エジプト軍はムバラク大統領の威厳ある退陣を望んでいる
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成23年(2011)2月7日(月曜日)
通巻第3227号
エジプト軍はムバラク大統領の威厳ある退陣を望んでいる
国家の中心はエジプト軍であり、軍が「エジプト株式会社」を牽引している
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2008年、すでに駐カイロ米国大使館からワシントンへ発せられた一つの外交機密公電はエジプト軍の特異性と軍内部の権力中枢を描写していた。
この電報はホワイトハウス、国務省、ペンタゴンに発せられていたことがウィキリークスの暴露で判明した。
モハメド・タンタウィ将軍が、まぎれもなく「ムバラクのプードル」と言われながらも軍の権力中枢を掌握していると同公電は書いた。「かれこそが鍵となる軍人であり、軍の下士官の人望もあり、ペトロウス中央司令官やゲーツ国防長官とも屡々会談しており、米軍の信頼も勝ち得ている」と。
米国はエジプトの年間130億ドルの支援をしてきた。
しかし近年の経済発展はエジプト人の意識を変え、若者の間には軍人の履歴を必要とせず、また民間と比較しても軍人の給与体系は低いまま据え置かれ、下士官の不満があがっていた。
オバマ政権はすでにムバラクへの退陣を勧告する一方で、エジプトの軍指導部と密接に連絡を取っている。
スレーマン副大統領をおもてにたてタンタウィ将軍が事実上の戦術を練っている、とヘラルドトリビューンも伝えている(2月7日付け)。
軍は現在、秩序を恢復して民主的な大統領選挙の実現が可能と踏んでおり、軍は冷酷に中立を保持し、一方でムバラクの「名誉と威厳ある退場」を促しながら、他方では抗議行動が秩序正しく行われる限りにおいて介入しない方針という。
冷徹に客観的に行動がとれるメカニズムが、エジプト軍には作用している、と専門家が分析を始めた。
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 523回】
――観光は、新しい時代の新しいプロパガンダ
『中国紅色游』(《中国紅色游》編委員会 中国旅游出版社 2007年)
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「紅色游完全図文手冊」とのサブタイトルを持つこの本は、「紅色游」と名付けられた一種のパック旅行に関する懇切丁寧な案内である。
この1冊を手にすれば、中国全体に張り巡らされた30本ほどの紅色游ルートを十二分に堪能できますというのが、この本のウリ。
90年代後半以降、ということは江澤民政権が推し進めた反日教育の波に乗るかのようにして始まったのが「紅色游」と呼ばれる旅行だ。毛沢東以下共産党指導者の生家、革命烈士ゆかりの地、坑日戦争や革命闘争の激戦地(と称する地点)などを巡り、先人の苦労を学ぼうというわけだが、かく曰く因縁のある場所を共産党の情報・宣伝部門を統括する中共中央宣伝部が「全国愛国教育基地」に指定することとなった。その数、全国で200ヶ所余り。次いで04年末になると、中共中央弁公室と国務院弁公室(つまり党と政府の中枢)が「2004-2010紅色旅游発展綱要規画」を定めたことで、愛国教育基地と伝統的な名勝古跡を組み合わせたパック旅行が当局のお墨付きを得て本格化することとなる。
たとえば「革命揺籃、領袖故里」のキャッチコピーのある湖南省の「韶山⇒寧郷⇒平江ルート」をみると、先ずの韶山にある毛沢東の旧宅を振り出しに、湘潭で解放軍の生みの親である彭徳懐、次いで劉少奇を経て毛沢東夫人の楊開慧と、各々の生家と付属記念館を訪ねた後、湖南省西部の景勝地で知られる風光明媚な鳳凰城を回ろうというもの。
革命に生涯を捧げた先人の苦闘を学び、最後を景勝地観光でホッと一息、といったところか。
ここで注目すべきは紅色游が本格化した時期だ。江澤民政権による愛国=抗日教育化の徹底という側面はもちろんだが、その一方で、それだけの規模の旅行客を受け入れうる交通手段、宿泊施設、土産物屋、娯楽施設、旅行会社など旅行に関するソフトとハードの両面が全国的に完備した。いわば経済規模と生活程度とが一定のレベルに達したということ。
