つづき
■ 金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
まず大前提として、次回の参議院選挙が行われる2013年までは現在の「ねじれ
国会」の政治情勢が続くこと、すなわち、衆議院で3分の2以上の議席を持たない与
党は予算案以外の法案を一切通すことができない現実を踏まえる必要があります。同時に、こうした厳しい政治情勢にもかかわらず、衆議院での単独過半数を有する民主党の側には議会を解散する大義はない、と考えます。もちろん、これには政治的な道義の観点からは異論もあるでしょうが、「問責決議」の効力を巡る議論と同様、解散のない参議院が法的に定められた権限を超えて過剰な牽制機能を持つことは、統治システムの運営としては問題と考えるからです。
従って、菅首相が就任前に代表選の中で発言したとされる「今後3年間は解散をし
ない」との言葉は、それが全うされるかどうかは別として、現政権の責務として重く
捉える必要があります。つまり、民主党政権が政策理念として掲げた項目のうちで、
新たな立法処置が不要な予算案の執行のみで実現可能な政策をひたすら実行し、その成果を基に3年後に国民の信を問う、という覚悟が必要ということです。
これまで民主党政権は、政策協議を通じて野党の協力を模索する一方で、目先の経済対策を優先し補正予算の成立を優先する姿勢を示してきました。野党協力に関しては、民主党側の不手際と同時に、誰がイニシアティブを取っているのかもわからない「やる気のなさ」も指摘されますが、そもそも客観的に考えて実現可能性の低い課題でした。また、いわゆる「デフレ対策」については、どこまでが政府の責任なのか、本当に有効な政策があるのか、特に、短期的な対策の有効性、という点に関してはかなり疑問の余地もあります。
民主党政権、特に菅政権としては、経済社会が抱える課題として、育児や介護などに伴う負担、年金制度などの社会保障に対する不安、といった家計の抱える問題の解消が経済活性化につながるとの考え方を示してきました。短期的な経済対策だけであれば、長年政権を担当した自民党の方が経験豊富という主張もありましたが、2009年の衆議院選挙で国民が選択したのは民主党でした。菅首相は所信表明演説の中で、公共事業中心の経済政策を「第一」、市場主義重視を「第二」とし、「経済社会が抱える課題の解決を新たな需要、雇用創出、成長につなげる政策」を「第三の道」と位置付けました。これを、予算案として実現することが政権の課題でしょうし、唯一、国民の支持とも重なるものです。
世界的な景気の失速も懸念される状況で、「ないものねだり」ながらも何らかの景
気対策を求める声も強く、その中では「家計の抱える問題の解消が経済活性化につながるのか」との指摘もされますが、その点については、実際にかなりの波及効果が見込めるのでないかと思います。
例えば、予算として焦点に上ってきている「こども手当」です。民主党は3歳未満
対象など制限付きながらも手当て増額支給にもこだわってるようですが、むしろ満額
支給を断念するかわりに打ち出した保育所充実などの施策が少子化対策として、同時に経済活性化の方策として評価できると考えます。
実際、少子化対策に成功しているフランスや北欧欧州諸国が80%台の就業率を維持しているように、先進国の間では出生率と出産・育児年齢期の女性の就業率の間には強い相関が見られ、育児女性の就業支援は少子化対策として有効との見方が定着しています。また、経済活性化の面では、保育施設の充実などによって保育士などの直接的な雇用需要創出の効果もありますが、出産・育児期に当たる30歳代女性の就業率の低下=10%近い「自発的失業」を減らせることも直接的な経済効果といえます。
母親の就業によって子育て世代の収入が確保されることで、消費に回る効果も大きく、就業による税収も見込めます。また、長期的には女性のキャリヤ中断の機会損失が減り、生涯年収の向上につながると同時に、企業にとっても優秀な人材の確保というメリットがあります。
「経済の活性化」とは、突き詰めて言えば、多くの人が就業し稼ぐ機会を得ることで
