国際法に違反しても、南シナ海を「核心的利益」と言う中国 | 日本のお姉さん

国際法に違反しても、南シナ海を「核心的利益」と言う中国

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成23年(2011)1月22日(土曜日)
        通巻第3202号

 これじゃ胡錦濤は訪米しない方が良かった。実りなき米中首脳会談
  米中はひややかに対決、ステークホルダーは幻影だったと米議会は総括
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 米中首脳会談をめぐる各国の新聞記事のなかでも、人民日報は「パンダ貸しだし、五年延長」がトップにきた。
ほかに書くことがないのかも。
 英紙フィナンシャルタイムズは「胡錦濤、訪米で人民元を防衛」というのが一面トップ。
 米ウォールストリートジャーナルは「胡、対米協調を力説」といささか異なる。

 2011年1月19日、胡錦濤は五年ぶりのワシントン訪問、こんどは公式訪問で晩餐会も二回という「熱烈歓迎」。
しかし表向きの重要会談とは言っても、中味となると米側はよそよそしく、内心は中国のことを「こんちくしょう」とでも思っているかのごとし。上下両院院内総務らは晩餐会に欠席という異様な対応ぶりだった。

ワシントン市内では胡訪米反対、チベットに自由を、人権抑圧独裁政治非難のデモ隊が犇めいた。米マスコミも胡訪米を冷遇、在米中国人の“歓迎デモ”は報じられなかった。

 米国財界との会合に出席した胡主席は、「金融危機から世界経済は回復した。しかし不安定要素に直面しているのは事実」と演説した。
 「世界経済がちゃんと回復するために米中の協同は欠かせない」とも。
この会では司会役が親中派のキッシンジャー元国務長官が努めた。財界はそれでも「人民元は不当に為替操作されており、中国の中産階級を目的として米国企業の参入が難しい」と不満をのべた。
 しかし歓迎ムードはここまで。
 
とりわけ議会そのものが反中国一色だったことを特筆しておくべきだろう。
 G2などと過大評価の親中ムードは消し飛んでおり、「ステークホルダー(共通利益者が米中であると、ゼーリック世銀総裁が国務副長官時代に言い出した)は、国連制裁を無視した北朝鮮の武器輸出をゆるすのか。それも北京経由で北のミサイル部品がイランへ流れた」
「ステークホルダーは、国際法に違反しても、南シナ海を「核心的利益」と言う中国の表現を踏襲するのか」。


 ▼議会指導者は晩餐会を欠席し『抗議』を示した

 かくて超党派ならなる84人の議員がオバマ大統領へ「中国の不公正な貿易で、我々の忍耐は限界だ」と訴える手紙を提出した。

 米議会は人権、軍事力の脅威、人民元、知的財産権侵害、WTO違反など、一斉に中国批判の合奏がおこり、記者会見でも人権抑圧、劉暁波ノーベル賞受賞への妨害批判に渦巻き、しばし立ち往生、胡錦濤は不快感を露わにした。
 記者会見をいやがった胡は、同時通訳を避け、意図的に逐次通訳を選択した理由も、考える時間をかせぐため、人権問題での批判も「それぞれの国はそれぞれの事情がある」などと躱したが、記者団の印象としては「この男も(オバマ同様に)レイム・ダック入りしている」という総括だった。

 だが詭弁と詐術に長けた指導者だけに、すぐに反撃にうつる。
 「中国の防衛力強化は平和目的であり、軍拡レースに中国は加わる興味もなく、いかなる国へも覇権を求めることもない。むしろ台湾へ武器援助するのは米国ではないか。チベット、台湾は中国の主権の問題であり『コア・インタレスト』(中核的利益)だ」と吠える。
 
 さて議会人との対話はいかなる結果であったか。

 口うるさい米国議会は有力議員十一人が胡錦濤を待ちかまえていた。ジョン・ケリー、リチャード・ルーガー、ジョン・マケインなど錚々たる議会指導者。殆どが大統領候補にもなった大物揃い。
 ケリーとマケインは大統領候補だった。ルーガーはレーガン時代からの議会外交委員会のボスである。

 しかし議会人との対話も一時間少々で、逐次通訳のため、実際は30分強だったのだ。だから質問できたのはペロシ女史とジョン・バーナー下院院内総務のふたりだけだった。

 「強制的妊娠中絶は一人っ子政策とはいえ、人権の基本を侵す」
 「ダライラマとの対話を再開しなさい」
 とくにペロシ下院民主党院内総務(前議長)は有名な人権活動家でもあり、ストックホルムのノーベル平和賞授賞式には米議会を代表して出席してきたほど。彼女は「劉暁波の早期釈放」を要求した。


