子供手当は日本経済にどのような貢献をするか? | 日本のお姉さん

子供手当は日本経済にどのような貢献をするか?

一部、抜粋した記事です。全文は、JMM [Japan Mail Media] のメルマガを購読して読んでください。↓

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2010年3月8日発行
JMM [Japan Mail Media]    No.574 Monday Edition
▼INDEX▼

 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

  ◆編集長から

  【Q:1101】

   ◇回答(寄稿順)
    □北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
    □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
    □中空麻奈  :BNPパリバ証券クレジット調査部長
    □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
    □三ツ谷誠  :金融機関勤務
    □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
    □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
    □津田栄   :経済評論家
    □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

   村上龍

■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
 ■Q:1101
 民主党政権の目玉とも言うべき「子ども手当」ですが、具体的に、日本経済にどの
ような貢献をすると考えればいいのでしょうか。

※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。

 ■ 北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

 日本経済というよりも日本社会への貢献を考えるべきではないかと思います。

(カット)
 ところで、「子ども手当」というと、すぐにお金を貰った親がパチンコに行く云々という話が出ます。むろん、そういう親もいるでしょう。しかし、それが決して全てではない。昔、消費税を導入する時も、似たような話がありました。子供が百円玉を持ってお菓子を買いに行ったら3円足りないと言われて泣いたという。そういうことも起こりうるでしょうが、それもすべてではない。私自身は、「子ども手当」は、「子育て」という仕事に対する賃金だと考えております。そして、その賃金を支払うのは、やがて社会人になる彼らによって恩恵を受ける我々納税者全員であると考えればよいのではないかと思います。その点を、民主党が、どう考えているかは知りませんが、子ども手当が貢献するのは、日本経済のみならず日本社会であると考えたいと思っております。

 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一

------------------------------------------------
『財政学』神野直彦・著/有斐閣
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4641162980/jmm05-22 )
『“35歳”を救え』NHK、三菱総合研究所・著/阪急コミュニケーションズ
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4484092433/jmm05-22 )
『日本「半導体」敗戦』湯之上隆・著、光文社
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334934692/jmm05-22 )
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 子ども手当の貢献については、様々な視点から見ることが出来ると思います。

(カット)それは、短期的に見ると、子育て家庭を支援することで、そうした家計の経済環境を好転させる効果があるはずです。
(カット)
子ども手当ての支給が、少子化対策として、それなりの効果があることは確かでしょうが、実際にどれだけの効果があるかは、実際に実施してみなければ分からないというのが本当のところだと思います。

 少子化問題に対峙するためには、子ども手当の支給等の政策に加えて、子どもに対する社会的なファシリティーの拡充や、社会全体が子どもを大切にする意識を高める必要があると思います。最近、子どもを持った友人の一人は、「赤ん坊を抱えて電車やバスに乗っても、席を譲ってくれる人はとても少ないなど、日本の社会は、子どもを育てるには厳しい環境」と言っていました。社会全体として、子どもを大切にするカルチャーを育てる必要がありそうです。

(カット)
 もう一つ、現在の民主党政権の経済政策に関して不安を持っている点があります。
それは、政府が、家計へのベネフィットの供与を重視する一方、わが国の産業振興に対する意識が低く見えることです。家計、特に子どもに関するベネフィットに、高い優先順位をつけることには異論はないのですが、わが国社会全体に経済的価値をもたらしてくれる企業を、強くする視点も忘れるべきではないと思います。

 国は、実際に働くことはできません。収入は基本的に税収になります。その税収の源泉=付加価値を作るのは、主として企業になるはずです。規制緩和や特定分野の税負担の軽減など、民間企業が実力を強化することができる環境を整備することも必要だと思います。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫
━━━━━━━━━━━━━

 ■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長

 子供手当てはなんらの効果ももたらさない、意味のない政策である、と考えます。

結果として、子供手当ての名のもと、ばらまき政策をするだけの話ではないでしょう
か。(カット)

 子育て世帯が月々2万6000円もらうと、まず何をするか。どうせパチンコに
使ってなくなってしまうという批判は極論だと思いますが、一般的には貯蓄すること
になるのではないでしょうか。

