頂門の一針(2010・6・22)駕籠に乗る人作る人・・・
駕籠に乗る人作る人・・・
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前田 正晶
今回のiPadの部品取引と、ユニクロが外注先をバングラデッシュに移すというのを見ていると、「駕籠に乗る人担ぐ人、そのまた草鞋を作る人」という古い諺を想起します。
同時に、「駕籠に乗る人」の後に「作る人」を入れないと説明が付かなくなったような変化が、先進工業国対LDCと新興勢力の関係に起きてきたと思います。
1995年に台湾に行った時にすでに商社の駐在員に「今や台湾に来れば何でも見られますよ。何しろ空洞化までありますから」と聞かされました。
なるほど、iPadを組み立てた鴻海精密(FOXCONN)は台湾のこの分野では世界も有名企業で、中国の深センの工場で作業していました。
2004年にソウルでトローリー・ケース(trolley case)を買った時に中国製とあったので「品質は大丈夫か」と確認すると「心配ない。こちらから技術者を派遣して指導しているから」との答えで「ギャフン」となったこともありました。世界の変化は早いのです。
我が国は1972年に田中角栄が総理になる前だったかに、アメリカに繊維交渉に行っています。思い起こせば、当時は未だアメリカにとっては我が国は現在の「デパート対ユニクロ」のような関係だったでしょう。アメリカに行ってお土産を買って「何だ、Made in Japanか」と落胆したものでした。
それが段々に“Made in China”に変わっていく間に、我が国は明らかに「乗る人」になり、中国が「草鞋作り」の担当でした。韓国も中国の一寸上を行く「地下足袋」製造担当辺りだったでしょうか。1970年に初めて韓国の地方に出張した際の写真には、電信柱もありませんでした。
駕籠乗り人のアメリカは、中国にせっせと草鞋を作らせて、同時に空洞化して工場を中国に移して草鞋作りから担ぎ手にも昇格させていきました。
だが、彼ら中国人も然る者でした。すなわち、アメリカは雑貨や玩具や食料品等を作らせて、その包装材料の段ボール類まで売りつけていたのです。
やがて中国は「函類など自分でも出来るではないか」と国産化し、そのうちに段ボール原紙も「何も輸入依存することはない」と“天然資源小国”であることを忘れて大規模に製紙産業に出ていったのです。
アメリカは慌てました。草鞋製造担当が駕籠を作り始めたかと思えば、駕籠に乗るような長者が出てきたのですから。現在世界最大級の段ボール原紙と函のメーカーの1社は中国にあり、この創業者は香港で廃品回収業を夫婦でやっていたところか出発して、今や世界的大富豪。黄金の駕籠にでも乗っているかも。
中国の製紙は世界最大の生産量で、政府は草鞋作り的な藁で紙を作っている工場を政令で潰しています。
これは環境対策でもあるそうで。
現在の中国には草鞋屋もいれば、担ぎ手もいるし、駕籠製造業も勃興しているでしょう。
乗る人たちは日本に来てブランド品を買いあされるほど裕福なのです。
これは1990年代に上海に行った際に十分に認識させられました。
韓国でも今や今年のハーヴァード新入生が200人もいたそうです。奨学金を考えなければ、年間500万円の教育費を負担できる富裕層が出てきたのは間違いないでしょう。今年は中国から300人、我が国が1人だったそうです。
どうやら我が国はこのままずっと駕籠に乗っていられると思っていると、そう遠からぬ将来に何処を見回しても草鞋屋は言うに及ばず、担ぎ手がいなくなっているのではないでしょうか。その事態に至れば、草鞋の下請けはアフリカに行ってでも求める以外の選択肢が残っていないでしょう??
私は「ユニクロのような業態で何時までも良い会社でいるのは難しい」と信じています。あの会社は儲かっているようで草鞋作りの上にいきなり駕籠に乗る人がいるのですから。中間の駕籠を作る場がないという危険を孕んでいる気がしてなりません。この件は何時か別に論じます。
電気機器や電子部品の日本だったはずが、三星とLGの後塵を拝し(一時帰国していた友人は「アメリカの何処に行っても展示されている電気器具は韓国製ばかり」と嘆いていました)Appleの製品では日本品はかすってもいない状態。これが本当に力が弱ったのか、日本企業が敬遠したのか知りませんが、「駕籠作り」もせずにエコ駕籠ばかり作っていたのではなかったでしょうか。
先日もW社の元代表と語り合ったのですが「アカデミックに見てアメリカの大学の水準がそれほど我が国よりも高いとは思わない。だが、あの宿題とレポートの多さと頻度、出席率、能動的な研究姿勢を要求されること考える時、ハーヴァードに行っても今の若者はついて行けないだろう。
だからと言って、敬遠していても良いものではあるまい」という結論でした。
我が国は「駕籠に乗り続けられる国であるためには何をすべきか」をキチンと整理しておなかないと、他国の草鞋屋や担ぎ手に追い抜かれる危険性があると思うのですが。だから「駕籠作り」という段階を設けて、後発や新興勢力を食い止めないと・・・と言いたいのです。私は「駕籠作り」は教育だと思うのですが。