左背中が痛んだら…「慢性すい炎」かもしれない
夕刊フジ 1月17日(月)16時57分配信
お笑い芸人の間で「すい炎」の恐怖が広がっている。今年に入ってチュートリアルの福田充徳(35)が急性すい炎を発症。木曜レギュラーを務めるフジテレビ系「笑っていいとも!」など9本のレギュラー番組を抱える売れっ子が入院を余儀なくされた。
昨年は7月には中川家の兄・剛(40)、8月に「大木こだま・ひびき」のひびき(55)、10月に次長課長の河本準一(35)と急性すい炎で倒れる吉本芸人が相次いだ。
この病気、ストレスにさらされ、付き合いの酒席が続くサラリーマンにも決して無縁ではない。その正体をキッコーマン総合病院院長の久保田芳郎医師(消化器外科)が解説する。
「すい臓で作られたすい液は、通常は十二指腸で胆汁と混ざって活性化され、消化酵素としての働きを示すが、これがすい管の中で活性化してしまうと、すい臓自体を消化しようとする“自己消化”がおきる。これがすい炎のメカニズムです」
アルコールの多飲や胆石などが原因になることが多いが、原因が特定できないケースもあるという。お笑い芸人に増えている理由は、わかっていないが、バラエティー番組を担当する放送作家が気になる指摘をする。
「テレビ番組の予算が削られるなか、広告主とタイアップが容易な全国のうまいもの巡りや、ランキング形式の番組が増えている。“大食い要員”としてお笑い芸人が重宝がられているのも一因では?」
われわれサラリーマンの場合も「健康診断で血液検査の項目のうち『血中アミラーゼ』が高い人、普段から大酒を飲む人、また睡眠不足やストレスで免疫力が低下している人などは要注意です」と久保田医師。
特徴的な症状は「左背部痛」で、これはかなりの激痛。多くは救急車を呼ぶ騒ぎとなる。
「この状況で食事をすると、さらに酵素が出て症状を悪化させてしまう。早期で治療が始まればいいが、放置すると“自己消化”が周囲の臓器に及ぶこともあり、さらに消化されて壊死した臓器が細菌感染をおこすときわめて重篤な状況に陥る。状況を見誤ると死に至ることもあるので、十分な注意が必要です」(久保田医師)
年末年始の暴飲暴食のツケを払わされないように酒席はほどほどに。
2010/04/26
すい臓に持続的な炎症が起こり、炎症細胞が増えたり、細胞が死んだりする。進行すると、すい臓全体が硬くなる(線維化)慢性の病気だ。治癒する急性すい炎と違って元に戻らず、病気と一生つきあうことになる。発症後、重要なのは生活習慣の改善で進行を遅らせることだ。
【男は大酒飲みに多い】 すい臓が炎症を起こす原因は、飲酒(アルコール性)約67%、原因不明(特発性)約20%、胆石(胆石性)約3%と続くが、男女別でみると男性はアルコール性(約77%)、女性は特発性(約56%)がトップになる。
東京慈恵会医科大学附属病院/消化器・肝臓内科の西野博一教授は「アルコール性慢性すい炎の人の多くに喫煙習慣がある。ニコチンもすい臓を刺激するのでお酒にタバコは非常に悪い」と話す。
年間発症者は約4万5000人(2002年厚労省調査)。男女比は3対1で、男性は50代、女性は60代の発症がピークだ。
【腹痛が消えたら進行】
発症すると多くは食後、数時間後にみぞおち辺りから左上腹部にかけて痛みが出現する(痛みの出ない人もいる)が、それは食物中に含まれている脂肪が小腸の細胞を刺激してホルモンを分泌し、すい臓を刺激するからだ。
ところが、「慢性すい炎が進行していくと、食事をしても痛みの出現がなくなってくる」(西野教授)という。
この段階になると、すい臓の消化酵素の分泌が低下して、下痢や脂肪を含んだ便が出る。インスリンの分泌も低下するので血糖値も上昇する。
西野教授は「とくにアルコール性の人は10-15年以上たつと約7割がすい臓の中に石(すい石)ができ、約5割が“すい性糖尿病”を合併する」と話す。
【特効薬なく飲食制限】
怖いのはそれだけじゃない。長い目でみると、すいがんをはじめ他の部位のがんを合併する危険性が高いのも特徴だ。
治療は、痛みには鎮痛薬、下痢や脂肪便には消化酵素薬、糖尿病にはインスリンの注射などと症状に対する対処療法はあっても、慢性すい炎を完治させる特効薬はない。
生活習慣の改善が最も重要で大原則は、禁酒・禁煙、脂肪食は控える、腹8分目、コーヒーや香辛料などの制限だ。
「大酒家の人が肝硬変と慢性すい炎の両方を発症することは、なぜかほとんどない。肝機能が大丈夫だからと飲み過ぎていたら危険」と西野教授。
酒とタバコの量をもう一度見直してみよう。
★「慢性すい炎」チェックリスト
□食後、数時間たってみぞおち辺りから左上腹部にかけて痛みが出現した
□背中の左側が痛い
□腹部の不定愁訴がある(膨満感、吐き気など)
□軟便から下痢傾向になる(また便の中に脂肪が含まれる)
□血糖値が上昇した(すい性糖尿病)
□体重が減少した
※上記のような症状がある場合は可能性がある。東京慈恵会医科大学附属病院 消化器・肝臓内科/西野博一教授作成