 ▼米国はやっと今頃になって中国の本質が分かった

 米国もやっと、中国への幻想から目覚めた。親中派は、いまのワシントンでは孤立しており、キッシンジャーやブレ人スキーといった中国との妥協派は嘲笑の対象でさえある。

 「質問をはぐらかす胡は、まったくとらえどころがない」という感想はがチャールズ・ボウスタニー議員(ウォールストリートジャーナル、1月21日付け)。
 「対話などは時間も無駄、残るは対中制裁アルのみ」と獅子吼するチャールズ・シューマー上院議員ともなると、「多弁であっても無内容な、胡錦濤の話を聞くなんて」と参加しなかった。
 
 シューマー上院議員は人民元の30%切り上げか、さもなくば20%以上の報復関税を対中輸入品に課せといきまく議会の対中最タカ派である。

 この米中冷却という外交上のタイミングをどう日本は活かせるか? この「敵失」は日本外交にとってチャンスであり、活用しない手はないだろう。
しかし馬鹿と間抜けの永田町には、その発想さえ浮かばないようではある。 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 515回】                 
      ――それは判っています。問題は、その先です
          『不要做中國人的孩子』(余杰 勞改基金会 2008年)

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この本を出版した勞改基金会(The Laogai Research Foundation)の本部はワシントンに置かれ、活動の中心は創設者で在米人権活動家で知られる呉弘達(ハリー・ウー)。
勞改(Laogai)は労働を通じての囚人の再教育を進めることを意味する労働改造の略称で、思想改造と労働を結合させ生産を促すというのが中国政府の説明だが、これはタテマエに過ぎない。

勞改基金会は服役者への過酷な強制労働であり共産党政権による人権蹂躙の象徴ともいわれる労改の悲惨な実態を内外に向けて暴きだし、人権抑圧の阻止を目指す。

1973年に四川で生まれ92年に北京大学に入学し、2000年に文学修士号を取得した著者は、中国式に表現すると「敢于説真話」といった作風。日本風に言うなら超過激な直言居士といったところか。この本は著者の「敢于説真話」を勞改基金会が後押しして出版されたわけだから、内容は想像できるだろう。

巻頭に置かれた「不要做中國人的孩子(中国の子供になりたくない)」では、08年5月の四川大地震で倒壊した校舎の下敷きになり犠牲となった子供たちを悼む。彼らは地震で命を落としたのではない。地方幹部と彼らと癒着し手抜き工事を進めた業者たち――子供たちを殺した凡ての権力やら金権の亡者を告発しつつ、一転して天安門の犠牲者に及び、四川の地震にせよ天安門にせよ、子供達が権力に扼殺されたことに変わりはないと告発する。

指導者たちの子供はとうの昔に海外留学に出かけてしまった。主席の子供、総理の子供、省長の子供、市長の子供、県長の子供、郷長の子供・・・彼らは中国の子供ではない」。じつは「中国の子供は災害、冷淡な権力、でたらめな行政、愚鈍な社会に殺され、殺戮される」。

その様は「まるで収穫の秋を前に倒れる稲穂」のようだ。だが、それよりも幾層倍も哀しいのは、そんな子供たちの母親だろう。「中国の母親は子供を失った後、世間の讒言に耐え、権力のデタラメを我慢し、社会からの屈辱を耐え忍ばなければならない。なぜ、そうまでに責め苛むんだ」。かくて著者は声低く憤る。「中国の子供の母親には、なるな」

著者の怒りの筆先は、一転して権力の頂点に位置する胡錦濤とその周辺に向う。
「大部分の海外の主要なメディアや内外の著名な知識分子は」、「胡の権力基盤が固まった暁には、改革の道に大胆に歩み出す」とみていた。だが、「私からいわせてもらうなら、それは天よりも大きな誤解だ」。!)小平に気に入られた彼が抱く「西側世界に対する敵意は江澤民の比ではない。国際世論など歯牙にもかけず、重大事件処理に当たっては断固としてやり抜く鉄の意思の持ち主だ」。彼の行動原理は終始一貫して共産党にある。

温家宝は胡錦濤の従順な茶坊主に過ぎず、中国は胡を含む9人の中央政治局常務委員に牛耳られている。
彼らは髪形・服装・歩き方、さらには笑いそうで笑わない顔形までそっくりの「9人の小人」であり、徹底した党官僚だ。ポスト胡が約束されたも同然の習近平にしても、胡と同じで冷血な鉄面皮だ。彼もまた胡錦濤と同じ道を歩まざるをえない、と断言する。

公安当局からの様々な妨害を撥ね退け権力と暴利を貪る者を告発し、「誰もが真の公民意識に目覚め、立ちあがって自らの権利を守った暁に、中国は真っ当に変化する」と声高らかに主張する。
だが、そこまでは著者ならずとも指摘できる。問題は「真の公民意識に目覚め」る道を、少なからざる人民が自ら放棄している点にもあるように思えるのだ。
《QED》
  ◎◎
(読者の声1)上海バブルの崩壊がついに迫ってきました。インフレ・コントロールが効きません。
さすがの中国共産党も今回はダメです。この件についてコメントを
  (ZH生)

(宮崎正弘のコメント)この件はすでに拙著『上海バブルは崩壊する』(清流出版)で縷々のべております。
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