1ミリと20ミリ・・・ICRPは何を言っているのか?武田邦彦 | 日本のお姉さん

1ミリと20ミリ・・・ICRPは何を言っているのか?武田邦彦

1ミリと20ミリ・・・ICRPは何を言っているのか?
2011年05月04日21時30分

武田邦彦 プロフィール
(たけだ・くにひこ)
中部大学教授(所属:総合工学研究所)
高知工科大学客員教授、多摩美術大学非常勤講師、上智大学非常勤講師
内閣府原子力委員会専門委員、同安全委員会専門委員
物理化学的手法を用いた原子力、材料、環境などの研究と、倫理などの研究。
専門は資源材料工学


内閣補佐官の辞任に端を発して文部科学省が決めた「1年に20ミリシーベルトまで被曝量の限度を上げて学校を運営する」ということが話題になっています。

このことについて少し深く考えてみます。

・・・

まず第1に、当たり前のことですが、緊急時が発生したからといって人間が放射線に対して防御力が急に高くなるわけではありません。

ICRPの勧告にはっきり書いてありますが、低線量率の確率的影響のリスク係数は、ガンと遺伝的影響の合計で、1000人に5.7人、成人は4.2人としていて、明示されていませんが、20才以下の人のリスク係数は8.7人で、成人の約2倍になっています。

私が「1年1ミリ」と言っているので、「20ミリでも安全とICRPが言っているじゃないか!」と批判している人がいるのですが、「よくICRPの勧告を読んでください」と言いたくなります。

繰り返しますが、緊急時になったからといって人間が放射線に対して強くなったわけではないのです。

従って、緊急時だから1年1ミリが1年20ミリになるということはありません。1年20ミリなればそれだけのことが起こります。
・・・・・・・・・

それでは IC RP は「緊急時」をどのように考えているのでしょうか。

まずICRPは「緊急時の被曝」として、

「計画された状況において、悪意のある行動及び予測しない状況から発生する好ましくない結果を回避又は減少するための緊急の対策を必要とする状況」

とあり、つまり、「計画時」とは違う状況が発生したときに、緊急の対策を必要とする状況を言っています。

「計画時」というのは、例えば原発が順調に動いているとか、外国から核攻撃を受けてない平和な状態を指しています。

これに対して緊急時とは、テロとか外国からの核攻撃、あるいは原発の爆発等によって大量の放射線がまき散らされたような状態を想定しています。

・・・

そして、1年1ミリシーベルトという基準の意味は、

「計画被ばく状況に適用され、被ばくした個人に直接的な利益はないが、社会にとって利益があるかもしれない状況」

とあり、少し難しいのですが、次のような概念です.

ICRPは「人間は自然放射線以外の放射線に被曝されると、何がしか健康に被害を受ける、しかし放射線の利用は人間にとって様々な利益をもたらすので、被曝限界を定めてそこまでは我慢しよう」という考え方です。

この考え方は、自動車等交通事故の考え方に似ていて、自動車で交通事故にあうのは良くないことだけれども、一方では自動車の利便性を考慮して我慢しようという考え方です。

そしてその限界を「1億人に1年に約5000人のがんと遺伝障害の発生」を限度とすると言うことです。

・・・

それでは、なぜICRPは「緊急時は1ミリから20ミリの範囲で良い」としたのだろうか? 日本は曖昧だから、「理由は知らないけれど、20ミリと決めたんだ」で良いが、国際的にはそれでは納得性がない。

そこで、

「個人が直接、利益を受ける状況に適用(例:計画被ばく状況の職業被ばく、異常に高い自然バックグラウンド放射線及び事故後の復旧段階の被ばくを含む)」

という理由を示している.

つまり、ICRPは「もともと放射線は害があるが、利益の分だけ我慢する」という思想だから、20ミリの場合も、「個人が直接、利益を受ける状況に適用」としている。1ミリと20ミリのICRPの表現を並べてみる。

・・・

1ミリ:被ばくした個人に直接的な利益はないが、社会にとって利益があるかもしれない状況

20ミリ:個人が直接、利益を受ける状況に適用

・・・

つまり、1ミリは「個人に直接的に利益がない」けれど我慢する範囲で、20ミリは「個人が直接的に利益がある」ということだ。

1ミリに比べて20ミリは、ガンの危険性が20倍になる.でも、それを越えるような「利益」が「個人」にあれば、政府は20ミリを認めて「国民を被曝の危険にさらすことができる」という理由になる。