しかも紅色游は個人旅行ではない。
「旅行者は中国の革命史を学び、観光と学習の双方を満足させる。彼らは“赤色の景勝地”で数限りない革命の物語に接する。(中略)時に“赤色の景勝地”において、たとえば『紅軍の軍服に身を包み、紅軍の軍歌を唱い、紅軍の食事を食べ、紅軍が行軍した道を歩く』などの具体的活動に参加する。(中略)紅色游によって革命の先人の輝かしき大業を讃仰すると同時に、旅行者は周辺の景勝地を遊覧するものである」(「前言」)。
これを言い換えるなら、紅色游は愛国教育基地と景勝地を同じ観光ルートに組み込むことによって抵抗感なく革命を疑似体験させ、知らず覚らずうちに《共産党の功績》《共産党の大恩》を刷り込もうという巧妙な政治教育であり、政治宣伝なのだ。
数年前、「革命の聖地」で知られる延安で紅色游の団体旅行客に出くわしたことがある。ガイドの説明に真剣に耳を傾けるわけでもなくガヤガヤと騒ぎ、互いにニヤニヤしながら「紅軍の軍服に身を包み」記念写真を撮っていた。
彼らの振る舞いを見て、「革命の聖地」も単なる観光地に堕したもの。紅色游による愛国教育なんて無意味だ。ムダだと思ったものだが、それは誤りだった。
じつは紅色游は中国が大量消費社会に突入したからこそ生まれた大衆参加型のダイナミックな観光システムであり、それによって共産党イデオロギーをソフトに教育する有効な手段。観光を楽しみながら革命を観光客の体内に注入する。つまり『中国紅色游』は観光案内ではない。洗脳ガイド・ブックだ。
観光、恐るべし。
《QED》
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(宮崎正弘のコメント)この紅色旅行ブームで、井岡山も鄭義も延安もホテルが満員となりました。そして庶民と中産階級が革命聖地を訪れ、共産党幹部は資本主義世界のあちこちを豪華漫遊旅行ってわけです。
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(読者の声1)貴誌前号にでた、瀧澤一郎先生は「太平洋の鷲」様がご関心をお持ちになる古武士の風格の方ですが、最新の専門知識と深い分析に加えて、非常にユーモアのある方で、先生の講演を聞くと皆元気が出ます。瀧澤先生ファンの多い所以です。
ご専門はソ連、ロシア関係で米国に留学され、今もロシアの放送を衛星アンテナで受信されて日夜分析を続けておられます。最近ではノモンハン事件のKGB犯行説の分析をしています。
ご経歴は1939年生。コロンビア大学、同大学院ロシア研究所修了。元防衛大学教授。
著書は多数ありますが、「プリンス近衛殺人事件」は、近衛文麿首相の長男文隆氏が抑留10年、スターリンの死亡で帰国寸前になったところ、KGBに毒殺された事件を調べたものです。著名劇団が劇にして上演しました。
宮崎先生が紹介されたロシア・オートバイ旅行は「ソビエト大横断14000Km」です。読みましたが驚くべき発見が多数ありました。先に英国のスコットランドヤードがロシア工作員のポロニウム暗殺事件を摘発しましたが、直後にロシア諜報部の最高幹部の一人がスポーツ観戦名目で来日したそうです。滝沢先生によるとこれは日本の日本人露スパイたちの動揺を抑えるためではないか、という御意見でした。
今、日本は大陸勢力から圧迫を受けています。皆中共にばかり目が行っていますが、南北朝鮮、そしてロシアも対日行動を開始しています。その意味で瀧澤先生のロシア分析は、我が国の地政学的な3大敵の定点観測の一つとして、欠かすことはできません。
(東海子)
(宮崎正弘のコメント)そうですか。多芸な方でもあるようですね。
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●毎日一行◎「相撲界のスキャンダル」。それもそうだけど、上位力士殆ど外国人じゃん。~~~~~~~~~~~~~~~
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(読者の声2)貴誌3226号の貴見、「歴代経団連会長も鉄鋼からでした」から連想しました。鉄鋼、電力、重電機のトップが懐かしいです。
