「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」  ノーベル平和賞はアフがニスタンでの米英敗北への道 | 日本のお姉さん

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」  ノーベル平和賞はアフがニスタンでの米英敗北への道

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成21年(2009年)10月14日(水曜日)
          通巻第2738号  (10月13日発行)

アフガニスタンの“輝ける闇”
 ノーベル平和賞はアフがニスタンでの米英敗北への道
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 ▲皮肉、皮肉、皮肉
 
 米軍とNATOがアフガニスタンへ出兵して早や八年、いったいどれほどの戦果が挙がったのか。
 01年十月7日から開始された空爆はとりわけアル・カィーダの軍事拠点とタリバンの首魁=オマル師が隠れ住むとされたトラボラ、カンダハル周辺に加えられた。カンダハルはタリバン運動の嚆矢となった地方である。

 山岳地帯には米軍特殊部隊が落下傘で降下し、そこで展開された作戦は秘密にされた。
 同時に米欧軍は反タリバンの北部同盟に肩入れし、タジク人、ウズベク人の管轄拠点をタリバンから奪回させた。
米軍はかつての英国軍、ソ連軍の大敗を教訓化し、同じ軍事作戦を採用しなかった。北部同盟を主力としてタリバン勢力に猛攻を加えながら南下、カブールを治めた。

 首都圏からタリバンが去って、部族連合を掲げるカルザイが大統領に就任した。
 カルザイはパシュトン族の有力な酋長の後継者でもあるが、独特のスタイル、つまり人為的な部族融合の服装で国際社会に登場した。

すなわち「青と緑の縞のマントを着ている。彼はアフガニスタン全土を象徴するような服装をしている。子羊の革の帽子は南部カンダハールのものだし、マントは北部、シャツはイランと国境を接する西部の州の産だ」(アスネ・セイルスタッド『カブールの本屋』、江川紹子訳)という具合だった。

 オサマ・ビンラディンは「行方不明」とされ、アル・カィーダの複数の幹部を拘束もしくは殺害したが、細胞の壊滅には至らず、いやそればかりかイエーメンにアル・カィーダは軍事組織を再構築した。


 ▲オマル師の復活、武装暴動の激化

 オマル師も復活し、つぎつぎとアフガニスタンとパキスタンで暴動、一揆を扇動し、欧米軍をふたたび混乱に陥れた。
タリバンは区別が付かず、シナ軍の便衣隊のごとし。

 タリバンと「タリバン」を名乗る武装勢力が地方軍閥と組んだり、地区の支配権を確立するために偽装の反政府軍を僭称したり、ともかく反カルザイ政府を掲げる反乱軍がカブールを除く南西部に復活し、アフガニスタン政府軍と対峙する。外人部隊も夥しくパキスタン国境から潜入している。
以前よりも激しく自爆テロも続行され、被害は甚大である。
 
複雑な問題は入り組んだアフガニスタンの地形だ。砂漠と高原、渓谷と草原と山岳地帯。熱砂から雪山まで。
 あまつさえ要所要所を繋ぐ道路が各地で寸断され、兵力の移動が容易ではなく、ゲリラ側に有利なことが筆頭にあげられる。

 つぎに軍資金だが、密輸とりわけ罌粟栽培による収入が武器購入を容易にしており、さらにアラブ諸国からの献金がある。イスラムの連帯というよりアラブの金持ちらが保険を掛けているからで、表向き米欧路線支持、裏面ではアル・カィーダにみかじめ料を支払っているわけだ。

 くわえてアフガニスタンは部族連合の人工的国家であり、国家を守る大儀を理解することは難しく部族相互のいがみ合いを基礎にタリバンにくっついたり離れたり。カルザイを支持したり排撃したり、カメレオンの如く立場を変える。
ある日はカルザイ軍兵士として闘い、翌日はタリバン兵士に突如変身することにかれらは矛盾を感じない。

 あまつさえタリバンはパシュトン族が基軸の集合体であって、パキスタン情報部が陰に陽に支援するため英米軍の情報が漏れている。米軍やNATOの作戦が有効に終わらず、ときに部族同士の諍いに巻き込まれ、意図的な誤爆を余儀なくされる。

 
 ▲女性差別、女性蔑視はタリバン憲法の中核

タリバンは女性にブルカの着用を義務付け、学校教育を禁止し、反対にブルカの着用をしなくなったカブールの「近代化」を呪い、女性の通う学校を襲撃する。女性看護師のいる病院も攻撃の的になる。