このことが、日本ではほとんど言われていない。単に「緊急時だから我慢しろ」とだけだ。でも、ミスをしたのは東電と政府だから、それを「我慢しろ」と言われてもダメだ。

だから、政府は被曝限度を20ミリにあげるなら「個人が直接、利益を受ける状況」を作らなければならない。政府は殿様(万能)ではない.勝手に国民に不利を与えることはできないのだ。


原発連休明けの生活(11) 連休後の東京の生活

これまで、原発連休明けの生活ということで、項目毎に10回にわたって、整理をしてきました。
そこで、ここでは「連休後の東京の生活」ということを具体的に検討してみます.福島は調査がすんだら、次回に書こうと思っています.
なお、生活の前提としては、
1) 家の中は水ですでに数回、拭かれていて、3月下旬までに着ていた外出着は洗濯されていて、庭の表土や植木鉢の土は薄く取られ、玄関先から家の前、側溝も家庭で掃除できる範囲は掃除されていること、さらに落ち葉だまり、雨どいの下は特に注意して掃除されていること、
2) 子供は、地面を這ったり、土のグラウンドの地面すれすれで運動を長い間、していないこと、公園や芝生にあまり入らないこと、砂場で遊ぶときには砂の交換が行われていることなど、
3) 極端に警戒するわけではないが、むやみに福島原発の近くに行ったり、3月に東京から離れないでマスクもしなかった人が緊急以外の医療用放射線をあびないこと(3月はマスクをしていた人は被曝が少ないので、医療用の放射線も大丈夫です)、
などです。
さて、被曝の種類は、
1) 空気中に浮遊している放射性物質からの放射線(空間線量率)、
2) 空気中に浮遊している放射性物質を呼吸で取り込む、
3) 水から体内に入る、
4) 食材から体内に入る、
の4種類を考えます.3月はこれをすべて同じにして、(マスク、ペットボトル、遠いところの食材)の場合は係数が1.0、すべて行わない場合は係数が4.0、それに運動する子供は係数が5.0としていましたが、1)以外はかなり減ってきましたので、個別に計算します.
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まず、空気中からのものは、現在、1時間あたり0.07マイクロシーベルトぐらいですから、1年に直すと0.61ミリシーベルトです。
次に、空気中に浮遊するものからですが、1立方メートルあたりの放射性ヨウ素、セシウムの合計は、0.016ベクレルで、
0. 016ベクレル(立方メートルあたり)×0.0072(マイクロシーベルト/ベクレル換算)×17立方メートル(毎日)×365日=0.7マイクロ
となります。先日の計算と少し結果が違いますが、いずれにしても微々たるものです。


3番目に水道ですが、「検出限界以下」が多く、数値で計算しにくいのですが、これも1リットルあたり10ベクレル以下であることは確かで、この場合の被曝量は、一日2リットルほどの水を飲んでも、最大で1年間0.1ミリシーベルト程度になります.
4番目に食材ですが、これは購入するときに放射性物質が表示されていたら、1キログラムあたり10ベクレル以下のものを購入すれば、1年に0.03ミリでおさまります.
・・・・・・まとめ・・・
1) 外部から    0.6ミリ
2) チリから    ほぼ0
3) 水から     0.1ミリ
4) 食材から    0.03ミリ
で合計 0.73ミリとなり、これから普通の生活をしてもお子さんを含めて、一般人の限度の1.0ミリの73%でおさまります.
これまで少し高かったので、ご自分で計算できる方は計算してみてください。でもおおよそ大丈夫と思います.
【結論】
1. 3月、4月と注意をした人(マスク、ペットボトル水、食材)は、これから普通の生活に戻して大丈夫です。
2. 3月、4月に少し油断した人、特にマスクと食材に気をつけなかった人は、時々、高いところで遊んだり、旅行をしたりしてどこかで3月の分を取り返してください。
3月には外部放射線より呼吸によって体内に入る内部被曝が問題でしたが、原発からのチリがほとんど無くなり、今ではまったく心配は無くなりました。
まだ、溝、吹きだまり、雨樋の下、雑草などにありますので、小さいお子さんをお持ちの方は近づけないように、ご注意ください。大人は普通の生活に戻れます.
特に、雑草や公園の藪などにはもう少し注意して近づかせないことだけが日常的な注意になります.芝生に寝転がったりしないで、しばらくは屋外の公園より室内の遊び場を利用してください。
・・・・・・
水道は少し気持ちが悪いかも知れませんが、大丈夫のようです。もしご心配ならお子さんがご家庭で直接、飲む水ぐらいをペットボトルにしておけば大丈夫です.大人は心配ないレベルです.
肉、鶏卵などはOKです。魚は7月ごろまで大丈夫なので、危なくなったらこのブログに書きます.海洋の汚染はまだ進んでいません。
洗濯物は普通に干して取り込めます.ただ、もちろん「少し注意」が必要ですから、軽くはたくぐらいで大丈夫です.
部屋の掃除の間隔も事故までの状態に戻しても大丈夫です。これが原発事故の不幸中の幸いで、我慢は1ヶ月から2ヶ月ですみます.
雨が降ったときにはまだぬれないように、しばらくは傘を持っていってください。
お子さんがぬれた場合はシャワーなどに入ってください。雨に濡れても時間が短いので、それを落としておけば被曝が続くことはありません。
基本的にはすでに空気中のチリが少ないので、雨でもほとんど大丈夫ですが、福島原発からまだ少し出ていますので、「軽い注意」ぐらいです。
無理に東京からどこかに待避する必要はありません.お子さんがおられても大丈夫です.

