負けても悔しがらない国は、復活できない(アジアの街角から) | 日本のお姉さん

負けても悔しがらない国は、復活できない(アジアの街角から)

▼▽ 坂の上の雲を ▽▼

☆ 民主党は平家ではないだろうか(後編) ── 紋起さん


ーーー先週に述べたことを簡潔にまとめるとこうなる。

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1991年のバブル崩壊の時と同じ頃、日本の製造業は人件費の安い新興国からのチャレンジを受けていた。そして結果として、世界の工場であった日本は受注のシェアを落としていった。

そのこともあって日本の平均の生産性は落ち、国民の年収も減少した。しかも年収の減少は平等ではなく、新卒の若者に非正規雇用という低賃金の雇用形態を押し付ける形で処理し、一躍ワーキングプアという言葉が衆知の言葉になった。

更にその期間で、65歳以上の高齢者比率が10%も高まり、医療、介護等で費用負担の限界が露呈した。医療費の引き下げで病院が倒産し、また、介護関係労働者の低賃金が問題となった。
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このような衰退の時にはよくあることだが、収入が減少した本当の原因を探すのではなく、犯人探しで憂さ晴らしをしたい気でいた国民が格好の対象を見つけた。それが、

ダムや道路などの効率の悪化した公共事業であり、官僚の天下りであり、政治家の不明朗な政治献金だったが、その多くに自民党議員と官僚が絡んでいた。

また、役人の裏金作り、カラ出張、カラ残業、収賄、社保庁の消えた年金のような大不手際など、いやというほどの数が暴露された。

その背景を利用し、野党は、公共事業中止、官僚の天下りを禁止、自民党を政権から追放すれば税金を増やさなくてもやっていけると宣伝した。

===このような経緯で民主党政権が誕生したのである。

経緯を鳥瞰的に見ると、日本が現在直面している問題の根源は、決して税金の無駄遣いから発生したことではないと分かるだろう。

また、長年に渡る税金の無駄遣いの慣習は、収賄や天下りから発生したのではなく、膨大な貿易黒字が蓄積した結果、米国に貿易摩擦でバッシングをされ、

何とか国内で消費をするために公共事業に異常な金額の財政投入を繰返してきたやり方を、環境が変わっても止められなかったことから発している。

収賄や天下りは、異常な財政投入の中で発生した結果に近い現象に過ぎない。

収入に合わせて支出をしなくてはならないのだから、無駄は許されない状況になっているのは確かではあるが、無駄をなくなせばいままで通りにやっていける程生易しい経済状況ではない。

確かに、新興国のチャレンジは労働賃金の安さが起点であったことは確実である。しかし近年は、そうでないところで日本企業がグローバル競争で敗退しているのが目立つ。

その先駆け的な事例がDRAM=ディーラム:半導体集積回路の記憶装置)の敗退である。

DRAMは1975年頃に、米国で作られる製品が100%であった市場に日本の東芝、日立、富士通、NECなどが進出し、1985年には世界シェアの80%を取っていた。しかし、

韓国、台湾との競合で、1999年にはエルピーダメモリー社(日立とNECの合弁)1社を除いて、全ての日本企業はDRAMから撤退してしまった。

ーーー2002年のシェアは10%まで落ち込んでいる。

なぜ日本の半導体会社が負けたのか、

世上その原因を「経営、戦略、コスト競争力で負けた」とされている。私は、なぜ日本が凋落したのか、その理由を知りたいと思い、電気関係の会社にいる友人に聞いたりしていたが、世上語られる原因と大同小異の話しか聞けなかった。

ーーーしかし、湯之上隆著「日本『半導体』敗戦」を読み、真の原因を知り得たと思っている。

彼の指摘するポイントは、私の関係していた仕事(半導体とは全く異なる分野)でも、常に問題だと感じていたことであった。

湯之上氏の本に基づいてお話しよう。

日本がDRAMで圧倒的世界シェアを取った頃のDRAMを使用する機器は、メインフレーム(大型電子計算機)であった。

それに適合する半導体は、極限性能を追及して高性能、高信頼性のものであり日本の技術が抜きん出ていたから保証期間25年の高品質半導体の生産で世界トップになったし、その技術風土は深く企業の末端まで浸透していった。

