私が思う自衛隊最大の問題点は、「軍として必要な武器使用権限が授与されていない」こと
『軍事情報 第436号 (最新軍事情報) 』
◇◆◇ 発行講読者数:11362名/平成22年(2010年)6月28日(月)発行 ◇◆◇
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こんにちは!!
おき軍事のエンリケ航海王子です。
今週も目を通していただきありがとうございます。
今週の最新軍事情報をお届けします。
受け取っていただいたあなたに、心より感謝しております。
自衛隊が抱えさせられている問題はさまざまあります。
憲法9条を筆頭に、たとえば
「軍紀維持のために必要不可欠な「軍法に基づく軍事裁判所」が存在しない」「同盟相手が軍事攻撃を受けても反撃できない「集団的自衛権行使の不明言」」などが良く知られます。
私が思う自衛隊最大の問題点は、「軍として必要な武器使用権限が授与されていない」ことだと思います。
いまのわが国で用兵の根拠となる「国内法」が自衛隊に授与する武器使用権限は、軍のそれでは必ずしもないのではないでしょうか。
軍の武器使用の内容は交戦規定(ROE)で決められるものです。
わが国の場合、防衛省の部隊行動基準と各根拠法の武器使用基準の二つでROEを構成しているようです。部隊行動基準はイラク派遣後の2006年に改定されたといわれ、以前よりずいぶんましになったとされます。
通常の国では用兵にあたって立法は必要なく、国家最高指揮官の命令で軍は動き、あとのことは軍に任されます。軍が用兵の際に従う法律は「いわゆる国際法」のみといえます。ですからROEのみで武器使用の話は完結するようです。
わが国の場合は用兵に国内法根拠が求められ、各国内法(海賊法とかイラク特措法、テロ特措法、PKO法といったものですね)で武器使用基準が定められます。
憲法との兼ね合いのためか、警察官職務執行法を最高限度とする内容で、軍としての武器使用とはかけ離れている感を持ちます。
個人で動く警察のメンタリティ下における武器使用と、組織で動く軍のメンタリティ下における武器使用は、字は同じですが中身はまったく異なるものです。
よく言われるのが、「正当防衛を理由にある隊員が敵に反撃した結果、部隊が全滅してしまう」事態です。これはほんのひとつの例にすぎません。
いまや自衛隊は、国内外を問わずさまざまな規模の作戦を展開するに至りました。存在するだけでよかった時代から、実運用が求められる時代に入って、はや10年以上経過しています。
しかし、部隊運用時に絶対避けることのできない武器使用権限についてはいまだ問題が残っているように見えます。
自衛隊法の改正とか、用兵基本法とでもいうべき軍としての武器使用権限を定めた恒久法が必要なんだ、という方向に動く必要がある気がします。
自主憲法制定が必要なんだという国民啓蒙は、非常に残念ですがいまだ不毛状態にあります。実現には気が遠くなるような時間が必要と思われます。それまで自衛隊に待てというのはあまりに酷な気がします。
以上思うところを述べました。
週もよろしくお願いします。
(エンリケ)
追伸
列国からは軍と見られる自衛隊の最高指揮官は首相ですが、実際は「法律」では?とすら思えるのが戦後日本という国の不可思議さです。
ここまで書いて思うのは、自衛隊の運用はその他さまざまな規制でがんじがらめになっているように見えることです。問題は武器使用のみではないということもあわせてお伝えしておきます。
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■シナの謀略に対抗するための国防倫理観涵養
「日本安全保障倫理啓発機構(JSEEO)」
詳しくは ⇒ http://www.jseeo.com/
● 最新軍事情報
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【軍事理解のための「3つの土台」】
1.せめてこれくらいは国民として把握しておきたい軍事の常識
⇒軍事は政治の延長線上にあるもので、決して特別なものではない。
だから、軍事を忌み嫌う人は、政治を正しく理解することが出来ない。
一方で、軍事を必要以上に神聖なものと捉える人も、全体を見誤まる。
2.国民の軍事理解でイチバン欠けている部分
⇒国際政治がバランスオブパワーの関係で成り立っているということを知らない。一方で、そのようなことを知らないお人好しが、あたかも善良な人であるかのように捉えられる傾向にある。残念ながら、現実の国際社会は 単なる仲良しクラブにあらず。
3.ナゼ国民は、軍事理解に乏しいのか?
