学生の安定志向が高まり、冒険心が薄れたため
「ハーバード大学の日本人数激減」の意外な真相
http://media.yucasee.jp/posts/index/3761/1
ハーバード大の日本人が激減している、は本当?
今年4月、米ワシントン・ポスト紙が「2000年以来、米大学における日本人学生数が減り続け、学部生の数が52%減少、大学院生の数が27%減少した。昨秋、ハーバード大学の学部に入学した日本人はたった1人だった。」と報じました。同紙によると、日本人が減少する一方、中国・韓国・インドからの留学生は倍以上に増加。同紙は日本人減少の理由を「学生の安定志向が高まり、冒険心が薄れたため」とし、日本は「草食動物(grass-eater)の国」に衰退したのだ、と論じました。
また今年3月には、ハーバード大学学長のドリュー・ギルピン・ファウスト氏が初来日。ファウスト氏は訪日時の感想を「日本の学生や教師は海外で冒険するより、快適な国内にいることを好む傾向があるように感じた」と語っています。
一方日本のメディアでは、「アメリカだけでなく、海外へ留学する日本人数自体が減少している」、「今までアメリカへ一極集中していた学生が他国へ流れただけで留学生の数は減少していない」、など様々な推測がされています。
「ハーバード大を含む米大学の日本人が激減」、という報道は真実なのでしょうか? 今回、「YUCASEE MEDIA(ゆかしメディア)」は海外大学進学塾「RouteH(ルートH)」を経
営するベネッセコーポレーション、ディレクターの藤井雅徳氏に話を聴きました。
今年ハーバード、イェールに合格した日本人は過去最高の10名
藤井氏によると、今年4月にハーバード大とイェール大に合格した日本人学生数の総数は10名。ハーバード大が3名、イェール大が7名で、イェール大の合格者数は過去最高でした。例年、イェール大の日本人合格者数は1人から2人。7人というのはこれまでにない増加で、「今年に限っては、日本人留学生は増加している」と言えるそうです。
この10名の内訳は、3分の1がインターナショナルスクール出身、3分の1が私立の帰国子女、3分の1が普通校出身(全員RouteHの学生)でした。
ハーバードを辞退しイェールを選んだ学生
ここ数年、東大合格レベルのトップの高校生の間で「国内より海外のトップ大学に進学したい」という動きが加速しています。難関大学受験生のための模試「プロシードテスト」は、2008年2月から志望校として海外の大学も指定できるようになり、またSAT(適性試験)の模試も2008年11月から国内で開始されました。
その流れを受けて、2008年5月に開講したのが、ハーバードなど海外の一流大学進学を目指す塾「RouteH」です。ここでは、東大・京大など国内最難関大学に合格できるレベルの普通科の高校生たちが、海外の大学を目指すために学んでいます。
「RouteH」の今年の卒業生は3名で、その3名全員が海外大トップ大に合格し、進学することになりました。1人はハーバード大学とイェール大学の両方に合格、1人はイェール大学と東京大学・理科Ⅱ類に合格、1人はリベラルアーツカレッジのスワスモア大学と東京外国語大・外国語(英語)に合格しました。このうち、ハーバードとイェールに合格した男子学生は、なんとハーバードを辞退し、イェール大学へ進学することを選択。またイェール大学と東大に両方合格した学生は、この4月から東大に通っており、9月からは東大を休学してイェール大へ入学するということです。
藤井氏「現在、ハーバード大学の学部に在籍しているのは5人です。今秋ハーバード大に入学する日本人は、多分2人ではないでしょうか。イェールは実際何人入学するかわからないですが、RouteHからは2人入学すると思います。」
今年に限っては、米難関大合格者は増加した
藤井氏「ワシントンポスト紙が報じたように、昨秋のハーバード大の日本人の入学者が1人だったことは事実です。しかしハーバード大は合格者のうち、辞退する率が2割から3割で、実際の日本人の合格者数はもっと多いはずです。また今年はハーバード大学が3名、イェール大学が7名でしたので、今年に限っては日本人の数は増加しています。」
しかし、今年の合格者数が多かったからといって、決して安心できる状況ではないようです。
日本人学生が増えた背景の1つとして、ここ2・3年で普通科の高校生でも海外に進学できるという発想が徐々に世間に浸透してきた、という点があります。しかしそれよりも大きい要因として、あまりにも日本人学生数が少ないために、米難関大学が積極的に日本人学生を増やそうと活動しだした、という背景があるからです。
今年から日本人合格者を増やしたイェール大学の意図
イェール大学の日本人合格数はハーバード大と同じく一桁で、これまでは1学年に1人か2人いる程度でした。それが、今年は一気に7人に増え、過去最高となりました。それは、「日本人学生を増やそうとする大学側の明確な意図があるから」と藤井氏は指摘します。
藤井氏「ハーバード大もイェール大も、米難関大学は日本人学生の数が減りすぎて、危機意識を持っているのです。そのためハーバード大学学長が来日したり、イェール大学は大学説明会を日本で行ったりしています。」
