日本は変わろうと望んだので、民主党を選んだが、、、?
全部が全部、賛成だとは言えないが、
面白い言い方をしている人もありました。
お父さん、お母さんたちは、希望を捨てては
いけないのだと感じました。日本を変えていく
子どもたちを育てるのは、まさに、
お父さん、お母さんたちだからです。↓
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2010年12月6日発行JMM [Japan Mail Media] No.613 Monday Edition
▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』
◆編集長から
【Q:1140】
◇回答(寄稿順)
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
□北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
□杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
□金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
□津田栄 :経済評論家
□三ツ谷誠 :金融機関勤務
□土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:1140への回答ありがとうございました。久しぶりに上海に来ています。カ
ンブリア宮殿のロケで、ゲストは「吉利汽車」という中国の民営自動車メーカーの副
総裁です。吉利の本拠地は浙江省なので、明日は上海から杭州に移動します。
3年ぶりの上海は明らかに変わっていると感じました。まず虹橋空港の入国手続き
が非常にスムーズになった気がします。入国審査官の態度が堂々としている印象があ
りました。考えてみれば、この3年の間に、オリンピックと万博があったわけで、入
国する外国人も格段に多かったでしょうし、世界経済を牽引しているという自信にも
つながったのかも知れません。
上海の定宿に投宿したのですが、インターネット接続でも変化がありました。以前
も客室にはLANケーブルが設置してありましたが、メールで、受信ができても、送
信ができませんでした。わたしのメールサーバはアメリカにあるのですが、どういう
わけか送信ができなかったのです。しかし今回は、すべての客室に無線LANがあっ
て、アメリカのサーバ経由のメールの送信も可能になっていました。
また、細かいところで言うと、ホテルの近くにあった昔風のレストランがなくなっ
て、かなり大きいコンビニなっていました。たった3年で、いろいろなものが様変わ
りする国というのは、やはり勢いがあるのだと思いました。
■次回の質問【Q:1141】
我が国では、多くの人が老後への不安を持っているようです。老後に対する不安を
軽減するためには、税制、財政、社会保障など、どういった政策を優先すべきなので
しょうか。
村上龍
■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
■Q:1140
補正予算が成立し、政府は来年度予算の編成作業に入るようです。ねじれ国会では野党の攻勢が必至と見られています。来年度予算の中で、民主党政権の政策理念として、死守すべき項目があるとしたら、どういったものが挙げられるのでしょうか。
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
最近の民主党政権の政策運営や、外交問題の処理を見ていると、正直言って、とても心配になります。民主党が野党として、政権与党の政策に反対しているときはよ
かったのでしょうが、実際に政権与党として政権運営に携わってみると、思ったよう
に事が運ばないことが多いようです。「本当に、民主党政権にわが国の政治を任せて大丈夫なのだろうか」と思っている人は少なくないと思います。それが、政権に対す
る支持率に現れているのでしょう。
実際に民主党の政治家の方にお会いしても、彼等が、「口で言っているときと、実
際にやってみるのでは大きな違いがある」との感触を持っていることがよく分かりま
す。その背景には、実務を担当した経験が限られていることがあると思います。「今
