国を守ろうとしている原発作業員を守ろうとしない国は、やがて世界から孤立する(重要)
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2011年4月7日発行JMM [Japan Mail Media] No.630 Extra-Edition5http://ryumurakam.jmm.co.jp/
supported by ASAHIネット
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■from MRIC
□ 国を守ろうとしている原発作業員を守ろうとしない国は、
やがて世界から孤立する
■ 有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
木村 知
東電福島第一原発事故は、発生から三週間以上経過した現在も、未だ冷却装置の復旧がなされないばかりか、多量の放射性物質を含んだ汚染水の処理に難渋するなど、ますます深刻な事態に陥りつつあり、作業の長期化はもはや疑いようがない。
現場では、現在も多くの作業員の方々が連日作業にあたっているが、高放射線量が測定された水たまりでの被曝事故をはじめ、衣食住すべてにおいて非常に劣悪な労働環境、さらに線量計不携行での作業といった杜撰な放射線管理など、作業員の安全を脅かしている問題点が、次々と顕在化してきている。
このような杜撰な放射線管理の実情を耳にすると、驚くべきことで「あってはなら
ないこと」ともちろん誰でも思うに違いないが、混乱を極めている実際の現場におい
ては、むしろ驚くべきことではなく「そうせざるをえないこと」になっている可能性
も否定できない。
「線量計が鳴らなかった」とか「数が足りなかった」というのは、おそらく言い訳
にすぎず、「線量計など付けていては、あっという間に被曝線量上限に達してしまい、 作業にならない」というのが、実態ではなかろうか。
これら作業員の方々の労働環境を監視・監督しているのは、いったい誰なのか?
そして作業員の方々の肉体的・精神的健康管理は、いったい誰が行っているのか?
それとも、これら作業員の方々の労務管理、健康管理は、いっさい誰も行っていな
いのか?
これらについて、明確な証拠を持って情報を開示する義務が、東電にはある。
そしてこれらについて、東電が情報開示しないのなら、国が責任を持って現状調査し、国民に情報開示し、早急にそして適切に問題点を是正しなければならない。
もしもそれを行わず、杜撰な放射線管理がなされているのを知りながら、「見て見
ぬフリ」をして、それを放置しているのであれば、それは国が作業員たちの「人権」
を認めていないということに、他ならない。
これは、明らかに憲法違反だ。
もしもこれらが「放置」されているならばそれは、「国家的犯罪」と言わざるを得
ない。
さらに、原子力安全委員会・緊急技術助言組織は、大量被曝の危険性がある作業員に対しての事前の造血幹細胞採取について、以下の見解を示し、その必要性を否定した。『造血幹細胞の事前採取については、作業従事者にさらなる精神的、身体的負担をかけるという問題があり、また関連国際機関等においても未だ合意がなく、国民にも十分な理解が得られてはおりません。このため、現時点での復旧作業従事者の造血幹細胞の採取は、必要ないと考えます』
一見、作業員の精神的、身体的負担についての配慮を窺わせる文体だが、いったいどのような「負担」がかかるというのか、これではまったく分からない。そしてその「負担」というのは、現場で作業を行っている作業員の方々が、今現在味わっている「負担」、そして今後味わうかもしれない「負担」と比べて、著しく大きい「負担」
といえるものなのであろうか?
そしてこの見解は、大量被曝のために準備し得る施策についての、作業員の自由意思による選択肢さえも制限しかねない見解と言えるのではなかろうか。
これを行なうか行わないかの決定権は、本来、作業員の方々にあるのではなかろうか?
「大量被曝の危険性がないのだから、造血幹細胞採取という『負担』を作業員にワ
ザワザ負わせる必要性はない」と言いたいのかもしれない。
しかし、線量計の管理も杜撰、被曝線量上限値も変更、そして「現場で線量につい
て語るのはタブー」という作業員の証言の存在からは、「大量被曝」はむしろ既に発生しているのではないか、と案じずにはいられない。
放射性物質には、何の匂いも色も味もない。
その放射性物質が多量に漂う事故現場で働く作業員たちの、姿も動きも声も叫びも、 ほとんどわれわれは目にしない。
テレビだけを見ていれば、ややもすると「人格」のない「使い捨てロボット」が作
業し続けているのではないか、と錯覚してしまうほどだ。
国は、はたしてこれら作業員の方々の「顔」や「名前」をすべて把握しているのだ
ろうか?
