なんちゃってジャスミン集会(もはや革命でもない)第三弾も不発 | 日本のお姉さん

なんちゃってジャスミン集会(もはや革命でもない)第三弾も不発

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
     平成23年(2011)3月3日(木曜日)
     通巻第3258号 <3月2日発行>
 5日全人代開幕の日、中国で三たび、「ジャスミン集会」
   水をもらさぬ警戒と予防検束、大規模暴動防止の幹部に報奨金制度
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 弾圧と買収と封じ込め、反対派を力で抑え込めば、いつか必ず被抑圧側の怨念が倍加して、大暴動に発展するだろう。共産党王朝をいずれ倒すことになるだろう。それは歴史の教訓である。
 しかし中国の弾圧政策はめげないのだ。

 2009年に大規模な暴動は60件だったが、2010年は72件。死者が出たり、地元政府ビルや公安の建物、パトカーがひっくり返されたりの規模の暴動である(小規模な暴動は年間12万件前後、発生している)。

 いまではネットの発達で、中国のどんなに奥地の暴動でも「そのうちの33%のニュースは、暴動が発生したその日の裡にネットや携帯電話を通じて、それも写メールなど映像を付帯して各地のメディアや香港などに送られる。67%はインターネットを通じて情報が飛び交う」(上海交通大学『危機管理年次報告書』)。

 中国は公安対策予算に770億ドルを使った(2010年推計)。この数字は清華大学の研究班が公安予算、軍事予算の数字を区別して判定した結果だが「実際の数字はもっと大きい筈だ」と専門家はみている。
 
 権力維持のための費用である、と中央宣伝部は主唱する。2004年の国有企業の私営化にともなうプロセスで大量に失業者が増大し各地で暴動が起きた。吉林省、遼寧省あたりは経営者を殺害するという暴動も起きた。
 法輪功弾圧の経験が生きた。その手柄を評価され、李長春ら公安情報担当が政治局常務委員に出世した。

2008年北京五輪、10年の上海万博と同年10月の劉暁波ノーベル平和賞騒ぎに前後して、公共秩序安定のために、当局はなみなみならぬ努力を傾注し、反政府抗議デモ、集団行動を抑制してきた。

福島香織さんの最新刊『中国のマスゴミ』(扶桑社新書)に拠れば、
 中国の報道規制で「まず筆頭が国家指導者の名指し批判、スキャンダル。次に共産党一党独裁体制の批判。台湾独立、民族問題など国家分裂につながる報道。軍批判、軍の国軍化問題、軍に関する独自報道、これらの報道は、国家安全危害罪や国家政権転覆扇動罪や国家分裂罪や国家機密漏洩罪などの重罪に問われる」(同書89p)。


▼チュニジア、エジプト、リビアの政変ドミノを怖れている証拠

治安維持のために投入されている公安要員は30万人と推定される。
300000? これは過去一年ほどの間、世界のチャイナ・ウォチャーのあいだに使われてきた数字で、根拠は不明だったが、NYタイムズも、この三十万という公安要員の数を用いはじめた(同紙、2011年3月2日付け)。

それでもインターネットをツィッターとフェイスブックを見張るには人手不足に陥ったのだ。
取り締まる側の人員が足りない、予算も増額する必要がある。

 甚江市(広東省)では340名の若者を「飛隊」(フライングタイガー)という名称のボランティア自警団として組織させ、地域の治安維持の補助をさせている。
暴動を封じ込め、鎮圧すれば、ひとり22ドルの報奨金(「和平賞」と名付けられた)を与えた。これが所謂「五毛」の源流かも知れない(五毛は一元の半分。それほどの安いカネで権力の走狗となって反政府を見張るスパイ役をこなす手合いを意味する)。

 結果、中国版ジャスミン集会は不発に終わり、呼びかけた人物が特定されて拘束された。そればかりか民主活動家、知識人は自宅軟禁状態。六人の人権は弁護士も事前拘束された。事前の拘束は合計百人に及んだ。
あまつさえジャスミン集会の呼びかけを転載した人々が拘束され「国家転覆扇動罪」とか「反国家分裂法」とかの曖昧な法律がいきなり適用され、発言の場は封じ込められた。
 よほどチュニジア、エジプト、リビアの政変ドミノを怖れている証拠でもある。
◎▽◎

(読者の声1)イランは、ところで、北アフリカから中東に広がる「民主化」要求のデモをどのように見ているのか?
イラン・ラジオ日本語版を見ると意外にちゃんと報道しています。それどころかテヘランのデモもしっかり報道、中国よりの記事も見かけるなか、『中国、反政府デモ実施の阻止を目的に治安部隊が街頭に配備』という記事まであります。
http://japanese.irib.ir/index.php?option=com_content&view=article&id=16783:2011-02-28-13-40-09&catid=17:2010-09-21-04-36-53&Itemid=116



