現地従業員に選ばれる魅力的な企業であるよう企業側も努力することが大事だ。
すごく面白い記事だったので、紹介します。
アメリカにはアメリカ人のやり方があるし、
日本には日本人のやり方があるんだけど、
従業員が幸せそうにいきいきと仕事をしている
魅力ある会社にしないと人が黙ってどんどん
辞めていくというのは、あると思う。↓
アメリカの映画で、お昼休みにジムに行っている様子が
たまに出てくるが、どうしてそんなことができるのか
これで分かった!2時間も自分の判断で休めるんですね!
4時に帰ることもできるようだし、アメリカの会社の方が楽しそう。
でも、特に理由もなくクビになるというのも、
日本人には辛いかも。
映画でも、簡単に「ファイヤ~!」と上司に言われて
簡単にクビを切られている。アメリカでは、すぐに次の仕事が
みつかるんですね。それに、思ったより、学歴主義で
日本のように、高校も出ていない人でも実力があって
自分で社会に出た後で得た知識が豊富なら、
いくらでも上にのしあがっていけるということもないみたいです。
~~~~~~~
2010年6月4日発行JMM [Japan Mail Media] No.586 Extra-Edition2
http://ryumurakami.jmm.co.jp/
■ 『NEW YORK, 喧噪と静寂』第22回 (不定期連載)
「米国の雇用形態とオフィス・カルチャー」
□ 肥和野 佳子:国際税務専門職、ニューヨーク、マンハッタン在住
「米国の雇用形態とオフィス・カルチャー」
米国の会社で、フルタイムの正社員の雇用契約は一般的には”Employment at
will”といって、特に雇用契約期間を設けず、いつでも辞められるし、いつでも解雇
でき、解雇にあたって特に理由は要らないという契約になっている。報酬は年俸で決
まる。ボーナスは会社やポジションによって、ある場合とない場合がある。大きな会
社には401K(確定拠出年金)のほかに、企業年金があり、会社によって異なるが、
同じ会社に4年か5年以上勤務すれば企業年金を受け取る権利が付与され、年俸、職
位、雇用期間の長さによって、それなりの額の企業年金を引退後に受け取ることがで
きる。フルタイムの正社員は週40時間労働が基本だが、近年は子持ちの女性などは
正社員の職にあっても、週3~4日勤務とか、一日6時間勤務とか希望する場合は、
年俸を時給換算して、フルタイムより少ない額の年俸をもらうという選択もある。
フルタイムの正社員の雇用形態はExempted Employee(裁量労働)とNon-Exempted
Employee(非裁量労働)という種類があって、Exempted Employeeの場合はいくら長
時間働いても残業代はつかないが、その分、年収は高く設定されている。一般的には、
大学卒以上で比較的複雑性の高い職務の従業員はたいていExempted Employeeだ。
Non-Exempted Employeeの場合は残業すれば残業代がつく。残業代は通常の50%増
しの金額が支払われる。50%増しだと残業時間が多いと会社は人件費がかかるので、
残業には上司の許可が原則的に必要で、勝手に残業できない。マニュアルレーバーや、
高卒、短大卒、就業2年目までくらいの大学卒で、比較的仕事の複雑性が低く、責任
も重くない一般事務職などの従業員はたいていNon-Exempted Employeeだ。
Social Security Tax(社会保障税:日本の公的年金保険料にあたるもの)は、フ
ルタイム、パートタイムにかかわらず、従業員は給与所得がどんなに低い人でも自動
的に強制的に給料から源泉徴収される。Social Security Taxはグロス給与に対して
15.3%で、日本と同様に負担は会社と従業員が半分ずつ折半する。15.3%の
うち、FICA(年金保険)部分が12.4%で、Medicare Tax(高齢者が加入する
公的医療保険)の部分が2.9%だ。
FICA部分は課税対象となるグロス給与に上限があって、2010年の上限額は
$106,800。すなわち、グロス給与がそれ以上あっても、従業員のFICAの