国は、はたしてこれら作業員の方々を、本当に守るつもりはあるのだろうか?
前稿で私は、『「英雄」ではない「被害者」である原発事故作業員に、生涯にわ
たって医療補償を』と書いた。
しかし、私の考えは甘かった。
医療補償がなされる以前に、彼らは現在、「人権」すら認められていなかったのだ。
国は、彼ら作業員の方々を「英雄」などと思ってはいない。それどころか、彼らの人格や人権が著しく蹂躙されて続けていることを放置し「見て見ぬフリ」をしているのだ。
多量の放射性物質を含んだ汚染水を海に放水し続けるだけでなく、このような「人権蹂躙」を放置し続けていれば、日本は先進国として、やがて海外から著しく非難され、次第に孤立していくことになるだろう。
国民としても、このような「国を守ろうとしている作業員を守ろうとしない国」に対して、何も声をあげることをしないならば、それはこの国が世界から孤立していくのに加担する行為に他ならない、と言えるだろう。
今こそ、作業員の人権を守るための国民的議論の高まりを、強く訴えたい。
最後に、日本国憲法を供覧する。
これらひとつひとつを、今、じっくりと噛みしめるときではないだろうか。
日本国憲法
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十八条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
木村 知(きむら とも)
有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
AFP(日本FP協会認定)
医学博士
1968年カナダ国オタワ生まれ。大学病院で一般消化器外科医として診療しつつクリニ
カルパスなど医療現場でのクオリティマネージメントにつき研究中、2004年大学側の
意向を受け退職。以後、「総合臨床医」として「年中無休クリニック」を中心に地域
医療に携わるかたわら、看護師向け書籍の監修など執筆活動を行う。AFP認定者とし
て医療現場でのミクロな視点から医療経済についても研究中。著書に「医者とラーメ
ン屋ー『本当に満足できる病院』の新常識」(文芸社)。
きむらともTwitter: https://twitter.com/kimuratomo
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JMM [Japan Mail Media] No.630 Extra-Edition5
【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】128,653部
2011年3月30日発行
JMM [Japan Mail Media] No.629 Extra-Edition2 http://ryumurakami.jmm.co.jp/
supported by ASAHIネット
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■from MRIC
□ 「英雄」ではない「被害者」である原発事故作業員に、生涯にわたって医療 補償を
■ 木村 知:有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
■from MRIC
とうとう、原発事故作業員の方々に大きな被曝事故が起きてしまった。
ほんの数日前まで、新聞をはじめとした各メディアは、原発事故現場に向かうこれ
ら作業員の方々のことを、「決死の覚悟」で「命懸けの任務」を行う、まるで戦時中
の特攻隊員を彷彿とさせる「英雄」として扱い、その勇気を讃美する論調を世間にあ
ふれさせていた。こうしたある種の異様な論調やそれに同調する国民感情に空恐ろしい違和感を覚えたのは、けっして私ばかりではあるまい。
しかしそんなメディアの論調も、今回の被曝事故が起きてやっと「作業員の安全確
保を」という方向に変わりつつあるようだ。
とは言え、事故の全容も未だ不明で、今後の見通しもつかず、事態収拾にこれからも多くの時間を要する状況で、これら作業員の方々はますます増員されていくに違いない。それに伴い、このような被曝事故も、仮に杜撰な安全対策が見直されたとしても、今後「二度と起きない」とは、けっして断言できないだろう。
また、重大な被曝事故でなくとも、ギリギリの作業環境のもと相当量の被曝をする
ことで、「直ちに影響」は出なくとも、数年、数十年の経過を経て健康被害が発生す
る可能性も否定はできない。
被曝のリスクだけでなく、十分な食料や睡眠さえ保障されない劣悪な労働条件での任務を強いられているとも聞く。肉体的なダメージはもちろん、精神的なダメージも計り知れない。このようなダメージは、仮に任務を終えて無事家族のもとへ帰宅できたからと言っても、簡単に癒えるものではないだろう。