 タリバンが治める地域では女性が町へでることさえ滅多になく、家の中でひっそりと暮らしている。
文字を読めず、教養を身につけることを拒否され、結婚相手は親が決める。家族では父親が絶対の存在であり部族社会にあっては部族長の決定が絶対的価値観を持つ。結婚は花婿側の用意するカネと贈り物の多寡で決まり、女性は要するに子供をつくる機械であり、第二夫人も第三夫人もカネさえあれば調達でき、花嫁はカネで売買されるという中世の伝統をそのまま引き継いでいる。

女性の職場進出もあり得ないことである。 
 欧米社会から見れば、タリバンの強制する規則は想像を絶する「反近代」であり、蒙昧な社会を開放し女性の地位を向上させ、教育と差別からの自由化こそが近代化であるという歴史認識からミッション意識が生まれる。
 
しかし率直に言って西側の進歩史観がアフガニスタンの社会で受け入れられることは向こう一世紀はないであろう。
 
 オマル師が表舞台から忽然と去って八年の歳月が流れた。
 タリバンの軍事反撃がアフガニスタン全土で頻発し、いつしかオマル師は復権していた。かれはパキスタンとの国境地帯クエッタ周辺にいると推測される。

 オマル師は、ソ連の侵略時代の爆弾で負傷して片眼を失い頭脳も負傷したため正常な判断は下せないと言われるが、側近がオマル師と諮って物事を決めているようだ。

 謎はオマル師はパキスタン情報部にたぐられているのか、或いはタリバンを組織的に一元化して束ねているのか、単に反政府武装勢力の象徴的存在として崇められているだけなのか。
 いずれにしても米英を軍事的にきりきり舞いさせている事実は動かない。オバマ政権を揺さぶっているわけだからオマル師は”第二のホーチミン”足りうるだろう。

 かれはカセット・テープにムジャヒデン精神を鼓舞するメッセージを吹き込み、「われわれは八十年闘って英国軍を撃退した。欧米軍は八年間、アフガニスタンでなんの成果をもあげていない」と総括している。
オマル師を崇拝する狂信的若者らを「聖なる戦士」と呼び、自爆テロを崇高なムジャヒデンの使命と教唆し、みごとにイスラムの指導者という神話を復活させ、米国を苛立たせた。

 2001年以前に何回もオマル師にインタビューしたパキスタンの記者は「国際情勢にまったく知識がない」というオマル師の実像を語っている。

 カンダハル在住のオランダ人記者アレック・ストリック・バン・リンスクーテンは「オマル師の側近が四人か五人。これ以外とは接触しない。その四人か五人の側近にアクセスするルートしか残っていない」という(ヘラルド・トリビューン、10月12日付け)。


 ▲タリバンをなのる無法者と強盗の類いも混入

 「最近の軍事衝突は地方の軍閥、ギャング団、無法者たちが整合性なく惹起させているものだが、この戦闘の重要な部分にタリバンがいることは事実」とマクリスタル司令官は報告している。

彼は続けて、「かれらに共通するのは米英軍とアフガニスタン政府を敵視している点であり、タリバンは中央集権的組織とは言えず、作戦をフランチャイズ化させている」と報告している。

 オマルにおけるボー・グエン・ザップ(参謀格)は側近ナンバーワンと推定されるアブドル・ガニ・バラダル師で、ゲリラを全土に分散させてNATO軍の配置をさらに分散させ、外国軍隊の小部隊を奇襲する作戦が多く、兵力分散が危険としてマクリスタル司令官はオバマ大統領に四万人の増派を要請した。

 タリバンは爆弾の破壊力を増強させ、アル・カィーダとパキスタン情報部の支援により作戦が向上し巧妙化し、さらには各地の行政府にスパイが潜り込んでいる。オマル周辺は共産党政治局に喩えられるという。

