軍事情報
●シナ海軍ヘリのわが「すずなみ」への接近
Q(高志さん):中共海軍の動きを監視する我が方の「すずなみ」に敵(?)ヘリが90米(朝日新聞は100米)にまで近づいたというというニュースですが、飛行機と違ってヘリの場合は特別の決まり(国際法上の)があるのでしょうか。
A(ヨーソロさん):ご質問の件、国際法には何も規定されていませんが、東西冷戦当時に米ソ間で取り決めた 相互の取り決め「米ソ海上事故防止協定」があります。
不慮の事故が武力紛争に発展しないようにするための最低限の協定でしたが、あくまで紳士協定に過ぎず、その後も艦艇同士の衝突事故や体当たり進路妨害なども起きました。
でも、双方が抑制して発砲には発展しなかった、と思います。
このルールは、当然にNATO諸国をはじめ東西両陣営がそれを行動の規範にしたので事実上の世界標準になりました。
艦艇同士は1000m以上近づかない、航空機は直上を通過しない、等があったように記憶していますが、残念なことに私は詳しい内容を忘れてしまいました。
ヘリと固定翼機で扱いが異なるような記憶はありません。
以上、ヨーソロの管見でした。
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◎ 本の紹介:『戦略論の原点』
● 本の紹介
沖縄南西沖でシナ艦隊の艦載ヘリ「Ka-28」がわが「さざなみ」に接近した件に
ついては統幕発表記事もご参照ください。
⇒ http://www.mod.go.jp/jso/press2010.htm
(日本のお姉さんより。→読みたくても重くて開かない。チュウゴク人が大勢で妨害しているのかも。ヒマな時に読んでください。3月12日と3月19日と4月13日発表の記事に、チュウゴク軍の日本の自衛隊に対する挑発ともとれそうな「めっちゃ偉そうな態度」がみうけられる記事が載っています。)
南西方面へのシナ艦隊展開についてはこれまでも何度かお伝えしてますが、2007年にも、沖ノ鳥島近辺では同規模の部隊が展開したことが明らかになってます。高知沖でシナ潜が出没したとの話も以前ありました。
継続的に彼らが太平洋進出の足がかりとなる沖縄周辺海域のコントロール能力確保を図っているのは明白で、各方面の専門家は10年以上前から口をすっぱくして「政財界向け」に対シナに関する国防安保面からの警告をしてきました。
いまや必要な対応や法整備をしなければならない段階ですが、現政権は同盟相手米の戦略的要衝であり、わが抑止力ともなっている在沖米軍の移設課題を、内政問題(それも地方自治)として扱い再び火をつけてしまいました。今の時期に抑止力低下をまねかんとするにいたった現政権の失政は歴史の汚点を免れません。
さてきょうは、新しい戦略理論構築に向けたたたき台ともいうべき、
とてもわかりやすいのにものすごく役立つ本を紹介します。
わが国は軍事専門家の真摯な発言すら「弾圧」の対象になる妙な国なので戦略家は存在しえません。しかし、このままいくと権力を操縦する場に就いた戦略観のない素人が意図不明の戦略を実行し、国を滅ぼすことになりかねません。少しでも早い段階で民が主導して戦略理論構築、戦略家の準備を行っておく必要があると思います。
この戦略家は、上は政治補佐から下は国民啓蒙までの役割を果たせる点に存在意義があります。公が主導しないからできないという言い訳をする段階ではもはやないと思います。
(誰も知らないところで、すでに準備されているのであれば結構なことです)
以下は、興味のある方用の記事。↓
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『戦略論の原点』
J.C.ワイリー(著)奥山真司(訳)
芙蓉書房出版
2010年2月26日発行
http://tinyurl.com/y49grg6
■クラウゼヴィッツ以来の戦略家
<成功する戦略家というのは、戦争の性質、配置、タイミング、そして「重心」をコントロールし、そしてそれによって生まれた戦争の流れを自分の目的のために利用できる人のことを言うのだ。>(J.C.ワイリー)
ワイリーさんという米海軍の元少将が書いたこの本。出版されたのは1966年(昭和41年)。原著は小冊子?とみまがうばかりの小さな本です。ところが出版当時から古典として通用する内容をもっていたようです。