⇒自国への帰属意識が希薄であるため。守るべき対象(日本)を感じることが 出来ないのだから、軍事を理解することなど到底不可能。国家観に対する 教育を怠ってきたことのツケ。
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■戦時作戦統制権移譲は2015年末に延期
20カ国・地域首脳会議(G20サミット)出席のためトロントを訪れている韓国の李大統領は二十六日、オバマ米大統領と会談し、二〇一二年四月十七日に予定されていた米韓連合集団司令官(在韓米軍司令官が兼務)から韓国軍司令官への「戦時作戦統制権」の移譲時期を、二〇一五年十二月一日に延期することで合意しました。
戦時作戦統制権をめぐるはなしは、一九五〇年の朝鮮戦争勃発時に韓国軍が国連集団司令官に移譲したことからはじまります。一九九四年に「平時作戦統制権」は韓国軍司令官に移譲されましたが、半島有事における「戦時作戦統制権」については米韓連合集団司令官(在韓米軍司令官が兼務)が保持しています。
二〇〇七年にノムヒョン政権は、米との間で二〇一二年の統制権移譲で合意しましたが、北鮮核実験、先日の哨戒艇沈没事件を受け、韓国側は統制権移譲時期の延期を要請していました。
今後両国首脳は、ゲイツ国防長官、金国防相に対し新移譲時期に合わせて作業を進めるよう指示を出し、その後実務レベルで段取りを決めてゆくようです。
余談ですが、米政府高官は主要国(G8)首脳会議の首脳宣言に、韓国哨戒艦沈没に関して北朝鮮を「非難する」と明記したことを「非常に強い記述」と説明したそうです。国連安保理での北朝鮮制裁決議案の採択に向けて「弾みをつけるもの」と述べています。
⇒ちなみに在韓米軍司令官は在韓国連集団司令官も兼務しています。
在韓国連集団は、後方司令部が米軍横田基地に所在するなど、わが国とも密接なかかわりがあります。
詳細はコチラでどうぞ⇒
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%80%A3%E8%BB%8D
■与那国島上空のわが防空識別圏の見直し
100624の防衛省発表によれば次のとおり。
1.与那国島西部がわが防空識別圏の外にあることについて、沖縄県及び与那国町から見直しの要望が幾たびもあったため、与那国島上空のわが防空識別圏の見直しを検討した。結果、沖縄県民及び与那国町民の方々が安心して生活できるよう、今般見直しを行うこととした。
1.概要は次のとおり
(1)与那国島西側のわが領空及びその外側2海里について、わが防空識別圏に含めることとする。
(2)本見直しを実施する防衛省訓令は、平成22年6月25日に施行される。
http://www.mod.go.jp/j/press/news/2010/06/24a.html
【参考】
●防空識別圏(ADIZ)とは?(2007/11/24配信記事)
http://okigunnji.com/004/adiz.html
■ロシア軍航空機・艦艇の動き(100624 統幕)
1.100624、ロシア空軍の戦略爆撃機「ツポレフ95」2機が、北方領土に沿って東方から飛来し太平洋を南下。北緯36度東経143度付近(茨城県沖付近)で反転し、来たルートを北上して北方領土上空を通過。サハリン南端を通ってカムチャッカ方面に向かった。
詳しいルートと当該航空機写真はコチラで⇒
http://www.mod.go.jp/jso/press2010/press_pdf/p20100624_1.pdf
2.100622、2100ごろ、海自13護衛隊所属「はるゆき」(佐世保)が、下対馬南東約24kmの海域を北東進するロシア海軍のウダロイ1級ミサイル駆逐艦1隻、ドゥブナ級補給艦1隻及びソルム級航洋曳船1隻を確認した。当該艦艇は、対馬海峡を北上したことを確認した。
http://www.mod.go.jp/jso/press2010/press_pdf/p20100624_2.pdf
⇒海軍の艦艇ですが、ウダロイ級駆逐艦は太平洋艦隊所属の「シャポシュニコフ元帥」です。あとは航洋曳船「MB-37」と補給艦です。ノーボスチ通信によればこの部隊は、25日にカムチャッカに入港したアデン湾・ソマリア沖派遣任務部隊のようです。 http://en.rian.ru/russia/20100625/159569651.html
日本海で何をしていたのでしょうね?