 ノーベル平和賞のオバマ政権は派手な戦争も増派も選択肢としては難しくなった。
 アフガニスタンで英米が敗北する事態となれば、誰が得するのか? 北京の高笑いが、すぐそこで聞こえる。
    ◇
 ☆☆☆ 読者の声 
  ♪
(読者の声1)上海の南京東路を逸れた一角に電気街があります。間口3間ほどの小さな個人商店がずらりと並びます。電線、ネジ、スイッチ、測定器、電球、ベアリングなどあらゆるものをそれぞれ専門に扱う商店です。
ここまではちょうど秋葉原のような感じかと思います。
しかし、その中に上海科技京城という巨大な建物があります。センター部分の建物が7階、その左右に25階のビル、奥にも3棟あります。驚いたのはこの中身です。
地下1階から7階までさらに細分化されたカテゴリーの個人商店が入っていて、しかもフロアの仕切りなしでそれぞれが2坪くらいの広さで犇めいているのです。
商品もIC、半導体、抵抗器、コンデンサー、基盤、コネクター、電線、LED、液晶などに細分化されています。たとえば、半導体を扱う店も、トランジスター専門店、ダイオード専門店、チップ半導体専門店など、それぞれの得意分野はさらに細かく分かれています。
秋葉原はこうした個人商店が次々になくなり、いまや数棟のビルにわかれて合計でおよそ100軒ていどしかなくなりました。
しかし上海科技京城には1棟のワンフロアに秋葉原の専門店が全部詰まっている形です。それが超密集積されています。建物自体が「VLSI」のようです。半導体専門店だけで500軒は軽くありそうです。

1つ部品を買ってみたいと考えました。
私の家で1つの半導体部品が故障したために使えなくなっているDVDプレーヤーが数台あります。日本ではある製品の中の1つの半導体が故障すると内部の基盤を全交換するために、修理するとリテイルでは数万円かかってしまいます。
しかし故障部品のみの単価は100円程度のはず。部品単体は、特殊なものの場合、秋葉原ではもう入手できません。
しかも、単価の安い品物は店にとってはうま味がありませんから取り寄せサービスなどもうやってくれません。
メーカーに問い合わせても、個人客はまったく対応してもらえません。事実上、プレーヤー自体はお蔵入りの状態でした。
 その半導体部品(日本製)があるかどうか訊ねました。1軒目の店で店主はすぐに「没有」と返されましたが、「ちょっと待て」らしきことを言います。
同じ建物内の業者で扱っていそうなところに電話しています。4カ所くらいに電話して回答が出ました。「上海×、深セン○」。残念、でも深センでは入手できることがわかりました。
 次に当たった店では、同じようなやりとりが続いたあと「3日で届く、OK?」という回答。残念、明日日本に発つのです。
 5軒目くらいに聞いた店はおばさんが店頭にいます。型番を記した紙を提示すると、すぐに似た型番の部品を出してきました。しかし、その中に目当ての品はありません。
「座って待っていろ」とのことで、飲み物(水ですが)で接待してくれました。そして今度は若い息子があちこちに電話しはじめました。
「1個18元。明日の17時に届く」と言います。
「日本にEMSで送ってくれないか?」と聞くと外国に送るなどやったことがないようで、いろいろと調べて「120元加算するけれども、いいよ」と答えます。こちらとしては全然問題ありませんからすぐに商談成立です。
 これで使えなくなっていたプレーヤーが生き返るというものです。しかしまあ、日本製の半導体を中国から買わなければならないとは情けないですね。

 それにしても上海科技京城、すごいです。
この建物の中を回れば、大げさに言えばハイテク製品がたった半日で完成します。品揃えもさることながら各商店のネットワーク力が強い。
「うちにはないけど、上のフロアの○○にはあるってさ」
こうした組織の存在は、ハイテク製品関連の会社にとっては願ってもないものです。技術はあるけれどもコネがないような人でも製品が作れます。
ハイテク起業のしやすさは日本よりはるかに簡単です。中国の企業が次々に世界へ進出していますが、こうした土壌があってこそです。
「秋葉原は世界に冠たる電気街」なんて大ウソです。それは20年前までの話です。
一方で日本企業の没落、固定化、新陳代謝の少なさはこうしたところに原因があるのでしょう。
何も中国並みに賃金を下げろとは言いませんが、日本でも何らかの手をうつ必要性がありそうです。そのうちハイテク製品はすべて中国に持っていかれる可能性があると感じました。
   (NS生、上海にて)


(宮崎正弘のコメント)台北にもありますよ、台湾の秋葉原=八徳街。
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(再録)多くの読者の方から「編集後記」が文字化けして読めなかったとクレームをいただきました。下記に再掲載します。すでに文字化けなくお読みいただけた方は無視して下さい。
 