・・・・・・
またお子さんの運動ですが、お子さんは運動をする必要があり、その時に少し被曝します。学校が十分な注意をしてくれる可能性は少ないので、学校での運動は諦めて、その分は家庭で注意してください。
主として、「地面にあまり近いところで遊ばさない」ことと、「水と食材に少し注意」、「もしあればスーパーやデパートの屋上などの高いところの遊び場で遊ぶ」などをすれば運動の時の分をカバーできます(その程度に放射線は落ち着いています)。
給食も問題ですが、これも一食だけですから、他の食事をお母さんが注意してあげてください。
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重要なことは放射線の影響は「足し算」であるということです。
お母さんは、お子さんが少し無理をすると疲れがたまる感じをつかんでいると思います(放射線に関係ない普通の疲れです).
それと同じで、1度、雨に濡れたり、激しい運動をして放射性物質を少し取り込んでも、体が排泄したり、修復したりします.
つまり、普通の疲れを取るようなものですから、少し休ませれば(少し高いところで数時間を過ごす、普段の生活より注意した生活を1週間程度するなど)、連休明けの東京では大丈夫です.
計算する必要はありませんが、1日に約3マイクロシーベルトぐらいは回復します。
妊娠中、または妊娠可能な若い女性も、マスクなしで大丈夫になりました.地面に近いところで呼吸することが少ないので、子供より被曝は少なくなります。
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とにかく、事故から2ヶ月。もっとも高かった頃の3月20日以前に比べて、すっかり東京は綺麗になりかけています。吹きだまり、雑草などだけに残っている感じです。
安心して生活できるようになって良かったと思います.
(平成23年5月5日 午後11時 執筆)
http://takedanet.com/2011/05/post_348b.html

武田邦彦

超・ねじれ思考  児童の被ばくは多い方が良い??

郡山市は市長の決断で、市内の小学校の校庭の表土を除き、子供達がすこしでも被ばくしないようにと努力した。
その結果、表土を除く前には1時間あたり3マイクロシーベルトもあったのに、それが0.6マイクロシーベルトに減った.
子供達にとっては素晴らしいことだ.
これが小学校ばかりではなく福島県の全部に行き渡れば、
「汚れた福島」
から
「綺麗な福島」
への転換ができる。素晴らしいことだ。
・・・・・・・・・
でも、これに対して文科省の大臣が、
「3ミリシーベルトで安全なのだから、余計なことをするな」
と言った。「汚れた福島のままで良い。30年はそのままでよい」という意味になる。