丁度日本が世界のトップシェアの位置にいる頃、コンピュータ界に地殻変動が起こった。===パソコンの登場である。

パソコンは、メインフレームに比べて素子に要する条件が異なった。

保証期間は極めて短くてもよかったがコストは格段に安くする必要があった。

しかし日本の企業は、それまでの作り方で対応しようとした。コストダウンは大量に生産することで固定費の1素子当りの負担が少なくなる、いわゆる規模の経済が主たる方法であった。

しかし新興国は違った。

人件費が安いのは確かであるが、半導体コストの人件費比率は15%程度だというから、人件費が2割安くても3%の差にしかならないのだから、決定的な優位ではない。


新興国は、製造工程を短くする工夫や、製造機器を共通化したり、古い機器を新工程でも使いこなすような力をつけたりして、日本より大幅に低コストで作れるようになった。

ーーーこのことで、日本をトップの座から追い落とすことができたのである。

著者が勤務していた日立でのことだが、

米国、韓国、台湾では半分の工程で生産されている情報があったので、日立でも工程の半分に短縮のトライをしたが、結局もとの工程の長さになってしまったらしい。

工程を半分にするのにも相応の技術が必要なのだが、そういう技術は日本にはなかった。いや、無かったというよりも、コストダウン技術をありきたりの技術として軽蔑していたという。そして、

顧客が要求もしていない高信頼性の過剰品質を、薄利にしても高価な値段で売ろうとしていたのだろう。それが、急激にシェアを落としていった本当の原因である。

しかし、技術者はもとより経営陣に至るまで、「技術はあるのに、シェアでは負けている」原因は「経営、戦略、コスト競争力」だとしているが、

そのコスト競争力の元は、新鋭機器を早期に入れ、大規模な設備投資をリスク覚悟でしたことだと見ていたようだ。2004年に湯之上氏が、

「日本半導体産業には過剰技術、過剰品質の病気がある。それを韓国、台湾、米国マイクロテクノロジー社に『破壊的技術』で突かれて敗北した」という主旨の講演をしたとき、日本の半導体業界から激しい反対があった。

湯之上氏の次の演者であった大手半導体会社の常務が、半分以上の時間を割いて、「湯之上氏の指摘は間違いである。日本の半導体技術は極めて高い」と猛烈に語った。

後のパーティで、ある半導体メーカーの元社長が湯之上氏を呼び止め、ものすごい剣幕で「お前の言ったことは全て間違っている」と叫んだという。その場で湯之上氏と元社長と大議論となるのだが、

それを聞いていた自動車部品会社の人が後でこう言ったそうだ。
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日本の半導体って、ゴーンが来る前の日産自動車みたいだね。日産は技術オタクの会社で、過剰技術、過剰品質のせいで倒産しそうになった。

ウチの会社は日産のブレーキを作っていたのだけれど、たかが足で踏むブレーキパッドに、こんな精度の高い加工を何故要求するのだろうと思っていた。

多分日産は全ての部品でそうだったのではないかな?

ゴーンが来てやったのは、原価管理部を作ったのさ。300万円の車なら、まず原価を150万円に原価管理部が決め、どの技術を使うのか、部品の品質をどうするかも原価管理部が決めた。

最初は技術者と喧嘩になったらしいが、技術オタクの技術者とゴーンとどちらが正しいかは、日産のV字回復を見れば一目瞭然だよ。

日本半導体の最大の問題は、ゴーンがいないことじゃないのかな?
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この自動車部品会社の人の指摘は見事だと私は思う。

ある程度のご年配の方ならご記憶にあると思うが、日本半導体が80%のシェアを持っている頃に、技術評論家で有名な、唐津一氏がおられた。

彼は、常に日本の技術が優れているから、これからの時代は輝くような日本の時代だと述べ多くの日本人を喜ばせていた。ーーーしかし唐津氏の予言は見事外れ、今は見る影もない。家電ですら韓国の後塵を拝しているありさまだ。

現在、唐津一氏の役割を三橋貴明氏が果し、日本の未来は明るい、技術があるから大丈夫だと述べ、若者の絶大な支持を受けている。

今度の参議院選挙に自民党が担ぎ出すそうだが、こういう人が甘言を弄して国民をミスリードするのである。技術があっても、

ーーー環境変化に対応していない技術なら、それはないに等しいのである。

半導体業界の話は、日本の産業界の特異例ではない。

携帯電話、家電、そしてこれからは、自動車、工作機器などにも広がるのではないかといわれている────。

このような状態を念頭に置けば、お金の配り方を変えるだけの政策で日本が当面している苦境から脱することは不可能なことぐらい分かりそうなものだが、サヨクで呆けた頭には理解できないらしい。