(カット)

月々の手当を当てにして、子供が増えるかというと、そう簡単ではない気がします。少子化が進む理由は、やはり、個人に様々な選択肢が与えられたぜいたくな結果であり、個々の違いがもたらした意識や価値観の違いを、月々2万6000円で変えるには無理があると言えるでしょう。

 しかしながら、そうはいっても、子育て世帯への税制優遇度は、「子ども無し単独世帯」の税負担率(総所得に占める%)から「稼ぎ手1人子ども2人世帯」の税負担率を差し引いて、総所得額の何パーセント分優遇されているかを見るデータでは、ドイツなどが上位に入り、大体2割前後だそうです。日本は、同比率3.1%で、上位
国と比べるとまだ改良の余地がありそうです。そのため、子育て世帯に対する世帯間の平等が図られることには、ある程度の意味はあり、まったく否定するわけではありません。世銀・OECDのデータでも、子供向け公的支出の対GDP比率が増えると、出生率があがる傾向が見受けられるのも事実。長い目で見たときに、子供を生むと出費が増えるという将来に対する漠たる不安が、援助が得られるという安心感が与えられることで、少しずつ変化していく可能性が大きくなることは事実だからです。ちなみに、日本の2008年の合計特殊出生率は1.37%ですが、かといって、これが2.0%に達するほどの効果ははいのではないでしょうか。

 一方、マイナス面を考えると、なんと言っても、財政赤字の累積債務を増大化させるということだと思います。私は先週の問いに対して、既に子供自身は目先の配賦金より将来の支払いを避ける選択をするのではないか、との考え方を示しました。以下を再掲します。

 財政赤字があっても大丈夫、それは外から資本が入ってくる、という米国型になるのならまだしも、日本という国の競争力や価値さえ沈下しているようにも思える中、それは到底無理でしょう。だとすれば、財政赤字1000兆円をいかに減らすべきなのか、考えるべきでしょう。取れるところから取る歳入増加策は、それでも万策尽き
た感がありますし、国際競争力を考えれば法人税はむしろ下げるべきとき。消費税が上げられないなら、歳出を絞っていくしかありません。財政赤字が増えすぎた結果、我々の子供たちが、更に巨額の増税に耐えていかざるを得ないのだとすれば、目先の子供手当てより、プライマリーバランスを取っていく方向に変えていくことの価値がどれ程高いか、理解されるのではないでしょうか。

 子供手当ての財源は初年度で2兆2500億円、翌年からは倍の4兆5000億円ほど必要になると言われています。財源不足に対し、民主党は扶養控除と配偶者控除の廃止を充てるとしていますが、これによって得られる税収増は扶養控除8000億円、配偶者控除6000億円と子ども手当の必要経費にはるかに及ばないものとなっ
ています。ということは、プライマリーバランスは崩れるし、財政赤字の累積に貢献してしまうことになります。そちらの方が結果的に社会の活力や国家の競争力を削ぐことにつながる危惧はあるのではないでしょうか。よって、“子供手当て”は、何らかの政策的意義より、ばらまき政策による合成の誤謬をもたらすことになるのではな
いかと、懸念しないではいられない、と言うのが私の見方です。

                  BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 子どもがいることを契機として、家計にプラスの給付を与えるという政策なので、子育てという行為に対して社会が金銭的なインセンティブを与えることになります。
少子化、はどめのかからない人口減により、社会の様々な局面で悪影響が指摘されていますので、子ども手当てはこの問題にたいする有力な回答であるといえます。付随的には、給付されるのは子育て中の若夫婦といった消費性向の高い世代に対してでしょうから、ここへの給付を高めることにより、マクロ的な経済刺激効果も期待することになります。