海外の戦略アカデミズム動向に詳しい訳者の奥山さん(地政学者)によれば、「業界での扱いも実に地味でマイナーな部類に入る本」だそうですが、内容はきわめて秀逸、というより突出して優れた内容といわれます。
実際読んでみると、あっけないほど読みやすいのに、これまでにない何か新たな視野が開けた感を持ちます。これまでの経験からみて、これは特別に優れた内容であることを示す証左です。
本著あとがきでは、現在世界最高の戦略家とされるグレイさん(『戦略の格言』の著者)が、提出された戦略総合理論の重要度順でクラウゼヴィッツ以下の戦略家9名を評価した番付が紹介されています。
(1)クラウゼヴィッツ(2)J.C.ワイリー(3)エドワード・ルトワック
(4)バーナード・ブロディ(5)B・H・リデルハート(6)ラウル・カステ
ックス
(7)レジナルド・クスタンス、ジョン・ボイド、毛沢東
(ちなみに7位の3名は上位6名とは格の違う存在として扱われているようです)
というもので、ワイリーさんはクラウゼヴィッツに次ぐ存在として評価されています。本著についてグレイさんは、「ワイリー以前の理論のエッセンスを簡潔かつ見事にまとめ上げて解説したこと」「自らの総合理論を提出したこと」という二つの偉業を高く評価し、「過去百年以上にわたって書かれた戦略の理論書の中では最高のものである」と絶賛しています。
■J.C.ワイリーという人
元米国海軍少将で、大東亜戦争にも出征しています。
本著より履歴を転載します。
<J.C.ワイリー(Joseph Caldwell Wylie)
1911年生まれ。米国海軍の元少将。1972年に退役。マハン、ルース以来の現役軍人としての戦略思想家。第二次世界大戦の太平洋戦線では、ガダル カナルの諸海戦や硫黄島戦で最新のレーダーを駆使して日本海軍と対峙。戦後 は陸海空の指揮系統を統一して相互の協力関係を進める統合作戦の推進者として有名になる。本書の他にも数多くの論文を専門誌に発表しており、米国軍内、特に海軍の士官教育や現代の軍事革命(RMA)の議論における思想的影響は大きい。1993年没>
まえがきでワイリーさんは、
<私はアマチュアの戦略家を批判しない。その逆に、私はむしろ戦略というものは、すべての人々が関心を持つべきものと確信している。戦略にはあまりにも多くの人間の命がかかっているため、合法的で公共的な問題であることが認識されなければならない>
と述べ、
<しかし私は社会の動向にハッキリとした影響を及ぼすこの戦略というものが「でたらめで規律のない、単なる知的な遊びである」という意見には反対である。なぜなら私はこの知的活動を進歩向上させることができると強く信じているからだ>と続けます。
そして本著が模索するものは<理路整然としていて建設的な戦略の考え方の基礎となる戦略の総合理論>であると明言します。
■戦略とは
ここで戦略という言葉の定義が必要になると思います。
わが国では戦略なることばが非常に情緒的に使われており、その意図するところが使う人ごとに微妙にずれているのが実情と思います。
「戦略」に関わる語彙が少ないのは執筆当時の西洋でも同じだったようで、ワイリーさんも本文中で嘆いています。
ここで使われている「戦略」という言葉は、本文でワイリーさんが、そしてあとがきで奥山さんも指摘するように「戦争で最終的に勝つためのアイデア」であり「戦争に勝つための理論」という意味です。「敵との戦闘に勝つために必要な計画である【戦術】」とは明確に区分しておかなければいけません。
これは非常に重要です。はじめにこの定義を頭に叩き込んでおかないと、とんでもない誤読をしてしまいかねません。よくよくご注意ください。逆にいえばこの点さえきちんと抑えれば、大変大きな知的資産をゲットできるということになります。
■まったくなかった戦争研究
ワイリーさんはまず最初に、戦略のコンセプト・理論の存在に気づいた人(=戦略思想家)は歴史上確かにいたが、その数はあまりに少なかった。こういう戦略思想家の頭脳の動きを少しでも理解できれば、その理論を詳しく分析できる、と考え、戦略思想家が使う考え方のパターンを分析し、彼らがどういう考え方を使っているかを推測したいと述べます。