昨年4月から、イェール大学のアドミッション・オフィスはわざわざ日本に来て、大学説明会を開催するようになりました。また説明会だけでなく、インターナショナルスクールを含む日本の様々な学校を訪問し、積極的に広報活動を展開しています。そのため、学校の教師たちはイェール大を身近に感じることが多くなり、受験生の数も増えて、結果として合格者数増加に繋がったという見方ができるのです。
つまり前提にあるのは、やはり海外メディアが指摘するように、「日本人学生が少ない」という事実。今年の合格者数は、日本人を多く合格させたいと考えているハーバード大やイェール大の広報活動の結果でもあるのです。
では、日本人の留学生数は過去と比較してどの程度減り、また他国と比べてどのような違いがあるのでしょうか。次回は日本人留学生の数と、日本人が減少する理由についてみていきます。
米国の日本人留学生減少とその理由
今年のハーバード大学、イェール大学の合格者数は過去最高でした。その背景には海外大学進学塾「RouteH(ルートH)」や、米国の大学の積極勧誘の効果がありました。しかし前回の記事で述べたように、米国の大学には根本的に日本人学生が少ないのが現状です。では、日本人留学生は過去と比較してどの程度減り、また他国と比較してどのような違いがあるのでしょうか。
ハーバードの日本人は18年で6割に減少
1992年度(92~93年)から2008年度(08~09年)のハーバード大学における日本、中国、韓国の3カ国の学生数は以下の通りです。これは学部と大学院を合わせた数字ですが、18年間で日本が174人から107人と約6割に減少しているのに対し、中国は約1.8倍、韓国は約2.5倍に増加しています。
【ハーバード大学の学部と大学院の生徒数】
1992~93年度 → 2008~09年度
日本人:174人 → 107人
中国人:231人 → 421人
韓国人:123人 → 305人
さらにこのうち、2008年~2009年の学部生の割合は、日本人約4.6%、中国人約8.5%、韓国人約13.7%。つまり日本人は107人在籍しているといっても、そのほとんどは大学院生で、学部生は5人程度です。2009年度の学部生の人数は以下の通りで、日本人は5人。中国人はその約7倍、韓国人は約8倍で、やはり圧倒的に日本人が少ないことがわかります。
【ハーバード大学の2009年度学部生数】
日本人:5人
中国人:36人
韓国人:42人
米「Institute of International Education」(国際教育研究所)によると、米国の大学で学ぶ日本人学生数(学部・大学院)は2004~2005年度の4万2215人から年々減少を続け、2008~2009年度は前年度比-13.9%の2万9264人にまで減少しました。一方、中国は同期間に6万2523人から9万8235人、韓国は5万3358人から7万5065人に増加しています。また留学生が最も多い国はインドで、2008~2009年度の米国の総留学生数67万1616人のうち10万3260人を占めました。
では、ここ20年ほどで日本人が減少した理由は何なのでしょうか? 海外大学進学塾「RouteH(ルートH)」の藤井雅徳氏によると、直接的要因として、以下の2点が考えられるといいます。
【1】留学生枠の競争倍率が上がった
留学生の受け入れを積極的に行っている米国の大学でも、学部入学者に占める留学生の割合は10%前後です。日本人留学生は 1994年度から 1997年度にかけて、国別では第 1位を占めていま
したが、前述の中国や韓国、さらにはインドなどからの留学生が急増しています。他国の受験者が増えても留学生枠はある程度制限されているため、競争倍率は当然上がります。他のアジアの国の優秀な高校生が入ってくるようになったことで、日本人の合格者数が減少したといえます。
中国や韓国では、トップレベルの高校生は海外の大学に行くのが当然だと考えられています。日本人が東大を目指す感覚で、海外の一流大学が進学先候補に入っているのです。しかし、日本より人口が少なく、日本より少子化が進む韓国から42人もの学部生を送り込んでいることは驚きに値します。
藤井氏「中国人・韓国人の数が近年増えたのは、経済的・国民的背景があると考えています。両国とも以前と比べ経済的に豊かになり、人々が海外に出る余裕が持てるようになりました。また韓国は日本より少子化が進み、国土も小さく資源もない。だからこそ、トップレベルの優秀な人々は、『海外への志向』が強い傾向があります。例えばサムスンなどは海外の大学卒業者をどんどん採用しています。だから大学から海外へ出る人々が増えるのです。」
日本では日本の大学を卒業して日本企業に就職する、というのがまだまだ一般的ですが、中国や韓国のトップ集団では海外大学卒業者であることはもはや当たり前。高校生もあらかじめ海外の大学を視野に入れて将来設計をしているため、海外大学進学者が多くなります。
【2】TOEFLの試験形式が変わり、精神的ハードルが高くなった
2006年7月、世界165カ国7000以上の大学が、留学生の入学審査に用いる英語力判定テスト「TOEFL」の試験方法が変わり、「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能統合型の「TOEFL iBT」になりました。そして、従来の
