったと兄からの話、南部はポル・ポト、北部は中国によりはさみうち。
文革期のことですから、ありえない話ではありません。
実際、カンボジアで見た武器・弾薬・地雷はすべて中国製でした。
ベトナム政府軍は勝手に検問を設け、バスの乗客の金品を奪い、若い女性は強姦する。
特に北から逃れてきたカトリックの大統領直属部隊は残虐で知られ、ベトコンの死体に払われるボーナス目当てに戦闘がなければ農民をベトコンとして殺してしまう。ベトコンも汚さでは負けていない。子供に爆弾を仕掛け韓国軍陣地で爆発させる。韓国軍は腹いせに小学校の子どもを捕まえ井戸に放り込み手榴弾を投げつける。
ベトコンが政府軍に攻撃され被害が出ると、監視を怠っていたとして村人を処刑する恐怖政治。ソンミ村虐殺事件とかありましたが、ベトコン支配地域の農民は女子供も潜在的ベトコンであり、ベトコンに仲間を殺された側が村民を皆殺しにすることもあったのだろうと思います。
第一次大戦までの戦争のように相手国の司令部は砲撃しない、などといった紳士協定はおろか、各国の観戦武官が見守る中での正々堂々の正規軍の対決とは正反対でした。こんなグダグダの戦争を経験した米国はなんの教訓も学ばなかったのか、アフガン・イラクで再び泥沼へ。アメリカの善悪二元論のキリスト教的思考では解決しませんね。
(PB生、千葉)
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日本のお姉さんのひとこと。↓
日本人は、アメリカ人が全員クリスチャンだと
信じているようだが、とんでもないことです。
アメリカ人ほど、怒ったら怖い人たちはいないと思います。
一般の日本人を焼夷弾で10万人以上焼いて、
広島、長崎でも10万人以上原爆で溶かして
合計30万人殺したのです。
だから、チュウゴク人が南京で
日本人が30万人殺したというウソも
そのまま受け入れる。
(自分たちがそれぐらい一般の日本人を殺しているので、
日本人を極悪人だということにしたいのです。)
でも、戦争に負けてからは、日本はアメリカに
毎年貢物としての(一応、いつか返してもらえることになっているが)
アメリカ国債を購入し、アメリカ軍と仲良くし、
アメリカの言うことを全て受け入れてきた。
それでうまくやってきた。
アメリカがいつまでも金持ちと思って準備していないなら
日本という国がなくなっても
日本人の怠慢のせいです。
本格的に日本がロシアやチュウゴクや
朝鮮半島に奪われるような時がきたら、
その時は、日本は、ハワイのようにアメリカの州になるから
助けて!と泣きつくか?
軍隊も無しにヤクザ国家の
ロシアやチュウゴクとどう向き合うの?
脅されたら言いなりになるしかないじゃん。
アメリカとは、仲良くしておかねばなりません。
日本だけでは、たとえ軍隊があったとしても
心もとないし今回の震災でアメリカは友達だとはっきり分かった。
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(宮崎正弘のコメント)小生はその本は読んでいませんが、これまでのベトナム文学での最高峰のひとつは、パオ・ニン『戦争の悲しみ』です。これは河出書房の『世界文学全集』に『暗夜』と一緒に入っていますが、井川一久さんの名訳。
◎○
樋泉克夫のコラム
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【知道中国 582回】
――毛主席喜んでください、遂にボクらは主席の夢を実現しました
『沿着毛主席革命路線勝利前進』(香港三聯書店 1971年)
△
この本は香港にある中国系出版社兼書店の三聯書店が出版した「学習叢書一九七一年第1輯」で、当時の中国を代表する3大公式メディア――共産党機関紙「人民日報」、同理論雑誌「紅旗」、人民解放軍機関紙「解放軍報」――が71年元旦に発表した共同社説を周知徹底させるために編まれたようだ。
なぜ香港で共同社説の学習をしなければ、宣伝をしなければならないのか――こんな疑問が湧くだろうが、当時の香港を思い起こせば、とりたてて不思議でもない。
