つづき
■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
OECDの統計集のなかに「無気力な若者」という項目があります。その定義は、「15~19歳までの若者全体数に対する、学校に通わず、職業訓練も受けず、就職もしていない同年代の若者の比率」です。一方、内閣府の調査の「ひきこもり」は、「家や自室に閉じこもって外に出ない若者」ですから、「無気力な若者」≒「ひきこもり」とみてよいでしょう。
ただ、内閣府の調査が対象としている「若者」は15~39歳なので、OECDの統計よりもずいぶん若者の範囲が広くなっています。
一般的に「職にも就かず、教育も受けていない若者の比率は、後に「社会的に締め出された人」すなわち低所得もしくは貧困レベルの水準であり、経済状態を改善する技術能力が欠如した人になる予備軍の指標」と言われます。
それゆえに社会的な注目度も高いのですが、OECDの統計によると、2006年における日本の「無気力な
若者」比率は、男性が7.5%(OECD平均6.7%)、女性が10.5%(同6.7%)でした。
女性は、ニュージーランド、イタリア、スペインについで4番目の高さですが、男性は9番目になっております。内閣府の調査によると、「ひきこもり」の66%が男性、年齢別では30歳代が46%ということですが、15~19歳において日本が際立っているのは、むしろ男女間格差で、女性の比率の大きさです。
繰り返しになりますが、OECD加盟国の「無気力な若者」比率は、男女とも6.7%で同じですが、日本は男性7.5%、女性10.5%とその差は3%ポイントもあります。
ちなみに、ニートという言葉の発祥地であるイギリスの「無気力な若者」比率は、男性が11.5%、女性が10.3%でした。
さて、日本の「無気力な若者」比率は国際比較の面からも好ましい状態ではないことが確かですが、それでもまだ突出して悪いということはありません。
一方、財政に目を向けると、政府債務残高対GDP比率は、OECD加盟国のなかでも一番高く、物価上昇率は、一番低いという極端な国になっています。
日本の場合、失業率そのものは極端に高いわけではないので、ある意味では雇用を維持することの犠牲として、デフレになって財政赤字が膨らんでいるという解釈も可能でしょう。
先日、バーナンキFRB議長が、アメリカは日本のようなデフレに陥る危険性は低いという話をしました。
そのなかで、アメリカと日本の違いとして、次の三つを日本の問題としてあげていました。
(1)生産性の低下、
(2)労働人口の減少、
(3)銀行の問題です。
彼がデフレの要因として、一番先にあげていたのは生産性の低さでした。
日本は雇用を必要以上に守っている結果、生産性の伸びが鈍っており、それが回りまわってデフレの一因になっているということも言えるでしょう。
だから、企業がもっと人を切れば良いのだということを言いたいのではありません。
「カネ」がないなら、もう少し知恵を絞って生産性を上げる努力をしてみようということです。
もっとも、日本が生産性向上に向けて何もしてこなかったわけではありません。
安倍内閣の時には、「成長力加速プログラム~生産性五割増をめざして~」が作成されました。
当時の経済財政担当大臣であった大田弘子さんは新著の『改革逆走』(日本経済新聞社)のなかで、「日本経済の最大の問題は生産性の低さである」とした上で、特に非製造業の生産性の低さを問題視しておられました。
非製造業の生産性は1970年頃から全く伸びず、米国の6割程度の水準です。
では、どうすれば良いのか。
同書のなかでも様々な処方箋が検討されていますが、大田さんにとって思い入れがあるのは地域経済の活性化(いわゆる「街づくり」)であったようです。
同書のなかでも土地の所有権と利用権を分離して活性化に成功した事例として高松市の丸亀町商店街や、「コンパクト・シティ」化の代表例とされる青森市の取り組みが紹介されておりました。
中小企業庁も「がんばる商店街77選」を立ち上げて、成功事例の紹介に努めています。
私も大田さんの著書に触発されて『よみがえる商店街』(三橋重昭、学芸出版社)、『シャッター通り再生計画』(足立基浩、ミネルヴァ書房)、『ケーススタディ この商店街に学べ』(坂本光司編、同友館)といろいろ読んでみました。こうしたなかで、一番面白かったのは『地域再生の罠』(久繁哲之介、ちくま新書)でした。
要するに、「街づくり」の成功事例と紹介されているものには、本当は成功していないものも多いという話だったからです。
何が駄目なのか。結局、それを「市民」というのか「生活者」と呼ぶのか、何でも良いのですが、当事者を巻き込んでいない運動は、上辺で終わってしまうということでしょう。