す。そのために雇用需要を創出する、というのが公共事業の発想でしたが、就業の能力も意欲もある人材が就業に支障を抱えているとすれば、その支障を取り除く環境を整備することも重要な施策となります。特に、後者によって創出される雇用は一般的に、より質の高いものとなることも期待されます。その意味では、保育サービスだけではなく、介護サービス等の充実も、社会全体としてみると非常に投資効率の高い事業といえるでしょう。
介護サービスについても、介護現場で雇用創出される労働者の賃金水準や生産性は決して高いものではないかもしれませんが、介護サービスのおかげで職に留まることが可能となる働き手の賃金や生産性はそれ以上に高いかもしれません。
なお、「こども手当」増額の財源として、扶養控除廃止の議論があります。個別政
策の財源確保の議論の是非はありますが、個人的には扶養控除は廃止されるべきだと考えます。現状では専業主婦を養える高所得者層向けの税優遇となっている側面が強い一方、特に扶養控除枠を意識する主婦層の就業のパートタイム化、低賃金化などの悪影響が強いと考えるからです。すぐに「働きたくても働けない事情の人もいる」というような議論になりがちですが、個人の就業に負のインセンティブを与える制度は時代にそぐわないだけではなく、経済活性化の観点からも好ましくありません。
外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎
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■ 津田栄 :経済評論家
来年から始まる通常国会では、菅民主党政権は、来年度予算をめぐって、野党に加えて内部の反対勢力もあって、最大の危機を迎えそうです。その来年度予算ですが、今の段階では、菅政権は日本をどういう国にしたいのかというヴィジョンが見えない中で、どういった内容になるのか、あまり読めません。もちろん、昨年の衆議院選において、民主党は、「政権交代」というスローガンを掲げて戦いましたから、まず政権を獲得することが目的だったかもしれませんし、国民も、自民党政権に嫌気がさし、あまり期待しなくなった裏返しとして民主党政権を選択しましたから、そもそも国の将来ヴィジョンまで期待していなかったかもしれません。
しかし一方で、民主党は、「国民の生活が第一。」を掲げて、税金のムダづかいと
天下りの根絶をはじめとする5つの政策を提示していましたから、それまで長期にわ
たって行われてきた自民党政権の政官業による政治と異なった国民である生活者のための政治を目指していたともいえ、また国民も、そうした政策から国民の視点に立った政策が行われ、今の現状をなんとか変えるのではという淡い期待から民主党を支持したともいえます。ただ、そうした政策の大半が現実的ではないことが分かり、また政権担当能力のなさから政策のブレが見られ、民主党政権が揺らいでいるのが現実です。
民主党の政策のなかで、子ども手当政策(これも財源の問題や支給額でぶれています)や農業戸別所得補償政策(これは農業強化政策を後退させる危険性さえあります)などのバラマキ政策は、国民の利益というよりも、政権獲得のために考えられたものであって、国民の間に利益の対立が生じる可能性が高く、公平性から問題があるといえ、政策理念として国民は支持しにくいといえます。郵政事業の抜本的見直しはむしろ非効率な経済に戻る政策として国民には不利益になる真逆の政策といえます。また、高速道路無料化は議論の余地があり、国民の大半の反対から今後縮小する方向にありますが、年金・医療改革、雇用政策、新産業育成については、国民は期待するものの、政策理念としては当然必要なもので、目新しさはないといえます。
一方、民主党は、国民の生活をいかに良くしていくかという政策の軸や方向性を
持っていたともいえ、その大きな理念について国民は支持すると思われます。そのためには、国民の利益になるように経済構造を変え、効率的な経済、社会を作ることです。これまで、長期にわたる政官業の結びつきによって、規制、特別会計や公的機関など、ムダな経済構造が出来上がって、非効率な経済、社会になっています。国民は、蓮舫行政刷新担当大臣を中心に行われた事業仕分けに期待したように、それを切り込むことに期待しています。つまり、国民の視点に立った国民生活の向上を政策理念として、徹底したムダの排除が今の民主党政権が守るべきことといえます。
