アメリカに取っては、やはり余りにも大きなこの悲劇は人ごとではないからです。 | 日本のお姉さん

アメリカに取っては、やはり余りにも大きなこの悲劇は人ごとではないからです。

  2011年3月13日発行
JMM [Japan Mail Media]No.626 Saturday Edition-2
 http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■ 『from 911/USAレポート』第502回
 「東日本大震災を見つめるアメリカ(その2)」
■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)

「東日本大震災を見つめるアメリカ(その2)」

 アメリカでも引き続き最大限の報道が続いています。ニュース専門局は相変わらず「ぶち抜き」の体制、三大ネットワークではニュース枠の全てを日本の震災関連の報道に充てています。唯一の例外はカリフォルニアに到達して死者一名を出した津波被害のニュースですが、この一件が更に日本の被災へ向けて「人ごとではない」というイメージを加速しているような雰囲気もあります。

 震災発生の翌朝の新聞の扱いも最大限で、一流紙だけでなく、タブロイド紙でも全て1面はこのニュースの写真で埋まっていました。報道の中では、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の社説が胸を打ちました。 "Sturdy Japan"(「堅牢なる日本」)というタイトルで、「マグニチュード8.9への備えがここまでできていた国は他にない」というサブタイトルと共に、日本が地震への備えを怠らなかったために、被害をこのスケールで抑えこみ、尚被災者への救援に奮闘しているという内容で、精神的な連帯の宣言ともいうべき異例のものでした。

 TV各社は続々と報道体制を整えており、NBCはメイン・キャスターの一人であるレスター・ホルトが東京からのレポートを開始、CNNは現場報道のエースでアメリカを代表するTVジャーナリストと言って良い「AC」ことアンダーソン・クーパーが現在日本に向かっており、アメリカ時間の月曜日の晩から現地レポートを始めると言っています。

 一方では、福島第一・第二原発の現状に関しては、原子力安全・保安院で断続的に行われている根井寿規審議官による会見内容は間髪を入れずにアメリカに伝わっています。例えば12日日本時間早朝の3号機の給水停止という事態に関しては、日本での発表の1時間後にCNNのウォルフ・ブリツアーがCGを使いながら、専門家と対談形式で内容を伝えています。各局共に、それぞれ原子力の専門家を呼んで詳細な報道を行っていますが、危機感は当然ある一方で、現時点では福島での対応を論評抜きで注視しているという状況です。

 とにかくアメリカの世論を引っ張っているのは「最も近い異文化」であり「アメリカに取って最も大切なパートナー」である日本への同情だと思います。今朝ほど新聞を買いに行った私は、スーパーのレジ係の初老の女性に「どなたかご親戚でも日本に?」と聞かれ「自分は日本から来ているんですよ」と言うと、見舞いの言葉と共に家
族は友人は無事かと尋ねられ「みんな昨日からずっとこのこと(日本の大震災)を話しているわ」と言われました。

 球春間近のアメリカですが、米ヤフーのベースボールのサイトでは、スティーブ・ハンソンという記者が、メジャーリーグの日本人選手について、家族が被災していないか、被災地の出身ではないかなどを調べた記事を書いて、彼等を激励するように野球ファンに呼びかけていました。

 私事にわたりますが、そんなエピソードや、人々の暖かいメッセージに触れる度に、涙腺がゆるみ心が揺れるのです。911の直後に感じたように、青空が眩しかったり、クラシックの音楽を聞く気が起こらなくなったりしています。勿論、それは私が日本人だからですが、アメリカ人も相当にエモーショナルになっています。

 そうは言っても。もう少し事態が進むと、少し遠慮が無くなって経済や原発政策に関する賛否両論の応酬が始まるのかもしれません。日本という巨大な経済が復興へ向けてどう動いていくのか、今回の原発事故の影響で原子力エネルギーに対する世界の世論がどう変化するのかという問題は、アメリカにとってエジプトやリビア問題とは比べ物にならないスケールで影響を受ける話である、そうした観点での議論が始まっているのも事実です。

 ですが、各局のメインキャスターが日本に入ることもあり、ヒューマンな視線とクリティカルな視点のバランスは取れていくのではないか、私はそう見ています。様々な災害や事件を経験し、傷ついた側の視点も持てるようになったアメリカに取っては、やはり余りにも大きなこの悲劇は人ごとではないからです。

(訂正)11日の配信でアフラック保険の寄付額について「100ミリオン(82億円)」と表示しましたが、「1.2ミリオン(1億円)」の誤りでした。関係者各位にお詫びすると共に、訂正をさせていただきます。


冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わったか』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』などがある。最新刊『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』(阪急コミュニケーションズ)( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4484102145/jmm05-22 )

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