(((編集後記))) 某月某日 「新しい歴史教科書をつくる会」(藤岡信勝会長)の教科書が横浜市などで連続的に採用がきまり、市販本をあわせると六万部を越えた。小生も市販本のほうに随筆の寄稿を求められ「中国革命と日本」について書いた。そのお祝いの会あり、会場へ入るとまず加瀬英明氏、すぐ隣に高森明勅(同会副会長)、花田凱紀、石平、大蔵雄之助(元TBS報道局長)、沢英武(元産経ボン特派員)といった面々。加瀬さんは版元・自由社の社長になった。ウィスキーの水割りを飲んでいると堤堯、杉原志啓、西村幸祐、田中秀雄、茂木弘道氏らの顔がある。挨拶もそこそこに、いきなり小生が乾杯の音頭をとることになって壇上へ。なぜ小生が? きっと藤岡先生とおなじ町内会だから? そこで中国の反日記念館は全土に208ヶ所あるが御三家は北京、南京、そして瀋陽と喋り始める。後者は「918記念館」で展示の最後のコーナーに”極悪非道の日本人”のパネル展示があって藤岡会長、高池弁護士、石原慎太郎、故田中正明各氏のパネルが暗い印象で飾ってある。けれどもこれは寧ろ名誉である云々という話をして乾杯した。ふたたび会場の人混みに揉まれていると高山正之、豊島典雄氏らの顔が。おわって二次会。それもおわって潮匡人、石平の両氏と四谷の止まり木バアへ。なんだかひたすら飲んでしまった一日となる。

某月某日 三島由紀夫研究会「公開講座」234回目。今回は元毎日新聞社会部、政治部時代に青嵐会を担当した河内孝氏を招いて、「三島由紀夫と青嵐会」。不思議に石原慎太郎氏はその影響を否定するが三島事件のことがあって青嵐会は同士的に結合し、署名血判したのではなかったのか。改憲を誓い合って田中政治の巨悪を打倒する血気盛んな集団は「夏の嵐のように」消えてしまったが。河内氏は珍しいスライドを多用し年表、グラフも可視的で飲み込みやすい説明で大いに参考になった。そういう意見が多かった。おわって二次会、三次会。嗚呼、きょうもまた胃袋が痛む(爆笑)。翌日、定期検診のため某大学病院。「なんにも問題ありませんね」と医者からいつもの台詞を聞くまで安心できない。薬を頂き、地下鉄を乗り継いで「きょうこそは禁酒」を誓って帰宅。数時間もするとそのことは忘れている。

某月某日 なぜそうなったかの説明を省くが西部邁氏と対談がおわって、食事に白ワイン、それが導火線となり新宿へ飲みに行くことになった。いつも出てくるのは軍歌と演歌。最近、西部氏のレパートリーに「満州放浪歌」が入った。同期の桜、加藤隼戦闘隊、麦と兵隊など西部さんは奥さんの看病があり最近はぴったり十一時にお開きとするので逆に呑んでいても安心です。というわけで軍歌と演歌の旧世代、カラオケで苦労するのは「櫻井の別れ」や「紀元は二千六百年」などの曲がないこと。中国のカラオケにはちゃんとあるのに。。。。。日本はどうしたんだろう。

某月某日 台風前夜という理由で前日の会は二次会なしに終わり、早めに帰宅した。このところ難聴気味で、声の小さな人の話が聞こえない。どうやら飛行機で着陸した際に眠り込んでいたので、鼓膜に気圧がつよくあたり、その上風邪気味だったので難聴症状らしい。医者に行って驚いた。そのハイテク設備にである。おもえば中学二年の頃、プールに浸かりすぎで蓄膿を患った時以来、耳鼻咽喉科とは無縁だった。だから旧時代の医者の遣り方しか知らない。イヤフォンを充てて右左にわけ、耳にかすかに聞こえる虫の音色とかを聞くテスト、コンピュータで結果がでる。それから鼻から薬を入れる。一週間で全快と言われたが、まだ調子がよくない。人の話は聞き取れるが、風邪がなおらず、ちょっと長引いているようだ。一番困ったのはラジオ、そして講演である。自分でだす音を自分で或る程度確かめないと、一種不安がおこることを初めて知った。ところでよく飲み過ぎに注意という御懸念の声をいただくのですが、ご心配なく。若き日の酒量に比べたら還暦過ぎてからの小生は子供の量ですから。(以上再録終わり)。
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