そのためには、昨年のマニフェストにも掲げていた天下りの全面禁止、特別会計や独立行政法人や公益法人の全面的な見直し(行うならば事業というあまり効果のない小さなことではなく制度そのものや組織そのものの廃止を行うべき)、政府調達のオープン化と情報公開などによる政策コストや調達コストの引き下げ、公務員制度の抜本改革の実施と国家公務員の総人件費2割削減、一方率先して身を削る議員定数の削減などが求められるといえましょう。その結果として、規制の緩和・廃止につなげ、また国でやるべき必要な基本業務を残して、その他の権限・財源を地方に移譲し、国、都道府県、市町村という三つの行政で重なり合っている業務を一本化するなどによって既得権益をなくし、政策の審議・決定、執行を迅速化することで効率的な国に変えることになります。そして、地方の自立、個人の自由な経済活動を通じて、経済を活性化し、それが国民の生活の向上、国民の利益につながることになります。もちろん、地方および個人の自由、自律を認める一方、責任を伴うことは当然です。
とにかく、民主党政権は、政策理念として、経済がグローバル化した中にあって、
20世紀型の国家のやり方のように国が決めたヴィジョンやあり方を国民に押し付け
ようとするのではなく、個人の自由と活力、地方の自立を引き出し、国民が自ら生活
を向上させ、利益を享受できるように、行政や経済などの効率化につながる環境を整備し構造を改革する政策を行うべきだといえましょう。
経済評論家:津田栄
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■ 三ツ谷誠 :金融機関勤務
「官僚~父なるもの~からの訣別」
民主党と言っても管直人と仙石由人の民主党と小沢一郎の民主党との間には、「死守すべきもの」の内容について深い断層があるように感じます。結局、彼らは脱自民、脱官僚主導という共通の目的、共通の敵を前提に結び付いた政治勢力であって、小泉支配を経た自民党の自壊によって政権奪取という目的を果たした後では、党として死守すべきものについてもいささかの意見の違い・立場の違いが明確になってきているように(TPP加入の問題一つを見ても)感じます。
このような認識に立てば、党が党として死守すべき項目はもはや「脱官僚主導」だ
けになりますので、逆に我々が(少なくとも現時点においては)尚一つの政党である
(管氏も仙石氏も小沢氏も飲み込んだ)民主党政権に対し、死守を期待する政策・予算もまた「脱官僚主導」に繋がる政策とそのための予算という事になるでしょう。
そう考えた時、私が死守すべきと考える政策は、「子ども手当て」と「高校の無償
化」になります。
前者は、直接に対象者に支給されるという意味で、「官僚主導」的な流れに沿わな
い、とても重要な政策だと思いますし、後者は無条件に父権的なお上に従わない気概を持った人間を作り出していくには、やはり教育が重要だと感じるという意味で、死守すべき政策だと感じています。
脱官僚は、実は我々の内側に深く根付いている官僚支配を望む心性や、公共事業のような形で提供されてきた「お上の恩寵」をありがたがる(或いはそれによって廻る地域経済の)構造から、いかに自立するか、という個々人の問題を抜きには語れない気がします。
それは結局、国家を国家という偉大なる父に守られる事の心地よさとしてではなく、自立して大人になった一人ひとり、社会の構成員が議論や暴力(笑)を通じ作り上げるものと認識し直せるか、であり、比喩的に言えば、直接、お小遣いをもらうのではなく、その小遣いの「正しい」使い道まで未熟な子どものために考えてあげようとし、参考書のような実物を買って来る父への反抗でなくてはならないのです。
子ども手当ての導入の議論の際、もらった手当てをパチンコや競馬に使う親を心配する声がありましたが、そういった無駄使いをさせないために直接のお金ではなく、サービスの現物支給が良いと考えるのは、やはり国家や政府を父や母として考える心性の表出だったと思います。
また、もしかすると溜まりに溜まってしまった半官の色彩強い様々な公団なども、
その源流にはこのような官の父権意識があったことは(その裏側で)明白でしょう。
子ども手当ては小さな一歩ですが、小遣いをもらい無駄使いを反省し、少しずつ経
済観念を発達させながら我々が大人になるような契機を、日本人に与えていると思います。