66年に文革が起こるや、これに呼応した香港左派の過激分子が英国殖民地政庁打倒を叫び、中国本土以上に過激な街頭行動を展開し、殖民地政府の治安部隊と激しく衝突した。「香港暴動」である。当時、彼らは胸に毛沢東バッチを付け、手には『毛主席語録』を持ち、隊伍を組んで行動した。
休日ともなると郊外に出かけて野外炊飯。だが、バーベキューではない。地主や資本家に搾取されるがままだった昔の苦しい日々を憶い起こせてばかりに、わざわざ粗末な食事を口にしていたものだ。香港島の中央に在った中国銀行香港支店の屋上には「毛沢東思想万歳」の巨大な看板まであって・・・いまにして思えば、なんとも不思議な光景だった。
つまり、香港にいた一定数の左派に学習させようという魂胆で出版されたわけだ。
さて肝心の社説だが、「偉大なる70年代の最初の1年が過ぎた。わが国各民族は社会主義革命と社会主義建設の高まる潮流のなかに在って、全世界人民のアメリカ帝国主義と社会帝国主義に反対する闘争の高まる潮流のなかに在って、戦闘的な1971年を迎えた」と、初っ端から異常なまでの高揚感に溢れている。
次いで「新しい1年が始まるに際し、我われは毛主席のプロレタリア階級革命路線の勝利を熱烈に歓迎し、我らが偉大なる領袖毛主席の万寿無疆を衷心より祝願ものである」と文革華やかな当時を反映した“常套句”を置いた後、いよいよ本題に入る。
「偉大なる領袖毛主席が1970年5月20日に発表した『全世界の人民は団結し、アメリカ帝国主義とその一切の走狗を打ち破れ』との壮大厳粛なる声明において、『新たなる世界大戦の危機は依然として存在している。各国人民は一切の備えを為すべきである。
ただし目下の世界の主要な傾向は革命である』と指摘されているが、国際情勢の推移をみると、毛主席のこの科学的論断を実証している」。以下、各国人民の戦いぶりを紹介した後、その先頭に中国が立つことを高らかに宣言し、最後を「偉大で光栄に充ち正確な中国共産党万歳!/我らが偉大な領袖毛主席万歳、万々歳!」と結んでいるが、興味深いのが社説においてゴチック体で強調されている次の一文だ。
「毛主席は『わが国人民は一個の遠大なる計画を持つべきだ。何十年かのうちにわが国は経済と科学文化の面における落後した情況を努力して改変し、すみやかに世界の先進水準に到達させなければならない』と教え説かれた」
「我らが偉大な領袖」が、中国は「経済と科学文化の面」で世界水準から「落後した情況」と認めてから40年ほどが過ぎた今日、なによりも「偉大で光栄に充ち正確な中国共産党」の「努力」によって、中国は、少なくとも経済規模と軍事の面に関し「世界の先進水準」を超えた。
ということは、一部ながら毛沢東の宿願が実現したわけだ。じつにステキではないか。やはり「偉大で光栄に充ち正確な中国共産党万歳!」ということかなァ。
《QED》
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もう一本!
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【知道中国 583回】
――歴史は繰り返す・・・ものらしい
『労改写真』(王大衛 紐育書局 2011年)
△
労働能力を持つ自由剥奪刑の受刑者を強制労働を通じて再教育するという施設が中国全土に数多く存在する。
略して労改(Laogai)。正式名称は労働改造所。これを要するに、共産党に刃向かう不届き千万な奴や一般犯罪者を劣悪な環境下に置き、働けるうちは徹底して働いて貰おうということだろう。この本は、そんな労改で人権無視の非人間的な生活を強いられているとされる受刑者の“真実”を写(書き記し)したものだ。
巻頭から巻末まで想像を絶するばかりの過酷な内情が詳細に綴られているが、労改の体験者でなければ語ることができないだろうと思われる記述も数多く見られるだけに、あるいは著者は実際に過酷な運命を生き抜いてきたとも考えられる。
著者は受刑者が人間として壊れてゆくキッカケは、管理者による理不尽な取り扱いでも、仲間からの暴力でもない。
身の回りの細々したことに関心をなくした時だといい、「個人の尊厳を維持する手段としては清潔さを保つこと、できるだけきれいにしていることが必要だった」と綴る。
そのことを著者に教えた老受刑者は、その方法を、50年代前半にみた日本人捕虜から学んだそうだ。