その理由は、「安全なものをさらに安全にしなくても良い」ということだが、超・ねじれ思考であると共に、法律違反である。
もともと文科省は、放射線を出す物質の法律を作り、厳しく管理をしていた。複数の法律があるが、その基本思想と規制値は、
1.
被ばくはできるだけ低い方が良い、
2.
子供の被ばくは大人より危険である、
3.
一般人の1年間の限度は1ミリシーベルトである、
4.
「クリアランス・レベル」(原子力関係の廃棄物を捨てる時の基準)は1年間10ミリシーベルト以下にしなければいけないし、それに反すると1年以下の懲役で犯罪である、
ということである。
今回の地震で臨時措置として、年間20ミリシーベルトとう限度を決めたが、これはあくまでも「望ましくないが臨時」であり、さらに「法律で決まっているのを、文科省の大臣が勝手に変更できない」という制限がある。
・・・・・・・・・
実質的に子供達の安全を守るという点でも、これまでの文科省の指導の思想から言っても、さらには具体的な法律から見ても、郡山市の行動とその結果は、「子供を育てるために存在する、文科省として喜ぶべきもの」であることは明らかだ.
私は福島原発事故以来、政府が自分たちのメンツにこだわって、
「どうにかして、国民や子供をより多く被ばくさせたい」
という行動を取ることに、実に不思議な感じがしていた。
「そんなことはないはずだ」と何回も自分に言い聞かせてきたが、政府が言ったり、行動したりするとすぐ、それは裏切られる.
原発事故では「最初に逃げて、後で戻ってくる」ことによって被曝量を減らすことができるのに、一番、多く放射性物質が出ている時に「安全だ」と言って、放射線が少なくなってから「危ない」と言い出したりしている。
私は小学校の基準として文科省が出した1時間3.8マイクロシーベルトという計算はまったくの間違いと思っているが、もしそれが正しくても、郡山市の小学校の汚染が下がるのは歓迎のはずだ。
すでに政治家やお役人が自分たちだけのことを考えて、国民は税金を納める道具ぐらいしか思っていないことは確かだが、こんなときにもそうか、と思うと情けない.
(注)文科省3.8マイクロの間違い
1. もともと子供は1年間1ミリシーベルトである、
2. 原子力安全委員会も、臨時措置でも子供は10ミリシーベルトが望ましいと言っている、
3. ノーベル医学賞を受賞した外国の学者も、子供の規制値を2から3分の1にすべきだと提言している、
4. 内部被ばくを計算していない(計算根拠を示さず、無視できるとしている)、
5. 校庭にいる時間以外は子供が屋内にいるとしていること、さらには屋内は屋外の2.5分の1だとしていること(現在の福島県の状態を無視している)。
子供をできるだけ多く被ばくさせたいという異常な心理で、子供を被ばくさせるな!
(平成23年4月29日 午前11時 執筆)
武田邦彦

http://takedanet.com/2011/04/post_b591.html

http://news.livedoor.com/article/detail/5535740/

原発連休明けの生活(8) 水

水道については、国際的には国連のWHOが基準を決めて、日本では政府の指導のもとで水道協会が同じ内容の「ガイドライン」を出しています.
一般人の被曝限度は「1年1ミリ」なので(国際勧告と国内法)、水道協会は、その10分の1の1年間0.1ミリで設定しています.
これは、水道の他に外部、チリ、食材などからも被曝を受けるので、水道は基準値の0.1ミリにしておかないと全体が規制値をオーバーするためです。
そこで、ここでも日本水道協会のガイドラインを使って、どの水道が危険かを調べました。
なお、日本の役所のなかで水道は極めて正確、真面目で、これまで水道関係者(水道マンと言う)が、汚い水道を家庭に送ったり、ウソを言ったりしたことはほとんどありません.
世界的に「安心して水道が飲めるのは7ヵ国」と言われますが、もちろん、日本はそれに入っています.
・・・・・・・・・
まず計算式ですが、水道に含まれるヨウ素とセシウムのベクレルが判るときには、簡単に示すと、飲む水は1日600cc、つまり0.6リットル(0.6キログラム)ですから、
(ベクレル)×0.6×365日×2/100000=(ミリシーベルト)
でベクレルを入れて、ミリシーベルトが0.1ミリ以下なら大丈夫ということになります。
たとえば、水道水に20ベクレルのヨウ素とセシウム(合計)が入っている場合は、計算結果は0,09ベクレル、つまり、わずかですが水からの被曝限度の0.1ミリシーベルト以下になります。
その点では、福島、茨城以外の県では水道を安心して飲むことができるようになりました。
・・・・・・・・・
神経質な方で、飲み水ばかりではなく、調理、煮物、味噌汁、はみがき、洗面など直接、顔や口に接する量は1日2リットルになりますから、たとえば、
10ベクレル×2×365×2/100000=0.15ミリシーベルト
になりますから、10ベクレルでも水からの被曝が危険領域に入ります.
この場合は、7ベクトル以上の県は危険となり、福島、茨城、栃木の水道は飲用や調理などに使わない方がよいということになります。
これらのことから、飲用と調理のように直接、体の中に入る水だけを注意するのが適当で、おおよそ10ベクレルが目安になります。
連休明けでは福島、茨城の北部、栃木の一部だけはペットボトルが良い
でしょう.
もし、さらに下がってきた場合は、ブログで紹介します.
(平成23年5月3日 午後1時 執筆)

武田邦彦
http://takedanet.com/2011/05/post_7af2.html