後、実務経験を積めば、政権運営は改善する」と発言する人もいるようですが、現在、わが国を取り巻く様々な環境は、かなり厳しさを増しており、おそらく、民主党政権
が実務経験を積むだけの時間的余裕はないでしょう。
海外からわが国を見ていると、そうした現政権の一種の未熟さが一段と明確になる
ようです。最近、海外の友人から来るメールの多くは、「日本の民主党政権は大丈夫
か」と言うニュアンスが圧倒的になっています。そうしたメールの中には、「現在の状況が続くと、日本は、ニューリー・デクライニング・カントリー(新衰退国)の有力候補になりつつある」と言う悲観的なものまであります。
民主党政権とは直接関係はありませんが、最近、ロンドンの有力経済紙が、久しぶりに日本特集を組みました。その中では、主に人口問題が採り上げられており、人口減少や少子高齢化が、経済全体に与えるマイナスの影響について分析していたことがとても印象的でした。
そうした状況下、民主党政権に守って欲しい理念があるとすれば、それまでの自民
党政権では実現できなかった、わが国社会の効率性を高めることを目指すことです。
自民党政権が長期間続いたこともあり、自民党と特定の利益集団、あるいは既得権益層と相互依存の構図が明確になっていたと思います。民主党は、新たに政権の座に着いたわけですから、自民党が抱えていた、そうしたしがらみは少ないはずです。
そうした条件をうまく使って、自民党政権ではなし得なかった、社会全体の効率化
を図って欲しいと思います。逆に言えば、政権担当経験が殆どない民主党政権には、"今までとは違った"方針を打ち出すことができなければ、政権交代の意義は乏しくなってしまいます。
具体的に民主党政権に期待したいことは、90年代初頭以降、自民党政権が、雇用確保のために行なった、いわゆる箱物つくりの公共事業などを本格的に見直すことがあります。あるいは、国内の農業政策の再検討も必須の要素です。農業政策を見直すことで、わが国農業の競争力を回復させることが出来れば、海外諸国とのFTAやEPA,さらにはTPPなどの締結により積極的に取り組めるはずです。
また、予算編成と直接関係はありませんが、政治資金に関する透明性の向上なども必要なことでしょう。現在の政権の行動を見ていると、そうした期待は裏切られる可
能性が高まっていると思いますが、政権維持に汲々とするのではなく、自民党政権の悪弊を積極的に打破して欲しいものです。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
日本人は2009年8月に民主党政権の誕生を歓迎し、日本の政治が大きく変わる
と期待しました。鳩山前政権の迷走で一旦は低下した期待も、今年6月の菅政権誕生にもう一度賭けてみようと思いました。しかし、菅政権は尖閣諸島や北方領土問題で国益を全く主張できなかったことで、日本人としてのプライドが傷つけられたような
印象を与えました。民主党が掲げたキャッチフレーズは「国民の生活が第一」でした
が、外交不安によって、日本の将来に不安を感じた国民が多くなりました。国内に資源がなく、四方を海に囲まれた日本は、安定した外交なしに、経済活動や国民生活の安定はあり得ません。
菅政権の支持率は20~30%へ低下しました。2010年度の補正予算は成立し
ましたが、特例国債の発行など関連法案の成立が要求される来年度予算の成立は容易でないと見られています。予算への考え方や政策の類似性があるため、予算成立への協力が期待された公明党も、菅内閣の支持率の急低下に恐れをなして、協力できない情勢になりました。菅首相は支持率が1%になっても辞めないと発言されたようですが、4月には統一地方選挙が予定されており、3月の来年度予算成立を睨んで、政情は緊迫を増すでしょう。
当初、民主党は内需主導の経済成長を目指しました。月額2万6000円の子供手
当てで、個人消費を良くすると主張しました、今年度から1万3000円も子供手当てが支給されましたが、来年度からの2万6000円支給は無理で、1万3000円から多少増額される程度のようです。元々所得税の計算は複雑ですが、様々な所得控
除が削減されるか、上限を設けるかなど詳細が未定です。子供手当てで、個人消費が良くなった証拠はありません。鳩山前政権では、内需主導の経済を達成するために強い円を望んでいるとの見方が根強く、円高が進展しましたが、菅政権になって、外需と内需のバランスを取った経済成長を目指すことになり、為替介入で80円を超える円高を阻止したことは多少のポジティブです。