高校の無償化にしても、仮にこれから格差が更に拡大するのであれば、尚更、光ではなく影に廻ってしまった家庭の師弟に教育の機会を与えるべきだと思います。それは勿論、健全な意味での階層挑戦の機会を優秀なそれら家庭の師弟に与える場所にもなりますが、更に優秀な師弟には、社会体制の矛盾そのものを乗り越え、この社会自体を変革させるための思想やそのための言葉を獲得させるための場所、矛盾ある体制を作り変えるための場所(砦)にもなりうるかも知れないので。
金融機関勤務:三ツ谷誠
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■ 土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
死守すべき項目は、「財政運営戦略」で定めた「歳出の大枠」を71兆円以下にすることと、新規国債発行額を44兆円余以下にすることです。
「財政運営戦略」は、菅内閣が来年度予算編成に向けて今年6月22日に閣議決定したものです。そこでは、来年度予算編成に関して、歳出の大枠として2011~20
13年度の基礎的財政収支対象経費(国債費等を除く一般会計歳出)を実質的に前年度(71兆円)以下に抑制すること、新規国債発行額について約44兆円を上回らないよう全力をあげ、それ以降も、着実に縮減させることを目指し、抑制に全力をあげること、などが盛り込まれました。
来年度予算編成においては、現時点で、基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引上げた際の財源約2.5兆円の来年度分の財源や、子ども手当支給額を来年から3歳未満児に月額2万円(7000円の引上げ)とするための財源、社会保障給付の国庫負担分の自然増(現行制度下でも高齢者の増加に伴う経費増)1.25兆円の財源など、まだ財源の手当てについて決着がついていない事柄が多くあります。現時点では、この財政運営戦略で盛り込まれた数値目標を達成できると確定できているわけではありません。
しかし、来年度予算編成に向けて冒頭で閣議決定した財政運営戦略を、政府予算案取りまとめの土壇場で覆されるということになれば、政権担当能力が問われます。予算編成に関して閣議決定までしたのに、その閣議決定が予算編成過程で覆せるという前例を作れば、予算編成がらみでは何を決めてもコミットしたことにならず、力づくの予算分捕り合戦が横行しかねず、無秩序な状態に陥ります。そのためには、何が何でも、財政運営戦略に盛り込まれた決定事項は「死守」しなければなりません。
もちろん、財政運営戦略で掲げた内容を守っただけで、「良い予算」が出来上がる
とは限りません。財政運営戦略は、あくまでも財政健全化への道筋を示したものであり、新成長戦略と持続可能な社会保障制度の再構築と連携して、「明るい希望を示し、成長を促進する財政健全化」を目指すことを謳ったものです。国民生活を良くするための予算付けをどうするかは、個々に精査してゆかなければならないものです。この点については、前述した財政運営の歳出の大枠と整合性をとりつつ、個々の事務事業の査定が重要となってきます。
財政運営戦略は、財務省が他省庁を抑止するためのものと勘違いされがちですが、閣議決定されたものである限り全省庁の合意事項です。全省庁が大臣以下こぞって、財政運営戦略を死守するように一致協力して予算編成に当たっていただきたいと思います。
慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
( http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ )
●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
JMM [Japan Mail Media] No.613 Monday Edition
【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】128,653部
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まず大前提として、次回の参議院選挙が行われる2013年までは現在の「ねじれ
国会」の政治情勢が続くこと、すなわち、衆議院で3分の2以上の議席を持たない与