 子育て支援の政策としては、家計直接給付よりも、給食費支給だとか、保育園の拡充といった対策のほうが望ましいという意見もあるようです。しかし、「パチンコに使われてしまうかもしれないので、けしからん」というのは瑣末な議論で、一部の子育て家庭でレジャーに使う費用が増えたとしても、子育てにたいしてインセンティブ
が上がってさえいれば、それは望ましいことと考えるべきでしょう。後者のような行政を通じた支出は、効率性に問題がある行政の肥大化、官僚権限の拡大につながりかねないので、受益者に直接お金を渡すと言うのは非常に合理的な方法のように思われます。

(カット)
                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 三ツ谷誠  :金融機関勤務

「ねずみ講的構造と子ども手当て」

 唐突ですが、なぜ「ねずみ講」的な詐欺が後を絶たないか、というと、「ねずみ講」はその名の通り、子や孫がねずみ算的に増える過程においては、その段階で会員になった人々を潤す構造上の強みを抱えているからだと思います。

 例えば年金財政というようなことを考えた時でも、常に年金が受給者を大幅に上回る新規加入者を確保できていくのならば、その破綻もまた遠いものになります。国家にせよ、家にせよ、その意味では将来、成人した際に高齢者層を支える子供たちが増えることは、ねずみ講構造の中で問題解決の道筋を示す一つの答えになると感じます。

 また、彼らは、生産者や年金負担者、税金負担者というだけではなく、当然の事ながら消費者としても存在していくので、文化や習慣を同じくする国民として、国民経済の中で極めて大きな役割を果たす事が想像されます。もし、我が国経済の停滞の一因が人口動態的な構造の問題でもあると考えるならば、少子化の克服こそは、最大の経済刺激施策でもあると感じます。

 実際、「子ども手当て」で支給される2万6千円という金額は、現実に小学生の子どもを持つ親の感覚としても非常にありがたい金額であり、お金がない、という理由で子どもを持つことに躊躇している層には強く働きかけるのではないでしょうか。また、高校の無償化政策とも併せれば、二人ではなく、三人、四人となるべく多くの子
どもを持とうとする誘因にもなるでしょう。

 更に、実際に子どもを生み、育てる層が増えることで、社会が健全化、安定化していくということも考えられると思います。子どもを育てるということが、常に変わらぬ生物としての根源的な喜びである以上、人間を個人に還元していく傾向・性格・動を持つ資本主義の世界において常に蔓延るニヒルな思想が社会を不健全なものにす
ることを、子どもたちの笑い声が防いでいく世界が想像できます。

 ねずみ講的な構造を担保するには、他にも移民政策という有効な手段があると思いますが、移民政策の前に少子化を克服するための政策が求められるでしょうし、「子ども手当て」には、その力があると感じます。また、国家が資本主義的な世界に優越する機構であることの意味も、このような政策にこそ求められるのではないか、と感じます。

                           金融機関勤務:三ツ谷誠

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 これだけ単純明快でありながら、目的も効果も不明確な政策も珍しいといえます。

「少子化対策」、「所得再分配政策」、「経済対策」、「教育投資政策」など、政策の持つ様々な側面と効果が指摘されますが、そのこと自体が政策の不明確さを象徴しているといえます。さらに、それぞれの観点から見ても、政策の目的も効果も中途半端と評価せざるをえないばかりでなく、明らかに逆効果と思われる弊害も少なくあり
ません。

 ここでは、「少子化対策」と「教育投資政策」の観点からのみ、政策としての貢献を考えたいと思います。所得再分配あるいは経済対策の観点から「子ども手当」の政策の貢献を論じること自体が、こうした不明確な政策を是認する論拠と混同されるおそれがあり、不適切と考えるからです。

 まず、少子化問題については、人生観や生活観の多様化を前提として取り組むべき問題と考えます。現在の少子化傾向の背景にあるのは、子育て世代の経済的な負担の問題と同時に、出産と育児に伴うキャリアの中断などの出産女性にとっての社会的機会損失の問題です。特に後者にとって、幼児保育の施設が不足している問題は深刻です。

 現在、認可保育園に預けられる児童数が213万人いる一方で、入園許可を待つ狭義の待機児童数は約2万5千人とされています。しかし、これは問題を過小評価しており、実際に止むを得ず劣悪な条件にある認可外保育園を利用する児童数が18万人であることを考慮すれば、少なくとも20万人程度が、就業困難ないしは子供の養育に不安を抱えての就業を余儀なくされていると捉えられます。この状況を解消するのに必要な経済コストを考えることは、「子ども手当」の政策効果を考える上でも有益と考えます。