農家に安心して米作りをしてもらうための農家の戸別補償制度が、今年度から始まりました。民主党は昨年衆院選のマニフェストに、EPA(経済連携協定)とFTA
(自由貿易協定)の積極的推進も盛り込んでいましたが、TPP(環太平洋経済連携
協定)の交渉が話題になると、民主党内からは予想以上の反対が沸き起こりました。
党内の勢力争いが影響しているとはいえ、都会派議員が多いとみられた民主党内から、TPPを慎重に考える会に100人以上の議員が参加したことは驚きでした。農家への戸別補償制度は、農業自由化への代償の意味合いがあると思いましたが、鹿野農水相はさらなる補償が必要だと説きました。来年7月には韓国とEUのFTAが発効しますが、政府は来年中にTPPに参加するかどうかを決めるそうです。貿易立国の日本にとって、TPPへの参加は予算以上に重要な意思決定です。日中関係は悪化しましたが、民主党の元々のアイディアだった「東アジア共同体」構想的な考えは捨てないでほしいものです。
民主党の政策決定の大きな方針は、官僚に左右されずに、政治主導で全て決めるというものでした。民主党政権誕生から1年以上が経って、大臣、副大臣、政務官で全て仕切るのは困難であることが分かってきました。予算は財務省主導で決まるようになっているといわれる一方、外交には外務省が非協力的だといわれています。日本経済は長期低迷が続いているばかりか、外交的には国難続きです。今こそ政治家、官僚、企業が協力しあって、日本を立て直す必要があります。
メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
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■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
民主党は、自分たちが日本を変えるなどと思い上がってはいけない。彼らが政権を
取ったからといって、日本が変わるわけではない。日本が変わろうとしているから、彼らの手に政権が転がり込んできたと謙虚に考えるべきだろう。従って、日本が変わろうとしている方向に、彼らは敏感でなければならない。
経済的には、分配の適正化がこの国の課題だろう。過去20年の間に、それが歪んでしまった。1990年代に入り、バブルが崩壊し、冷戦が終わった。日本型経営が
否定され、社会主義が敗北した。その結果、我々は株主の利益をより尊重する方向に経営目標を置き換えた。自己資本という言葉が株主資本に変わったのは1991年だ。
1990年代前半に、ほぼゼロ%であった外国人の日本株保有比率は2000年代半
ばには30%近くに上昇した。これに比例するように、非正規社員比率が上昇した。
特に、男性の非正規社員が増えた。
外国人が悪いわけではない。彼らは株主として当然の要求を行っただけである。ただ、株主にとって良いことが、労働者などの他のステークホルダーをも豊にするかと言えば、そんな単純な話ではなかったということだ。他の先進国とは異なり、ここ十数年間、日本では生産性の上昇に伴う格好で、賃金が増えてこなかった。まずは、企業(≒株主)が儲けなければ、国民の所得も増えないと信じ込まされてきた。しかし、その時は、ついにこなかった。
これを政策研究大学院大学の松谷明彦教授は次のように分析している。「賃金上昇の不足は、GDPすなわち分配前の資源の総量の成長率を低下させ、さらには縮小させることで、あるいはそれ以上に、日本経済をして人々を豊にしない経済へと変貌させるのである。例えば、昨年に比べて労働生産性が3%上昇したとしよう。労働者数が変わらなければ、生産量は3%増加する。その時、賃金が1%しか上昇しなかったらどうなるか。過去の実績からみても、消費の増加率はほぼ賃金の上昇率に等しいから、消費は1%しか増加せず、供給量に対して需要が不足する、つまり売れ残って在庫が積み上がる。そうなると企業は、その在庫を捌かせるために生産を縮小せざるをえなくなる。つまりGDPは縮小する。労働生産性の上昇に対して賃金上昇が不足すると、経済は縮小するのである」(「人口減少時代の大都市経済」東洋経済新報社)。
こうした歪みの是正を一言で表すと「国民の生活が第一」になる。「国民の生活が