もうひとつ、問題の本質を掘り下げて考え抜いていないことも大きいでしょう。
したがって、政策が全く効果的ではない。当事者の参加がなく、役所が義務感から、本質を掘り下げずに、成功事例だけを参考にし、その地域の実情に合わない政策を立案しては失敗する。
しわ寄せが企業に向かい、生産性を犠牲にしながら、雇用を続ける。
しかし、労働人口の減少や、グローバル化に伴う資本コストの上昇という困難な状況のもとデフレから抜け出せず、その結果として財政赤字も累増し、手も足も出なくなる。
「街づくり」は、一つの側面でしかないと思いますが、そういう細かなところで、本質を外した政策が毎日のように繰り返され、その合計が、何かをやっている割には成果が出ないという日本人の停滞感、焦燥感をもたらしているのかもしれません。
起死回生の一発逆転など、ある筈もなく、持ち場、持ち場で、本質に突き刺さるような議論をしていくしかないように思います。
これは本当の各論ですが、久繁さんの「地域再生の罠」のような議論は有意義だと思いました。
地域再生という同じ目的を共有するものが、お互いに罵りあうのではなく、議論を通じて、目標の実現に近づいていけば良いと思います。
その結果として、地域経済が活性化されるなら、これも雇用維持の一助にはなるでしょう。
JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
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『改革逆走』大田弘子・著/日本経済新聞社・刊
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532354196/jmm05-22 )
『地域再生の罠』久繁哲之介著/ちくま新書
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480065628/jmm05-22 )
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■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長
雇用創出能力を引き上げることをまず考えてみることにします。
普通雇用対策というときには、1)予算の配分変更などによって(増えなくても、財源を重点的にあてる)、いわゆる重点分野の雇用創出能力を高めることといった雇用の供給サイドのてこ入れと、2)失業中の失業保険の配分やその間の能力開発助成金や能力開発プログラムの提供など雇用の需要サイドのてこ入れを実施することが必要になるのではないでしょうか。
1)から見て行きます。重点分野とは、医療や介護、それに環境、観光といった菅政権が重視しているところですし、他には、地方の行政機関が提案しているアグリビジネスや地域社会雇用なども労働者を必要とする分野と言えます。こうした産業に重点的に財源をあてていけば、雇用にも効果がある可能性は確かに高いはずです。ただし、雇用対策として有効にするためには、雇用者の給与所得の引き上げにつなげることが重要です。
低賃金、長い労働時間などどう考えても就職する側にはきつい労働条件しか伝えられず、その分野に入っていくことに躊躇してしまうのが現状だからです。
2)についてですが、失業保険の支払いについては難しい問題です。支払い額を増やせばいいというものではないからです。
あまり支払額を増やした場合、下手に働き口を探すより効果的とばかりに就職を諦める人が増える可能性もあります。
しかし、就職先を失って生きていく術がなくなった場合には、国や地方自治体はその支援をする必要はあるでしょう。
たとえば、地方で、農業人口が足りず必要ということであれば、当該地域のアグリビジネスの人員を募り、農業機械の貸出、農業の技術や知識の伝授などの仕組みを作ることも効果があるのではないかと思います。
こうした政策は、しかしながら効果が現れるのに長い時間がかかるため、簡単には需給のミスマッチが解決するわけではありません。ただし、医療や介護を必要とする人口は増えることが必至ですし、重点分野は確かに雇用創出につながる分野であると思われます。そのため、中長期的には、1)と2)をきちんと実践することで、雇用
対策への道筋となると考えていいのではないでしょうか。
一方、“引きこもり”70万人に対する対策として雇用対策を考えたとき、必ずしも有効か自信が持てません。
一面的な観察であることを承知で言うのですが、結局引きこもりというのは、国の成長・成熟における光と影、いわゆる影の部分に当たる気がします。