 保育園の運営費については、国や都道府県に市区町村の負担を加えた公費6800億円と保護者負担4500億円で賄われています。この認可保育園の児童一人当たり運営費約50万円を前提に、20万人程度の新たな保育施設の運営に必要な費用を推定しますと、年間約1千億円の運営費となり、6割を公費とすれば6百億円の恒常的な公的支出が必要となります。一方、新規施設が2千箇所程度必要となりますが、これらの不足が都市部に集中することを勘案し、ここでは平均的な100人規模の保育所1施設20億円として4兆円を建設費に見積もります。従って、単年度の「こども手当」の予算規模内でこれらの対策は実現可能であることが分かります。

 少子化対策として、「子ども手当」の政策効果は不明ですが、待機児童の解消は極めて有効と考えます。待機児童の問題は、その数自体よりもその存在が、出産を考える当事者にとって重要な問題となるからです。あくまでも一般論ですが、意思決定に影響するのは、全体としての平均値(何割の児童が保育所に入れるか)ではなく、限界的な要素(保育所に入れないリスク)といえます。

「子ども手当」に5兆円余りの支出を振り向けることで、結果的に、こうした有効と考えられる政策が予算制約の中で実現の可能性を失っている、とすれば非常に問題です。実際、幼児保育の施設不足の問題が、少子化対策の重要な要素であるにもかかわらず、放置されているのが現状です。その背景には、社会福祉法人を中心とした業界の既得権益確保の動きとともに、こうした対策が結果的に都市部への予算の配分とな
ることも、対策に消極的となる要因として指摘されます。民主党も、野党時代は都市部有権者への働きかけに熱心でしたが、政権を視野に入れ、実際に政権党に就いた時点からは、地方重視に転換しているからです。

 この夏の参議院選挙では、議員1人当たり有権者数については、最大の神奈川県と最低の鳥取県で約5倍の格差が生じると見られています。政権党としては、予算の配分で効率的に得票を確保できる地方重視にならざるを得ない事情が背景にあるといえます。実際、認可保育所全体としての定員充足率は95%程度であり、地方では認可保育所への全入が実現しており、恵まれた保育環境が実現しています。こども手当の支給は、都市部で待機児童を抱える世帯にとっては神経を逆撫でされるだけかも知れませんが、地方では素直に「ありがたい」と感謝されるでしょう。

 一方、「こども手当」を公的部門による教育投資として見た場合、受給世帯に受益に伴う義務を課さない点で無責任な制度であり、「お金を貰った親がパチンコに行く云々」という批判を受けているところです。当然ながら、無責任を批判されているのは、政策を実施する側の政府です。

 日本における公財政による教育支出の対GDP比3.3%は、OECD諸国の平均4.9%、あるいは韓国の4.5%を下回り、先進国ではほぼ最低水準です。その中で、GDPの約1%に相当する貴重な財源を充てる、という重みを考える必要があります。こども手当を「パチンコ代」や貯蓄に充てる家庭は「一部に留まる」という議論で済む問題ではないと思います。

 ところで、いわゆる一流大学の入学者については、同様に高学歴の親を持つ世帯の子供が多くを占める、という主旨の調査がしばしば報じられます。実際、子供の教育機会が家庭の所得水準に影響されている、という事実は重く受け止める必要があります。

当然ながら、これは決して「高学歴の優秀な親が、優秀な子供を産み育てる」という誤った認識につながってはならないと考えます。子供の生来的な知的能力と親の知的能力は、本来は無相関であり、優秀な人材の確保のためには、幅広い層から優秀な人材を発掘して育てることが重要です。これは、過去の歴史が示すところでもあります。むしろ現状は、社会への優秀な人材の供給という点で、問題を抱えているといえます。