良いか悪いかは別にして、(あの時代の財界指導者らには)明確な国家観があったかのように思います。情況が情況だった事情もあるかもしれませんが、必死ながら芯が有ったと言うか。公職追放で成り上がった小粒も混ざってはいましたが。
(AK生)
(宮崎正弘のコメント)その昔、財界四天王といわれた時代に、たとえば桜田武、今里広記という人に会ったことがあります。老いても健啖家、迫力がまるで違いました。その後の人で印象的な財界人といえば、土光敏夫、平岩外四、亀井正夫くらいですか。
いまの財界人に欠落しているのは愛国心と国家観でしょう。英語で経営会議をやる新興企業とか、いきなりTOBをかける不作法な青二才とか。
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(読者の声3)大相撲の八百長問題でテレビは賑やかなようですが、あんなもの昔の弱い横綱や大関が7勝7敗で千秋楽なら必ず勝っていた。
相撲協会では「故意による無気力相撲」というらしいが、興業の観点を忘れて横綱貴乃花や朝青龍を無理やり引退させ相撲人気は低迷、まったく見る気がしない。
ところで相撲の化粧まわしとフリーメーソンの正装は似ている。検索すると「短編小説・真理子」という面白い話がでてきた。
ジョージ・ワシントンはフリーメーソンの前掛けをし腰にサーベルを下げて行進したという。
http://www.daitouryu.net/1266482931381/
アメリカがフリーメーソンによって造られた国家だ、というのはいろんな本に書かれているので割愛、上記の小説の全共闘世代の描写が面白い。
(引用始め)「全共闘が猛威を振るったあの時の行動は、暴力の捌け口の狂気だったのか。 『朝日ジャーナル』『諸君!』『前衛』などのイデオロギー的な、左派誘導の洗脳雑誌を見ても、進歩的文化人に操られていた観が強かった。(注:諸君!はちがうとおもいますが)
こうしたものが若者に支持された裏には、当時の反米的な考え方に反抗する、強い者への憎しみであったかも知れない。憎しみの対象は、常に権威や強大なるものへ集中した。その限りでは、行動右翼の掲げるスローガンの「大企業粉砕」もの、その域を出なかった。どこにもここにも、強者への憤りの論理が働いていた。
ところが、旧態依然に、アメリカに憧(あこが)れる若者の心理は、矛盾甚だしきものがあった。当時の若者達は、アメリカ西部劇の単純なストーリーに痛快性と勧善懲悪な感想を持ち、人種問題も何処吹く風で、白人の総てを抵抗なく受け入れ、無差別に拳銃を撃ちまくり、悪党を大勢を殺すヒーローに拍手喝采を送り、肺ガンを気にせずに蒸しまくる葉巻姿のヒーローをカッコいいと思っていた。
しかし、一方で「ソ同盟」を標榜し、一段とアメリカに憧れの眼を注いだのは、一体どうした理由からだったか。映画が、一種の誇張で作られているという原則も忘れて……。
デモで暴れまくった一部の若者は、アメリカ文化に憧れて、その後、アメリカン・ドリームを夢見て渡米する者も少なくなかった。
全共闘の時代、日本中に革命の嵐が吹き荒れた。
当時の「団塊の世代」の多くは、革命分子の底辺の細胞として否応なくデモに借り出され、画策者の意図に乗せられて現場での階級闘争を企てたり、ベトナム戦争の時には、ベトナム反戦のフォーク・ソング集会に借り出されて走狗となり、細胞の末端としてポスター貼りやビラ配りに酷使された。一握りのエリートに無条件で奉仕されられた、まさに「愛すべき微生物」だった。
運動を画策した組織の旧七帝大の学閥エリート達は、末端の革命分子(【註】多くは二流以下の三流・四流の学閥の学生が主体で、その他、民青所属の高校生と中小の労働者。中小の労働者は社内で侮蔑を込めて「アカ」と呼ばれていた)をデモ現場で戦わせ、自分は同士と呼ばれる女と、ラブホテルにしけこんでいた。そしてその女は夫婦気取りというより、情婦のそれであった。まるで毛沢東の江青の如し……。
民青幹部のキャップといわれる連中は、同盟員の女子高生の中から、いち早く美少女を探し出して、わが所有物として独占していた。進歩的文化人は若者向けの『朝日ジャーナル』などに、「ソ同盟礼賛」の左翼論文を掲載し、若者を魅了していた。