■十月に釜山でPSI訓練
韓国国防省が準備を進めていた、釜山港と周辺海域における「大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)に基づく海上封鎖(停船、乗船)・捜索訓練」ですが、国会国防委員会へ国防省が提出した報告書を通じてこの十月に行われることが明らかになりました。
PSI訓練が韓国の海域で実施されるのはこれがはじめてです。
この訓練にはわが国、韓国、米、豪、シンガポール等が参加します。
韓国からは駆逐艦や支援艦など艦艇3-5隻と、P3C海上哨戒機、ヘリ、海軍及び海洋警察の臨検部隊(特攻隊)などが参加します。
船舶を捜索し大量破壊兵器などを押収する訓練を行う予定です。
なお韓国は、早ければ今月末に、日本海と黄海で米韓連合演習を実施します。
海・空軍や海兵隊、海洋警備隊などの戦力が参加し、対空防御と標的打撃、北西島嶼への増員訓練、潜水艦の追跡と攻撃、対潜水艦訓練などを行う計画とされます。また、9月に行われるオーストラリアでのPSI訓練にも参加する予定
です。
⇒韓国は昨年5月、北朝鮮が2度目の核実験を行った後、海上阻止訓練を含めPSIに正式加盟しました。それまでは「北鮮を刺激する」とオブザーバー派遣のみの参加でした。今回の訓練の名目は「北鮮による哨戒艇撃沈」
です。
■北鮮軍の動き
韓国情報によれば、
北鮮人民軍が先月二十一日以降、指揮官を配置に付け、兵力の移動を禁じる一方で、思想教育を強化しているそうです。特に、戦闘準備態勢や検閲の強化が行われ、防空部隊SAM(地対空誘導弾)レーダー活動や戦闘装備を偽装するなどの動きがとらえられているということです。
さらに国防省によると、北鮮軍は韓国側の対北心理戦用拡声器設置に対抗し砲兵による射撃準備態勢を維持。GP(非武装地帯<DMZ>内の最前方哨所)の銃眼を開けたそうです。先月十七日以降、延坪島一帯で、北朝鮮の漁船44隻が22度にわたり、意図的に北方限界線(NLL)を侵犯したことも明らかになっています。
■マクリスタル大将の更迭
ISAF司令官兼ねるアフガン駐留米軍司令官のマクリスタル米陸軍大将が二十五日発売の「ローリングストーン」誌で、オバマ大統領等アフガン政策に関連する政府要人を批判する発言を行い、これが原因で更迭されました。
これを受けてゲイツ国防長官は同日、後任として、米中央集団司令官のぺトレイアス大将を指名しました。
マクリスタル大将は特殊作戦畑の長い人で、特殊戦のプロとされます。
特殊作戦集団司令官時の、イラク治安戦における「ザルカウィ殺害」で高名です。
参考 スタンリー・マクリスタル大将
http://tinyurl.com/28v8a4d
http://www.cfr.org/publication/19396/biography_of_general_stanley_mcchrystal.html
⇒これもまあ、文民統制の発露なのでしょうが、現地指揮官の意見具申を容れることのできない国家最高指導部の器量の小ささを強く感じます。
前の政権もシンセキ大将の意見具申を聞かずに準備不十分なままイラク戦をはじめ、結果大将の見通しどおりとなりましたね。
「イラクの失敗をアフガンで繰り返す」という道をたどるのでしょうか。
言論の自由が錦の御旗の国では、政治指導部の軍事認識のゆるさは、古今東西永遠に解決しない問題なのかもしれませんね。なんとなくわかる気がします。
この件についてはこのご意見も、参考になると思います。
http://blog.livedoor.jp/takami_neko_shu0515/archives/65289930.html
以下余談です。
書きながらふと思い起こしたのが、ずいぶん前にteruteruさんから伺った「米軍は白兵戦に弱い」という言葉と、堀栄三さんの本にあった「米軍は山が苦手」という言葉でした。この種の箴言に近い言葉はなかなか身になりませんけれど、時間を味方につけると、身体に染み付くようです。
(おき軍事情報部)