党は予算案以外の法案を一切通すことができない現実を踏まえる必要があります。同時に、こうした厳しい政治情勢にもかかわらず、衆議院での単独過半数を有する民主党の側には議会を解散する大義はない、と考えます。もちろん、これには政治的な道義の観点からは異論もあるでしょうが、「問責決議」の効力を巡る議論と同様、解散のない参議院が法的に定められた権限を超えて過剰な牽制機能を持つことは、統治システムの運営としては問題と考えるからです。
従って、菅首相が就任前に代表選の中で発言したとされる「今後3年間は解散をし
ない」との言葉は、それが全うされるかどうかは別として、現政権の責務として重く
捉える必要があります。つまり、民主党政権が政策理念として掲げた項目のうちで、
新たな立法処置が不要な予算案の執行のみで実現可能な政策をひたすら実行し、その成果を基に3年後に国民の信を問う、という覚悟が必要ということです。
これまで民主党政権は、政策協議を通じて野党の協力を模索する一方で、目先の経済対策を優先し補正予算の成立を優先する姿勢を示してきました。野党協力に関しては、民主党側の不手際と同時に、誰がイニシアティブを取っているのかもわからない「やる気のなさ」も指摘されますが、そもそも客観的に考えて実現可能性の低い課題でした。また、いわゆる「デフレ対策」については、どこまでが政府の責任なのか、本当に有効な政策があるのか、特に、短期的な対策の有効性、という点に関してはかなり疑問の余地もあります。
民主党政権、特に菅政権としては、経済社会が抱える課題として、育児や介護などに伴う負担、年金制度などの社会保障に対する不安、といった家計の抱える問題の解消が経済活性化につながるとの考え方を示してきました。短期的な経済対策だけであれば、長年政権を担当した自民党の方が経験豊富という主張もありましたが、2009年の衆議院選挙で国民が選択したのは民主党でした。菅首相は所信表明演説の中で、公共事業中心の経済政策を「第一」、市場主義重視を「第二」とし、「経済社会が抱える課題の解決を新たな需要、雇用創出、成長につなげる政策」を「第三の道」と位置付けました。これを、予算案として実現することが政権の課題でしょうし、唯一、国民の支持とも重なるものです。
世界的な景気の失速も懸念される状況で、「ないものねだり」ながらも何らかの景
気対策を求める声も強く、その中では「家計の抱える問題の解消が経済活性化につながるのか」との指摘もされますが、その点については、実際にかなりの波及効果が見込めるのでないかと思います。
例えば、予算として焦点に上ってきている「こども手当」です。民主党は3歳未満
対象など制限付きながらも手当て増額支給にもこだわってるようですが、むしろ満額
支給を断念するかわりに打ち出した保育所充実などの施策が少子化対策として、同時に経済活性化の方策として評価できると考えます。
実際、少子化対策に成功しているフランスや北欧欧州諸国が80%台の就業率を維持しているように、先進国の間では出生率と出産・育児年齢期の女性の就業率の間には強い相関が見られ、育児女性の就業支援は少子化対策として有効との見方が定着しています。また、経済活性化の面では、保育施設の充実などによって保育士などの直接的な雇用需要創出の効果もありますが、出産・育児期に当たる30歳代女性の就業率の低下=10%近い「自発的失業」を減らせることも直接的な経済効果といえます。
母親の就業によって子育て世代の収入が確保されることで、消費に回る効果も大きく、就業による税収も見込めます。また、長期的には女性のキャリヤ中断の機会損失が減り、生涯年収の向上につながると同時に、企業にとっても優秀な人材の確保というメリットがあります。
「経済の活性化」とは、突き詰めて言えば、多くの人が就業し稼ぐ機会を得ることで
す。そのために雇用需要を創出する、というのが公共事業の発想でしたが、就業の能力も意欲もある人材が就業に支障を抱えているとすれば、その支障を取り除く環境を整備することも重要な施策となります。特に、後者によって創出される雇用は一般的に、より質の高いものとなることも期待されます。その意味では、保育サービスだけではなく、介護サービス等の充実も、社会全体としてみると非常に投資効率の高い事業といえるでしょう。
介護サービスについても、介護現場で雇用創出される労働者の賃金水準や生産性は決して高いものではないかもしれませんが、介護サービスのおかげで職に留まることが可能となる働き手の賃金や生産性はそれ以上に高いかもしれません。