「日本人は大きな樽を用意して、粗末だが洗い場を作り、日本式の風呂にはいることで、日本人としての矜持を保った、というのだ。どうやら自尊心は無気力な生活のなかで崩れてゆくようだ。先ず衛生や身だしなみへの関心を失い、次に囚人仲間、遂には己にも無関心になってしまう。自らの生命への執着を失くした時、ヒトとして壊れはじめる。ともかくも、自分の意思でできる日課を繰り返すことが、堕落と確実な死から自分を守ってくれた。だから私は誰がなんといおうと、そういう日々を貫いた」。
次いで過酷な生活を強いられる労改で日常化している死について、「労改での無名の死は悲惨だ。死者がどこに埋葬されたのか。受刑者の死後に死亡証明書が書かれたのか。それさえさっぱり判らない・・・。その死は誰にも伝えられず、埋葬場所も判らない。地上に存在したという痕跡の一切は煙のように、無常にも消えてしまう。受刑者にとっての最大の苦悩は、自分が誰だったのかも判らずに葬られることだった」と、地上に生きた一切の証を遺せないままに死を迎えなければならない運命を恨む。恐怖、不条理・・・憂憤。
では死んだ後はどうなるのか。
「死んだ受刑者を乗せた荷車が労改の門を出る前、死を装って出て行く者がいないのかを確かめるため、監視官は手にした先の尖った鉄の棒を死体の頭に打ち下ろす。労改を出た死体は事前に用意してあった幅広い溝に放り込まれる。溝を掘ったのも、死体を放り込むのも、同じ受刑者仲間だ。死亡者が増加するに従い、出所死体を確認する方法も簡便になってきた。
鉄の棒を頭に振り下ろす代わりに、監視官は先を尖らせた太いワイヤーを死体の胸の辺りに突き刺す。確かに、重い鉄の棒より、こっちの方が楽だろう」とのことだが、ここで思い出されるのが明代の中国を旅したドミニコ会士ガスパール・ダ・クルスの著した『中国誌』だ。
クルスは、「(役人は)鉄張り棒で(牢獄から出される)死体の尻を三発きつく殴」る。やがて「生の兆候は認められず、死んでいることは確かである」と認められた死体は「ごみ捨て場に投棄」と綴っている。
「鉄張り棒で死体の尻を三発きつく殴」ってから500年ほどの後、21世紀の中国では「先の尖った鉄の棒を死体の頭に打ち下ろす」。
確かに、事実は小説より奇とはいうが。
《QED》
(宮崎正弘のコメント)70年代の終わりから80年代の前半まで、中国から亡命した多くの中国人にインタビューしました。作家、外交官、学者、俳優、通訳、核物理学者、医者。。。。。
何人かが労働改造所を経験しており、そのおぞましさ、残酷さを語ってくれました。拙著『中国の悲劇』(絶版)が、その集大成でした。
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◎ ◎ ◎
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~
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仏教寺院や仏壇を破壊された農民たちは反政府=親ベトコンへ。なにやら十六世紀の宗教対立のようでもあります。
著者も最初は進んでベトコンに協力しますが、政府軍に捕らえられ虫や蛇、水責めに電気ショックと拷問の毎日。母親がダナンの警察に務める親戚を頼って賄賂でなんとか釈放されると、今度は政府軍のスパイに違いないとベトコンから処刑命令。処刑されると思いきや、ベトコン2人にレイプ・口止めされる。
その後、サイゴンの富豪の家の住み込みとして働き、いつしか主人と結ばれ15歳で未婚の母となる。追い出されダナンに戻り米軍相手の闇商人としてけっこう稼ぐが男運は悪い。アル中のアイリッシュアメリカンに殺されそうになったり、アメリカに連れて帰ると約束した男はある日突然帰国し消えてしまう。
米軍のトラックから捨てられた箱からは若い女のバラバラ死体、仕事を求めて米軍の職業斡旋所へ行くと昼休みに来るように言われ、あわやレイプの危機、騒ぐと米軍のMPがベトナム人の小娘の証言を信じて米国人を逮捕するのが不思議。アメリカ人にはいい人も悪い人もいるのだ。(5)なお西安事件後、蒋介石が張学良を殺さなかったのは、学良が莫大な財産(当時で5億ドル)を宋美齢に贈り、命乞いをしたからと言います。