■遭難が多発するのは夏山シーズン | 日本のお姉さん

■遭難が多発するのは夏山シーズン

<北海道・大雪山系遭難>「ガイド間に信頼なし」 生還ガイドが山岳誌に証言

7月21日7時44分配信 毎日新聞

 ツアー登山客ら8人が死亡した昨年7月の北海道大雪山系トムラウシ山遭難事故で、生還した男性ガイド(39)のインタビューが、雑誌「山と渓谷」の8月号(今月15日発売)に掲載された。ガイドがメディアの取材に応じたのは初めて。強い風雨の中でのツアー続行を「見切り発車だった」と振り返り、同行したガイド3人について「その場限りのチームで、信頼関係はなかった」と証言した。

 男性は死亡したリーダー(当時61歳)を補佐する役割で、動けるツアー客を連れて下山途中、自らも低体温症になって遭難した。

 男性は、リーダーにトムラウシ登山の経験がなかったことを集合後に初めて知ったといい「帰りたくなるくらいイヤだった」と人選を批判。遭難当日の出発の判断は「(残りのガイド2人が)決断した以上、サポートに徹するしかない」と決定権がなかった立場を強調した。

 遭難原因は「小屋を出発したのがすべて」とし、「今までも『マズイでしょう』と思うことが多々あった。今度もなんとかなると思っていた部分がある」と業界全体の危機管理の甘さを指摘した。

 証言について、生還したツアー客の戸田新介さん(66)は毎日新聞の取材に「アルバイトみたいな感覚でガイドに来たのは問題だが、他のガイドに従う立場だったのはその通りで、正直に話していると思う。最大の問題は山を熟知せず、意思疎通が図れないガイドチームを送り込んでくる旅行会社のやり方で、それがより鮮明になった」と話した。

 発行元の山と渓谷社は、インタビューの詳報に、ツアー客の証言や専門家の見解も加えた単行本「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか 低体温症と事故の教訓」を21日発売する。1680円。問い合わせは同社(03・5275・9064)。【今井美津子、田中裕之】
「もう動けない」 スニーカーで富士山に挑んだ男性の呆れた“衝動”
7月18日14時15分配信 産経新聞

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富士山の夏山開きを山頂で迎えようと山頂を目指す登山者ら(川口良介撮影)(写真:産経新聞)

 【衝撃事件の核心】

 山開き直後の富士山に男性がスニーカー、Tシャツといった普段着で挑み、頂上近くの厳しい寒さの中で体力を奪われて救助される騒動があった。対応に追われた消防、警察は「軽装すぎる」「一歩間違えれば死んでいた」と怒りが収まらず、登山のプロであるアルピニストの野口健さん(36)も「完全にアウトなパターン」とあきれ顔だ。夏山とはいえ、高山病などの危険性はあり、登山に念入りな準備は必要不可欠。しかし現実にはこの男性以外にも、無計画な登山が相次いでいるのだ。(静岡支局 玉嵜栄次、橋本昌宗)

[フォト]遭難男性救助の経過

■「やっぱりダメ。動けない」

 「富士登山に来たが暗くて道が分からない。寒くて動けない。怖いので助けて」

 山開き翌日の今月2日午後9時45分、静岡県御殿場市消防本部に男性の声で119番通報が入った。助けを求めたのは東京都中野区のパチンコ店員の男性(22)で、富士山の8合目(標高3250メートル)付近から携帯電話で通報してきていた。

 通報は救助を担当する富士宮市消防本部に転送され、同本部は「その場所から動かないように」と指示。山岳救助隊員4人がヘッドライトがついたヘルメット、防寒具といった装備を整えて救助に向かった。

 消防から通報を受けた県警富士宮署も男性の携帯電話に連絡を入れる。男性は「もう大丈夫ですから、自力でゆっくり下りています」と一度は言う。だが直後には「やっぱりだめだ。もう動けない」。

 119番通報から約2時間後、山岳救助隊員たちは6合目(2490メートル)付近にさしかかった。周囲は霧に覆われ、暗闇が広がっていた。そのとき、ヘッドライトの光が頼りない足取りで歩く人影をとらえた。

 「○○さんですか?(男性の実名)」

 隊員が声をかけると、「そうです」という弱々しい声が返ってきた。

 男性はTシャツの上にカジュアルな長袖のカッターシャツをはおり、ジーンズにスニーカーをはいただけの普段着姿。手ぶらで、防寒具はもちろんライト類も食料、飲料水すら用意していなかった。救助隊を指揮した坂井聖副隊長は「夏山だからと軽装で登る人は多いが、軽装にも程がある」とあぜんとした。