今の貿易の経常収支を維持することですら、日本企業が全力を傾注して努力しなくては及びもつかないことなのに、工場への派遣労働の禁止などを計画している馬鹿さ加減には愛想が尽きる。

一度追い出した生産拠点は、再び日本に帰ってくることはないだろう。

しかし、政治だけが問題ではなく、

企業も根本的に考え方を改めなくてはならないのではなかろうか。

半導体産業の凋落は、環境変化に対応できず、顧客の要求を理解せず自分たちのやり方=技術がアサッテの方向に向いている)に一生懸命に固執して、結果として大敗北を喫している。しかも、

敗北が決したのが1999年なのに、それから5年経っていても本当の原因を把握していなかったというお粗末さであった。本当の原因を掴まず行動する日本人の体質は、ーーー戦前の軍部と同じで変わっていないとつくづく思う。

いま日経ビジネスオンラインで「韓国に学ぶ」の連載があるのだが、韓国中央大学経営学科准教授ウィ・ジョンヒョン{魏晶玄}氏がこう言っている。
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問題の本質を象徴する事例があります。日本の携帯電話メーカーの世界シェアは過去10年間で激減し、20%以上から6%台になりました。

日本人が衝撃を受けないわけがないと思っていましたが、現実は違った。本当にショックを感じている日本人に、全くといっていいほど出会わないのです。

携帯電話では、10年で日本勢のシェアが3分の1以下になり、対照的にサムスン電子やLGエレクトロニクスのシェアは2倍以上になった。明らかに事態は深刻です。

にもかかわらず、負けても「仕方がない」とヘラヘラ笑っているようにさえ見える。本気になって悔しがって、必死で勝つために努力しているのか。

ーーー答えはノーではないでしょうか。
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魏氏は、東大に留学していた日本通だから偏見ではないだろう。日経BPがつけたこの記事の表題は「負けても悔しがらない国は、復活できない」である。
氏は更に続けて、
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携帯はほんの一例で、他にも負ける分野が増えている。日本メーカーには技術力があり、マーケティング力が問題とも言われますが、もっと足りないものがある。

『今のままでは日本の国も企業も滅びてしまう』という強い危機意識です。
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企業がこういう有様なのは、国民が同じ精神状態だからである。だからつまらない政策の民主党に飛びついて選択したのだと思っている。

こういう状態から脱するには、誰か先鋭的な人間が時代を先導しなくては大きな方向転換はありえないのだが、この数ヶ月を見て、民主党では何も変わらない、逆に悪化することが確実だと思った。

予想通りの結果で残念だけれど、やさしくすれば全ての問題が解決するという過保護の母親的な発想に終始して、財源問題すら忘れている有様は情けない極みだ。

貴族政治の矛盾が至るところで露出していた平安末期、武家の棟梁同士の争いで平家が勝ったが、清盛は期待に背き公家になろうとした訳で、ーーー全国の荘園の経営実体である武士が権力を握れず、名目上の所有者の公家が搾取を続ける体制を継続しようとした。

結局、荘園の経営実体であった武士が決定権を握れたのは、頼朝の鎌倉幕府であった。敗れた源氏の流刑者が平氏を倒したのであるが、清盛亡き後の平家は腑抜けであり、鳥の羽音で戦わずして逃げる有様だった。

多分、小沢一郎氏が清盛なのであろう。

では、幕府を開く源氏は自民党かといえば「否」である。

頼朝は渡辺喜美氏かもしれない。彼のブログで、
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1月28日の日経新聞は、みんなの党支持率5%(前回2%)で、公明・共産を抜いた。次の参院選投票先では8%で、民主・自民に次いで第3党。驚くべき数字である。ラジオNIKKEIのマーケットサーベイでは超サプライズの数字。

投資家のみなさんに聞いた「支持または好意を持つ政党は?」民主19%、自民13%、みんなの党49%で堂々の第1位。
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と書く。

それはともかく、民主党は現在の日本には適っていない事だけは確かであり、早々に退散すべき政権である。


                        = この稿つづく =