 そのような観点からは、貰ったお金を親がパチンコに使ってしまうような家庭にいる子供にも、十分な教育機会が行きわたるような制度を整備することこそが重要といえます。

その意味で、「こども手当」が、真に子供たちの将来を真剣に考えたものではない、という点が批判されているのだと思います。

また、「こども手当」は、「社会が子育てを支援する」という喧伝されている趣旨とは反対に、「子育てや教育は個
々の家庭の責任と裁量」という発想に立つものであり、「介護は家族と家庭の責任」という政策とも共通するものです。「子育て」と「介護」という2つの大きな負担について、解決を個々の家庭に委ねる、という方向性は、社会全体の効率性に寄与しないばかりか、こうした家庭の負担増加が長期的に国民生活と経済の活力を奪う結果に
なることを危惧します。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

(カット)
 一点注意が必要なのは、短期的な景気対策としての財政政策としての効果で、子ども手当は減税などと同様に、一部が貯蓄に回るので、財政赤字額に対するGDPの押し上げの点で、100%が支出される公共事業などよりも効果が小さい可能性が大きいことです。この点は、政府全体の財源をどうするか、財政赤字額をいくらにするか、といったマクロの経済政策全体から考えるべき問題でしょう。
(カット)

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 ( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 津田栄   :経済評論家

 子ども手当は、民主党が総選挙においてマニフェストで掲げた生活者支援政策のなかでも最も重視したものです。そのため、成立した民主党政権は、財政上税収が大いに不足しているにもかかわらず、大量の国債を発行して、マニフェストにそって子ども手当を支給する来年度予算を作成、今年度内に成立する運びとなっています。

 当初、民主党の子ども手当は、どういった目的をもって導入するのか明確でなかったように思います。

(カット)

マニフェストの政策目的では、子ども手当は、「子育ての経済的負担を軽減し、安心して出産し、子どもを育てられる社会をつくる」ためだと述べています。その点では、少子化対策の側面を持たせていますが、子ども手当が本当に少子化対策になると言えるのか疑問があるところです。子どもを持つには、将来に対して明るい見通しが必要です。しかし、最近若い人たちは、厳しい就職状況に見られるように、将来に対する希望が持てない、雇用、収入などが不安定で結婚さえできるのかという不安を言います。しかも、遅くまで仕事をして疲れていては、結婚するチャンスがあるのか、また結婚できても子どもが持てるのかという状況があります。

 フランスでも、子ども手当を支給しています。しかし、フランスの場合は、子育てしたくなるように、小学から大学まで(9割が公立校)の授業料を基本的に無料とし、仕事をしているときはベビーシッター費用を国が支給したり、育児休暇を取った時には手当を出したり、親が働いているいないにかかわらず12歳まで学童保育に子ども
を預けられるなど子どもを育てる環境を充実させた上で、所得制限を設けず、子ども手当を支給するのですから、目的は明確に少子化対策であるといえます。

 一方、民主党のマニフェストからすると、すべての子どもたちに教育のチャンスを与えるために、子ども手当は、経済的理由で十分な教育を受けられない家庭に対して支給されると読めます。しかし、今回所得や資産の制限を設けず、全家庭に子ども手当を一律に支給するとしています。そうした点で、子ども手当は、フランスに似て、社会福祉政策ではなく、少子化対策のように見えますが、子育て・教育の項目で一緒に掲げている公立高校の授業料無償化、奨学金制度の充実、待機児童解消のための保育所の増加のように、国が子育て・教育の環境整備を図る政策は不十分であり、その点で、少子化対策としての環境を充実させないまま、子ども手当だけでその目的を担わせるのには疑問があります。

(カット)
子ども手当を支給しても、全額消費に回してくれる保証はありません。

(カット)
 しかしながら、電通総研のアンケート調査によれば、子どもの将来(受験や進学など)を考えて、貯蓄に回すとの回答が一番多く、手当の約半分ほどを預金するとのことでした。