そして、その後、彼等は民放のニュースキャスターになったり、NHKの解説員となり、ブルジョワ路線を歩いた。階級がないと信じられていた世界にも、やはり階級は存在していた。末端は常に酷使される運命にあった。
革命分子達はその後、大学を卒業して、企業に就職したが、今度は資本家から酷使され、過労死や突然死で斃れる、皮肉な二重苦の人生構造の中で生きなければならなかった。
青春を振り返って、あの赤旗の波で日本中を覆う、革命の嵐は、一体何だったのか、そう思わずにはいられない筈であろう。搾取は資本家の中だけに存在したのでなく、革命運動の中にも大いなる矛盾と、大いなる搾取があった。
人民革命、プロレタリア独裁といえば聞こえがいいが、結局一握りのエリートの為に奉仕させられた末端分子は、生贄になる以外、道は残されていなかった。これが共産主義という政治システムの虚構理論の正体であった」
(引用終り)
1930年代の中国で抗日を煽っていた連中も金と女が手に入り一挙両得、ソ連の実態はオーウェルの「動物農場」の世界。
当時の民青の末端はいまだに駅前でビラ配り。日本共産党は日本老人党と名前を変えたほうがいいのではというくらい高齢化が進みビラ配りはみな六十代です。最近見かけた中核派の指名手配犯のポスター、犯行当時22歳(現在61歳)とありました。暴力的な左翼はなくなりましたが、市民団体を偽装しているだけに始末が悪い。左翼史観から目覚めた若い世代に期待したいですね。
(PB生)
(宮崎正弘のコメント)革マル派も中核派も最高指導部は70歳代。活動家は60歳代。革マルのクロカンは病没、中核のほうもホンダ某は内ゲバ時代に殺害され、北小路は先頃死去し、そして赤軍のナガタ某女も、この五日に東京拘置所で死んだ。
日本共産党ですか。あれは「労働党」に改称するべきでしょう。
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(読者の声4)最近の中国の軍人達の夜郎自大的言動の傲慢さは先生の書評欄からも十分に伝わってきます。
拓殖大学「新日本学」の第5講の教室で先生のお姿をお見受けしました。この日のテーマ「国体論の再構築」は保守を自認する者にとっては見逃せないテーマであり、小生も期待して聴講しましたが、先生のご感想は如何でしたでしょうか。
この日の論者は佐藤優氏と井尻千男氏のお二人でしが、佐藤優氏の論は話が多岐にわたり拡散的で、結局何を言いたかったのかよく分らず終いでした。話の中で日本の核武装には反対との意見表明があり、その論拠についても説明されましたが小生にはよく理解できませんでした。
佐藤氏の核武装反対論に対して宮崎先生のご意見を伺いたいと思います。
なお井尻先生のお話は首尾一貫しておりよく理解できました。戦後日本の国体破壊の元凶はGHQにより押し付けられた新憲法と教育基本法にあり、この2悪法の改正は勿論必要であるが、戦後65年の間に2悪法改正のチャンスが何度もありながら見逃してきた政治家・知識人の責任は大きいとのお話に共感しました。
(ちゅん)。
(宮崎正弘のコメント)佐藤氏の核武装論はおもてだって先頭を切って言う必要はない、という意味です。競馬の先行が土壇場で疲れていきなり後退するように、誰かに非難の風受けをさせろという意味でもあります。
佐藤氏の話が分かりにくいという人が意外に多いのですが、それは神学と哲学用語が多く、くわえて外務省の専門語彙がときとして会話に加わるからでしょう。おすすめは『私のマルクス』(新潮文庫)です。
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< 宮崎正弘のロングセラーズ >
『猛毒国家に囲まれた日本』(佐藤優氏との対談、海竜社、1575円)
『上海バブルは崩壊する』(清流出版、1680円)
『増長し無限に乱れる「欲望大国」中国のいま』(石平氏との対談。ワック、945円)
『絶望の大国 中国の真実』(同じく石平氏との対談。ワック、933円)
『日米安保、五十年』(西部邁氏との対談。海竜社、1680円)
『中国ひとり勝ちと日本ひとり負けはなぜ起きたか』(徳間書店、1680円)
『トンデモ中国、真実は路地裏にあり』(阪急コミュニケーションズ、1680円)
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