ウアルカイシ氏が中国大使館に”突撃”した真意 2010.6.5
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成22年(2010)6月8日(火曜日)参
通巻2987号 (臨時増刊号)
ウアルカイシ氏が釈放後、記者会見
『中国政府への突撃的アピールの真意』を語った
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6月7日午後、日本外国特派員協会で行われたウアルカイシ氏の緊急会見にビデオカメラは何台か入っていましたが、活字メディアの記者は組閣取材に追われているようであまり来ていませんでした。
ウアルカイシ氏が中国大使館に”突撃”した真意を日本のほとんどの活字メディアは伝えないでしょう(現在のところ毎日新聞だけは5日の紙面に共同通信の取材として「亡命生活を終え、帰国後に裁判で無実を訴えたい」「両親も高齢となった。どうしても会いたい」との同氏の真意を伝えています)。
≪湾岸署留置中に作成した直筆声明の訳文≫
私の声明
ウアルカイシ
2010.6.5
昨日、六四事件(天安門事件)二十一周年祈念日当日、私は在日本中国大使館前で全世界の中国民主化に関心を有し、天安門事件を忘れることのない人々とともに、この日を祈念していました。
祈念活動終了後、私は日本の警察を通じて中国大使館に対して、自首という方法により中国に帰りたい旨を伝えました。
正面から何も回答を得られなかった状況下で、私は警察の封鎖線を破って中国大使館、つまり中華人民共和国の領土へと、進入することを決意しました。
この一歩をもって、私は普通の市民として中国に帰る合法的な権利を持っていることを強烈にアピールしたいと思いました。
私のこの努力は、日本の圧倒的な強さを持っている警察力の前で失敗しました。私は逮捕されました。
私のこの行動は、メディアに広範に注目されました。
私は、私の努力及び合法的な帰国の権利を支持してくださった皆様に心から感謝の意を表します。
この行動によって、日本社会に不安を与えたりすることがあれば、非常に申し訳なく思っております。
私のこの行動の主要な目的は、家に帰る権利を勝ち取ることであります。訴える対象は中国政府であります。
私は日本社会にトラブルあるいは何か破壊的な結果をもたらすつもりは全くありません。この行為は日本の法律に違反する可能性があることも理解しています。日本で長く滞在することを含め、私は、日本の検察・警察の取調に完全に協力するつもりであります。ここで日本の民衆に私の已むを得ない心の苦しみを理解していただきたいのです。
中国国内の市民にも知ってもらいたい。
我々は、帰国して皆さんと一緒に闘う心情をあきらめることはありません。我々の努力は決して止むことはありません。
(ウアルカイシ、東京湾岸省察署において)
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(この報告はJFCC会員より寄せられました)
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(読者の声1)貴誌2984号の(読者の声5)で常連投稿者の「伊勢ルイジアナ様」の御意見を拝見。アラン・ダーシュウイッツ教授はよくネットでイスラエルのテレビの特集番組に出るので、どういう人か大体理解しています。
国際社会においてイスラエル弁護するという意味で、「その譲らない姿勢を貫く」という伊勢様の指摘は正確です。「リベラル(と勘違い)」かどうかは、イスラエルに関係するかしないでは違うのかもしれません。ただ、政治上の事を白か黒か単純化しても得るものは何もありません。この際良い機会ですので伊勢様のイスラエル政治についての誤解をダーシュウイッツに代わって(笑)説明させて下さい。
まず、「ダーシュウイッツは親イスラエルの極右」というのは間違いです。ダーシュウイッツはイスラエル批判する勢力に対し頑な姿勢を取りますが、では右派政党リクードの政策に賛成かと言えばむしろ批判的です。
考え方からすれば支持政党はカディーマ党あたりでしょう。つまり、(ユダヤ人としてイスラエルの)外に対しては「イスラエルを守っている!」というポーズをとる事で自己のユダヤ人アイデンティティーを満足させる一方で内に対してはむしろ米国人として振舞っている。
例えば、「貴殿はイスラエルの駐米大使になる気はありますか?」というイスラエル国営テレビのインタビューでの質問に答えて、はっきりと「ない」と答えている。それは、ダーシュウイッツが米国籍を保持したいという実際的理由に加え、「米国人として米国国益に反するイスラエルのイラン攻撃には賛成出来ない」という理由からであるとイスラエルのテレビクルーに説明している。
そういうユダヤ人心理の微妙なニュアンスが解れば、「ダーシュウイッツは親イスラエルの極右」とかは茶飲み話と思える。
それから、イスラエルが窮地に立っているのは建国以来別に特別な事ではない。
ただ、現在イスラエルのメディアがあまりに現政権の政策の失敗を弁護し過ぎる事は気がかりです。加え、バラック党首自身が国防相を務めている為に健全な批判勢力として労働党が右派勢力を中和する役割を果たしていないのも問題です。
今回のトルコ客船急襲事件についてはいろいろと情報や分析が出ていますが、ネタンヤフは作戦実行について軍幹部に相談せずにバラックと2人だけで決行を決めてしまい、前回首相時のハマス幹部ハリド・メシャル暗殺失敗を繰り返した感じがします。
700人もの客船の状況に関する充分なインテリジェンスがなかったと。それで結果が過剰反応。冷静に誰か批判しないものかと思えます。
一方、トルコの側もオルドアン首相らがリアル・ポリティクスと宗教的パッションの間で揺れている。
本当はオルドアンは密室ではイスラエルと妥協したいのだが、公然には中東的メンタリティーが許さない。現在注目すべき情報はこの事件の数日前に世俗派の牙城であったトルコ諜報部の長官ポストに安全保障部門での経験ゼロのオルドアンの側近のイスラム主義者が座った事。
さて今後、トルコはどこへ行くのか?