国が著しく発展しているときは、様々なところにニーズがあったし、仮に自分にとって満足いく仕事でないにせよ、生きていくためにはやらざるを得ないという面もあったと思います。
ところが国が成長、成熟して来ると、ニートが生まれ、働かなくても誰かにパラサイトできることもあり、自分にとって満足いく仕事でなければ、しなくて済む現実があります。
仕事さえあれば、何でもよいから仕事がしたい、というニーズには国として対応可能ですが、自分が満足する仕事でなければしなくていい、と言われるとこれには誰も対応できないということになります。
長い間かけて形成する人の価値観を覆すことは出来ないし、それでも生きていける人が多いという結果、70万人もの引きこもりがいるわけですから。
労働力を引き出さなければいけない対象は、引きこもりだけではありません。
女性の労働力の活用も同じです。
子育てのために仕事から離れると、たとえば10年も経てば戻ってくる職場は、アルバイトのようなものしかない、のが現実です。
労働力が必要な業界があるのなら、その業界の労働条件の改善が何より重要だと思います。
割りの悪い職業というイメージが出来てしまえば、その業界は他に就職先がなかったから仕方なく選択する、といったことになりかねません。
やる気の無い労働力をどれだけ吸収しても、定着率が低くなるだけで、それ自体が更に同業界のイメージを悪化させるだけになってしまいます。
引きこもりの人を外に引っ張り出せない結果が、陰惨な事件を引き起こすことに繋がり易いと仮定すれば、引きこもりといった現象を減らすことは、明るい社会のためにも重要です。
しかし、考えてみると、そういう選択が出来るということは、生きることそのものに必死で、生き方を問うている場合ではない国々の人から見れば、考えられない程贅沢なもの、でもあります。
仕事の選択でも、「働かざるもの食うべからず」という美徳はいつしか古くなり、「好きなことを仕事に」といった自由な選択が主流になってきたように思えます。
そう考えると、社会の影の部分は、社会に光の部分がある以上、実は受け入れるしかない現実である気がします。
いずれにしろ、雇用政策は長期的なプログラムであり、短期間で引きこもりを解決できるものではありません。しかし、国としてできること、としては、雇用創出とその雇用に対するイメージの改善が何より重要だと思います。大事なことは、重点分野の給与水準を高める工夫をすることです。
クリエイティブなアグリビジネスや、個人の技量が問われる介護ビジネスに、給与水準でも上が目指せる機会を与えれば、チャレンジしようという若者も出てくると考えられるのではないでしょうか。
そうした地道な努力を続けてこそ、雇用の道が安定し、回りまわって引きこもりを減らしてくれるかも知れません。
BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈
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■ 土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部教授
「引きこもり」のケアを雇用政策でどこまでできるかは微妙なところですが、少なくともわが国の雇用環境の不安定さ、歪みを是正することは、喫緊の課題であることは間違いありません。
雇用政策は、財政支出を伴わずにできることはまだまだたくさんあります。
財政支出を投じなくてもできることを、もっと積極的に実施すべきだと考えます。
例えば、正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差の是正です。
通常、この問題は、非正規雇用者の待遇改善という話だけで片付けられてしまいます。
しかし、正規雇用者の現状の雇用環境を維持したまま、非正規雇用者の待遇改善を行うほど、今の日本経
済が頑健ではないことは確かです。
もし正規雇用者の現状の雇用環境を維持したまま、非正規雇用者の待遇改善を行おう(特に法的措置を伴い強制的に行おう)とすれば、国際競争が厳しい折、日本企業は国内での営業が持続できなくなる可能性があり、日
本企業ですら海外に営業拠点を移してしまいかねず、逆に日本での雇用機会が失われて、非正規雇用者の待遇改善が結果として実現できないという元も子もない状態に陥ってしまう恐れがあります。
正規雇用者の現状の雇用環境を維持したまま、非正規雇用者の待遇改善を行うほどの余力が(将来はできるとしても)現状の日本経済ではないとすれば、正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差の是正をどうすればよいでしょうか。