負担額は$6,622($106,800×12.4%/2)以上になることはない。
Medicare Tax部分には上限はない。たとえば年俸が$200,000の場合Medicare
Taxは$2,900($200,000×2.9%/2)かかる。Medicare Taxは自分
が高齢者でなくてももちろん強制的に徴収される。パートタイムだからといって、日
本のように雇うほうも雇われるほうも公的年金保険料の支払いを逃れることはできな
い。この源泉徴収を怠ると、IRS(米国の税務署)からとても厳しく重いペナル
ティーが科せられるので、Social Security Taxの徴収漏れはほとんどない。とても
うまくできている。
米国ではパートタイム従業員は必ずしも安上がりな労働力ではないので少ない。エ
ージェントを使ってパートタイムを雇うことはあるが、時給は結構高いので高くつい
てしまう。一定の規模以上の企業が直接パートタイム従業員を雇う場合、年間一定時
間以上働く人には健康保険も有給休暇も与えなければならない。フルタイムの正社員
でも、特に理由がなくても自由に解雇できるし、Exempted Employeeならば残業代を
支払わなくてもいい。パートタイムは週に20時間だけとか、3ヶ月間だけとか、本
当に短期労働が必要なときに雇う。パートタイムよりフルタイムの正社員を雇うほう
が安上がりという構造になっている。
たとえば、ニューヨークの一般企業でパートタイムで、あまり経験の要らない簡単
な一般事務の仕事を、その企業と直接契約でする場合、時給は20ドル程度が相場だ。
エージェントを通すとその1.5倍くらいだろう。フルタイムの正社員として雇う場
合は、年収30,000ドルから35,000ドルくらいかと思う。まあ、32,0
00ドルとしてその年収をひと月20日間、1日8時間労働として時給を割り出すと、
16.7ドルになる。パートタイムでも長期間働けばベネフィットは付けなければな
らないので、時給20ドルのパートタイム職員を年間ずっと雇うことにメリットは特
にないのだ。したがって、労働市場には何歳になっても、男性も女性もフルタイムの
正社員の仕事はけっこうたくさんある。状況に応じてパートタイムの仕事もある。ち
なみに最近米国で行われた国勢調査のフィールド調査員の短期雇用の時給は25ドル
だった。
オフィスでは、従業員の階層はけっこうはっきり分かれている。それぞれ職務上、
求められるものが違うので、職務の階層が違う人とは仕事以外の交流は少ない。ラン
チを一緒に食べることもあまりない。それくらい役割分化、階層分化がはっきりして
いる雰囲気だ。
いわゆる専門性のない一般事務職の人は、高い教育が求められず、年収も低い。出
世もなく万年同じ仕事をするだけで、長年勤務しても上限があって一定の年収以上は
あがらない。専門性が高く、一定の権限を持つ職務の人は大卒以上は当然で、大学院
卒も多い。年齢に関係なく最初から一般事務職より上のポジションで入ってくる。学
歴主義はかなり厳しい。たとえば大卒でない人が、大卒以上のポジションと決まって
いる職務に内部昇進したい場合は、いくら仕事ができてもだめで、大卒の学歴をまず
とってこなければならず、働きながら夜間の大学に通ったりして(会社によって学費
補助が出る)、ようやく昇進を果たすことがある。
多少の職歴があり、いわゆるレベルの高い経営学大学院のMBA(経営学修士)な
どをもつ人が入ってくる場合は、最初からVP (Vice President)のポジションで
入ってくる。Vice Presidentというのは、日本で直訳されて「副社長」と書かれてい
ることがたまにあるようだが、全くそれは誤訳で、日本で言う「副社長」では全くな
い。会社にもよるが、あえていうなら「係長」くらいのものだ。これは単に、職務の
階級を示すもので、職務1級とか2級とかの目安みたいなものだ。部下が誰もいない
VPもいる。ちなみにFirst Vice President, Senior Vice President, Executive