なお、「こども手当」増額の財源として、扶養控除廃止の議論があります。個別政
策の財源確保の議論の是非はありますが、個人的には扶養控除は廃止されるべきだと考えます。現状では専業主婦を養える高所得者層向けの税優遇となっている側面が強い一方、特に扶養控除枠を意識する主婦層の就業のパートタイム化、低賃金化などの悪影響が強いと考えるからです。すぐに「働きたくても働けない事情の人もいる」というような議論になりがちですが、個人の就業に負のインセンティブを与える制度は時代にそぐわないだけではなく、経済活性化の観点からも好ましくありません。
外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎
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■ 津田栄 :経済評論家
来年から始まる通常国会では、菅民主党政権は、来年度予算をめぐって、野党に加えて内部の反対勢力もあって、最大の危機を迎えそうです。その来年度予算ですが、今の段階では、菅政権は日本をどういう国にしたいのかというヴィジョンが見えない中で、どういった内容になるのか、あまり読めません。もちろん、昨年の衆議院選において、民主党は、「政権交代」というスローガンを掲げて戦いましたから、まず政権を獲得することが目的だったかもしれませんし、国民も、自民党政権に嫌気がさし、あまり期待しなくなった裏返しとして民主党政権を選択しましたから、そもそも国の将来ヴィジョンまで期待していなかったかもしれません。
しかし一方で、民主党は、「国民の生活が第一。」を掲げて、税金のムダづかいと
天下りの根絶をはじめとする5つの政策を提示していましたから、それまで長期にわ
たって行われてきた自民党政権の政官業による政治と異なった国民である生活者のための政治を目指していたともいえ、また国民も、そうした政策から国民の視点に立った政策が行われ、今の現状をなんとか変えるのではという淡い期待から民主党を支持したともいえます。ただ、そうした政策の大半が現実的ではないことが分かり、また政権担当能力のなさから政策のブレが見られ、民主党政権が揺らいでいるのが現実です。
民主党の政策のなかで、子ども手当政策(これも財源の問題や支給額でぶれています)や農業戸別所得補償政策(これは農業強化政策を後退させる危険性さえあります)などのバラマキ政策は、国民の利益というよりも、政権獲得のために考えられたものであって、国民の間に利益の対立が生じる可能性が高く、公平性から問題があるといえ、政策理念として国民は支持しにくいといえます。郵政事業の抜本的見直しはむしろ非効率な経済に戻る政策として国民には不利益になる真逆の政策といえます。また、高速道路無料化は議論の余地があり、国民の大半の反対から今後縮小する方向にありますが、年金・医療改革、雇用政策、新産業育成については、国民は期待するものの、政策理念としては当然必要なもので、目新しさはないといえます。
一方、民主党は、国民の生活をいかに良くしていくかという政策の軸や方向性を
持っていたともいえ、その大きな理念について国民は支持すると思われます。そのためには、国民の利益になるように経済構造を変え、効率的な経済、社会を作ることです。これまで、長期にわたる政官業の結びつきによって、規制、特別会計や公的機関など、ムダな経済構造が出来上がって、非効率な経済、社会になっています。国民は、蓮舫行政刷新担当大臣を中心に行われた事業仕分けに期待したように、それを切り込むことに期待しています。つまり、国民の視点に立った国民生活の向上を政策理念として、徹底したムダの排除が今の民主党政権が守るべきことといえます。
