アメリカがあんまり頼りにならない国になってきている以上、日本が独立するのは当然のこと
宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23年(2011)3月3日(木曜日)貳
通巻第3259号
(下記は『北国新聞』2月21日、コラムからの再録です)
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北風抄
宮崎正弘
「核不拡散条約体制は終わった」(中東の民主化ドミノより核拡散が深刻)
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チュニジアの「ジャスミン革命」に端を発した中東の民主化要求のうねりはエジプトでムバラク独裁体制を瓦解させた。
イェーメン、リビア、ヨルダンの指導者を震え上がらせ、遠くカザフスタンでも大統領選挙を前倒しにすると独裁者=ナゼルバエフが表明せざるをえなくなり、サウジアラビア、トルコとて気が気ではない。
チュニジアの独裁者は海外へ亡命し、その後のチュニスで展開された出来事は1979年のイランに類似する。イスラム原理主義過激派の暗躍である。
軍と警察の幹部を拘束して旧レジームの残滓を一斉すれば、穏健な民主化をひっこめて、いきなり原理主義過激思想にとりつかれた宗教の独裁政治がはじまりかねない。せっかくの近代化から中世へ逆戻りするのだ。
ムバラクの退場という政変にイスラエルと米国は青ざめ、影響力増大にほくそ笑むのはイランだけである。
レバノンのヒズボラ、ガザ地区のハマスはイランが背後で支援する過激派、これらがイスラエルを挟み、さらに米軍があれほどの犠牲を払って「民主化」なる形態をかろうじて実現したイラクも、いつのまにかシーア派が政権の座に着いている。
中東が全面戦争に陥るのを避けるため米国はイスラム穏健派がエジプトに継続されることを望み、サウジもヨルダンもトルコも平和路線の軌を一にしている。イスラエルは次のエジプト政権がもし原理主義者の手に落ちれば、平和条約の破棄にでることを怖れる。
さてこれら中東から中央アジアのイスラム圏の騒擾に隠れて報道されていないが、深刻な現実はパキスタンの核である。
アフガニスタンへの兵站確保のため米国が方針を転換し、パキスタンはある日突然、米国の軍事同盟国待遇となって秘密裏に開発した核兵器は黙認された。インドも核兵器を保有するが、米国は制裁どころか新技術をインドに提供し共同軍事演習を展開する始末。
つまり核拡散防止条約体制は事実上、終焉している。
しかもパキスタンの核兵器は北朝鮮や中国の増加比率より迅速であり、2011年2月現在110発、二年後には200発を保有すると軍事専門筋が推定している。
ここにイスラム圏での政変が重なると、次に備えるべきシナリオは従来の発想では対応不能となる。すなわち核拡散がイスラム圏に急速に拡がるのである。
げんにパキスタンの核開発資金はサウジアラビアが負担した。もしイランが核を保有すると(それは時間の問題だが)、サウジアラビアはパキスタンに「開発させ貯藏してきた」核兵器の半分を引き取ると言い出すだろう。
中国は米国東海岸へ届くICBMのほか、潜水艦発射SLBMにくわえて米空母破壊用の高速巡航ミサイルも多数装備した。やがて空母も二隻建造する。
となれば米国は中国と軍事的直接対決を避けるだろうから、台湾海峡の安定はいずれ大きく損なわれるだろう。
核不拡散条約体制の終焉、米軍の大規模な撤退が政治日程に浮かんできた以上、日本の安全保障論議も基底のところから塗り替える必要がある。
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(読者の声1)有力国のインテリジェンス機関で中東情報に強いのは、まず自身セム系言語を使っているイスラエル。
それに匹敵するのが英国でカダフィーが核解体して西側に接近する時英国情報機関が暗躍したが、当時メイール・ダガン率いるモサッドはMI6とCIAの共有する情報に与れなかったので非常に焦り、以後それを教訓として他国情報機関との協力を緊密にしたと言われています。
次が嘗て北アフリカやレバントを支配したフランス、その次がロシアとドイツ、さらに米国という順でしょうか。
先日、調べ事をしたら国際政治学者の藤井厳喜さんが中東情勢を語っているYouTubeを発見、この中で氏は中東民主暴動を予測出来なかった「英米仏情報機関の無能」について説明しています。
http://www.youtube.com/watch?v=3OznXBvqF_c&feature=channel
これは貴誌通巻3224号にて私が指摘した、「(当事国を除きアラブ・イスラム情報について最高のインテリジェンスを持っている)イスラエル情報機関の無能」と一致しています。
http://www.melma.com/backnumber_45206_5096796/
これらの情報は覇権国米国に集約されますが、小松啓一郎氏が指摘しているように肝心のフランス情報機関が得意の北アフリカで失敗。それを受けて各国機関は中東で「我々は何も理解していない」と自信喪失している模様。それで両氏はその延長線上で米国が世界に対する関心を失って孤立主義に行き着く恐れが有ると見たてているが、米国が軍事力を引き揚げる場合に日本は覇権挑戦国中共支那に滅ぼされます。
http://www.youtube.com/watch?v=mNTXkeKkaNI&feature=channel
今日本に必要なのは先入観を捨て北東アジアや中東に関して、コツコツと静かに継続的に情報を収集・分析・評価する事でしょう。漸く内閣情報調査室が北朝鮮や中共支那を対象とする本格的インテリジェンス機関に生まれ変わるという話ですので期待大です。何と言っても今まで日本政府は情報活動について失敗という概念すらなかったくらいですので反省の仕様も無かったのですから。
(道楽Q)
(宮崎正弘のコメント)昨日、或るアメリカ人の戦略研究家を囲む会合があり、外務省からも三人ほどきていました。ほかに大学教授ら数人。情報はあるところにはあるものだ、と感心する会議でしたが、中味はオフレコにつき。
さて藤井さんですが、明後日、大阪で会いますので、続きを聞いておきましょう。
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◎毎日一行● リビア内戦、欧米が介入か?
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(お知らせ)あす4日(金曜日)午後一時から2時半までラジオ日本「マット安川のずばり勝負」に宮崎正弘が生出演します。番組は1230-1530ですが、宮崎の出番は1300-1425頃の予定です。
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3月1日、米上院外交委員会で北朝鮮の挑発行為を断ち切るための公聴会が開かれた。
証言したのはキャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)ら。
証言内容は以下のサイトにある。
(1)Breaking the Cycle of North Korean Provocations
U.S. Senate Committee on Foreign Relations, March 1, 2011
http://foreign.senate.gov/hearings/hearing/?id=e85bfd8f-5056-a032-528b-0969fbfd6ecc
(2)国務省国際情報プログラム局の解説記事
http://www.america.gov/st/eap-english/2011/Marc h/20110301152233nehpets0.8618128.html
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