第一」を標榜することで、民主党のベクトルを、この国の変化の方向に一致させるこ
とができた。だから、民主党は政権を獲得することができたのであろう。2006年
に民主党代表に就任した小沢一郎の言葉は興味深い。「変わらず生き残るためには変わらなければならない」。映画「山猫」の有名な台詞だ。この言葉を、もう一度、頭の中で繰り返してみよう。世の中が変わったので、民主党も変わるということだ。小沢一郎が、あるいは民主党が、日本を変えるとは言っていない。
民主党は、このことを肝に銘じておくべきだ。
JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
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■ 杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
民主党には、子ども手当てや高校授業料の無償化といった補助金で、これまで生活資金負担の大かった社会の中間層を優遇するという考え方がありました。この層の生活を支援して、少子高齢化対策に役立てるとともに、消費などの有効需要を喚起する効果をねらったものでした。一方で、国の総予算は全面的に組み替えるとされ、財源はおもに行政のムダの排除することからはじめるとされました。様々な層に、行政を通じてバラ撒かれていた財政資金が、これらの政策を通じて中間層に還元される期待を持たせました。
前政権では様々な利益団体の利害に埋もれがちだった中間層に注目したことが、民主党の経済政策の肝だったと考えられます。マニフェストの副題「国民の生活が第一」の意味もそのように了解することができました。
政権をとってからの実行の段階では、その一部しか実現できませんでした。子供手
当ては、初年度公約の半額にとどまり、来年度も多少の積み増しが期待できる程度でしょう。政策としては、一歩前進と言っていえない事も無さそうですが、メインの経
済政策なのですから、もっと万難を排して実行し、支持基盤でもある中間層にアピー
ルするだけの気概を見せて欲しかったと思います。
予算の全面的な組み替えにいたっては完全に掛け声倒れで、膨大な予算の外郭を撫でただけの状態で、政治主導の難しさを思い知らされる結果となりました。新たに任命された、民主党の大臣たちも、公約のために必要な予算を切り出すよりは、省の縄張りの擁護に回ったように見えます。
経済的には、いきなりリーマンショックの後始末といったマイナス地点からはじめ
なければいけなかったのは不幸なことでした。必要な予算措置の段階で、早々と財務省のペースにはまり、鳩山政権が国債の増発のオプションを自ら封印してしまったのがそもそもの敗因でしょう。
政治的には、小沢問題に足をとられ、せっかく集中した政治権力を改革のために使う前に、旧権力・官僚機構の反撃を許してしまいました。
日本の政党は、すべての利害関係者に良い顔をしがちです。しかし、今後の人口を維持し、消費を行い、生産性を向上させる担い手となる中間層を元気付けるような政策を維持して欲しいとおもいます。
生命保険関連会社勤務:杉岡秋美
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
1年少々民主党政権を見ていて、前向きな評価ができることをここまで何もできな
いとは思っていませんでしたが、一国民としてはこの現実を受け入れて、少しでも改
善することを願うべきなのでしょう。私は仕事柄、政治をテーマに選ぶ文章を書く機
会が多いのですが、ともすれば、馬鹿馬鹿しい気持ちになって、他のテーマを選びたくなります。しかし、「諦めて、無関心になるのはいけない」ので、自分で自分にそ
う言い聞かせて、政治に対する関心を保つよう努力する日々です。
さて、予算で「死守」すべき項目は何か、とは答えにくいご質問です。この問いは、
予算に計上されるかも知れない支出項目の中で守るべきは何か、という方向で物事を考えさせます。それが全く無いわけではないので、後でお答えしますが、政策としてそれよりも重要だと思うことを、先に三つあげたいと思います。
一つ目。民主党が魅力的なマニフェストを掲げて総選挙に勝った時、私は、次のよ
うに思ったことを覚えています。「手放しで喜ぶな。マニフェストには、いろいろな