● 高志さんのコラム 「国民年金の花柳な生活」
■2010/06/24 (木) 軽率な、余りにも軽率な
前首相の鳩山さんもそうだったが、菅首相も口が軽く、不用意な発言をする人だ。その昔、拉致実行犯、辛光洙元死刑囚の釈放嘆願書に署名して物議を醸した事は余りにも有名で、軽率の謗りを免れないが、この人は何処か1本、釘の抜けたところがある。年金の掛け金不払い問題が起きた時も、あっさり辞めてしまったが、辞める前によく調査すれば、原因は役人の手続き上のミスで、自分の責任ではない事が分かった筈だ。
こういう軽はずみな性格が家庭人として、何か失敗をしたという事なら笑い話で済む。しかし、一国の宰相ともなれば、その言動は世界中から注目されているのだ。少なくとも総理の発言には責任が伴う。昨日「沖縄慰霊の日」に首相として、初めて沖縄を訪問し、歓迎された菅首相の身辺に問題が起きている。
現在、問題になっているのは、菅氏が副総理・国家戦略担当相として入閣は果たしたものの、未だ鳩山氏の陰に隠れて、鳴りを潜めていた昨年9月の政権交代直後、沖縄(比例区)の参議院議員喜納昌吉氏との対談で、ふと漏らした言葉である。
喜納昌吉氏はウチナー・ポップを代表する音楽家だというが、その新著「沖縄の自己決定権-地球の涙に虹がかかるまで」(未来社)で明らかになった。それによると、対談の中で菅氏が漏らした言葉は「沖縄の独立」だった。しかし、これを伝えたのは多分、産経新聞だけであろう。
《就任前とはいえ、国土・国民の分離を主張していたことは大きな波紋を呼びそうだ。喜納氏は著書の中で「半分ジョークにしろ、そういう事を副総理・財務相であり、将来首相になる可能性の彼が言ったということ、これは大きいよ。
非公式だったとしても重い」と指摘している。》
《仙谷由人官房長官は、16日午前の記者会見で「著作を読んでいない。検証のしようがない伝聞証言は刑事訴訟法でいえば証拠能力がないという事だ」と述べた。また、首相に事実確認をするかどうかについては「今のところ、そういう質問をするつもりは全くない」と強調した。》
しかし、慰霊の日を前に、これがネット上で伝えられると、騒ぎは大きくなった。
余りの加熱ぶりに喜納氏のブログでは「右翼に利用されている」と警告。一方で『菅さんの発言は、総理就任以前のものだ。菅さんは総理に就任して決定権を持った。菅さんなら、沖縄県民が望む未来像を描いてくれるかもしれない。一国ニ制度も含めて、沖縄の自立、独立を国民的に議論する時期がきたのだと思う。』と、期待を寄せている。
菅氏は「沖縄問題は重い。基地問題はどうにもならない。もうタッチしたくない。沖縄は独立した方が良い」と言ったというのだ。若し、これが本当なら(本当に違いないが)これ程無責任な発言をする人物が首相の座にある事は日本国にとって悲運という他はない。当時の肩書きは「副首相・国家戦略担当相」で、やはり、一国を代表する地位の「公人」である。
「一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝う」(一人が虚言を言うと、多くの人がそれを真実として伝える)という。「あれは副総理時代の話で」とか、「対談はしましたが、独立なんて言っていません」と言い逃れる心算なのか。何時ぞやは「泊まるのは泊まったが、何もしていない」と言う迷文句で記者団を煙に巻いた実績を持つ菅氏の事だ。
今度はどんな言い訳をするか、その点でも興味は尽きないが、国民にとっては、これ程情けない話はない。早く言えば、言う事を聞かない「子」を育てるのは手間が掛かって大変だから、何処かへ捨ててしまえと言っている様なものである。「日本は日本人のものではない」と言った前任者に勝るとも劣らない××だ。
沖縄が、かつて琉球王国という独立国であった事は歴史上紛れもない真実である。東シナ海と太平洋の境に点在する小島で成り立つ資源を持たない国が、近隣の大国と付き合う上で、朝貢するのは必然であり、明とも関係が深かったのも不思議ではない。だが、少なくともこの数百年間は薩摩藩の支配下にあり、明治政府誕生と共に「植民地」としてではなく、沖縄県として迎えられたのだ。そこで生まれ育った人は間違いなく日本人である。
