喫煙やストレスよりマシ? | 日本のお姉さん

喫煙やストレスよりマシ?

原子力と放射能の基礎知識/連載(1)福島第一原発災害のあらまし 
日本原子力学会異常事象解説チーム/小川順子・東京都市大学准教授
2011/4/ 2 13:00

福島第一原発事故をめぐるニュースで飛び交う、放射能、ベクレル、被ばく……そんな基本用語をどう理解すればいいのか。

関連ニュースで報じられる各種の数値に対し、どうすれば心配し過ぎは避けながら適切な警戒をすることができるのか。日本原子力学会(東京都港区)の異常事象解説チームのメンバーに数回にわたって寄稿してもらった。初回は、東京都市大学の小川順子准教授が事故の経緯を振り返る。
――2011年3月11日、観測史上最大級のマグニチュード9.0の巨大地震が東北太平洋沖で発生し、福島第一原子力発電所(1号機から6号機まである)は、設計時の想定(5.7m)をはるかに超える14mともいわれる津波に襲われました。
発電所は、大きな揺れには耐えるように設計されていて、運転中の1号機、2号機、3号機は、即座に自動停止しました。自動停止の次に重要なことは、原子炉の中心部分で熱を出している燃料を冷やすことです。
非常用電源作動せず冷却機能失う
燃料内部には、運転中に生じた放射線を出す物質(放射性物質)が存在します。そこから絶えず放射線を出し、それとともに熱を出しているからです。熱を出し続けると燃料が溶けて、高い熱を持つ塊になってしまう恐れがあり、原子炉そのものを損傷させることにもなりかねません。この熱を取り除くためには、海水ポンプを使って冷却した水を循環させ、継続的に冷却することが必要です。この海水ポンプを使うには電気が必要なのです。
この電気は、災害で原子炉が止まった場合、外部(つまり東北電力から)の電気を使うか、非常用発電機により自力で作らなければなりません。今回の震災では、東北電力からの電気は停電、非常用発電機は、津波で燃料が流されたり、機器が海水を被ったりして使えなくなりました。そのためできうる手段を使い、なんとか冷却を試みましたが、原子炉の水は、発熱による蒸発で減り、燃料の上部が水面から出てしまって、冷やすことができずに破損したと考えられます。
同時に蒸気発生により原子炉の圧力が高まりました。原子炉の変形や損傷を防ぐために、原子炉の圧力を、外側の容器である原子炉格納容器に逃がしました。すると原子炉格納容器の圧力が上がりました。1号機から3号機では、その圧力を気体にしてそれぞれ1~2回外に出しました。このとき、気体になった放射性物質も空中に出されたため、一時的に各地の放射線量が上がりましたが、この放射線量は、少なくとも現在の屋内待避指示地区を含むエリアより外の区域では健康には影響しない数値でした。
また原子炉内では燃料棒の金属部分と水の反応で水素が発生し、それが、原子炉から上部に漏れ出し、酸素と反応して爆発したと見られています。この爆発で、1号機と3号機の建物上部の壁は吹き飛んでしまいました。2号機は、建物は損傷していませんが、原子炉の下側の圧力抑制室といわれる部分で異音を生じ損傷したといわれています。
(続く)
一進一退の状況
一方、原子炉の上方には、使用済燃料プールがあります。これらプール内の燃料もまだ熱が出ていて継続的な冷却が必要ですが、それもできなくなり、使用済燃料プールの水も減りました。4号機では、やはり金属部分から出た水素が酸素と反応して、爆発し、壁に大きな穴が空きました。燃料の破損を防ぐため、陸上自衛隊や、警視庁などの協力で、プールへの放水などが行われ、プールの水位が下がらないようにしています。
事態は、一進一退となっていますが、電源復旧工事が本格化しようとした矢先の3月24日、3号機のタービン建屋地下の作業者が被ばくし、原子炉内の冷却水が、外部に漏洩していることがわかりました。この水からは、毎時400ミリシーベルトの高い放射線量が測定されました。
さらに27日には、2号機のタービン建屋地下にも溜り水があり、その放射線量は、1000ミリシーベルトに上っていること、また放射線管理区域外にある溝に原子炉から出た放射性物質を含む水が溜まっていることがわかりました。原子炉内にあった水の一部が外部にまで出たのではないかと思われます。さらに発電所の排水口付近でも通常の放射線量の1000倍以上の数値が観測されました。
以上が4月1日までの福島第一原子力発電所で起こったことのあらましです。3日からは、さらに4回にわたって、この事故と深い関係のある放射性物質、放射線、放射能や、飲料水・食物からの放射線と健康との関係などについて解説します。
日本原子力学会の異常事象解説チームによる連載第2回は、日本アイソトープ協会の二ツ川章二氏が、放射線と放射能、放射性物質の違いについて解説する。
――放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマ線(X線)、中性子線等様々な種類の放射線があります。放射線とはアルファ線、ベータ線のような高速で走る小さな粒子の高速粒子線とガンマ線(X線)のような高エネルギー電磁波です。
いずれも持っているエネルギーが高いため放射線の通過した周辺の物質と様々な相互作用を行います。物質との相互作用は放射線の種類によって異なります。例えば相互作用の一つである物質を透過する力はアルファ線ではごく小さく、ベータ線では少し大きく、ガンマ線ではさらに大きくなります。
放射性物質が放射線を出す
その相互作用を利用し、病気の診断、がんの治療、紙や鉄の厚さの測定、医療機器の滅菌等、私たちの生活の中で放射線が利用されています。また、人体に放射線が当たる(被ばくする)と人体の細胞等と相互作用を行い、様々な影響が現れます。例えば、エネルギーの高い電磁波であるガンマ線は、同じ電磁波の一種である紫外線と同じように皮膚に大量に当たると、やけどのような症状を生じさせます。
放射性物質とは、放射線を放出する物質をいいます。私たちの世界は、水素、酸素、炭素、鉄、銅、金等様々な物質(元素)でできています。中世のヨーロッパで錬金術師が「賢者の石(金)」を手に入れることが不可能だったように、普通の物質は他の物質には変わりませんが、物質の中には不安定で放射線を放出して他の物質になるものがあり、それらを放射性物質とよびます。放射性物質の種類によって放出される放射線が決まっています。
例えば、今回、福島第一原子力発電所から放出され検出されているヨウ素-131は、ベータ線という放射線を放出してテルルという別の物質となります。ヨウ素は海草等に多く含まれ、海草を食べることによって体内に取り込まれたヨウ素は甲状腺に多く取り込まれます。ヨウ素は、甲状腺ホルモンの成分として人体にとって必須元素です。放射性物質であるヨウ素-131もヨウ素と同様に人体に入ると甲状腺に取り込まれ甲状腺ホルモンの成分となりますが、放射線を放出するため甲状腺被ばくの原因となります。
(続く)
半減期13億年の放射性物質も
放射性物質は特殊な条件でだけ存在するのではなく、自然界にも存在しています。例えば、大気中には炭素-14が存在していますし、多くの食品中にはカリウム-40が存在しています。
放射能とは放射性物質がどれぐらいの量の放射線を放出するかという能力のことをいい、ベクレル(Bq)という単位で表します。ベクレルが大きいとその放射性物質からたくさんの放射線が放出されるということです。放射性物質の能力である放射能は放射性物質と同義として使われることもあります。
しかし、放射性物質(放射能)と放射線とは異なります。放射性物質が放射線を放出する能力である放射能が半分になるまでの時間を半減期といいます。半減期は放射性物質の種類毎に決まっており、ヨウ素-131は8日、セシウム-137は30年、炭素-14は5730年、カリウム-40は13億年です。


