ペット葬儀社が語る「出張火葬」の現実 | 日本のお姉さん

ペット葬儀社が語る「出張火葬」の現実

刊チャージャー11月号
【調査】言いたい事を言ってくれ!
業界別覆面座談会 第48回 ペット葬儀社が語る「出張火葬」の現実
近年、ペット葬儀の業者が急増している。でも、なかには山林に死骸を放置したり高額請求で摘発される業者もあったりして、どことなく怪しい業界といった印象もつきまとう。今回、話を聞かせてくれたのはペットの「出張火葬」をやってる人だ。疑念や不安が燃え尽きるまで、聞いてみようじゃないですか!

「出張火葬」って、どんな仕事なんですか?


東京都内でペットの出張火葬をやってる業者さん。24時間態勢の仕事の合間を縫って、朝早くから話を聞かせてくれた。左から、豚クン(社長)、犬クン(スタッフ)と呼ぶ。

豚クン 火葬炉を積んだ車で依頼のあったお宅に伺って、その場でペットを火葬する「立ち会い火葬」が基本だね。この場合は、骨上げも飼い主さんにやってもらう。あと、遺体を預かって火葬した後、遺骨を自宅に届ける「お任せ火葬」や、遺骨も返却しないでこっちで処理する「引き取り火葬」もある。

犬クン もちろん、料金は立ち会い火葬が一番高くて、うちの場合でだいたい2万円くらい。遺骨を返却しない引き取り火葬なら、その半額程度だね。業者によっては、お坊さんを手配して葬式まで仕切ったり、ペット霊園まで面倒みたりするんだけどさ。

豚クン 可愛がったペットをきちんと見送りたい人がうちのような業者に依頼してくれるんだけど、葬式とか仰々しいのは違うでしょっていう人もいるからね。僕自身、きちんと火葬してあげるくらいがちょうどいいと感じたから、こういうやり方してるんだよね。

犬クン そもそも、死んだペットは役所に連絡すればもっと安く処分してくれる。東京都の場合は25kgまでで2600円だったかな。それをわざわざ自分で火葬してあげたいって思うんだから、依頼してくる人はペットに優しい人なんだよ。

Charger つまり、自宅の前に車を停めて火葬するってことですよね? 近所迷惑だったり、苦情が来たりはしないんですか?

犬クン ちゃんと二次燃焼方式の火葬炉を使ってるからね。煙も臭いもまったくといっていいくらい何もない。車の上の煙突から、陽炎があがるくらいかな。

豚クン バーナーに風を送る送風機を回す電力が必要だから、コンセントが借りられない場合は発電機を回す。夜中の住宅街とかだと、その発電機の音が気になるくらいだね。

犬クン そもそも火葬炉は車に積んでるから、何かクレーム付けられたら移動しちゃえばいいしね。

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なぜ、この仕事を始めたんですか?
豚クン 簡単に言っちゃうと、脱サラ。仕事をやめて何か事業を興したいなと考えて、自分も利用したことがあったペット火葬をやることにしたんだよね。

犬クン 僕は彼の昔からの友人で、仕事を手伝ってくれと頼まれて引き受けた。

Charger
 ペット火葬業者になるためには、許可とか資格って不要なんですか?

豚クン そんなものは何も必要ない。僕も事業を始める前に気になって、保健所や環境省に問い合わせたりしたんだけどね。少なくとも事業を始めた数年前は、まったく、どこも業者の管理や把握はしていなかった。何か届け出が必要になったら教えてくれって連絡先も伝えたけど、まだ何も連絡がないところをみると、状況は変わっていないんだろうな。

Charger 開業資金ってどのくらいで?

豚クン 火葬炉が200万くらい。あと、火葬炉を積む車や、骨壺とかのペット葬儀用品を揃えて、500万~600万くらいあれば始められるでしょ。

犬クン へえ、結構投資してるんだなあ。

豚クン 飲食店とかを始めることを思えばリスクは低いよ。ただ、24時間いつでも対応する仕事だから、お酒を飲む人は無理だよね。

犬クン たしかに、丸一日ちゃんと休める日は少ないね。依頼があればいつでも出かけられるように準備してて、一日が終わってみたら「あれ、今日は休みだったな」って感じだもんね。