アメリカの報道では北朝鮮並みの「悪の枢軸」国家ですが、デモもできれば衛星放送で外国の放送もみることができる。
トルコやドバイに旅行に行けば酒も飲める。女性のイスラミック・コートは短く派手になり、イスラム的な締め付けは年々緩くなっている。
現体制によほど自信があるのでしょうか。

2月26日の『サウジアラビアとカタールでの「目覚め」の拡大』という記事ではサウジアラビアの対応が書かれています。
http://japanese.irib.ir/index.php?option=com_content&view=article&id=16737:2011-02-26-13-33-53&catid=16:gozarash-kabari&Itemid=118


(引用始め)
「ここ数日、サウジアラビア東部や、南東部のジッダなどで一部の抗議行動が散発的に行われました。この国の治安部隊は、デモ隊をすべて逮捕しました。こうした中、バーレーンで起こった類似の出来事への恐れはサウジアラビアにも波及しているようです。このため、サウジアラビア国王は、同国の労働者の賃金を上げるため、突如、350億ドルを当てることを発表しました。サウジアラビア国王がこうした措置に着手したのは、これが初めてのことです。イギリスの新聞記者は、この国王の決定を政治的、経済的な改革を求める国民への一種の賄賂だとしています。彼はサウジアラビア国王の前例のない措置は決して偶然のことではなく、地域の現在の情勢に反応したものだ、としています。
(中略)
現在、アラブ政権の転覆を目指す抗議デモの実施の呼びかけが、サウジアラビアを越えて、ペルシャ湾のアメリカの同盟国であるカタールにも波及しています。カタールの社会運動の活動家は、3月16日、カタール首長の退陣を目指し、デモを行うよう、人々に呼びかけています。カタールの社会活動家のグループは、自らの呼びかけを確認するため、これまでおよそ8000人の署名を集めています。彼らは、インターネットサイト上で、『カタール3月16日自由革命』と題する呼びかけを行い、国民のために、政治改革と社会保障を求めています。」
(引用終り)

イランは軍艦二隻をイスラエルの反対を押し切りスエズ運河経由で地中海に派遣しましたが、アラビア半島東部のシーア派優勢地域を中心にサウジなどに揺さぶりをかけ中東の盟主になろうとしているようにも思えます。
チュニジアに始まる一連の騒動、「民主化」と言っていますが、北アフリカや中東では民主的な政権もなければ民主主義の経験もほとんどない。
嘗てベトナムでは、南ベトナムで仏教徒を弾圧していたゴー・ディン・ジェムが殺害された後、有力な将軍によるクーデターが相次ぎ、「民主」を旗印に反共の人びとも取り込み北との距離を置くように見せていた解放戦線はテト攻勢で壊滅的な打撃を受け、北ベトナムが主力となり「サイゴン解放」。岡村昭彦の「南ヴェトナム戦争従軍記」を読むと、まだ未来が信じられていた時代のナイーブな著者の心情が伝わってきます。
サイゴンを「解放」した北の将軍たちもサイゴンの豊かさと女たちにうつつを抜かし、「裏切られたベトナム革命」になってしまうのですが、それはまたのちの話です。
 (PB生)


(宮崎正弘のコメント)あの頃、小生もサイゴンにいました。開高健もとまったマジェステックホテルでした。
 毎朝、ちかくの喫茶店が日本人記者のたまり場で情報交換、テーブルの下ではベトナムの少年らが勝手に靴を磨いて小遣いをねだるのでした。珈琲は意外にうまかった記憶があります。
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 ◎毎日一行●カダフィ陣営、裏切った部族に再びカネで買収工作、でも今更、遅いって。
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(お知らせ)4日(金曜日)午後一時から2時半までラジオ日本「マット安川のずばり勝負」に宮崎正弘が生出演します。番組は1230-1530ですが、宮崎の出番は1300-1425頃の予定です。
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(1)「中東政変ドミノと中国」(『ボイス』4月号、3月10日発売)
(2)「日本経済はどうなる、どこへ行く」(田村秀男氏との対談、『正論』四月号、発売中)
(3)「習近平時代が始まっている」(『エルネオス』、発売中)
(4)「アサンジは悪魔だったのか」(『月刊日本』三月号、発売中)
(5)「中国都市人口爆発の諸問題」(『共同ウィークリー』、2月14日号。発売中)
(6)「核拡散防止条約(NTP)体制の終焉」(『北国新聞』コラム、2月21日付け)
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『増長し無限に乱れる「欲望大国」中国のいま』(石平氏との対談。ワック、945円)
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『日米安保、五十年』(西部邁氏との対談。海竜社、1680円)
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