Vice Presidentとかいろいろあって、ただのVice Presidentというのは数あるVP職
の中では低い職位で、30歳代の若い人が多い。
米国の企業では、雇用されるときから、職務はある程度明記されていて、自分の一
定量の仕事の範囲・権限の範囲がかなりはっきりしているので、その日にすべき自分
の仕事が終わったら帰るのは当たり前のことで、仕事がたまっている他人の仕事を自
ら手伝うということはない。そんなことをしたら、誰がやった仕事かわからなくなり、
責任の所在がはっきりしなくなるのを避けるためでもある。日本では個人の仕事の範
囲があまりはっきりしていなくて、自分の仕事が時間内に終われば、探してでも別の
仕事をしたり、終わっていない他人の仕事を引き受けたりするのが美徳とされること
もあるようだが、米国の企業ではそのようなことはほとんどない。
Exempted Employeeである場合、時間給で雇われているわけではないので、就業時
間も柔軟性がある。午前9時から午後5時までとか一定の就業時間の原則はあるにし
ても、基本的に出退社や休憩時間は個人の判断で決めることで、こと細かに会社に管
理されることはない。もちろん、急ぎの仕事があるときや必要のあるときは、昼休み
も取れないくらい仕事をしなければならないときもあるし、夜遅くまで帰れないとき
もある。残業代がつかないかわりに、Exempted Employeeの従業員は働く時間の自由
裁量がある程度あるわけだ。具体的には、忙しいときに長時間働くこともあるのだか
ら、たいして忙しくないときは、たとえば4時台に帰ってもかまわないし、特別理由
のあるときは“Work from home”といって、パソコンを持ち帰って今日は自宅勤務に
することもあるのが普通の米国のオフィス・シーン。
私は会計監査の仕事で、いろいろな企業を見てきたが、それぞれの企業で求められ
るものは違うが、一般的には、従業員の帰りは皆早い。午後6時にはオフィスにはも
う誰もいないというところが多い。Exempted Employeeは残業代は出ないので、上か
ら下まで誰もが不必要な残業はしない。必要な残業はもちろんやる。いくら長い時間
働いても意味はなく、実際結果が出せなければ解雇になるだけだ。不必要に遅くまで
残っている米国人は家庭不和で家に早く帰りたくない人くらいだ。
ちなみに、私の夫はそれなりの責任のあるポジションに就いている人だが、だいた
い午後5時過ぎにはオフィスを出る。早い時には4時代に出る。9時から5時までが
いちおう就業時間ということになっているが、彼は朝型なのでいつも午前8時過ぎに
はオフィスに入っている。だから、仕事さえしっかりこなしていれば、別に4時代に
オフィスを出てもかまわないのだ。彼の上司は朝は苦手でいつも午前10時過ぎに来
て、午後6時過ぎに帰るそうだ。
昼休みのとりかたも日本と違う。12時半ごろからとる人が多い。昼休みは12時
から2時の間の任意の1時間程度というのが一般的。仕事をさっさと済ませて早く家
に帰りたい人は、15分くらいでランチを済ませて、その分、早く家に帰る人もいる。
昼休みにフィットネス・ジムに通う人もたくさんいて、Lunchtime gym goerは、たい
てい昼休みを90分くらいとる。 基本的に週に40時間働いて、ちゃんと年収にみ
あう、やるべき仕事をやっていればそれでよいのだ。ちなみに私の夫が以前働いてい
た別の上司は、毎日2時間昼休みをとってジムに行って、そのかわりいつも朝早く7
時代にオフィスに来ていたそうだ。
米国にある日系企業の場合、日本のままのオフィス・カルチャーをひきずっている
ところもあり、米国現地社員の不評を買うことも少なくない。たとえば、私の友人
(永住権をもつ40代の日本人女性)の例だが、NYにある某日本企業で、彼女は自
分の仕事が終わればさっさと帰るのが普通で、彼女の上司(日本人男性)が、あると
き、「下の者がまだ忙しく働いているのに、上に立つ者が先に帰るべきでない。」と
言った。彼女は「役割が違うのだから、忙しい時期がずれるのはあたりまえ。彼らが