つまり、この原発事故現場での作業に関わったすべての方々には、「直ちに影響が出ない」とは言っても、将来なんらかの肉体的あるいは精神的「健康被害」が発生する可能性が否定できないと言える。
そこで、非常に心配されるのが、将来なんらかの健康被害がこれら作業に関わった方々に生じた場合、「適切な補償が受けられるのか」、という問題だ。
ただでさえ労働者の立場は弱い。
日頃診療をしていると、明らかに「就労中のケガ」であるにもかかわらず、「ぜったいに『労災扱い』にしないで欲しい」と建設現場で負傷した土木作業員に懇願され
ることは、珍しくない。
建設業界ではゼネコン、下請け、孫請けと順次下部企業へと工事が発注される受注形態があり、「労災事故」が多い下請けには、その上部企業からの工事の発注がされなくなるという、「病的ピラミッド構造」が根強く残っている。
そのため、下請け、孫請けなどの零細企業は、なるべく「労災事故」の件数を少な
くする必要があり、作業中ケガ人が発生した場合、全額自費診療扱いとして事業主が自腹で治療費を支払ったり、酷い場合はケガそのものを「就労と無関係」と作業員に言わせたりするなどの、いわゆる「労災逃れ」「労災隠し」を行う事例が後を絶たない。
これは、建設業界に限定したものであるとは、けっして言えないだろう。
今回の原発事故現場でも「協力会社」といわれる「下請け企業」から多くの作業員
の方々が動員されているとのことだ。
はたして、この「下請け企業」の方々に将来健康被害が発生した場合、適切な補償はされるのだろうか?
「労災認定されるはずだ」という意見もあろう。
しかし残念ながら、答えは「否」であると、私は思う。
確かに「直ちに影響が出た」ものについては、労災認定される可能性はもちろんあ
り得ると思われるが、将来起こり得る健康被害も不明であるうえ、遅発性に起こった
ものについての認定は、原発事故現場での作業と相当因果関係が強固に証明できるもの以外は、まず無理だろう。
そもそもただでさえ、作業中の安全管理対策が杜撰である企業が、将来起こり得る健康被害まで補償することなど、到底期待できない。
つまり、「原発事故作業に起因した健康被害」を労災ですべて補償するのは、不可
能ということだ。
自衛官については、原子力災害対処によって死亡もしくは障害が残った場合、「賞
恤金(しょうじゅうつきん)」が支払われ、今回その額が通常の1.5倍に引き上げられ
たという。
もちろん、金銭が補償されればいいという問題ではないが、企業、特に下請けなど
の零細企業に所属している作業員の方々にも同程度の補償は最低限必須と考えられる。
今後起こり得る健康被害の種類が特定し得ないこのような特殊な状況である以上、原発事故作業との因果関係が証明できるものについてはもちろん、それ以外の傷病を含めたすべての医療費および定期的な健康診断による健康被害調査についても、国が責任を持ち、生涯にわたって補償を行うべきと考える。
今後、入れ替わり立ち替わり、各方面、各所属の作業員の方々がこの任務に関わってくるにつれ、すべてがウヤムヤになってしまいかねない。早急に、いや緊急にこの医療補償について論じ検討しておく必要性を強く訴えたい。
原発作業員の方々は、「英雄」である以前に「労働者」であり、自分自身や家族の
犠牲を強いられている「被害者」であることを忘れてはならない。
いくら「英雄」と讃美されても、肉体的精神的被害はけっして癒されることはない。
この「被害者」としての作業員の方々に、生涯にわたって医療補償を行うことは、
安全を犠牲に今日まで原子力政策を推し進めてきた国がなすべき、最低限の「せめてもの償い」と言えるのではなかろうか。
作業員の方々を「英雄」と讃えた国民ならば、この「勇気ある被害者」への公的医
療補償に、まったく異論はないと信じる。
木村 知(きむら とも)
有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
AFP(日本FP協会認定)
医学博士
1968年カナダ国オタワ生まれ。大学病院で一般消化器外科医として診療しつつクリニ
カルパスなど医療現場でのクオリティマネージメントにつき研究中、2004年大学側の
意向を受け退職。以後、「総合臨床医」として「年中無休クリニック」を中心に地域
医療に携わるかたわら、看護師向け書籍の監修など執筆活動を行う。AFP認定者とし
て医療現場でのミクロな視点から医療経済についても研究中。著書に「医者とラーメ
ン屋?『本当に満足できる病院』の新常識」(文芸社)。
きむらともTwitter: https://twitter.com/kimuratomo
JMM [Japan Mail Media] No.629 Extra-Edition2
【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】128,653部