政策が載っているが、現実的には、これを半分も実現できないだろう。ただ一つ、年金制度が根本的に改革できれば、それで上出来だ」
前回総選挙の前は、金融危機後の不況のまっただ中で、景気対策を求める声が強い環境下でしたが、世論調査では、新政権に対して望む政策の優先順位のトップは年金制度の改善でした。国民の平均的な民意は、政策によって短期間に素晴らしい経済環境が実現するとは思っていないが、安心できる生活設計のためにも年金制度を抜本的に改革してほしいという点にあったと思います。
これに対して民主党は、税方式による最低保証年金の実現を核とする大まかな構想を示しながら、政権最初の1、2年は年金不払い問題の解決に注力し、3年目に新制度に関して議論を集約して、4年目で新しい年金制度の法案を通す、との青写真を示していました。
予算にあっては、財務省を中心とする官僚機構の力が強く、政治家は、自民・民主を問わず、官僚に対抗しうる独自のシンクタンクを持たない限り、せいぜい家の建築が始まってから、細かな点に文句を言う施主くらいの影響力しかないことが過去数年
の予算編成を見ていてよく分かりました。問題は思想ではなく、実務能力と個人の利
害・力量です。ここは「諦めてはいけない」点ではありますが、すぐには変えられない点として、現実を認めることにしましょう。
しかし、せっかく政権交代したのだから、年金制度の根本的な改革だけは、不可逆的に決定して実行して欲しいと思います。今の制度は、世代間の不平等が大きすぎますし、全体として無駄が大きすぎます(「でも、無理だろうなあ」というのが、"予
測"としては本音です)。
二つ目。民主党の総選挙マニフェストのトップにあったのは「財政支出のムダの削
減」でした。本当は、これを忘れて欲しくない。事業仕分けは、本質的には、使った予算の有効性のチェックであり、予算の根本方針を左右するものではありません。これだけで、「支出のムダの削減に取り組んでいる」と誤解してはなりません。国家戦略局を早く正式な組織として立ち上げて、予算の骨格を作る機能を財務省からそこに移し、支出のムダの削減に本気で取り組むべきでしょう(これも「本気でやる気はないだろうなあ」と思いますが、比較の問題としては、予算の支出項目の死守よりも重要です)。
三つ目。目下、デフレからの脱却が重要です。そのためには、日銀のより積極的な
金融緩和政策が必要なところですが、現状は、一層の金融緩和を行うためには、支出・リスクいずれかの面で財政的な負担が必要な段階にあります。こうした状況下で、国債発行額の上限を先決めする形で予算にタガをはめて、実質的な増税を行おうとする現状は好ましくありません。また、「財源が足りない」という報道が、子ども手当や基礎年金の国庫負担部分についてだけ強調されますが、どうしてその他の支出に対する「財源」は問われないのでしょうか。個々の支出項目よりも、財政全体の骨格が重要であり、「財政支出には削減すべきものがたくさんあるが、財政赤字はより大きい方がいいかもしれない」というのが、目下の状況に対する正しい認識ではないでしょうか(この点を整理して政策に反映することは現政権には「完全に無理でしょう」)。
最後に、ご質問の「死守」すべき支出項目をお答えしましょう。それは、「子ども
手当」です。
子ども手当は、一定の年齢の子供を持つ家計に対して、何の制限もなく一律に支給されます。使い道は自由であり、政府が干渉しません。また、子供を育てるコストの一定部分を社会が負担するという理念を具体化した制度です(不完全ですが、考え方として「ベーシックインカム」に通じる制度です)。
「子ども手当」では、手続きが単純で官僚が裁量を発揮する余地が無く、ナントカ基金やナニナニ機構のような天下りの役に立つ組織設立の余地もなく、しかも、マニフェストの全額を支給すると年間約5兆円と他の予算を大きく圧迫します。おそらく、官僚から見るとこの制度は「憎い」でしょう。だからこそ、記者クラブにぶら下がったメディアの幾つかは、子ども手当を「バラマキ」であると批判し、他の支出を不問にしたまま「(子ども手当の)財源をどうするのか?」という、バランスが壊れた記事を垂れ流すのだと思います。
今や、末期の自民党政権と現在の民主党政権のどこがちがうのかをはっきり述べることが難しい体たらくですが、民主党が政権を取ったことの記念として、せめて子ど