まさかNATOなどを離れてイラン・シリア・北朝鮮と組むのか? ヒントはイスラエル国営テレビのアラブ専門家オデド・グラノットによれば、トルコの現外相が著書の中で唱えたネオ・オスマン主義。
でも今更、アラブ諸国がトルコやイランなど非アラブ諸国の影響力増加を望まないでしょう。
(道楽Q)
(宮崎正弘のコメント)ネタニヤフもエルドアンも、したたかな政治家、二枚舌。厚顔。饒舌。しかしかれらは国益のために命がけのところは、日本の政治家どもが足下にも及ばないところでしょう。
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(読者の声2)マスゴミでは嘘か誠か菅内閣への支持率上昇(?)が報じられておりますが、ネットで面白い小話を拾いました。
「新しい総理大臣とかけましてオチを失敗した芸人と解きます」
――その心は?
「かんじゃいけないところでかんだ」
お後が宜しくなれば良いのですが。。
(MU生)
(宮崎正弘のコメント)カンカラカンとならんで座布団一枚。
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樋泉克夫のコラム
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――農民は反乱する
愛国主義教育基地探訪(その6)
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黒河の市街地を離れ、黒河駅を右手に次の目的地の孫呉に向かった。
2車線の舗装道路が真っ黒の肥沃な大地を一直線に走る。途中、拡幅工事がみられたが、いずれは上下4車線以上の幹線道路になるはず。ヒトやモノが奔流となって動き出したからこそ、である。
沿道には「緑色家園是我家 森林防火靠大家(緑の大地は我が家で 森林防火はみんなの務め)」とか、「厳禁占用基本農田 耕地実施特殊保護(基本農地の占用禁止 耕地に特殊保護実施)」などのスローガンがみられた。
防火禁止はともかくも、集落の周囲を囲むレンガ塀に書かれた「厳禁」の方の意味が判らない。
基本農田(農地)とは、特殊保護とは、いったい何を意味するのか。
基本農田の占用を厳禁するということは、占用が宜しくないことでありながら、その宜しくない占用が眼に余る。耕地に対する特殊保護を実施しなければならないということは、特殊保護をしなければ耕地が耕地としての役を果たせなくなっていることを意味しているに違いない。
だとするなら、この一帯では、本来は農地であるべき場所が農業以外の目的で長期にわたって占用され、強制的に保護しない限り耕地は次々に他に転用されてしまうのではなかろうか。
いつまでも実入りの良くない農業なんかしているより、トットと不動産開発業者にでも農地を売り払う方が手っ取り早い現金収入の道だ――こう考える農民が現れたとしても、決して不思議ではない情況が生まれているように思える。
やはり肥沃な大地と共に生きるなどという牧歌的な時代は終わりを告げ、新しい社会が出現しつつあるということだろう。
だが、かりに基本農田を占用しているのが地方幹部だった場合、いったい誰が耕地を特殊保護してくれるのだろう。
十中八九、あるいはそれ以上の確率で農民は泣き寝入りするしかないはずだ。法令を取り締まるべき立場の地方幹部が法令を破りながら、農民には法令遵守を求める。
中国社会の伝統であり、現実なのだ。これを昔から「只許州官放火、不許老百姓点灯(役人の放火は許され、人民は明かりを点けることも許されない)」といった。
中国には古来、「官逼民反」ということばがある。
官(=役人)というヤツは悪い。権力を嵩に国家・社会の財産(=公財)を使用して私腹を肥やす。こういう役人を貪官というが、貪官こそが役人の一般的生態であり、老百姓(=人民)のために働く清官と呼ばれる役人は砂浜で米粒を探すより難しいと、昔からいわれてきた。官は民を苛斂誅求し、塗炭の苦しみを嘗めさせるもの。
だから、痛めつけられるだけ痛めつけられ、苦しみの果てに忍耐の限界を超えた時、民が官に牙を剥くのは当然であり、むしろ正義・正当な行為だ。
これが「官が逼れば民は反す」であり、かくして「造反有理」ということになる。
現在、おそらく中国の全土で、基本農田を占用し、耕地の特殊保護を実施するわけもない地方幹部が少なくないはずだ。
いや歴史的に王朝の別なく、中国の官界は圧倒的多数の貪官と極く極く少数の清官で構成されてきたことを考えれば、こういった官界一般のDNAは現在もなお、しっかりと受け継がれていると考えるのが当たらずとも遠からじ。
孫呉への道中で目にした「厳禁占用基本農田 耕地実施特殊保護」の漢字16文字は、全土で年間10万件を越えるとも伝えられる農民の反乱を想起させるに十分だった。
(つづく)
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