あるいは、こうした手厚い手当のために大量の国債を発行して、将来の増税に備えての貯蓄もありうるでしょう。そして、何より、親の雇用や所得など将来に対する不安を解消しない限り、消費に手当を回さないかもしれません。また、この子ども手当の支給を受ける家庭がある一方、子ども手当を受けず、扶養控除の廃止・縮減で増税される家庭では、消費を抑えてくるかもしれません。もし、そうであれば、子ども手当は、民主党の期待しているほどには消費により経済を刺激する効果はないといえます。

 現在の経済の低迷状況がこのまま続くとするならば、依然雇用や所得の不安が簡単に解消することはありません。まして、鳩山首相が企業に対して内部留保に課税することに賛意を示したように(後ほど否定しましたが)、現在でも高い法人税に加えて企業に対する増税の政策を採るのであれば、企業の海外移転が加速して、ますます雇用や所得の悪化を招くことになります。そうであれば、子ども手当はますます貯蓄に回って消費にはいかないことになります。やはり、子ども手当は経済をいくらか引き上げる効果はありましょうが、手当の全てが使われず、一部貯蓄に回ると考えると、経済への効果は予想ほどには出ないということになりましょう。もちろん、これも景気が回復し、将来の見通しが改善してくれば、効果はもっと大きくなってきます。

 結局、民主党政権は、経済に対して理解が不足し、子ども手当を、生活者支援対策、少子化対策、景気対策のどれを目的で導入するかを明確にできていないために、子ども手当の経済への効果はあっても期待したほどには大きくないといえます。


(カット)
子ども手当のように政府を通じて所得移転や所得の再分配を行うよりも、彼ら(大企業や年寄り)の貯蓄をうまく引き出し、使ってもらって経済を好転させて雇用者の所得の増加につなげるような市場を通じた所得移転や所得再分配の政策を採ったほうがいいのではないでしょうか。

                             経済評論家:津田栄

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

 (カット) 鳩山内閣では、子ども手当を導入とともに、所得税・住民税における年少扶養控除
(16歳未満)の廃止と16~18歳の特定扶養控除の上乗せ部分の廃止を行うこととしました。ただし、2010年度は、子ども手当については、その半額の一人当たり月額1万3000円、年間で計15万6000円を支給することが予定されています。

 この政策が家計に与える影響について、私が、最近、慶應義塾大学パネル調査共同研究拠点( http://www.pdrc.keio.ac.jp/ )によって調査が行われた「日本家計パネル調査(Japan Household Panel Survey:JHPS)」を用いてマイクロ・シミュレーションを行いました(『経済研究』第61巻に掲載予定)。マイクロ・シミュレーションとは、個票データ(世帯ごとの家族構成、年齢、所得、消費、住居等のデータ)に基づいて、ある政策が実施されたときにどのような影響が個票(各世帯)に及ぶかを推計し、それを集計して結果を分析するものです。家計調査等では、コーホートデータ(既に個票を何らかの基準で階層に分けて部分的に集計・平均化したデータ)しか公表されていないので、それに基づいて政策の影響を分析しても、ある階層の平均的な動きはわかりますが、実際には様々な家計が存在しているにもかかわらず、その特徴を細かく分析しきれないという欠点があります。その点、マイクロ・シミュレーションでは、実際に存在する様々な家計を個別に分析しつつ、その全体像を把握するために分析後に集計することで、より正確に実態を把握できると考えられます。

 さて、拙稿「子ども手当導入に伴う家計への影響分析?JHPSを用いたマイクロ・シミュレーション」, 『経済研究』第61巻(近刊)では、子ども手当導入と前述の扶養控除廃止が行われた場合のシミュレーションを行っています。その結果は次のようなものでした。