日本原子力学会の異常事象解説チームの連載第3回は、日本アイソトープ協会の二ツ川章二氏が、放射性物質と被ばくした食品の関係について説明する。
――天然の水、土、空気の中にはカリウム-40、炭素-14、ウラン-238等の放射性物質が含まれています。これらの自然放射性物質は、私たちが普段食べている食品の中にも含まれています。例えば、牛乳は約50ベクレル/キログラム、野菜は96~200ベクレル/キログラム、魚・貝・海草であれば7~150ベクレル/キログラムの放射性物質を含んでいます。
私たちは、食品とともに体内に入った放射性物質からの放射線の内部被ばくで、これら食品から年間約0.3ミリシーベルトの被ばくをしています。
1年間食べ続けても健康影響出ない量
福島第一原子力発電所事故に起因した放射性物質が付着した野菜が国の暫定基準値を超えたとして出荷停止され、また、一部地域の水道水の摂取が制限されました。現在の暫定基準値は、そのレベルの放射性物質が含まれた食品を1年間食べ続けたとしても健康影響が出る心配のない量に設定されています。ヨウ素-131では、牛乳・乳製品が300ベクレル/キログラム、飲用水が300ベクレル/キログラム、ホウレンソウ等の野菜類が2000ベクレル/キログラムとなっています。
上記の野菜等に含まれている天然放射性物質の量と比べても著しく高いものではありません。実際には1年間食べ続けることはなく、仮に暫定基準値を超えた食品を口にしても直ちに影響が出ることはありません。
放射線を大量に被ばくすると、血液中の白血球数が減少することが知られています。一度に250ミリシーベルト以下の被ばくでは白血球は減少しません。同じように1000ミリシーベルトの被ばくでは、吐き気、嘔吐、リンパ球の著しい減少等が現れますが、それ以下では現れません。このように限界値(しきい値)を超えると現れるような影響は、いろいろな個人差を考慮しても100ミリシーベルト以下では現れないとされています。「直ちに健康に影響が表れるものではありません。」は、このことを表現しています。
(続く)
「基準値、喫煙・ストレスに比べ十分低く設定」
一方、放射線の被ばくによる発がんの影響は、受けた放射線の量が増えるに従ってがんの発生する可能性(確率)が高くなります。100ミリシーベルトを全身に被ばくした100人のうち、それが原因でがんが発生する人は約0.55人とされています。自然のがんの発生率が約30%ですので、100人の集団の全員が100ミリシーベルト被ばくすることにより、がんが発生する人数が30人から30.55人になります。
100ミリシーベル以下ではがんの発生確率が増加することは確認されていませんが、どんなに少量でもがんが発生するかもしれないとして、被ばく線量とがんの発生確率は直線的に増加するものとして基準値を設定しています。
現在の基準値は、人体に対して直ちに影響が出ることは考えられなく、がんが発生するとしても、一般的に言われている喫煙、ストレス等によるがんの発生する確率と比べて、十分低く設定されています。