そのためには、昨年のマニフェストにも掲げていた天下りの全面禁止、特別会計や独立行政法人や公益法人の全面的な見直し(行うならば事業というあまり効果のない小さなことではなく制度そのものや組織そのものの廃止を行うべき)、政府調達のオープン化と情報公開などによる政策コストや調達コストの引き下げ、公務員制度の抜本改革の実施と国家公務員の総人件費2割削減、一方率先して身を削る議員定数の削減などが求められるといえましょう。その結果として、規制の緩和・廃止につなげ、また国でやるべき必要な基本業務を残して、その他の権限・財源を地方に移譲し、国、都道府県、市町村という三つの行政で重なり合っている業務を一本化するなどによって既得権益をなくし、政策の審議・決定、執行を迅速化することで効率的な国に変えることになります。そして、地方の自立、個人の自由な経済活動を通じて、経済を活性化し、それが国民の生活の向上、国民の利益につながることになります。もちろん、地方および個人の自由、自律を認める一方、責任を伴うことは当然です。
とにかく、民主党政権は、政策理念として、経済がグローバル化した中にあって、
20世紀型の国家のやり方のように国が決めたヴィジョンやあり方を国民に押し付け
ようとするのではなく、個人の自由と活力、地方の自立を引き出し、国民が自ら生活
を向上させ、利益を享受できるように、行政や経済などの効率化につながる環境を整備し構造を改革する政策を行うべきだといえましょう。
経済評論家:津田栄
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■ 三ツ谷誠 :金融機関勤務
「官僚~父なるもの~からの訣別」
民主党と言っても管直人と仙石由人の民主党と小沢一郎の民主党との間には、「死守すべきもの」の内容について深い断層があるように感じます。結局、彼らは脱自民、脱官僚主導という共通の目的、共通の敵を前提に結び付いた政治勢力であって、小泉支配を経た自民党の自壊によって政権奪取という目的を果たした後では、党として死守すべきものについてもいささかの意見の違い・立場の違いが明確になってきているように(TPP加入の問題一つを見ても)感じます。
このような認識に立てば、党が党として死守すべき項目はもはや「脱官僚主導」だ
けになりますので、逆に我々が(少なくとも現時点においては)尚一つの政党である
(管氏も仙石氏も小沢氏も飲み込んだ)民主党政権に対し、死守を期待する政策・予算もまた「脱官僚主導」に繋がる政策とそのための予算という事になるでしょう。
そう考えた時、私が死守すべきと考える政策は、「子ども手当て」と「高校の無償
化」になります。
前者は、直接に対象者に支給されるという意味で、「官僚主導」的な流れに沿わな
い、とても重要な政策だと思いますし、後者は無条件に父権的なお上に従わない気概を持った人間を作り出していくには、やはり教育が重要だと感じるという意味で、死守すべき政策だと感じています。
脱官僚は、実は我々の内側に深く根付いている官僚支配を望む心性や、公共事業のような形で提供されてきた「お上の恩寵」をありがたがる(或いはそれによって廻る地域経済の)構造から、いかに自立するか、という個々人の問題を抜きには語れない気がします。
それは結局、国家を国家という偉大なる父に守られる事の心地よさとしてではなく、自立して大人になった一人ひとり、社会の構成員が議論や暴力(笑)を通じ作り上げるものと認識し直せるか、であり、比喩的に言えば、直接、お小遣いをもらうのではなく、その小遣いの「正しい」使い道まで未熟な子どものために考えてあげようとし、参考書のような実物を買って来る父への反抗でなくてはならないのです。
子ども手当ての導入の議論の際、もらった手当てをパチンコや競馬に使う親を心配する声がありましたが、そういった無駄使いをさせないために直接のお金ではなく、サービスの現物支給が良いと考えるのは、やはり国家や政府を父や母として考える心性の表出だったと思います。
また、もしかすると溜まりに溜まってしまった半官の色彩強い様々な公団なども、
その源流にはこのような官の父権意識があったことは(その裏側で)明白でしょう。
子ども手当ては小さな一歩ですが、小遣いをもらい無駄使いを反省し、少しずつ経
済観念を発達させながら我々が大人になるような契機を、日本人に与えていると思います。
高校の無償化にしても、仮にこれから格差が更に拡大するのであれば、尚更、光ではなく影に廻ってしまった家庭の師弟に教育の機会を与えるべきだと思います。それは勿論、健全な意味での階層挑戦の機会を優秀なそれら家庭の師弟に与える場所にもなりますが、更に優秀な師弟には、社会体制の矛盾そのものを乗り越え、この社会自体を変革させるための思想やそのための言葉を獲得させるための場所、矛盾ある体制を作り変えるための場所(砦)にもなりうるかも知れないので。