具体的にいえば「戦略思想家のよりよい理解」「彼らは何故このような意見にたどりついたか?」「なぜ将軍は兵士のように考えるのか?」「なぜ提督は水兵のように考えるのか?」「なぜ飛行機乗りは水兵や兵士とは別の考え方をするのか?」「これらのうちどの考え方がどの状況に一番当てはまるのか?」といった疑問に応える内容となります。
ひとことでいえば、軍種ごとの意識や考え方の相違の根本を見極め、よりよい戦略づくりに資するための「総合」に必要な理論枠組みをいかに作るか、が理論立ち上げに当たっては重要なんだ、ということでしょう。
残念ながら学者はこういう事から目をそむけ、無視を続けてきたため、「戦争研究」はそれまでまったく行われてこなかったとも指摘しています。
<すべての社会的知識の発展というのは、あるひとつの分野において人間の考えと行動の謎を解明しようとした人物達により、体系化された研究の成果としてあらわれてきたのだ。しかしこの中にはたった一つだけ、ある分野の研究が欠けている。これは驚くべきことなのだが、人間の活動のさまざまな分野、たとえば政治、経済、社会、精神などの研究の中には、社会的混乱を巻き起こす「戦争」というものの研究が含まれていなかったのだ。研究(そして実線)する人々によりよい理解を与え、しかも今までやこれからの戦争にも影響を与えることにつながる考え方の基本パターンや理論というものを、根本的かつ体系的な客観性にもとづいて行う「戦争の研究」というものは、これが国民や国家が生きるか死ぬかという根本的なところに影響を与えるにも関わらず、今までまったく行われてこなかったのである。>
クラウゼヴィッツやマハン、ジョミニ等の偉人とされる人の研究成果についてはこう評価しています。
<彼らにほぼ共通して言えるのは、特定の戦争の細かい事実や、統計などを研究してうまくやりくりした、ということだけなのだ。彼らの中では、なぜ戦争がそのようなやり方で行われるのかという疑問を明瞭にした者は一人もいない。なぜ兵士は兵士のように考えるのか?なぜ水兵は水兵のように考えるのか?なぜ飛行機乗りは飛行機乗りのように考えるのか?>
■3つの柱
ワイリーさんは本著で何をしようとしているのか?
の柱は以下のとおりです。
1.戦闘について議論するのではない。扱うのは「戦争」だ。「根本的かつ実践的に戦争を研究することは可能である」ことを示したい。戦争全体が研究される必要があるのにその研究は驚くほど数が少ない。大きな戦争研究の枠組みを作り上げる必要がある。そのため戦争という現象を一般化し、概念を形成し、誰も足を踏み入れたことのない研究分野にリスクを恐れず挑戦したい。
2.根拠もなく「戦略研究は門外不出だったので今まで誰も研究を行うことができなかった」といわれているが、戦略には秘密などない。戦略研究に当たっては、閉鎖的な知的活動ではなく、外部からのアイデア受け入れが必要である(もちろん国家機密漏洩は論外だが)。戦略的思考の基本パターンを何か秘密のものとして考えるべきではない。こういうパターンを多くの人が知れば知るほど、戦略的決断を行う際の民主制度は健全となる。
3.戦略を自然や物理のような「科学」にすることができるとは主張しない。
戦略そのものは科学ではないが、戦略判断は科学的であるといえるかもしれない。
次にそれまで使われてきた手法の批判を経て自分が採用する分析手法を提示します。ここにワイリーさんの独創性が顕れてきます。
「累積戦略」と「順次戦略」です。
■累積戦略
戦争は「順次戦略」と「累積戦略」がお互いに依存しながら同時進行で行われるもの。しかしこういう観点から戦争を分析した戦略書は存在しない、とワイリーさんは指摘します。
そして、目に見えない「累積戦略」を目に見える形にして、的確に判断できるようにすればこれまで偶然に任せられていた「戦略の重要部分」のコントロールが可能になる、とします。(本著は本編以外に20年後に書かれたあとがきも含まれていますが、そのなかでコンピュータ技術の発達が、累積戦略の実用化に多大な好影響を与えることになろうとしています)
「累積戦略」の理解はきわめて重要と思います。21世紀の戦争はこの理解なしに把握することは不可能ではないかとすら思います。本著のようなわかりやすい解説書で累積戦略を学ぶことができは本当にありがたいことです。
累積戦略を取り上げたのは海軍出身のワイリーさんならではの視点と思いますが、その典型は潜水艦戦です。
マーケティングの世界にお詳しい方でしたら「ティッピング・ポイント」という言葉で示される「積み重ね効果」がピッタリくるかもしれません。
