日本では「殺す事が最良の方法」以外の意見が報道されないことは、極めて不自然
同じような記事を載せたから2回目の掲載になります。
2010年7月16日発行JMM [Japan Mail Media] No.592 Extra-Edition2
http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■ 医療に対する提言・レポート from MRIC
「第2の官制パニック、口蹄疫─(1)」
□ 木村盛世:厚生労働省医系技官
■ 医療に対する提言・レポート from MRIC
「第2の官制パニック、口蹄疫─(1)」
2010年3月31日に宮崎県で水牛の口蹄疫(Foot and Mouth disease 以下F
MD)が発生して以来3か月が経過した。現在では終息に向かっているものの、病気
に罹患していない種牛の保存を巡って、県と国が対立している。そこで本稿では、F
MDとはどういった疾患であり、どのように対処したらよいか論じてみたい。
【FMDの特徴】
1.蹄が2つに割れている動物に罹る、感染力(他にうつす力)が強い感染症
2.牛の成体の場合、死に至ることは殆ど無く、通常動物は2週間程度で回復する (豚は牛よりも致死率が高い)
3.罹った動物の他、carrierと呼ばれる生物や風等、不特定多数によって伝搬され るため封じ込め不可能
4.人にうつったという報告はない
5.感染した動物を食べても人には影響ない
6.治療法はない
7.ワクチンは100%の効果無し
(口蹄疫問題を考える─危機管理の立場から─vol.5より)
( http://news.livedoor.com/article/detail/4821972/ )
FMDに罹った動物は痩せて、商品価値がなくなると言われている。報道にも「蔓延すれば畜産業界に大打撃を与えかねない」とあるが、実際に殺処分がメインに行われている状況下では、生き残った牛の商品価値を論ずるに足りる証拠はない。殺処分が行われるようになったのは1940年以降であり、それまではFMDに罹患した家畜は治るまで放置されていた。
1922-24年にイギリスでの流行の際、FMDに罹った牛を介抱し、1923年のRoyal Showでその牛を優勝させた Charles Clover 氏の業績は、罹患した家畜は商品価値が無くならないことを示す、貴重な症例報告である("Old cowmen's cureserved duke's pedigree herd", The Daily Telegraph 12-3-01, p6)。
以上の事実を鑑みると、何故多量殺処分が必要なのかという疑問がわくが、日本ではこうした議論は全くと言って良いほど起こらない。
何故なのかと考えれば、
(1)FMDには殺処分、とインプットされている
(2)FMDの事をよく知らない
(3)殺処分が有効と主張する獣医師、いわゆる専門家、官僚、政治家達に対して、そうでは無いという勇気がでない
などが挙げられるだろう。
殺処分に関する議論は、2001年イギリスで大流行が起こったときから活発に行われており、mediaも多く取り上げている。
( http://www.FMD.brass.cf.ac.uk/FMDreferencesnewspapers.html )
日本では「殺す事が最良の方法」以外の意見が報道されないことは、極めて不自然だと感じざるを得ない。
殺処分は、発生のごく初期、バイオテロの可能性も鑑みて行うことは理にかなっていると思われる。しかし、ある程度以上の広がりを見せてからは、殺処分を行うことの方が損失が多くなる。
まず、大きな経済的なダメージが挙げられる。これには畜産業そのものに関わる損失だけでなく、観光や他の産業に関するものも含まれる。また、貴重な種牛などを失うことは、経済損失だけでは論じられないダメージがありだろう。
現在のFMDにおける対応を診ていると、感染拡大のための殺処分というよりは、殺処分自体が目的となっている感が否めない。これは、かつてFMDで大被害を被ったイギリスの状況と重ねることができる。もやは、殺処分の有効性の問題ではなく、流れをとめることが出来ないから殺し続けたというのが本当のところであろう。
英国国立農畜産組合(National Farmers Union)のトップだったRichard MacDonaldの、「我々はその科学とやらに行き詰まり、自分たちが信じてやっている事が正しいとする結論に至った」という言葉は、正にこの状況を的確に言い表したものである。
結果として、イギリスは、殺処分の対象を緩和することし、「明らかに健康だと思われる牛に関しては、殺すか殺さないかは農家の決断にゆだねる」との見解を出したのである。
( http://www.abc.net.au/rural/news/stories/s284276.htm )
10年ほど前、多くの犠牲を払い、損失を生んだ英国の事例でこれだけの議論がなされたのにもかかわらず、日本で何の議論も起こらないのは不思議である。「殺す事に意義がある」という流れの中で、冷静な議論などは何処かに吹き飛んでいる状況は、2009年に流行したH1N1豚インフルエンザ騒動を思い起こさせる。
日本の悲惨な状況を鑑みてのことと考えられるが、2010年6月28日、オランダ政府は、「今後FMDの流行の際、殺処分は2度と行わない」という声明を発表した。( http://www.warmwell.com/ )
FMDは自然界にごくありふれた病気で自然に回復する。感染経路も複数あり、特効薬や完全な予防法も無い以上、封じ込めは不可能であり、根絶することは不可能である。そうであれば、ウイルスとの共存をも含んだ議論を行うことが緊急に行うべきことであろう。
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JMM [Japan Mail Media] No.592 Extra-Edition2
【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
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いい国とは、
政府がわたしを圧迫していることを
ほとんど感じないで過ごせる国ではないか。
自由に食べ、自由に寝て、自由に職業を選べて
自由に人と付き合えて、自由に結婚や離婚ができて
自由にどこにでも行けるし、誰とでも遊べる国。
でも、犯罪を少なくするために、
いい国とは、政府のトップが国民の意見を
尊重してくれ、特例もワイロを使わなくても
認めてくれて「血の通った政治を行ってくれる」国のこと。
宮崎県の種牛も、
いくら他の牛を全部殺傷したからと言って、
貴重な種牛まで
殺す必要はあったのかどうか。
国民は、みんな疑問を感じているんだよ。
そこで管首相が「特例で、種牛だけ、観察期間をもうけます。
様子を見ます。」など言ってくれたら、「いい人かも!」と思うんだけど。
それで、発病したら殺せばいい。
もう、なんでもかんでも皆殺しにするのが国益なんでしょうか。
種牛は、どんなに貴重な牛なのか、トップの人はしろうとだから、分かっていないと思うよ。