それは、(若干逆説的ですが)正規雇用者の処遇を少し悪くするとともに正規雇用者の待遇を少し良くする形で、漸進的に待遇格差を是正する方策しか採れないと考えます。
単純化した言い方で言えば、正規雇用者全体の労働時間を減らし、非正規雇用者全体の労働時間を増や
すという方策ともいえるでしょう。
もちろん、正規雇用者全体の(社会保険料の雇用主負担も含めた税込み)賃金を下げて、非正規雇用者の賃金を上げるという方策もありえますが、全体として人件費を劇的に増やせない(プラスサムにならない)状況では、正規雇用者の賃金を容易に下げられないならば、賃金よりも(現状で存在する)雇用機会や労働時間で調整する方が、まだ容易であるといえます。
既に提示されているアイディアではありますが、こうした方向に向けた穏健な方策としては、ワークシェアリングがあります。もっと本質的なところまで突っ込んだ方策は、正規雇用者が既得権として持つ解雇権濫用法理の効力を弱めて、正規雇用者の解雇を現状より容認するとともに、非正規雇用者を雇いやすくする、という方策で
しょう。
正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差の是正は、短期的には(極言すれば)ゼロサムの中で対応できる方策を講じるしかないでしょう。そうすることで、雇用環境を安定化させながら、日本経済の回復を期すしかないでしょう。
ただ、長期的には、すなわち日本経済が順調に回復した暁には、プラスサムになりますから、その中で人件費
を増やせる余地を、より多く非正規雇用者の待遇改善(これには非正規雇用者の正規雇用化も含む)に振り向けて、全体として雇用環境の安定化を図ってゆくとよいでしょう。このように、短期と長期の2段構えで雇用政策を講じることが必要と考えます。
慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
( http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ )
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■ 津田栄 :経済評論家
引きこもりが70万人いて、さらに引きこもりの傾向がある若者が155万人いるという結果には驚きですが、これはあくまで推計ですから、本当の実態は不明でしょう。
もちろん、これまで引きこもりがなかったかというと、そうではなく最近多くなって表面化してきており、また日本だけの固有の問題ではなく、どこの国にも起きている問題といえましょう。
とはいっても、日本では、問題が大きくなってきていますから、最悪を考えて、解決を図ることは必要です。
では、引きこもりの問題は、どこに原因があるかといえば、景気にもあるでしょうが、教育にもその一因があると考えています。
先日大学の先生や企業家と話をしましたが、若い人たちのコミュニケーション不足を指摘していました。また教育の現場においても、子どもの掃除や草むしりなどで怪我するといけないということから、親や教師がするという過保護ぶりが進んでいるという話を聞きました。
これでは、若者が、コミュニケーションを取ることを避け、何かに苦労したり、考えたり、あるいは仲間と一緒に何かを仕上げようとするなどの経験が少なく、ちょっとしたきっかけで挫折すれば、社会から拒否されたとか、社会と関わりたくないと考えて、引きこもりに入るのではないかと想像されます。
そういう点で、教育において、コミュニケーションや苦労、仲間との共同作業などを体験するなどの抜本的な改革が必要なのではないでしょうか。
とはいっても、引きこもりの起きる要因の一つに雇用の不安定があることは確かでしょう。
それは、景気が力強い回復をしていないことによるものですが、バブル崩壊以降、企業は、経営を苦しめてきた三つの過剰のうちの雇用については、基本的に慎重な姿勢を崩していません。
以前から書いていますが、冷戦終結以降経済のグローバル化、IT技術の進展などで、世界の経済構造は大きく変化し、基準が日米欧の先進国から新興国へと移ってきています。
それは、雇用においても言えます。
しかし、日本はそうした変化に対応できず、これまでの機能不全の経済構造から脱していません。
すなわち、日本は、依然として欧米向け中心の(高付加価値・高価格の)モノづくりの経済構造を続けています。
しかし、リーマンショックを契機に経済危機に見舞われた欧米では、膨張してきた経済が一気にしぼみ、これまで先進国の基準でしてきたことが新興国の基準で行わなければならず、その結果として、モノの値段が大きく低
下して、雇用が維持できなくなり、所得が減少して、消費が伸び悩み、今や日本と同じような経済的な苦境に陥りつつあります。