豚クン たしかに。この仕事を始めてから、ちゃんと休めるのは1年に2~3日。あと車検の日くらいだもんなあ。

次のページ は、「悪徳業者が摘発されたりしてますが……」
悪徳業者が摘発されたりしてますが……
犬クン ああ、高額請求とか山林に放置したりしたやつね。ああいうのって、僕らにしてみると意味わかんないんだよな。この仕事はクチコミで依頼してくる人が多いから、不誠実な仕事をするのは自分の首を絞めることになるからね。一回の仕事で少々高額請求したところで、そんなに儲かるわけないもの。

豚クン 新規参入が簡単だから、それなりに競争はあるけどね。前はパンフレットを作ったりもしたけど、結局、インターネットと電話帳の広告だけにした。一番強いのはクチコミだし、何度も依頼してくれるリピーターさんが増えてこそ仕事が安定するからね。

Charger リピーターさんがいるんですか?

豚クン 10回以上利用してくれた人もいる。年に、4~5回って感じかな。

Charger それは、ペット販売業者とかの殺処分で?

豚クン 違う違う。うちは業者の仕事は引き受けてない。ペットショップや動物病院と連係するとキックバックを要求されて、料金を高くしなきゃいけなくなっちゃうからね。

犬クン 何度も利用してくれる人は、猫をたくさん飼ってる人が多いな。猫は多産で年に何度も4~5匹子どもを産むからね。なかには小さいまま死んじゃうコもいたりして。

豚クン 動物病院でペットが死ぬと、火葬業者の連絡先入りの箱に入れて帰ってきたりするんだけどさ。そういうのは病院へのキックバック料金が上乗せされてるってこと。箱も火葬業者が作って持ち込んだりするんだけど、それだってお金はかかるからね。うちの場合は、余計なお金はかけないで、できるだけ低料金でシンプルな火葬サービスを提供するようにしてるんだよ。

犬クン さっき、霊園までもってる業者の話もしたけどさ、大規模な施設があると、その維持管理にもお金がかかってるってことだもんな。かっこよく言うと、うちの場合は、自分のペットをきちんと火葬して見送ってあげたいっていう気持ちをもった飼い主さんに、僕らが考える最善のサービスをやってるってことだね。

豚クン ペット火葬業者が一気に増えてきたのはここ数年の出来事だからね。うちなんかはかなり競争が激しくなってから始めたからできるだけ安い料金設定で頑張ってる。10年近く前からやってる業者もあるけど、歴史のある業者ほど料金が高い傾向はあるな。

次のページ は、「2人とも動物が好きなんですね?」
2人とも動物が好きなんですね?
豚クン そもそも、この仕事を始めようと思ったきっかけが、自分でペット火葬を利用をしたことだったしね。

犬クン 毎日毎日、ペットが死んで悲しんでいる人と接する仕事だから、いやでもペットの命についてはいろいろ考えちゃうよ。世の中には無責任な飼い主も多いでしょ。流行に乗って迂闊に飼い始めてすぐに捨てちゃうから、最近、代々木公園の野良猫がブランド化してるらしいよね。そういう話を聞くと悲しくなるよ。

豚クン そういえば、この前、まだ生きてる犬を処分して火葬してくれって依頼があったよ。もちろん諭して断った。まったく、困ったもんだよな。

犬クン 死んだペットを役所に引き取ってもらうと、結局「モノ」として処分されることになるでしょ。それを、わざわざお金払って火葬してもらえるペットは幸せ者だよ。夜中に呼び出されたりすると大変だけど、できるだけのことはしてあげたいと思うよね。

豚クン その通りだね。脱サラまでして始めた仕事だから、それなりには儲からなきゃ困るんだけどさ。人や車を増やして事業を拡大しようとか、がっぽり儲けてやろうとは思ってない。この仕事ってさ、モノを売っていくらってことじゃないでしょ。人の悲しみに関わってお金をいただいて、帰り際には「ありがとう」とまで言ってもらえる仕事なんだよ。自分にできることを、できるだけちゃんとやってあげたいって思うのは、人間として当たり前のことだよな。

犬クン 売りやすいからって流行の犬種を無理に殖やしたり、展示販売して大きくなったらディスカウントしちゃうような売り方してるショップの存在が問題だよな。業界にモラルがないから不届きな飼い主も増えていくんじゃないの。

豚クン ペット業界はモラルよりワンランク上の「良識」をもって変えて行かなきゃダメなんだよ。……あ、仕事用のケータイに電話だ。話、そろそろ終わりでいいですかね……。

●2010年10月某日 東京都内某所にて



編集/チャージャー編集部
取材・文・撮影/寄本好則

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