 標高などから計算された付近の気温はわずか2度。坂井副隊長は男性に防寒ジャンパーを手渡しながら、「こんなに寒い中、軽い気持ちで富士山に入っちゃだめだ」としかりつけた。男性は疲れ切った様子でささやいた。

 「はい。すみませんでした。ごめんなさい」

■電車から見えた富士山に興奮、衝動的に

 男性にけがはなく、無事に下山した。そして、富士宮署で登山の経緯を語り始めたのだが…。

 「電車の窓から見えた富士山がきれいだったから登ろうと思った」

 男性は前日から行く先を決めずに、“ぶらり旅”をしていた。熱海で1泊して東海道線で西に向かう途中、車窓の中でそびえ立つ立つ富士山の姿に心を打たれ、富士駅で電車を飛び降りたというのだ。

 タクシーで5合目の登山口まで乗り付けたとき、時刻はすでに午後5時。男性は迷わず入山しひたすら頂上を目指した。夏山とはいえ、8合目を超えると雪がまだ残っている。氷に近い状態の雪の上を歩き、バランスを崩して転ぶこともあった。それでも男性は電車の車窓で見た富士山の頂を思い描きながら、必死に歩を進めた。

 9合5勺(3590メートル)付近に到着したとき、異変が起きる。頭痛とめまいが襲ってきた。これらは高山病の典型的な症状とされており、悪化すれば脱水症状や呼吸困難を引き起こし、意識を失う可能性もある。寒さの厳しい富士山で意識を失った場合、命を落とす危険がある。

 男性はこの段階でようやく、「気力がなくなり、下山を始めた」。119番通報して救助されたが、富士宮署員は「助かったのは非常に運が良かっただけだ。一歩間違えれば死ぬ可能性はいくらでもあった」と憤る。

 「準備を重ねて相当気をつけていても時にミスは起こるもの。この男性のケースは完全にアウトのパターンですね」

 アルピニストの野口さんもばっさり切り捨てる。野口さんによると、足首が固定される登山靴を履かなければ、デコボコした登山道で捻挫して、上り下りできない状態に陥る危険性がある。また、「夏は麓が暑いから山の寒さが頭から抜け落ちてしまいがちだ。しかし夏山は天候が変わりやすく、雨に降られると急激に気温が下がって凍死することも珍しくない」と指摘する。

 こうした無謀な登山客は後を絶たない。今月7日には米国人の男性(84)や、マレーシア人の男子大学生2人組がそれぞれ遭難して、山岳救助隊に救出されている。

 静岡県警によると、米国人男性は高齢による体力不足が原因で救助を要請。大学生2人組は防水性能のない薄手の上着にスニーカーという装備の不備が遭難の一因となった。

■遭難が多発するのは夏山シーズン

 県警のまとめでは、平成17年に11件だった富士山での遭難件数は年々増加し、昨年は過去最高の41件に上り、7人が命を落とした。

 昨冬、元F1ドライバーの片山右京さん(47)が同僚の宇佐美栄一さん=当時(43)=、堀川俊男さん=同(34)=と遭難し、宇佐美さんと堀川さんが死亡した。憔悴(しょうすい)しきった片山さんがカメラの前で「2人は寒さで体力を消耗した。(遭難は)全部自分の責任です。力不足だった」と声を詰まらせていたのは記憶に新しい。

 富士山での遭難は冬山の印象が強いが、実際は遭難事故の3分の2は7~8月にかけての夏山シーズンに発生している。遭難者のほとんどの場合、日程や道順、装備の内訳を事前に県警に報告する登山計画書を提出していない。

 県警山岳遭難救助隊の真田喜義隊長は近年の登山ブームが遭難増加の一因になっているとみる。

 「登山者ではなく、観光客が山に入るようになった。例えば『せっかく来たんだから、少し天候が悪いくらいで帰れない』といった心理が働き、遭難するケースもある」

 夏山シーズンに富士山を訪れる登山客は約30万人に上る。1日当たり平均5千人が登っている計算になるが、これに対し悪天候時に避難する山小屋は計48軒で、収容人数は計6835人だが、「7~8月の登山シーズンの大半では山小屋の収容能力を超える登山者が山へ入っている」(真田隊長)。

 山小屋の予約なしに山に入って急に豪雨に見舞われたら、避難場所の確保に苦労することになる。

 野口さんは「夏の富士山は初心者でも十分に登ることができる。だが、自分の体力や体調を見極めた上で、念入りに装備を整えて余裕のある登山計画を組むことが必要」と警鐘を鳴らしている。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100718-00000514-san-soci