頂門の一針(ちょっと面白かったので紹介します。) | 日本のお姉さん

頂門の一針(ちょっと面白かったので紹介します。)

ヨーロッパでの主流はUK英語
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       荒木 純夫

> 主宰者より:日本の「標準語」は明治の初め、政府が東京山の手
言葉を指定して定めた。それ以外はすべて「訛」である。

ここは今回の投稿の本筋ではありませんが,これだけでは「東京山の手
言葉」が東京本来の言葉,すなわち東京の「方言」であり,それが日本
の「標準語」になったと誤解される読者もいるかと思いますので,「東
京の言葉」について少々追記したいと思います。

そもそも「東京山の手言葉」とは何かと言うと,全国から江戸に集まっ
た武家の間で広まった「共通語」です。
東京本来の土着の方言ではあり
ません。

東京の山の手はもともと農村で,農村だった頃に使われていた言葉はい
わゆる「百姓言葉」であり,その「方言」の特徴としては,語尾が「だ
べ」で終わります。

これが千葉,茨城方面へ至ると「だっぺ」と変化します。これは確認し
ていないのですが,おそらく「東京山の手言葉」は三河の武家の言葉が
基礎になっているのではないかと思います。
当然大きく変化しているわ
けですが。

安岡章太郎さんの随筆「僕の東京日記」の中で,彼が卒業した港区南青山
の青南小学校を訪問して大正時代の職員会議の記録を見つけ,その中に
児童に百姓言葉をしゃべらせないようにしよう」という内容が残って
いたという記述があるのですが,

今や東京でも最もおしゃれな街と思われている青山が,銀座線が開通す
るまでは農村地帯であり,「だべ」という言葉が日常的に使われていた
ことが窺え知れます。

現在でも,東京の農村地帯,特に奥多摩方面ではまだ「だべ」という言
葉が残っており
,私自身時々使うことがあります。すなわち,現在の東
京山の手で日常的に使われている言葉は,武家の間で広まった「共通語」
に土着の百姓言葉が混ざったものと言えます。

ですから,「東京山の手言葉」は日本語の共通語として江戸時代に確立
していましたから,明治時代になって「標準語」に指定されたのには必
然性があったわけです。
東京が日本の首都であり,だから東京周辺の言
葉が標準語になったわけではありません。

ちなみに,政治家等がよく「~であります」という言い回しを使います
が,これはもともと山口の方言です。長州閥であった旧日本陸軍で多用
され,それが現在に至りあたかも「標準語」のように定着したようです。

一方,「ひ」と「し」の区別がつかないとか,落語に登場するようない
わゆる「江戸言葉」ですが,これも,日本全国から集まってきた町人の
間で確立した「共通語」であり,東京土着の方言ではありません。

ただしこちらは,東京土着の漁師言葉を基礎としているようで,百姓
言葉の「だべ」に対し,羽田辺りでは「じゃ」で終わっています。これ
が横浜辺りになると「じゃん」と変化するわけです。

俳優の阿藤快さんは小田原出身なのですが,彼の歯切れの良い喋り方は,
東京湾から相模湾にかけての漁師言葉を色濃く残しているように思いま
す。江戸言葉の基礎が漁師言葉であることがうかがい知れます。

なお,「ひ」と「し」の区別がつかないというのは江戸の住人でもごく
一部でのことであり,日本橋界隈,江戸古町の大店辺りで使われていた
言葉ではそのようなことは認められません。

また,東京土着の言葉でも「ひ」と「し」の区別がつかないということ
はありません。ですから,これは明らかに東京以外の外来の言い回しで
あり,では一体どこから来たのか不思議でしようがなかったのですが,
これはどうも福島県中通り,白河あるいは須賀川辺りの方言から来てい
るようです。
実際,白河藩主であった松平定信が老中首座となっており,
この頃白河藩の町人が多く江戸に移住したことも考えられます。

脇道が長くなってしまいました。「少々」ではなかったですね。では,
本題に入ります。

> アメリカには標準語
> が無いが源流はイギリス語{英語)であろう。
>
> いまや使っている人数が少ないからと言って、アメリカ語遣いの日本人
> がイギリス語を「訛」と言ってしまうのが「可笑しい」といったのは失
> 礼だったか。「面白い」で誤魔化すべきだったか。

これは渡部さんが書かれたことが正しいと思います。

仮に単純にどこの英語が「正調の英語」であるか,人数比で決めるとい
たしましょう。前田正晶さんは完全にCommonwealth(英連邦)の存在を
忘れていらっしゃる。CommonwealthではUK英語が基本的に使われていま
す。

したがって,人口比ではインドやパキスタン辺りも加わりますから,い
わゆる"Queen's English"であるUK英語の方が主たる存在となります。ま
た,私が訪れたことのあるCommonwealthの1国であるマルタでは,完全に
UK英語が「正調の英語」でした。

ちなみに,オーストラリアでは,英国本国では使われなくなってしまっ
た300年くらい前の表現が,今でも数多く使われているそうです。

また,ISOあるいはIECといった国際標準化機関では,規格で仕様する英
語の表記はすべてUK英語を基本としております。これは「作業指針」に
明記されています。

ここで,UKとUSではどのような違いがあるか,簡単に記述しておきましょ
う。綴りではこんな違いがあります。

UK: centre
US: center

UK: colour
US: color

その他いくつか違いを書いておきましょう。なお,JAとは日本語のことです。

JA: 1階,2階,3階
UK: ground floor, 1st floor, 2nd floor
US: 1st floor, 2nd floor, 3rd floor

