「世界一のダム」は世界一の人災洪水を引き起こした。 | 日本のお姉さん

「世界一のダム」は世界一の人災洪水を引き起こした。

 「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成22年(2010)7月21日(水曜日)
       通巻3025号 

 毎秒7万トンの放水、下流地域は洪水のうえに人災洪水の懼れ
  長江上流は地震、土砂崩れ、下流は洪水、土砂堆積の悪夢=三峡ダム
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 重慶では市内二十万の市民に避難勧告がでた。
 すでに一万六千人が家を失ったという報道もある。広安市の被害がもっとも甚大だと伝わっている。
 重慶特別市のなかには三峡ダム流域から立ち退きを命じられた、およそ三十万の人々が住んでいる地域がある。

 三峡ダムより遙か上流だが、水かさが急上昇し、重慶でさえ河川が氾濫の懼れが広がる。
とくに上流地域は二週間にわたる豪雨に襲われ、三峡ダムへ流れ込んだ水量は毎秒6-7万トン、ついに7月20日午前八時、ダムからの放水は毎秒7万トンに達した。
 (通常の大雨でもこれまでは一万五千トン前後の放水しかなかった)。

「1998年の洪水被害は4150名が犠牲になったが、放水は毎秒2万トンだった。今回の放水前に下流域住民に退去命令、殆どの家屋は土砂に埋まった」(ヘラルドトリビューン、7月21日)。

 三峡ダムが完成してから11年。毎秒7万トンもの放水は初めての記録である。
7月の豪雨は過去最大とされた1954年、1998年の洪水被害よりも大きく、洪水被害は1926万人、緊急避難は59万人(数字はいずれも新華社の{公式数字})。
 一方、三峡ダムの横幅は2・3キロ、発電は通年で796億キロワット・アワー。
 
 こうなるとまだまだ下流に洪水が押し寄せる。
 「世界一のダム」は世界一の人災洪水を引き起こした。
    ○ ◎ ○
   ♪
(読者の声1)出典をうろ覚えのまま、バジョット氏が王制廃止論者と書き、ご指摘を受け深く反省いたしております。以前The Economist紙で読んだものとおもいますが、今更その記事を探し当て
ることはほぼ不可能なので、氏の著書である「イギリス憲政論」(TheEnglish
Consititution)を小松春雄氏訳で読み始めました。
氏を王制廃止論者と書いた者もなんらかの根拠があって書いたはずなので、氏の憲政論あるいは英国国体論に関する主著を読めば、氏が王制廃止論者であったかどうか、判断できるであろうと考えたからです。
第一章から第四章まで読み進みました。第二章が「君主」第三章が「君主つづき」と題されているので当初の目的に関する部分は読んだとおもいます。筑波大学の古田博司先生が言われた英国の著述家の特色である事実を切れ目なく淡々と書き連ねていく文体です。
しかしその中にさりげなく、自身の考えがを英国流の控えめな婉曲表現(Britishi
understatement)で織り込まれています。
そういう観点から読むとバジョット氏のこの問題に関する意見は明確です。氏は、王制廃止論者です。
「立憲君主の多くはゆっくりと墓場へ足を運ぶ地味な凡人」といった諧謔に満ちた表現のことを言っているのではありません。第一に「歴史を見ると、イギリスにおいて立憲君主の義務が立派に果されたのは、現女王の治世だけであることがわかるであろう」と書いてあります。
その前に、こういう場合は君主が役立つ、こういう場合は役立たないと書き連ねたあと、実際に役に立ったのは現君主のヴィクトリア女王だけだと書いているのです。
現女王が役にたっていないと書くということは、社会的に供されがたいことです。したがって、現女王以外は役に立ってこなかったと書くということは、実際には全ての英国の立憲君主は役立ってこなかったと書いていることと同等です。
これが英国の著述家の筆法です。
また、英国以外の立憲君主はみな一代で終っているとも書いています。このことと、英国における君主の役割について各場合、しばしは今の英国の民主政のレベルではという枕詞を置いていることを考え合わせれば、英国の民主制のレベルが変われば英国に君主は必要でなくなるということになります。
これは英国的婉曲表現で、英国の憲政には君主が必要でないといっているように思えます。
バジョット氏と同時代の英国の政治家にディズレリーがいます。ディズレリーは13歳でキリスト教に改宗いたしましたが、元はユダヤ教徒です。当時の政界で、ディズレリーが英国での出世のために英国国教徒になったのであって、実際の信仰ではユダヤ教徒のままであったことを疑うものはおそらくいなかったことでしょう。
しかしたとえ形式的にでも英国国教徒になれば首相になること許容する状況にありました。ロイド・ジョージのころは、公にカトリックであることが知られていても首相になることができました。ジョージ三世の頃は、たとえ英国国教に改宗してもユダヤ人が英国で首相になることは問題外であったことでしょう。
王制廃止論でも、20世紀後半にはトニー・ベン氏のように公言しても有力な下院議員となることができました。ジョージ三世のころなら問題外であったことでしょう。バジョット氏の頃は、諧謔と婉曲に満ちた英国流の表現をすれば、許容された時代だったのではないのでしょうか。
日本における英国研究にはこういった観点が欠けているように思えます。いまだにpicturesqueとは多彩な絵画的な情景を指すと英語教育で教えているのが日本の英国理解の現状ではないのでしょうか。
      (ST生、千葉)