も手当は定着させて欲しいと思います。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )
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■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
一つもありません。というのは、必要で、かつ死守すべき項目は、民主党政権でな
く、どの保守政権でも履行すべきものですし、特に目立ったものではない一方、理解
できないポイントが多いと思っているためです。
民主党のマニフェストに戻って考えてみます。民主党のマニフェストは、強い経済、
強い財政、強い社会保障を掲げている他、1)無駄遣い、行政刷新→強い財政、2)
政治改革、3)外交・安全保障、4)子育て・教育、5)年金・医療・介護・障害者
福祉、6)雇用、7)農林水産業、8)郵政改革、9)地域主権、10)交通政策・
公共事業の10の骨子に基づき、政策を打っていくことになっています。
総花的ラインナップを掲げ過ぎたため、民主党でなくては、という特徴は掻き消え
てしまいました。しかも、中身をみると賛同しかねるポイントも含まれます。いくつ
かの例をあげてみます。
たとえば、無駄遣いを見直して強い財政を構築するというのですが、事業仕分けの効力がほとんどないことはこの場でも検討してきたとおりです。一つの事業仕分けを終了できず、また再仕分けを行うような場合に、いかに強い財政を構築するのでしょうか。
小沢一人の首に鈴もつけられず、どんな政治改革が行えるのでしょうか。
チルドレン・ファーストの名のもと、様々な子供用手当が配られることも財源ない状態では守れない約束になります(子ども手当のみならず、大学生などの希望者全員に対する奨学金制度や高校無償化など、どう考えても財源が必要なものばかりです。
イギリスなどは財政赤字削減のために、これまで対比で大学授業料の個人負担割合を増やしているのと逆行しています。つまり、2015年までに基礎的収支の赤字半減化など本腰を入れて目指しているわけではないように見えるというわけです。そもそも、9年間の義務教育までが国の責任を果たすべきところであり、それ以上の措置は、財政黒字国ならまだしも、我々には必要のない措置に思えます)。
地域主権を推進するため、一括交付金化とその重点的配分が叫ばれますが、本当に地域主権を目指すのであれば、交付金という財源措置ではなく、地方に徴税権を譲っていく勇気が必要だと思います。道州制の議論も本格化させることが必要で、地域経済の振興を図り、地域の税金を地方自治体が自由に徴収できる仕組みを強化させるべきはずで、交付金化の流れとは全く違うのではないでしょうか。
交通政策・公共事業の中には、ハブ空港の整備などとありますが、ハブ空港など必要のないのが日本です。整備される必要性は何らないのに、既得権益のために守られる必要があるものの代表に移ります。
と見てきて言えるのは、死守すべき重要なポイントなどない、ということになって
しまいます。財政規律を守ることもできないのに、かといって、強い経済のための、
デフレ克服のための一貫した手続きも取られていません。子ども手当については、結局2万6000円に増加させていく案は結実しませんでした。3歳以下の子供のみ、
2万円への増加で打ち止め、しかし、それも、財源なき措置に見え、高収入世帯など
の負荷を増やすことでねん出せんとするだけです。また、一旦は廃止方針を示した八ツ場ダムの工事を再開することなどは、民主党のブレまくり政治を示す象徴のようなものに見えます。
民主党政権は自民党政権に辟易としてきた国民感情の後押しを受けて、政権交代を実現しました。しかし、その後、様々な愚行、失言、愚策を見せられ、管内閣の支持率は急降下してきました。政権維持のための施策を中心に予算が組まれるとすれば、むしろ、プライマリーバランスの目標を崩さないかどうか、我々は監視する必要が出てきます。民主党政権の政策理念として死守すべきポイントは、財政再建とそのための施策であって欲しいと願います。しかし、それに逆行する可能性を孕んできたと懸念しているのが本音です。
BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈
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