「それまで何の効果も認められないままひたすら小さな成果を積み重ね、ある段階に達したところで突然一気に効果を発揮する」というものです。
累積戦略のもたらす効果や意味については、専門家の世界ではすでに常識でしょうが、アマチュアレベルでこの戦略を意識的に把握している人は、いまでもほとんどいないのではないかと思います。
順次戦略については、本著をご覧ください。
あわせて重要なのが、本著のテーマともなっている「総合戦略構築」に向けた既存の戦略理論の考察です。
■4つの分類
ワイリーさんは戦略理論を次の4つに分類して深く考察を加えます。
「クラウゼヴィッツやジョミニに代表される陸軍の大陸理論」
「マハンやコーベットに代表される海軍の海洋理論」
「ドゥーエに代表される空軍の航空理論」
「毛沢東・ゲバラ・ザップに代表されるゲリラの毛沢東理論」
ワイリーさんの目指す総合戦略理論は「戦争に勝つためのアイデア」ですから、各軍種がそれぞれ「戦争に勝つための理論」を持つわけで、それぞれを深く考察することが、総合戦略理論構築には必須となります。
ここでは、著者も想定しなかったであろう思わぬ拾い物がありました。
陸海空のそれぞれの理論のエッセンスを通じ、各軍の相違の何たるかが、きわめて明快かつ論理的に説明されていることです。これに類するものを私は見たことがありません。相違点がどこにあるかがわかれば、総合への道は開けますし、軍事について語る専門家たちが、いったいどの理論のところに所属する人かをわきまえてその発言を受け止め、咀嚼できるようになります。
この第5章は予期せぬおまけがあるお得な章といえましょう。
■オススメです
その後、総合理論構築に話は進み結論が導かれます。
ここから先は本著でお確かめください。
なお冒頭から結論が出るまでのページ数ですが、なんと121ページしかありません。本当に薄いです。でも内容は本当に濃いです。
本著では本編の他、先ほどチラッと書いた「20年後のあとがき」や参考記事3篇、ワイリーさんの詳細なバイオグラフィーが書かれたイントロダクション、そして最大の売りとも言える「奥山真司さんの解説」があります。
奥山さんの解説は、まさに手取り足取りで痒いところに手が届くものとなっています。本の冒頭から読み始めるのもいいでしょうが、私個人としては、奥山さんの解説から入り、見取り図を手にしてから本編を読み始めるとより多くの養分が吸収できると思いますので、こちらがオススメです。
本著は、「総合戦略の設計をいかに行うか」の手順を一から示した、総合戦略のパイオニアの手になるたたき台です。それでいながら抽象化が十分なされており、実務的であることと理論的であることのバランスの取れた「一級の仕事師の作品」と感じる内容です。
びっくり仰天するような新理論が提示されているわけではないので、誰かの理論に寄りかかって楽をしたいという人には向かないかもしれませんが、総合戦略理論はどのようにして生まれ、どのように発展し、どのように落とし込まれてゆくかの道筋をトレースし、その過程で軍事リテラシーを満たしたい人にとっては、これ以上ない作品といえます。
戦略思考のパターン習得を通じ、コントロールの妙味を会得したい方すべてにも読んでいただきたい本です。
索引がきちんとついているのもうれしいです。
(エンリケ航海王子)
【もくじ】
まえがき
1 戦略思想家と戦略
2 戦略研究のための分析法
3 累積戦略と順次戦略
4 戦略理論の肯定
5 今までの戦略理論
(1)海洋戦略理論
(2)航空戦略理論
(3)陸上戦略理論
(4)毛沢東の理論
6 今までの戦略理論の限界
7 総合理論の根底にある想定
8 総合理論の発展
9 理論を応用するための教訓
10 結論
【参考記事A】「太平洋戦争を振り返って」からの抜粋
【参考記事B】海洋戦略について
【参考記事C】なぜ水兵は水兵のように考えるのか
イントロダクション(ジョン・ハッテンドーフ)
訳者解説とあとがき(奥山真司)
索引
次回もお楽しみに
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☆ 編集・発行人:エンリケ航海王子(おきらく軍事研究会)
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