金融機関勤務:三ツ谷誠
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■ 土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
死守すべき項目は、「財政運営戦略」で定めた「歳出の大枠」を71兆円以下にすることと、新規国債発行額を44兆円余以下にすることです。
「財政運営戦略」は、菅内閣が来年度予算編成に向けて今年6月22日に閣議決定したものです。そこでは、来年度予算編成に関して、歳出の大枠として2011~20
13年度の基礎的財政収支対象経費(国債費等を除く一般会計歳出)を実質的に前年度(71兆円)以下に抑制すること、新規国債発行額について約44兆円を上回らないよう全力をあげ、それ以降も、着実に縮減させることを目指し、抑制に全力をあげること、などが盛り込まれました。
来年度予算編成においては、現時点で、基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引上げた際の財源約2.5兆円の来年度分の財源や、子ども手当支給額を来年から3歳未満児に月額2万円(7000円の引上げ)とするための財源、社会保障給付の国庫負担分の自然増(現行制度下でも高齢者の増加に伴う経費増)1.25兆円の財源など、まだ財源の手当てについて決着がついていない事柄が多くあります。現時点では、この財政運営戦略で盛り込まれた数値目標を達成できると確定できているわけではありません。
しかし、来年度予算編成に向けて冒頭で閣議決定した財政運営戦略を、政府予算案取りまとめの土壇場で覆されるということになれば、政権担当能力が問われます。予算編成に関して閣議決定までしたのに、その閣議決定が予算編成過程で覆せるという前例を作れば、予算編成がらみでは何を決めてもコミットしたことにならず、力づくの予算分捕り合戦が横行しかねず、無秩序な状態に陥ります。そのためには、何が何でも、財政運営戦略に盛り込まれた決定事項は「死守」しなければなりません。
もちろん、財政運営戦略で掲げた内容を守っただけで、「良い予算」が出来上がる
とは限りません。財政運営戦略は、あくまでも財政健全化への道筋を示したものであり、新成長戦略と持続可能な社会保障制度の再構築と連携して、「明るい希望を示し、成長を促進する財政健全化」を目指すことを謳ったものです。国民生活を良くするための予算付けをどうするかは、個々に精査してゆかなければならないものです。この点については、前述した財政運営の歳出の大枠と整合性をとりつつ、個々の事務事業の査定が重要となってきます。
財政運営戦略は、財務省が他省庁を抑止するためのものと勘違いされがちですが、閣議決定されたものである限り全省庁の合意事項です。全省庁が大臣以下こぞって、財政運営戦略を死守するように一致協力して予算編成に当たっていただきたいと思います。
慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
( http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ )
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JMM [Japan Mail Media] No.613 Monday Edition
【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】128,653部
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民主党は、財源のことをまったく考えてこなかった。
ついに、年金の運用費にまで手を伸ばしてきて、
それを国家の運営にまわすと言っていた。
年金をもらえないのなら、誰がまじめに
払う気になるだろうか。
最低な政権だ。65歳から受け取るはずの
年金も67歳にしようとしているし、
他の国なら、バスをひっくり返して
燃やしてデモで怒り狂うところだが、「日本人」は
おとなしいので、「やっぱりな、、、。」と思うだけ。
年金制度をきちんと考えて、新方式を
構築する気は無いようですね。
民主党は、自民党より、もっと無能だったね!
by日本のお姉さん