JA: テイクアウト
UK: take away
US: take out
英語が母語ではないオランダはアムステルダムのスキポール空港内の鮨
屋ではtake awayを使っており,そこで働いている日本人従業員は「take
outは,和製英語だと思っていた」とまで言っています。

JA: エレベーター
UK: a lift
US: an elevator

JA: トイレ
UK: a toilet
US: a bath room

(USでtoiletは便器そのものを指す)

JA: フライドポテト
UK: chips
US: French fries

JA: ポテトチップス
UK: crisps
US: potato chips

JA: 鉄道
UK: a railway
US: a railroad

JA: 消しゴム
UK: a rubber
US: an eraser

JA: コンドーム
UK: a condom
US: a rubber

JA: (車の)バンパー
UK: a bumper
US: a fender

JA: カート
UK: a trolley
US: a cart

JA: 接地(アース)
UK: an earth
US: a ground


こうして列記してみると,和製英語というのは英語と米語が混在してい
ることが良くわかります。

さて,ここまで書いてきて前田正晶さんは「私は発音のことを指摘して
いるのであって,綴り等のことを指摘しているのではない」と言われる
でしょう。しかしながら言語というのは発音がすべてではありません。
ですから,これだけUKとUSの違いを列記してみたのです。

ここまで書いたように,UKとUSでは綴りも違いますし,単語の意味も微
妙に違います。ですから,安易に「学校で教える方が良い正調の英語は、
アメリカ西海岸地区の英語」などと,書いて頂きたくない。

「正調の英語」にこだわるのであったらUK英語でしょう。米語はあくま
でもUK英語から派生したものに過ぎません。前述したように人数比で決
められるものではありませんし,英連邦ではUK英語がほぼ使われていま
す。また,繰り返しますが,国際規格での「正調の英語」はUK英語です。

かつてポーランドにいたときにポーランド人にポーランド語を習ったの
ですが,ポーランド語の先生との会話は英語でやっていました。ある時
"r"の発音を米語のようにしてみたところ,「そのようなアメリカ人が使
うような下品な発音をするものではありません」とたしなめられました
(笑)。

また、かつて一緒に仕事をしていたドイツ人に電卓を借りる時に、"Have
you got a calculator?"と言って、ちゃんと通じました。米語では"Do
you have a calculator?"となります。

このことでもわかるように,ヨーロッパでの主流はUK英語なのです。考
えてみてください。EUで使われる英語が米語であるなどということが考
えられますか?

さて,前田正晶さんは「人口わずか6,000万人で、その中の数%しか話し
ていない所謂"Queen's English"等」と書かれていますが,この数%とは,
何に基づいて書かれているのでしょうか?

UKで使われている英語はすべて"Queen's English"ですから,6,000万人
が使っております。発音のことに言及されており,「BBC英語がすなわち
"Queen's English"である」とお考えでしたら,BBCの発音なんて彼らは
日常生活で使っているわけではありませんから,数%というのは当たって
いるでしょう。しかしながら,これまたUKにおける発音のあり方を全く
理解されていない発言です。

UK本国では,地域による発音の違いに加え,階級及び職業による発音の
違いが厳然としてあり,我々の想像を上回って細分化されております。
ですから,イギリス人は発音によってどの地方のどの階級の出身である
か,ある程度わかってしまうそうです。

8年ほど前,C.W.ニコルさんとマルタと英国を一緒に旅行したのですが,
ロンドンからポーツマスに向かう片田舎のパブで昼食をとったときに
「BBCの英語とはどのような存在なのか」と質問してみました。街中で,
BBCのニュースで使われる英語の発音など,聞いたことがなかったからで
す。

そこで彼は,全く同じ内容で,オックスフォード訛り,ケンブリッジ訛
り,BBC訛り,英国陸軍訛りの順でしゃべってくれました。

聞いた印象として,オックスフォード発音ではゆっくりしゃべり、発音
が穏やかで日本人にとっても聴きやすく、アメリカカリフォルニア州の
訛りにきわめて近い発音です。もっともこれは、オックスフォード大学
の訛りと言った方が良いかもしれません。

ケンブリッジ発音はBBC発音に近く,発音が短く切れます。ケンブリッジ
発音をさらに強くしたような発音がBBC発音です。

英国陸軍発音はさらに発音がきつく,まるで喧嘩を売っているようにも
聞こえます。

英語という言語は,母語として駆使している人口で言えば最多であり,
また各国によってどころか,イギリス本国国内でもその表現が細分化さ
れております。

私がかつて通った英語学校の先生はいろいろな国籍の先生がおり,もと
もとアメリカの英語学校なのですが,アメリカ人に偏っているわけでは
ありませんでした。

華人のシンガポール人や香港人,ニュージーランドのマオリの先生もい
ました。すなわち,いろいろな背景を持った先生の,微妙な発音を聞き
分けられるようなシステムになっておりました。

英語を教えるということは発音がすべてではないことに加え,聴きやす
いからと言って「学校で教える方が良い正調の英語は、アメリカ西海岸
地区の英語」と型にはめてしまったとしたら,それ以外の発音は全く聞
き取れないことになります。

海外に出ていった場合,我々が英語を使うのはカリフォルニアだけでは
ありません。現実の問題として日本で生まれ育ち,カリフォルニアで暮
らしたことのない日本人の英語教師が「アメリカ西海岸地区の英語」を
発音できるわけがありません。

それは,東京生まれの私が京都弁をしゃべれないのと同じです。ですか
ら,英語を教えるのであればその時に接した先生の英語から入っていけ
ばよいというのが私の持論です。ただし,べたべたな日本式発音をされ
ては困りますが。ここは前田さんと共通認識でしょうか。