戦後の一時期、占領下の沖縄は琉球国となったが、軍政の強権が人々を本土復帰に駆り立てる原因になった。現在、チャイナの野望が尖閣諸島だけではなく沖縄列島そのものに向けられている事は明らかだ。その情勢の中で足元を見られる様な軽率な発言をする事は為政者としての資格を問われるものである。今、彼に伝授すべきは「切腹の作法」かも知れない。
http://www5.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=514369&log=20100624
■2010/06/21 (月) 悲劇の始まり
間もなく沖縄慰霊の日が巡って来る。65年前の悲劇を振り返る時、現場からの証言として、必ず登場するのが沖縄戦記「鉄の暴風」である。沖縄戦の始末を実戦に参加した新聞記者が編纂したものだから、他の追従を許さぬ絶対的な権威がある。沖縄戦について語る時、避けて通れないのが「鉄の暴風」の存在なのだ。
「鉄の暴風」第3章「中・南部戦線」が恐らく牧港記者の体験に基づく記録であろう。体験ルポが他の追随を許さぬ決定的な力を持っているのは、体験者でなければ分からない意外なネタを秘めているからである。戦闘の初期には、新聞記者は司令部に付き従って、首里の地下壕で暮らしていた。壕は湿気が高く、悪臭が篭って、居た堪れないが、地上に出ると激しい弾雨に晒されるから、じっと我慢するしかない。
それでも、一つだけ、どうしても外に出なければならない事があった。トイレタイムだ。人は普段、食べ物の事は考えるが、排泄については意識しない。しかし、食べれば必ず出るのだ。この単純な生理現象は切実である。そして、誰にも平等に容赦なく襲いかかる。
思い出すのは阪神・淡路大震災の体験だ。敵の弾こそ飛んで来ないが、あの時、一番困った問題は何かと言えば衣料や食料ではなく「トイレ」であった。被災者は避難先で、幸い建物が残った人も、自分の家で、使えない水洗トイレに立ち往生したのだ。
水洗トイレは流す水が無ければ使えないので、避難所でもこの水を汲むのはボランティアの重要な仕事であった。トイレの使用後、流す水量は配水管の形状や長さなどを考慮した上で予め設定されている。水量が足りないと途中で詰まる。
よく勘違いする人があるが、排水レバーの大・小のうち「小」は(紙を使わない)男性専用なのである。
それよりも私の記憶に残るのは、自分が用を足している時の事である。地震発生後、何日間かは1日に何千回もの余震が続き、家屋は細かく揺れ続けていた。
一番心配だったのは、トイレで尻を捲くっている時にグラグラッと来る事である。若し家が潰れて一緒に押しつぶされた場合、後に掘り出された時の恰好を想像すると、トイレに入る事が躊躇われた。
平和な時代の地震ですらそんな具合である。敵の砲弾が降りかかる中での命がけの行動は如何ばかりであったか。これだけは平和に呆けた頭でも容易に想像の付くところだ。案の定、文中には私と同じ記述がある。《一番怖れられたのは、排便中に、弾にやられることだった。全くその恰好は、誰にも想像できた。「尻をまくって、死ぬことは嫌なことだ」と考えた。》
容易く想像できる状況だけに鬼気迫る現場の様子は痛いほど強く伝わって来る。この時の思いを牧港氏は《地上を狂い廻る鉄の破片の冷笑を、身を以って防ぐためには、壕は絶対である。》と書いている。これこそが「戦場体験」の真髄だが、その一方で、彼は「鉄の暴風」を纏める時に、致命的な手抜きをしてしまったのだ。
沖縄戦記「鉄の暴風」編纂の為に資料を集める中で、現場に行きたくても物理的に行けない場所があった。海を渡るには小船が必要だったがそれも無く、手配出来ても燃料に事欠く有様なので、現地には赴かず、目撃者を現地から呼び寄せて話を聞き、それに基づいて記事を起こすという手段をとるしかなかったのである。渡嘉敷島の悲劇は実はこの時始まったと言っても過言ではない。