そうした世界的な変化のなかにあっても、構造改革してこなかった日本は、実質GDPでプラスになって回復しているかのように見えていて、実は家電エコポイントやエコカー補助金などの財政支援に加えて、デフレが一向に収まらないため、過去の好調な水準には戻れず、そのギャップが雇用の低迷に集約されているといえましょう。
これまで、政府は、経済危機における雇用の悪化に対して、雇用調整金の支給や行政での臨時雇用など、一時的な雇用対策を行ってきましたが、景気が予想したように実質的には回復しておらず、一過性の効果しか出していません。
今後経済の根本的な問題を解決しない限り、こうしたことを続けるのは難しく、いずれ財政的な支援がなくなると、雇用は一段と悪化することも予想されます。
そうであれば、やはり雇用を生み出していけるように、長期的な視点から、問題の根本である日本の経済構造を、世界に合わせたものにしていくことが必要でしょう。
それは、規制による非効率な経済構造を変えることです。
そのために、大幅な規制の廃止・緩和による競争を生み出し、競争力を強化していくことです。
こうしたことは、公共事業や減税や補助金のような大幅な支出を伴いません。
たとえば、先日大規模農業を営んでいる農業生産法人代表や大学の農学関係の教授から、農業がなぜ儲からないのか、そのために若い人たちの就農がいかに難しいのかを伺いました。
農協を中心に競争が働かないために生産現場に価格決定ができない仕組みができ上っていて、輸送や販売などにより中間マージンを大幅に抜かれて利益が出ないことや、海外への輸出が規制で足かせになってほぼ不可能になっていることなど、自由な取引を制限する構造が、儲からない農業を定着させ、就農を難しくしているとのことです。
それでも右肩上がりの経済であれば、うまく回っているように見え、本質的な問題が表面化していなかったのですが、今や成長が伸びない中で、そうした問題が見えてきたからには、構造の効率化を図るしか道はないといえます。
そのために、規制の廃止・緩和と競争が必要といえます。
こうしたことは、他の産業にも当てはまり、だからと言って、企業が悪いとして雇用拡大を強制しても何も解決しませんし、財政の支援による補助金を支給しても一時しのぎにすぎません。
問題の本質は、そうした非効率な経済構造が高水準の価格を形成し、賃金も高止まりさせていることにあるのであって、結果として、海外、特に新興国を基準とした価格により競争で勝てず、賃金においても差がありすぎるために雇用の移転が起き、非正規雇用の拡大などによる雇用の不安定を生み出しているといえます。
そうした点を踏まえて、やはり規制による非効率を排除して、物価水準を低下させ、一方で賃金の低下を招きながらも実質的に生活の向上を図れるように経済構造を変えれば、企業は収益を確保でき、設備投資を行い、そして雇用を増やす動きになるのではないでしょうか。
もちろん、今後の新規雇用について、6月に発表した新成長戦略に挙げられた医療・介護などの福祉関連や観光関連についても、大胆な規制の廃止や緩和が伴わなければ、大幅な新規雇用を実現することは難しいといえましょう。
そこには何らかの財政の支出が伴うことも必要でしょうが、新規雇用を行うのは、企業であって政府ではありません。
ただ、こうした分野にあまり期待しても、思ったような経済効果を生み出さず、成長産業にならないと見られています。
やはり、最後はモノ、サービスなどの輸出で海外から稼ぐことが求められます。
そういった面でも、規制の廃止・緩和による構造改革で新たな輸出成長産業の再構築が必要なのではないでしょうか。
そして、それを後押しするために、一部財政の支出を必要とするならば、法人税の大幅減税ということになります。
それを強化して雇用を増やすには、一部他国が行っているように減税率を雇用の増加率に連動させるなど考えてみてもいいのではないでしょうか。
最後に、引きこもりは、経済成長の遺産ともいえます。
というのも、経済成長しているときは、まず食べていくために、その後は自分の夢や欲しいもののためにいやな仕事についてでも働いてきましたが、経済成長の結果として大幅な貯蓄ができ、一応食べることに不安がなくなり、夢や欲しいものを手にしてしまうと、働かないでも親
のすねをかじりながら生活できる引きこもりが可能になったからです。
その意味で、貯蓄を食いつぶして、もはや親のすねもかじれず、働かなければ生きていけない状況になれば、引きこもりも自然に減少してくるかもしれません。
その点で、皮肉ですが、このまま経済が低迷していけば、経済成長の遺産としての引きこもりは消えていく存
在かもしれません。
経済評論家:津田栄
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