 JHPSの個票データ(2009年1月調査)のうち、分析に用いることができた3360世帯について、世帯ごとに可処分所得(=世帯収入?所得税?住民税?社会保険料)を算定し、等価世帯可処分所得(=世帯可処分所得÷世帯人員の平方根)を低い方から高い方に順番に並べて、均等に10個の所得階層区分に分類し、各所得階
層での政策変更の影響を見たところ、子ども手当が支給される対象となる子どもは、階層ごとの平均でみると、第3階層(等価世帯可処分所得で見て下位20~30%の世帯)で最も多く、第7階層より高所得層では対象人数が少なくなっている、というものでした。そして、子ども手当が月額1.3万円支給された場合、所得階層ごとの
平均でみて、子ども手当を最も多くもらうのは第6階層(階層平均で年7.28万円)で、全世帯平均では年5.62万円支給される、との結果でした。支給対象者が平均で最も多い第3階層よりも、第6階層の方が平均支給額が多くなっているのは、2010年度の支給は、既に得ている児童手当に上乗せして支給することが影響するため
と考えられます。子ども手当が月額2.6万円支給された場合、この児童手当の影響は打ち消され、子ども手当支給対象者が多い世帯ほど受給額が多くなって、第3階層が平均で見て最も多くなっています(全世帯平均で年13.87万円)。そして、全体的に見れば、子ども手当の支給が中低所得層に及んでいるという結果となりました(最多が第3階層で18.36万円、最少が第10階層で4.26万円)。

 他方、扶養控除の減額の影響をみると、次のようになりました。扶養控除の減額は、扶養控除対象者数が同じならば、どの所得階層でも同じです。しかし、直面している限界税率が異なるため、高所得層ほど扶養控除の減額に伴う税負担額は多くなる傾向があります。前述のような扶養控除の廃止を行うと、第6階層から第9階層を中心に所得税の負担が増加するとの結果となりました。累進課税の影響で、高所得者ほど扶養控除の減額に伴う税負担額は多くなるものの、そもそも廃止対象となった扶養控除の適用対象者がいなければ、控除廃止の影響はありません。特に、第10階層(最上位の所得階層)では、そうした影響が作用して、扶養控除廃止に伴う負担増は小さくなっていました。

 最後に、子ども手当支給と前述の扶養控除廃止を同時に行ったときに、各世帯にどのような影響が及ぶかをみると、次のようになりました。子ども手当支給とともに扶養控除の廃止を行った場合、第10階層を除く全ての所得階層で可処分所得が増加しており、第5階層までの中低所得層を中心に可処分所得増の恩恵が及ぶこととなる、というものでした。つまり、第10階層では、階層の平均でみれば、子ども手当支給よりも控除廃止による税負担増が負担増が上回り、実質的に増税になるということです。

さらにいえば、これらの実施により、可処分所得の純増は、低所得者ほどより多くなっており、所得格差是正の効果があるといえます。この影響を、対世帯収入(課税前)比の負担率でみると、可処分所得増加は、低所得者層ほどより多くなっています。要約すれば、子ども手当導入と扶養控除廃止は、所得格差是正効果があるという
ことです。

 ただ、財源面で見ると、扶養控除の廃止だけでは子ども手当の財源を十分に賄えないことも、拙稿の分析から窺えます。子ども手当の支給により、拙稿の分析対象とした全世帯平均で5.26万円の政府支出増となります。これに対し、扶養控除の廃止により、拙稿の分析対象とした全世帯平均で1.78万円の税収増となります。したがって、その差額である3.85万円に相当する分の収支悪化が国家財政に及ぶと考えられます。これに、住民税の税収増(全世帯平均で1.65万円)を加味しても、
子ども手当支給に伴う政府支出の増加の方が上回っており、
子ども手当支給の財源は、扶養控除廃止だけでは賄いきれていない、ということです。

 当然ながら、各所得階層には、色々な家族構成の世帯があって、世帯ごとに得失は異なります。ただ、我が国の家計の特徴として、中低所得層に中学生以下の子どもが多くおり、高所得層ほど(年功賃金の影響もあってか)中学生以下の子どもが少なく、そうしたことが、子ども手当支給と扶養控除廃止による所得格差是正効果を生んだと考えられます。

                     慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
                 ( http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ )

 ●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
          ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )

JMM [Japan Mail Media]
【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
~~~~~~~~~~~~~~~


外国人が外国に置いてきた子供や養子も

一律にお金が入るということは、誰も何も言っていませんが、

みんな知らないのだろうか?

外国に日本人の親がいる場合、日本にいる子供も

外国にいる日本人の子供も何ももらえないとは

どういうことでしょうかね。