渡嘉敷島から来た二人の証言者は、どちらも「その時」島には居なかった。
例え、戦闘の体験者であっても現場を知らない者には曖昧な点がある。それを補うのは近親者からの口コミで、口コミには必ず無責任な情報が混じっているのだ。それをどの様に取捨選択したか分からない。
牧港氏は「五十年後のあとがき」の中で「鉄の暴風」が書かれたのは戦後5年目の1950年で,《住むに満足な家もなく、衣服も米軍の軍服を仕立てなおしたもので、喰い物も不足がちであった。資料らしい資料もなく、頼りになるのは、悲惨な戦争を生き抜いてきた、人々の体験談をきくのが唯一の仕事で、語ってくれた人数も多いが、話の内容は水々しく、且つほっとであった。・・・戦争体験は昨日のように生まなましく、別の観念の這入りこむ余地はなかった。》と述懐している。
戦後の5年間は私も身をもって体験しているが、それまで国民が抱いていた日本(軍)とアメリカ(軍)の評価が180度逆転した時期である。この時期に資料を集めた事も「悲劇の始まり」になった。
http://www5.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=514369&log=20100621
【「国民年金の花柳な生活」より http://www5.diary.ne.jp/user/514369/
】
● 「田母神塾」のご案内
次回の講義は、今週金曜日7月2日です。
前回に続き、「田母神講座 Part18:「日本」の選ぶべき道 Part2」です。
最新刊『それでも体罰は必要だ』(*)は、わが国最大の問題「人づくり、教育」のあるべき方向性を示した見逃せない一冊です。
戸塚さんと田母神さんはいずれも「人生かけて人づくりに全力で取り組んできた人」です。だからその人づくり論には読み応え、説得力があります。具体性に富んだ有機的滋養を与えてくれる質量ともにいい内容です。一人でも多くの方に目を通していただきたい一冊です。(*)http://tinyurl.com/25r33n9
090509 20:00スタート
塾長:田母神俊雄さん(元空将[元空軍大将] 前空幕長)
塾生:sayaさん(シンガー)
■講座名:田母神塾
■講義時間:隔週金曜日 2100~2130
■講義場所:スカイパーフェクTV 217チャンネル
■見るには?⇒ http://www.ch-sakura.jp/1012.html
■テキスト:『田母神塾』双葉社 http://tinyurl.com/cf2fd4
■過去の放映分:「So-TV」 http://www.so-tv.jp/
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■田母神俊雄公式後援会
⇒ http://www.tamogami.sc/club/
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● 編集雑記
江戸時代の国政は、将軍の下で老中(諸藩の大名クラス)が合議して動かしていたようです。
面白いのは、首相に相当するのが「老中首座」といわれる人であり、特別なときに設けられたとされる「大老」とは異なり、特段の権力を持っていたわけではなかったらしいところです。
もしかしたら現在の政治も、これと同じスタイルで行われており、首相は寄り合いのまとめ役としての権限しかないのではなかろうか?と思ったりします。
異質の指導力を発揮した小泉さんは、「自分は非常時の大老だ」と意識していたのかもしれませんね。
(エンリケ)
■組織論への新たなアプローチ
『空軍創設と組織のイノベーション--旧軍ではなぜ独立できなかったのか--』
http://tinyurl.com/b7tn68
■メールマガジン「軍事情報」が製作に協力。
『サムライと日本刀─土方歳三からの言伝て─』
http://tinyurl.com/mzmruz
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