(宮崎正弘のコメント)いろいろと勉強になります。この方面の専門は渡部昇一先生、中西輝政先生ですかね。

  ♪
(読者の声2)前号貴誌にえっと驚く中国軍人の新大将十一名がはやくもリストアップされており、ほかの日本のどの新聞も報道していないので貴重なニュース源と思いました。今後も、こうした中国の背後にうごめく軍事的な動きも追って欲しいです。
   (IY生、福島)


(宮崎正弘のコメント)追加の情報ですが、江沢民派の軍人で重鎮の賈円安(総政治部副主任。中将)が大将入りから漏れていることが確認されました。

       ○◎○◎○
樋泉克夫のコラム
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  ――へーえ、そうだったんですか・・・
    『マローン 日本と中国』(H・マローン 雄松堂出版 2002年)


巻末の「訳者あとがき」に「原著者のヘルマン・マローン博士についてわかっていることは、プロイセンの農務省派遣の役人であるということだけである」と書かれているところからしても、ヘルマン・マローン(Herman Maron)の人となり
は全く不明ということだ。
とはいうものの、本書を読み進んでいくと彼の人物像は朧気ながら浮かんでくる。

彼は農政学者で、オイレンブルク伯率いるプロイセン東アジア遠征艦隊に属する帆走フリゲート艦のテーティス号に乗り込み、日本の農産品市場の調査に当たった。

江戸湾到着は万延元年七月二十九日(1860年9月14日)で、5か月ほどを日本で過ごし、横浜と長崎に寄港の後に清国へ。

天津、北京、廈門、台湾、香港、広州などに寄り、シャムに向かっている。折から清国は、彼が「中国の革命」と綴る太平天国の乱に大混乱をきたしていたことから、叛徒(太平天国軍)や官軍(清国政府軍)の兵士にも遭遇し、敗者の全てを奪い去ってしまうような勝者のなす略奪の凄まじさに驚き、彼の考える戦争と中国でのそれとの違いに愕然とする。

とはいうものの農政学者らしく、桑畑や機織り機、糸車などについて報告し、民族性についての考察を加えている。
さてそこで中国の人と社会に対する彼の眼差しだが、思いつくままに拾ってみると、

■中国の小さな手工業者と小売店は、日本のそれとはたいへんな違いがある。日本では、ほとんどどの店にも、例えばごく小さい、最低の店でも、ヨーロッパ人の目から見ると、心を引く芸術的価値のあふれていると思われるものか、実用性の見込める小物がみつかるかするものだが、それにひきかえ中国では、ひどく汚い穴蔵のような店のなかに、粗大品がうず高く積まれているのだ。

■中国の中小の町に、見物すべきものが驚くほど少ない。町の生活はきわめて低級な必需品を商うきたない店と職人の仕事場でいっぱいである。町の大部分は食物の屋台である、それがあちこちに大食漢の市場にまで発展しているのだ。中国人は、世界一の大食漢であり、なかでも金持ちは食道楽である。

■できるだけ太ることが、清国のだて男の最初の努力なのだ。清国ほど肥えた人間を大勢見かけるところはない。
しかし、それはたるんだ、むくんだ肉体ではない。なぜなら、中国人は同時に、必要とあらば強靭で粘り強いし、なによりも生殖力が旺盛なのだ。どこにも、子供がたくさんいるのには、びっくりする

■中国人は定住すると、すぐに中国社会を自分の周囲につくる。マレーシア諸国の真っただ中にいるのに、中国のど真ん中に居るのでは、とわれわれに思わせる村や町が目撃される。中国人はおそろしいほどの生殖能力があり、外国で土着人と混血する、それでもその若い世代は徹底して中国人なのである。このことは、私見によれば、間違いなく精力的で恒常的になっている人種的特徴を示している。

■中国の文化と権力の高慢は、しかし中国内の教養人と権力者の一人一人にあるのではない。それは、全国民にわたって卑しい人足にいたるまで、明白に現れている。この高慢ちきは国家的な信条である。この事実無視あるいは事実軽視には、ほどこすすべがない。
「高慢ちきは国家的な信条」・・・昔も「ほどこすすべがな」かったわけですか。
《QED》

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