した仕事が終わってからそれが正しくできているかチェックをするのが自分の役割。
私が忙しい時期はこのあとに来る。データ・インプットの仕事は私が手伝える仕事で
もないし、居残る理由はない。」と答えたそうだ。
彼女いわく、「基本的には上司こそ早く帰るべきと思う。 上司がいつまでも居
残っていると下が帰りにくい雰囲気をつくりだしやすい。上司こそロールモデルとし
て、効率よく効果的に仕事をして、てきぱき仕事をこなして、早く帰るべき。そして
家族思いのハッピーな家庭を運営すべき。上がハッピーそうにしていないと、下の者
は、上になってもこの会社では幸福になれそうにないなあ、この会社で働き続ける意
味はあるのだろうか、と疑問に思うことになる。」と。その半年後に、彼女はその会
社をさっさと辞めて米国の会社に移った。
また、別の例では、某日本企業の日本人の上司が、Exempted Employeeの部下(3
0代の米国育ちの日本人男性)に対して、「デスクを離れてからデスクに戻るまで昼
休みは60分以上とるな。医者にいくとか特別な事情でもなければ、昼休みは60分
以上、席をあけるな。アメリカといってもここは日本の会社だ、勘違いするな!」と
怒鳴った。
彼は昼休みにはジムで体を鍛えるのが日課だった。彼がそれまでに勤務していた米
国の会社では、それはあたり前に認められていることだった。デスクを離れてから、
デスクに戻ってすぐ仕事を始める状態になるまで60分しかないとなると、ジムが近
くのビルにあっても往復の時間と着替える時間などで30分弱かかるので、実質30
分しかトレーニングができない。 それでは効率が悪い。彼は、HR(人事部)に訴
えた。Exempted Employeeの従業員が昼休みのジム通いで75分休もうが90分休も
うが、特に急いでやらなければならない仕事がないのであれば時間管理は本人の自由。
勘違いなのは、この上司、当の本人ということで、彼の上司はHRから注意を受けた。
いくら日系企業でも米国で仕事をする以上、米国の労働法やオフィス・カルチャー
に従わなければ、従業員に訴訟を起こされるリスクがある。 日系企業の場合、実際、
けっこうなリクルートコストをかけて、せっかく人を採用してもオフィス・カル
チャーがあわなくて有能な従業員に短期間で辞められてしまうことは少なくないよう
だ。つい最近も、日系の金融機関で働く日本人駐在員男性が、「米国人のディーラー
が3人も急に辞めて、残った自分は大忙しで、昼休みに歯医者にも行けない。」とぼ
やいていた。
日本と違って、米国の労働市場は流動性が高く、次の仕事は比較的簡単に見つかる
ので、自分の実力に自信のある人はひとつの会社にしがみつく必要などないのだ。長
く勤務することに大きなメリットもない。従業員は条件のよいところにどんどん移っ
ていく。うかうかしていると、日系企業では解雇は少ないので、長く働いているのは
他の企業では同じ年俸では雇ってもらえないような労働市場価値の低い従業員ばかり
ということになりかねないリスクもある。
日本の企業は欧州、北米、南米、アジア、オセアニア、アフリカと世界へどんどん
進出せざるを得ない状況になっている。郷に入れば郷に従え、どこの国へ進出するに
してもその国のカルチャーを尊重し、現地従業員の満足度を高めないと、優秀な人材
を集めることができず、他国の企業に遅れをとることになるかもしれない。現地従業
員に選ばれる魅力的な企業であるよう企業側も努力することが大事だ。
--------------------------------------------
肥和野 佳子(ひわの よしこ)
ニューヨーク、マンハッタン在住。国際税務専門職。東京大学大学院法学修士。19
88年から米国在住。1990年、米国の大手監査法人KPMG入社。監査部門で2
年経験後、税務に従事。2000年よりEASTON, Inc.経営。
JMM [Japan Mail Media] No.586 Extra-Edition2
【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】128,653部