「TOEFL PBT」は、2007年に日本では実施されなくなりました。「TOEFL iBT」になり全体的な難易度が高まった上、日本人が得意だった文法問題が外された一方、スピーキングが追加され、日本の高校生にとっては、受験の精神的ハードルが高まりました。
TOEFLは海外大学受験の際の英語力の最低ラインです。例えば、アイビー・リーグの1校であるブラウン大学は、受験生への要求レベルはTOEFLで100点以上を課しています。しかし、TOEFL100点というのは、英検1級レベルをはるかに超える英語力が必要です。インターナショナルスクール出身でもない普通科の高校生が大学受験時点でTOEFL100点というのは、日本における一般的な英語学習では非常に厳しいと言わざるをえません。
さらには、TOEFLをクリアした後は、より高度な英語力を駆使するアメリカの全国共通試験「SAT」の読解・数学・論述試験や、志望動機や留学への熱意を書いたエッセーや課題を提出します。まず入り口であるTOEFLで躓いている日本人には、遠い道のりに感じるのは当然のことでしょう。 間接的要因としての少子化と大学全入時代
また間接的要因として、少子化や大学全入時代、バブル崩壊後の経済不況などの要素もあげられます。ハーバード大学学長のドリュー・ギルピン・ファウスト氏の来日時の感想、「日本の学生や教師は海外で冒険するより、快適な国内にいることを好む傾向があるように感じた」のように、現代の日本人の気質もやはり影響しているようです。
藤井氏「子供の数が減少しているのに大学数は毎年増え、以前と比べかなり競争倍率が下がっています。バブル崩壊後は経済的にも厳しい家庭が多くなったこともあり、子供たちは内向き志向、安全志向の傾向にあります。苦労して海外に行かなくても、それなりに勉強すればどこかの大学には入れる訳ですから、当然ですよね。日本が『正直、そこまで勉強しなくてもいいんじゃない?』という雰囲気になってきたことは事実ではないでしょうか。」
また、近年は既卒受験(いわゆる浪人生)が少なくなり、受かった大学に通いつつ、仮面浪人をする人が増えています。これも地位を保持しつつチャレンジができ、失敗をしてもダメージを受けない道を選ぶ、安定志向の人が増えているという、一つの事例といえます。
藤井氏「日本では『東大に行って、大学院から海外に行けばいい』、『海外には短期留学すればいい』という思考が根強い。海外の大学入試は模試もなく、合否の判断が難しい不確実性が高い試験です。安定志向の受験生にとっては、海外大受験はリスクが高すぎる。受験校選びからして、海外とは全く違いますから。」
留学生枠の競争倍率上昇、日本の一般的な英語学習では海外大受験レベルに歯が立たない、経済的理由、内向き志向の高まり。これでは、わざわざ海外でリスクが高い受験をしようと思わない人が増えるのも当然ではないでしょうか。
多様性重視の米国の大学で、日本人がいないのは不都合?
前回記事で触れましたが、ハーバード大学やイェール大学など、米トップレベルの大学が日本人が少ないことに危機感を抱き、昨年から積極的に広報活動を展開しています。では、この理由は?
藤井氏「これは私の考えですが、ハーバード大学やイェール大学が日本人が少ないことに危機感を抱くのは、米国の大学はダイバーシティ(多様性)を重視しているからだと思います。今、経済成長著しいアジアに、世界の目が向いています。そのアジアの経済大国である日本にも、当然注目は集まります。それなのに、学部生に日本人が全くいないというのは、彼らにとっても都合がよくない。他国とのバランスをとるためにも、もっと日本人に入学して欲しいのです。何だかんだいっても、日本はアジアの経済大国ですから。」
海外の大学に心配されるほど日本人が少ないという現状。これをどうにかしようと近年立ち上げられたのが、「RouteH」のような海外大学進学塾です。「従来の英語学習では太刀打ちできない。」そういう疑問を持った普通科の高校生が「RouteH」を通して海外トップ大を目指すようになり、今年やっとその成果が出始めました。
藤井氏「RouteHは、普通科の高校生が海外の大学を受けてもいいと思えるような道筋を、引き続き作って行きたいと思います。勇気を持って、来年以降受けてくれる学生が増えてくれることを願っています。」
今後、ハーバードやイェールなど海外トップレベル大学への進学者はどのような推移を辿るのか。中国・韓国のように「トップレベルの人は海外大卒が当然」という時代が来るのか。海外志向が一般に浸透するのはまだまだこれからですが、今後、大学受験を迎える子供たちには、ぜひ広い視野を持ち、自分の可能性を狭めることなく、進路を選択していってほしいものです。
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その他には、アメリカで勉強してみたい「優秀な学生」が
いたとしても、貧乏だから留学できないのかもしれない。
日本人は、そんなにアメリカ崇拝を
しなくなったのかもしれない。
個人的には、英語のテストが難しくなったのが
一番の理由だと思うな。